144 / 312
遺伝のし過ぎ
しおりを挟む
「ただいまー!」
少年時代のカズが何事も無かったかのように元気な声を発して帰宅した。
「おかえりなさい♪ ご飯にルルアを食べる?それともルルアと一緒にお風呂に入る?」
すると何故か玄関の中でルルアが頬を赤らめて待ち伏せていた。
しかし今現在彼女がいるこの世界はカズの記憶であるため、もちろんカズはルルアを認識できていないのでスルーされる。
フウリはそんな彼女の姿を悲しそうな目で見つめていた。
「……やってて虚しくならなイ?」
「ならないね!むしろこれからの予行練習だと思えば尚更やる気だよ!」
「ルルアのその情熱には誰も勝てる気がしないと思うぜ……」
ルルアの強過ぎる想いにレトナが引きつった笑いを浮かべる。
一方カズの記憶では女性が玄関に現れた。
「おかえりカズ、手を洗ってきなさい」
優しく微笑んで出迎えたその女性を見た全員がすぐに彼女とカズの関係を察する。
「もしかしなくてもお兄ちゃんのお母さん?」
「うわぁ、物凄い美人……!」
「ふむ、ヴェルネ様のお母様に負けず劣らずの美貌ですな……もしこの身が老いていなければ恋焦がれていたかもしれません」
「……でもやっぱり親子なんですね。今のアニキに少し似てる……というかアニキが似てる?」
「たしか二。筋肉とか普段の男らしさで隠れてしまってるけど、彼の面影があるネ」
それぞれが感想を述べていると、次に父親が現れた。
「おっ、帰ったかカズ」
「うわっ、筋肉ゴリラになったカズだ!?」
カズの父親が登場し、その姿を見たレトナが反射的にそう答えてしまう。
「たでーま、お父さん!」
「ちょっと、あなたがいつも変な言い方してるから真似しちゃってるじゃない!」
「ご、ごめん……」
母と父が言い合いをする姿をジークが呆然とした顔をし、マヤルがクスクスと笑う。
「……驚いた、父親までもここまで似てるとは」
「二人の遺伝を見事なまでに継いだのがよくわかります……失礼かもしれませんが、『筋肉ゴリラになったカズ』というのは的確な表現かもしれません」
「そうだネ、あれはもはや『盛り筋カズ君』ダ!」
不意打ちのようなフウリの変な名称に他の者たちが吹き出してしまった。
するとカズの父親が何かを察したように明後日の方向を向く。
「……ん?何故かどこかでバカにされた気がする」
「「「え……」」」
タイミングの良過ぎる父親の一言で全員が固まる。
「どうせあんたの知り合いがあんたのことを脳筋ゴリラとでも言ってるんじゃない?あとは……あんたに会ったことのあるカズの学校の子供が『盛り筋カズ君』とか言ってたりしてね」
「「「…………」」」
あくまでここはカズの記憶であり、時間場所が一切異なっている。つまりルルアたちが見ているのは「すでに過ぎ去った全く違う世界の時間帯」の景色。
(にも関わらず話が噛み合ってしまっているのはただの偶然か、はたまたカズ君の家族の血筋が成せる技か……どちらにせよ恐ろしいものだネ)
フウリの考えを他所に記憶の場面は進み、祖父や祖母がいる部屋へ「ただいまー」と言いながら移る。
「……よかった、さすがにお爺ちゃんお婆ちゃんはカズにそこまで似てない」
「……まぁ、面影がないかと言われればなんとなくある気がするけど」
レトナたちはもはやカズの家族全員がカズに似てる顔で登場するのではという不安感と期待がほぼ全員の中にあり、祖父たちを見て安堵と同時に残念感を感じていた。
「そういえば帰る時に変な人たちからウチに案内してくれって言われたよ。なんか怪しかったからぶっ飛ばしたけど」
「何?どんな奴らだった?」
カズは自分に迫ってきた者たちの特徴をそれぞれ「脂っぽい太った男」「ガムを噛んだ怖そうな女の人」「怒りっぽい不良男」などと子供らしい感想で簡潔に伝えた。
「……知らない奴らじゃな」
「どうせ私たちの噂を聞きかじって興味を持った連中でしょう。その人たちは強かった?」
祖母の質問にカズは二人が座っているコタツに入りながら首を横に振る。
「ううん。女の人と不良の人はすぐに倒しちゃったし、おじさんは少し耐えてたけど受けるだけで精一杯だったよ」
「わかってたけど、カズの実力を見ただけで見抜けない時点で弟子クラス以下の奴らね。はい、キュウリの浅漬け」
部屋に入って来た母親が輪切りにしたキュウリが入った皿をコタツの上に置き、カズたちが箸で摘まんで「うまいうまい」と言って食べ始めた。
