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少なくとも好かれてはいない

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☆★☆★
~カズ視点~

「ふむ」

 魔族が魔物化した事件を調査するため俺はセンタールから出てダンジョンへと向かっていたのだが、その道中の森の中で巨大な魔物と向き合っていた。
 姿は一応ネズミのような容姿をしているが、普通のネズミと違って尻尾が三本あり、げっ歯類にしてはしっかりとした犬歯が生えている。
 ネズミは「鳴く」ことはしなかったが、口を大きく開くとその内部は鋭利な歯がギッシリと詰まっていた。

「イヤァァァァァッ⁉」

 その悲鳴を出したのは後ろの木陰に隠れていたモモだった。
 そしてヴェルネも俺の斜め後ろで待機し、呆れて首を横に振っていた。

「なんでついて来たのかしらね、あの子……自分の命が狙われてるかもしれないってのに」

「町にいるより俺の近くにいる方が安全だからとは言ってたが……」

 しかし彼女はああやって騒ぐだけで何もしていない。正直言ってしまうとその叫び声だけで耳が痛くなってくるし、下手をすると足手まといになりかねない。
 そんな彼女の背後に大きめな蜘蛛の魔物がゆっくりと現れる。
 一瞬だけ手を出そうと思ったが、ヴェルネが魔法で丸ごと凍らせてくれた。
 モモは遅れて背後の蜘蛛に気付き振り向く。

「えっ……?」

「あんまり離れないでね、あなたを助けられなくなるから」

 ヴェルネの冷静な忠告が届いたのかどうかは知らないが、モモはすぐに木陰から出てこちらへ駆け寄り俺の腕に抱き付いてくる。
 しかしその直前で避けたのでモモがそのまま地面へダイブするように盛大に転んでしまう。

「うわ、痛そ……」

「すまん、流石に恋人じゃない奴から抱き着かれるのは控えた方がいいと思って避けちまった。大丈夫か?」

 俺がそう言って転んだモモに手を差し出すと彼女が手を取りつつ立ち上がる。

「ご、ごめん、足手まといになっちゃった……」

「そんなのあんたが気にすることじゃないわ。どうせコイツが多少離れていてもあんたのことを守ってくれるでしょ」

 人任せというか、完全に他人事なヴェルネの発言に俺は「もちろん」という言葉が出て来ず、苦笑いするしかなかった。

「そういえばあんたの目の前にいたネズミもどきは?」

 「ネズミもどき」……多分さっきの魔物のことを指してるのだろう。俺はそのネズミがいた場所を指差した。
 そこにはネズミもどきがさっきと変わらい二足歩行で立ったままの姿でこっちを見ているだけだった。

「大人しくしてる」

「なんで?」

 疑問しか浮かばない状況にヴェルネが思わずツッコミを入れるが、そこまで問題視していない俺はネズミもどきに近付いて腹のとこを撫でる。

「魔物って言ったって、全部が凶暴なわけじゃないんじゃないか?見た目がちょっと怖いってだけで、動物みたいに大人しい奴とかもいるだろ。コイツからは敵意や苛立ちを感じないしな」

 縄張り意識の高かったり育児中の動物であれば牙を向いてくるだろうが、コイツはその様子がない。

「……まさかコイツまで連れて帰って飼うとか言い出さないわよね?」

「流石に言わんよ。つーか俺がなんでもかんでも連れて帰る奴みたいなこと言わないで?」

 たしかにルルアから始まってジルやフウリ……フウリは勝手について来ただけだけど彼女たちをヴェルネの家に住まわせたり、ユースティックとミミィを連れて庭で鍛錬をしたりとか好き勝手してる前科があるわけだから「またか」と思われてもしょうがないけども。
 ネズミに「ほら帰れ」と言うと素直にどこかへ行ってしまう。

「……あれだけ大人しくて素直なら本当に『ペットにでも』って思わなくはないかな?」

「やめて。本っ当にやめて。魔物までウチに住まわしたら本当にカオスになるじゃない……ただでさえ今も人の姿になってるけど竜もいるのに」

「わかってるって、よっぽどの理由がなければ連れて帰らないから」

「つまり理由があれば連れて帰るのね……」

 ヴェルネが呆れて首を横に振る。
 すると妙な鳴き声と共に空から竜が下りてきた。それはクロニクと共にいた竜のラウ、背中にはクロニク本人も乗っていた。

「悪い、少し遅れた!」

「そこは『待たせたな!』って恰好良く言ってくれると助かる」

「なんでそんな変なとこにこだわってんのよ……アレ、そういえばあの騒がしい男は一緒じゃないの?」

 グルドがいないことに気付いたヴェルネが疑問を投げかけにクロニクは首を横に振る。

「グルドは戦えるほどの力はないから置いて来た。コロシアムの経営とかあるしな」

「クロはいいの?」

「俺のやることは大抵終わらせてきたし、必要なことは部下がやってくれるからな」

 モモがサラッとクロニクのことをあだ名で呼んだが、特に気にすることでもないのでスルーでいいだろう。

「……あの二人って実は付き合ってたりするのかしら?」

 と思っていたらヴェルネは気になる様子。だがたしかに「幼馴染同士の恋愛」っていうのはストーリー性があって面白そうではある。

「しかしこれから行くダンジョンにラウを連れて行くのか?」

「中の状態にもよるが、もし足場が安定ない広い場所であればラウの背中に乗れば苦労することなく進むことができるしな」

 そういえばダンジョンはまともじゃない地形で作られる場合もあるんだったか。

「というかそんなダンジョンを攻略しようなんて度胸のある奴いるのか?そもそも足場のない場所なんて、コイツみたいに空が飛べなきゃまともに入れすらしないだろうに」

 そう言ってラウの頭に手を置く。
 ラウは特に唸ったり威嚇してくるわけではないが、嬉しそうにしてるわけでもなく「勝手にしろ」と言いたげに顔をそっぽ向ける。

「ラウが体を触らせるのは珍しいな……気に入られたんじゃないか?」

「ガウッ!」

「な、なんだよ……?」

 クロニクの能天気な発言にラウが怒ったように鳴く。当たり前だろう、何せ「気に入ったから触らせている」のではなく「気に入らないが仕方なく触らせている」のだからな。
 俺がコロシアムの一件で自分よりも強いということを理解し、獣の本能で歯向かおうとしていないだけで本心ではあまり良く思っていないだろう。

「ま、俺に頭触られるのが嫌なら、次に俺と戦う時に勝たないとな」

「グルルルル……」

 威嚇しながらも俺の手を振り払おうとしないラウ。相当屈辱だろうな……

「ん?」

「…………」

 何かが空からこちらへ急接近しているのを感じた。ラウもそれを感じたようで、空を一緒に見上げる。
 まるで戦闘機並み……いや、それ以上の速さで何かが近付いて来ていた。

「どうしたんだ、ラウ?上に何か――」

 クロニクも気になって上を見上げると、すぐにその「何か」が俺たちの目の前に着地した。

「我、参上!」

 目視が難しいほどのスピードで空から襲来したのは翼を生やしたヤトだった。

「……何してんだ、お前」
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