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周りはいつだって騒がしい

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【どういうことだ、カズ君!君は……娘に手を出したのか⁉】

 レトナの発言を聞いたダイスがスマホの向こうで興奮する。変なタイミングでややこしいことを言いやがって……

「落ち着け、俺は何もしてない」

【カズ君『は』……?カズ君以外に何かされたということか⁉】

 全然落ち着かないこの親父。いっそ電話を切ってやろうかと思うくらいだ。
 今のところ電話はこっちから一方的にしかできないからそれでもいいんだが、それもそれで次に会った時が怖いから今のうちに話を終わらせておきたい。

「落ち着けクソ親父!俺はカズに何もされてないし、他の奴からも酷いことはされてないから!」

『そ、そうか……?』

 レトナが仲介に入り、ようやく落ち着いてきたダイス。自分の娘に「クソ親父」と貶されたがそっちは気にしてないようだ。
 安堵してホッと息を吐くレトナが近付いてきて、俺のスマホを覗いてくる。

「前にも一回見たことあったけど……もしかしてここから親父の声が聞こえてるのか?」

「ああ、俺のスマホ……魔道具みたいなもんでな。こっちから一方的に相手と通話することができるんだよ」

 「へぇ~」と興味深そうに……というか欲しそうにジロジロとレトナが見てくる。欲しいって言ってもあげないけどな。

「カズ、コレ――」

「あげません」

 何か言おうとするレトナの言葉を否定の言葉で遮る。

「まだ何も言ってないだろ!」

「『欲しい』『貸して』『触らして』は全部ダメだぞ?結構大切なものだからな」

 俺が予想した言葉のどれかが言いたかったのか、先手を取られて何も言えなくなってしまって頬を膨らませるレトナ。

【だが……だとしたらさっきレトナが言っていた恋人というのは?】

 もし画面の向こうからこちらが見えていたのだとしたらギクリと擬音が聞こえそうな反応をする俺たち。誤魔化せなかったらしい。

「それは……」

「違う違う!カズたちが恋人になってたから俺が興味を持ったってだけの話だから!ほら、俺ってずっと城の中にいてそういうのが憧れるなーって思って」

 なんと言おうか悩んでいるとレトナがフォローしてくれる。しかし……

【こ、恋人が欲しいのか……?】

 なんて言ってダイスはそれはそれで結局動揺してしまっている。
 言ったら怒られるだろうから言わないけど親バカって結構面倒臭いのな。これが自分の親だったらうんざりするのもわからんでもない。

「親父、俺は魔王の娘である前に普通の女なんだ、好きな相手ができたらソイツと一緒にいたいとも思うんだよ!もし勉強のことだけじゃなくてそっちのことにも口を出すんだったら、本当に家には戻ってやらないからな!」

【むぅっ⁉ それは……いやだがしかし……!】

 どうするべきかをスマホの向こうで悩むように唸るダイス。

【……ならせめて、相手を見つけた時はカズ君やヴェルネ殿に相談してくれ。父親が娘を心配するのはどこも同じなんだ、それだけはわかってほしい……】

 ダイスがそう言うとレトナは何も言い返せず黙ってしまう。
 なんとも微妙になってしまった空気の中、ヴェルネが話を切り出す。

「レトナ様のことはこちらにお任せください。ここに来るまでの過程はともかく、ここに来たからにはあたしたちが彼女をお守りしますので」

【ああ、ありがとう】

 ヴェルネの言葉でダイスの声色が少し和らいだ。
 他の奴には聞こえない程度の声でこっそり「ありがとう」と彼女に伝えると、その耳打ちがくすぐったかったのか赤面した顔で睨み付けてくる。おっと、耳が弱かったか……?

「んじゃ、レトナも無事だと知らせたことだし、落ち着いたところで通話を切り上げるぞ。お互い忙しいだろうしな」

【あぁ……カズ君もありがとう。君たちがいいならレトナの気が済むまで相手をしてやってくれ】

「親父またそんなことを言う……」

 ダイスに子供扱いされてムッとなるレトナ。
 しかしこれ以上文句が彼女たちから出る前に電話を切る。すると一応は緊張していたのかヴェルネとレトナの肩から力が抜ける。

「緊張してたのか?」

「緊張しないあんたがおかしいのよ。相手は魔王様よ?あんたにっとて王様みたいな偉い人なのよ?緊張しない方がおかしいでしょ……まぁ、どうせ相手が誰でも舐め腐った態度を取るのがあんたなんでしょうけどね」

 ヴェルネがそう言うとレトナやジークたちも吹き出して笑う。
 失礼な……とはいえ実際元の世界でも偉い人がウチに来てはむしろ俺たちに頭を下げてばかりだったし、ある意味間違ってないとも言えるのがなんとも……

「ん……うーん……?」

 すると今までずっと抱っこしていたルルアが身じろぎして目を覚まそうとしていた。

「あれ、お兄ちゃん……?」

 目を開けたルルアと俺と目がすぐに合う。

「おはよう、ルルア」

「おは、よう……そっか、なんだかさっき頭がフワフワしてて記憶が曖昧だけど、ルルアはお兄ちゃんに負けちゃったんだね」

 眠る前のことを思い出したルルアが残念そうにそう言い、溜め息を零して頭を胸に押し付けてくる。

「あーあ、ルルアだって本気でやれば少しくらい驚かせられると思ったのに……全然当たらなかったわ!」

「……いや、驚かせるってだけなら十分目的は達成してるからな?お前の攻撃は一つ一つが一撃必殺なんだから、そんなもんに当たってたらきっと俺は今ここにいないぞ」

 とはいえ油断してルルアの超術に捕まってしまったんだが。アレがもし即死技だったらって考えると……ゾッとするな。
 この世界は俺の常識が通用しない。いくら元の世界で最強なんて呼ばれていても、こっちの世界で呆気なく死ぬ可能性がある。ルルアを相手していて学んだことだ。

「……ふふっ、そうね。でも――」

 ルルアの滅茶苦茶な発言にツッコミを入れるとそれを笑われる。
 そして彼女はどこか艶めかしい雰囲気を纏って顔を近付けて囁いてきた

「お兄ちゃんをルルアだけのものにしたいって気持ちは今でもあるからね?だからこれからはもっとルルアのこと構ってくれないと……襲っちゃうから」

 そう言ってニヒヒと笑うルルア。 襲っちゃう(物理)ですねわかりました。
 そうやっていたずらに笑う彼女の頭を撫で、今回のお詫びということで彼女の頬にキスをした。
 ロリコンと呼ばれたくないから日和って頬にしたわけじゃないぞ?本当だぞ?
 ……すいません、日和りました。やっぱり年下の外見をした少女相手にまだ心の準備ができていません。
 そんな懺悔のようなことを考えながらルルアを見てみると意外な反応をしていた。

「――――ッ⁉」

 ルルアは俺がキスをした頬を手で押さえて顔を真っ赤にし、目を丸くして驚いた表情をしていた。
 その反応を近くで見ていたヴェルネたちも俺をからかうどころではなく、意外そうな顔をしてルルアを凝視する。
 俺も少しでも喜ぶかと思っての行動だったため、恥ずかしがる彼女にかける言葉が見付からず困惑してしまっていた。

「う~……うぁー‼」

 ルルアはこの場の空気に耐え切れなくなったらしく、奇妙な叫び声を上げて部屋から飛び出していってしまう。

「……もしかして俺またなんかやらかした?」

「あー……まぁ、今のはやり過ぎたわけじゃないし、あんたは悪くないと思うわよ?」

 ヴェルネですらそんなフォローをしてくるほどの出来事だった。
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