「相変わらずお爺ちゃんたちに混じって渋いものを食べてる子供って絵面が面白いよな」
「お菓子より好きだもんね、カズは」
我が子の様子を隣の部屋から覗いていた両親がクスリと笑う。
武術に秀でて普通ではない我が子。しかし彼ら自身も普通ではなかったためその事実は気にならず、ズレた感覚でカズを可愛がっていた。
「よし、それじゃあカズ、『いつもの』やるか!」
父親がいきなりそんなことを言い始め、キュウリをムシャムシャ食べていたカズの表情がパッと輝く。
――――
―――
――
―
「……それでコレがその『いつもの』だって?」
フウリが引きつった表情でそう言い、唖然としたジークたちと一緒にその光景を眺める。
彼女らの視線の先では壁、天井、地面の全てが真っ白になっている特殊な部屋でカズが父親と激しく打ち合ってる姿があった。
相手が自分の何倍もの体格をしているにも関わらず臆せず攻撃を放ち、父親の方も子供相手でも無遠慮に力強い攻撃を加える。
互いの激しい猛攻の中で父親がカズの足を掴んで投げ飛ばし、カズは飛ばされた先の天井を足場に受身を取り、一瞬のうちに父親の背後へと回り込んだ。
身長差を利用してか攻撃の当てやすい膝裏を狙い、父親の体勢を崩す。
「おっと?」
体勢を崩されつつも父親はそこまで驚いた様子はなかった。
むしろ崩れた体勢が途中で止まり、体を捻らせて拳を振るう。
カズが避けた先の地面に彼の拳が当たると、地震が起きたかのように部屋全体が大きく揺れ動く。
「うわっ⁉」
「マジかよ、地面が揺れたぞ⁉」
「現在のカズ様も似たようなことをしたことがありましたが、遺伝というのはこうやって引き継がれてていくのですね……」
「というか彼の記憶にあるこの世界って魔法がないはずなんだけど……なんで彼らは部屋の中を縦横無尽に走り回ってるんだイ?しかもこの壁や天井にはあまり凹凸のないの二」
魔法という常識があっても彼らの異常な動きを理解できずに驚いてばかりのレトナたち。
そんな状況がその後も一時間近く続いたのだった……
少年時代のカズが何事も無かったかのように元気な声を発して帰宅した。
「おかえりなさい♪ ご飯にルルアを食べる?それともルルアと一緒にお風呂に入る?」
すると何故か玄関の中でルルアが頬を赤らめて待ち伏せていた。
しかし今現在彼女がいるこの世界はカズの記憶であるため、もちろんカズはルルアを認識できていないのでスルーされる。
フウリはそんな彼女の姿を悲しそうな目で見つめていた。
「……やってて虚しくならなイ?」
「ならないね!むしろこれからの予行練習だと思えば尚更やる気だよ!」
「ルルアのその情熱には誰も勝てる気がしないと思うぜ……」
ルルアの強過ぎる想いにレトナが引きつった笑いを浮かべる。
一方カズの記憶では女性が玄関に現れた。
「おかえりカズ、手を洗ってきなさい」
優しく微笑んで出迎えたその女性を見た全員がすぐに彼女とカズの関係を察する。
「もしかしなくてもお兄ちゃんのお母さん?」
「うわぁ、物凄い美人……!」
「ふむ、ヴェルネ様のお母様に負けず劣らずの美貌ですな……もしこの身が老いていなければ恋焦がれていたかもしれません」
「……でもやっぱり親子なんですね。今のアニキに少し似てる……というかアニキが似てる?」
「たしか二。筋肉とか普段の男らしさで隠れてしまってるけど、彼の面影があるネ」
それぞれが感想を述べていると、次に父親が現れた。
「おっ、帰ったかカズ」
「うわっ、筋肉ゴリラになったカズだ!?」
カズの父親が登場し、その姿を見たレトナが反射的にそう答えてしまう。
「たでーま、お父さん!」
「ちょっと、あなたがいつも変な言い方してるから真似しちゃってるじゃない!」
「ご、ごめん……」
母と父が言い合いをする姿をジークが呆然とした顔をし、マヤルがクスクスと笑う。
「……驚いた、父親までもここまで似てるとは」
「二人の遺伝を見事なまでに継いだのがよくわかります……失礼かもしれませんが、『筋肉ゴリラになったカズ』というのは的確な表現かもしれません」
「そうだネ、あれはもはや『盛り筋カズ君』ダ!」
不意打ちのようなフウリの変な名称に他の者たちが吹き出してしまった。
するとカズの父親が何かを察したように明後日の方向を向く。
「……ん?何故かどこかでバカにされた気がする」
「「「え……」」」
タイミングの良過ぎる父親の一言で全員が固まる。
「どうせあんたの知り合いがあんたのことを脳筋ゴリラとでも言ってるんじゃない?あとは……あんたに会ったことのあるカズの学校の子供が『盛り筋カズ君』とか言ってたりしてね」
「「「…………」」」
あくまでここはカズの記憶であり、時間場所が一切異なっている。つまりルルアたちが見ているのは「すでに過ぎ去った全く違う世界の時間帯」の景色。
(にも関わらず話が噛み合ってしまっているのはただの偶然か、はたまたカズ君の家族の血筋が成せる技か……どちらにせよ恐ろしいものだネ)
フウリの考えを他所に記憶の場面は進み、祖父や祖母がいる部屋へ「ただいまー」と言いながら移る。
「……よかった、さすがにお爺ちゃんお婆ちゃんはカズにそこまで似てない」
「……まぁ、面影がないかと言われればなんとなくある気がするけど」
レトナたちはもはやカズの家族全員がカズに似てる顔で登場するのではという不安感と期待がほぼ全員の中にあり、祖父たちを見て安堵と同時に残念感を感じていた。
「そういえば帰る時に変な人たちからウチに案内してくれって言われたよ。なんか怪しかったからぶっ飛ばしたけど」
「何?どんな奴らだった?」
カズは自分に迫ってきた者たちの特徴をそれぞれ「脂っぽい太った男」「ガムを噛んだ怖そうな女の人」「怒りっぽい不良男」などと子供らしい感想で簡潔に伝えた。
「……知らない奴らじゃな」
「どうせ私たちの噂を聞きかじって興味を持った連中でしょう。その人たちは強かった?」
祖母の質問にカズは二人が座っているコタツに入りながら首を横に振る。
「ううん。女の人と不良の人はすぐに倒しちゃったし、おじさんは少し耐えてたけど受けるだけで精一杯だったよ」
「わかってたけど、カズの実力を見ただけで見抜けない時点で弟子クラス以下の奴らね。はい、キュウリの浅漬け」
部屋に入って来た母親が輪切りにしたキュウリが入った皿をコタツの上に置き、カズたちが箸で摘まんで「うまいうまい」と言って食べ始めた。
「相変わらずお爺ちゃんたちに混じって渋いものを食べてる子供って絵面が面白いよな」
「お菓子より好きだもんね、カズは」
我が子の様子を隣の部屋から覗いていた両親がクスリと笑う。
武術に秀でて普通ではない我が子。しかし彼ら自身も普通ではなかったためその事実は気にならず、ズレた感覚でカズを可愛がっていた。
「よし、それじゃあカズ、『いつもの』やるか!」
父親がいきなりそんなことを言い始め、キュウリをムシャムシャ食べていたカズの表情がパッと輝く。
――――
―――
――
―
「……それでコレがその『いつもの』だって?」
フウリが引きつった表情でそう言い、唖然としたジークたちと一緒にその光景を眺める。
彼女らの視線の先では壁、天井、地面の全てが真っ白になっている特殊な部屋でカズが父親と激しく打ち合ってる姿があった。
相手が自分の何倍もの体格をしているにも関わらず臆せず攻撃を放ち、父親の方も子供相手でも無遠慮に力強い攻撃を加える。
互いの激しい猛攻の中で父親がカズの足を掴んで投げ飛ばし、カズは飛ばされた先の天井を足場に受身を取り、一瞬のうちに父親の背後へと回り込んだ。
身長差を利用してか攻撃の当てやすい膝裏を狙い、父親の体勢を崩す。
「おっと?」
体勢を崩されつつも父親はそこまで驚いた様子はなかった。
むしろ崩れた体勢が途中で止まり、体を捻らせて拳を振るう。
カズが避けた先の地面に彼の拳が当たると、地震が起きたかのように部屋全体が大きく揺れ動く。
「うわっ⁉」
「マジかよ、地面が揺れたぞ⁉」
「現在のカズ様も似たようなことをしたことがありましたが、遺伝というのはこうやって引き継がれてていくのですね……」
「というか彼の記憶にあるこの世界って魔法がないはずなんだけど……なんで彼らは部屋の中を縦横無尽に走り回ってるんだイ?しかもこの壁や天井にはあまり凹凸のないの二」
魔法という常識があっても彼らの異常な動きを理解できずに驚いてばかりのレトナたち。
そんな状況がその後も一時間近く続いたのだった……
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
391
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる