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適応するためのルール
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「……やっぱりか」
ロボットは俺から距離を取り、俺の手元に残った機械の腕を見てそう呟く。
「凄まじい力だ……だが何がやっぱり?」
「アイツに弱点らしい弱点は見えないかもしれないが、攻撃が通る箇所はちゃんとある。あと俺の考えが正しけりゃ水が弱いと思うぞ」
一時的に後ろに引いたロボットがもう一度走って来る。
感情のないロボットなだけに躊躇無く挑んでくるソイツに魔法で大量の水を作り、一気に放出させた。
直撃を食らったロボットは動きを止め、バチバチと電気が弾け始めた。
「獣人は魔法はあまり使えない」
「なら関節を狙えばいい、そこなら攻撃が通りやすい」
見たところ人間の関節に当たる部分は中身が露出している……つまり重要な回路が剥き出しになってる可能性が高かったわけで、そこに水をぶっかければ防水加工がされてない限りぶっ壊れるのは同じってことだ。物理も通るだろう。
だが……コイツは本当に魔物なのかとやはり疑問に思う。
たしかにこの世界の住人からすれば勝手に自立して動いていたコレが造られた物とは思いもしないだろうけれど、科学がそれなりに進歩して「ロボット」という概念を知っている俺からすると妙な感覚だ。
元の世界でもここまで精密な動きができるロボットはまだ開発されてなかったけれど、この世界にあるデク人形と合わせて考えると存在してもおかしくないと思えた。
そう、「魔物」としてではなく誰かが「製造した物」として。
しかしダンジョンというもの自体がよくわからない不可解な存在だ。「たまたま偶然そういうのが存在している」で済ませられてしまうからこれ以上考察のしようがない。
余計な疑問は頭の隅に置いとき、この先のことを考えることにした。
「そういやコレってどこを持って行けばいいんだ?」
「知らない。とりあえず死体ごと持ってく」
そう言ってかなりの重量があるであろうロボットを丸ごと軽々持ち上げるアウタル。
「……そんな持ち歩き方してたら戦う度に下ろすの面倒だろ。俺の魔法で収納しとくか?」
「いや、いい。アマゾネスはこれくらいで弱音を吐かない。手が使えなければ足を使うだけ」
アウタルはそう言って人を背負うようにロボットを肩に担ぐ。やはりそれなりに重いらしく、アウタルの身体全体の筋肉が強調されている。
「アウタルがそう言うなら別にいいが……俺たちの目的はダンジョンの探索とその結果を持ち帰り金に変えることであって、身体を必要以上に鍛えることじゃないからな?」
「…………」
俺がそう言うと道の奥へ進もうとしていたアウタルがピタリとしばらく固まり、俺の方に振り返って戻ってきてロボットを差し出してくる。
「お前の言う通りだ。今はアマゾネスの狩りじゃない、カズの指示に従おう」
素直に差し出されたロボットを受け取って魔法に収納し、彼女と共に先へと進む。
前回潜ったダンジョンではいきなり個室へ繋がる扉が現れたり、部屋から出たら構造が一気に変わっていたりとアクシデント続きだったからまともにダンジョンを探索できなかったが、今回はそんなことが起きることもなく、分かれ道があったり犬型やコウモリ型など多種のロボットが出てきて襲われてばかりだった。
たまにロボットに苦戦していた魔族パーティと鉢合わせたりもする。
「助けるか?」
「助けを求められない限りは手を出さない。そういう暗黙のルールってのがここにはあるんだよ。でなければ『獲物の横取り』と言いがかりを付けられかねないんだとよ」
と、前にダンジョンに潜ってそういう奴らを見かけて助けようとした際にヴェルネから注意されたことがある。
中には人の善意を利用してわざと苦戦している風に見せかけて手を出させ、倒させた魔物の素材を全て奪うだけでなく迷惑料と称して金銭を巻き上げようとするようだ。
どこにでも小賢しい小悪党はいるってことらしい。
しかし見て見ぬフリをして後で文句を言われたり、そのまま死なれたりしても後味が悪いので一応最後まで見守ることにはしている。そのことは彼女にも説明済みだ。
もうすでに俺がいない間にもアマゾネスと魔族たちでちょっとした揉め事があったらしいので、そこら辺の説明をアマゾネス全体で共有してほしいと言っておいた。
するとそのパーティのうちの一人が水が弱点であることに気付き、そこからの戦闘はすぐに終わった。俺が助けるまでもなかったわけだ。
戦闘が終わってようやく俺たちの存在に気付いた魔族たちがギョッとした顔でこっちを見る。
俺が人間だからか、もしくはただ見られていたことに驚いていたのか……何にせよ俺たちは気にせず彼らの横を通り過ぎる。
「しかし多種族のルールは面倒だな。アマゾネスは力が全て、早い者勝ちで文句はないのだが……」
「それで納得してるのはお前らの中でも力が強い奴だけだろ。ただ指を咥えてる力の無い奴は不満に思うだろうよ……まぁ、アマゾネスの感性をそこまで理解してないからお前らの中にいるかはわからんがな」
強い男が好きになったから部族全員で引っ越しに来たなんて、普通は理解できないしな。それで本当にアマゾネス全員が弱肉強食を納得していると言うのなら仕方ないと言う他ない。
結局種族などによる感性の違いってのはどうしようもないわけで、だから他者との交流ってのはどうしても争いが起こりやすい。
そこら辺を上手くやるには相手を理解するか、必要以上に干渉しないようにするしかないと思う。
「他者との交流というのはやはり難しいものだな」
「身内だけだったら好き勝手やっててよかったけれど、もしこれからも『外』でやっていこうとするならその『難しい』を『当たり前』にしていかないとな」
軽く笑い飛ばしながら言い、さらに先へと進む。
スマホの地図を見ながら進み、ボスがいる部屋のところまで一直線に進み続けた。いくらか進んだかというところでそれっぽい大きな扉を見付けた。
その前には多くの魔族たちが立ち往生しており、溜め息を零して道を戻る奴がチラホラ見られる。
「どうかしたのか?」
道を引き返そうとしていた一人の魔族の男に声をかける。
「ん?ああ、あんたか。いや、どうやらここはボス部屋らしくてな、この先に進むのは諦めようって話をしてたところだ。この部屋の魔物は決まって強いって話だからな……あっ、そうだ!」
諦める理由を話していた魔族が何かを思い付いたように大きめの声を上げる。
その声に反応して他の魔族がこっちに注目し始めた。
「なぁ、あんたって災厄とか災害級の魔物を一人で倒せるんだろ?ここのも倒してくれない――がっ!?」
興奮した男の頭を誰かが殴り付ける。
ソイツは魔族の女で赤髪と黄色の瞳をし、腕が四本あり片腕二本で大剣を持っていた。その大剣の側面で男を殴っていた。
「何すんだソルカ!」
「うるさいアホグラン!楽したいからって何バカなこと言おうとしてんの!」
どうやら男の方はグラン、女の方はソルカという名前らしい。他にも二人が近くで待機してることから四人でパーティを組んでいるようだが……
一人は長い黒髪で表情の見えにくい男。武器は見当たらないが暗器みたいに隠しているのか?
もう一人は大きな杖を持ち、金の長髪と瞳をした三つ目……のような模様が額にあるおっとりした雰囲気の少女。
俺のその視線に気付いた金髪の女が俺たちの方に近付いて来た。
「あの……私ミミィです。喧嘩してるのがグラン君とソルカ、向こうの男の人はジャッカードさんと言います」
「これは丁寧に。俺はカズ、こっちはアウタル」
軽く名乗るとミミィは微笑む。ジャッカードという男はボーッとしていてどこを見ているどころか何を考えているのかわからない。
「凄く強い変わった人間さんがいると聞いたことがありますが、本当に魔族に対して強い感情を抱いていないのですね」
「……ただ雑談するために近付いて来たのか?」
「えっ……あっ、いえ、そんなことは……」
少し意地悪な言い方をすると動揺してしまうミミィに俺はクスリと笑う。
「冗談だ……だけど言いたいことがあるなら遠慮無く言ってほしい。無駄話はそこまで好きじゃないからな。あんたも俺たちに先に行ってほしいと思ってるのか?」
急かし気味の問いかけに言葉を詰まらせながらも小さく頷くミミィ。
ロボットは俺から距離を取り、俺の手元に残った機械の腕を見てそう呟く。
「凄まじい力だ……だが何がやっぱり?」
「アイツに弱点らしい弱点は見えないかもしれないが、攻撃が通る箇所はちゃんとある。あと俺の考えが正しけりゃ水が弱いと思うぞ」
一時的に後ろに引いたロボットがもう一度走って来る。
感情のないロボットなだけに躊躇無く挑んでくるソイツに魔法で大量の水を作り、一気に放出させた。
直撃を食らったロボットは動きを止め、バチバチと電気が弾け始めた。
「獣人は魔法はあまり使えない」
「なら関節を狙えばいい、そこなら攻撃が通りやすい」
見たところ人間の関節に当たる部分は中身が露出している……つまり重要な回路が剥き出しになってる可能性が高かったわけで、そこに水をぶっかければ防水加工がされてない限りぶっ壊れるのは同じってことだ。物理も通るだろう。
だが……コイツは本当に魔物なのかとやはり疑問に思う。
たしかにこの世界の住人からすれば勝手に自立して動いていたコレが造られた物とは思いもしないだろうけれど、科学がそれなりに進歩して「ロボット」という概念を知っている俺からすると妙な感覚だ。
元の世界でもここまで精密な動きができるロボットはまだ開発されてなかったけれど、この世界にあるデク人形と合わせて考えると存在してもおかしくないと思えた。
そう、「魔物」としてではなく誰かが「製造した物」として。
しかしダンジョンというもの自体がよくわからない不可解な存在だ。「たまたま偶然そういうのが存在している」で済ませられてしまうからこれ以上考察のしようがない。
余計な疑問は頭の隅に置いとき、この先のことを考えることにした。
「そういやコレってどこを持って行けばいいんだ?」
「知らない。とりあえず死体ごと持ってく」
そう言ってかなりの重量があるであろうロボットを丸ごと軽々持ち上げるアウタル。
「……そんな持ち歩き方してたら戦う度に下ろすの面倒だろ。俺の魔法で収納しとくか?」
「いや、いい。アマゾネスはこれくらいで弱音を吐かない。手が使えなければ足を使うだけ」
アウタルはそう言って人を背負うようにロボットを肩に担ぐ。やはりそれなりに重いらしく、アウタルの身体全体の筋肉が強調されている。
「アウタルがそう言うなら別にいいが……俺たちの目的はダンジョンの探索とその結果を持ち帰り金に変えることであって、身体を必要以上に鍛えることじゃないからな?」
「…………」
俺がそう言うと道の奥へ進もうとしていたアウタルがピタリとしばらく固まり、俺の方に振り返って戻ってきてロボットを差し出してくる。
「お前の言う通りだ。今はアマゾネスの狩りじゃない、カズの指示に従おう」
素直に差し出されたロボットを受け取って魔法に収納し、彼女と共に先へと進む。
前回潜ったダンジョンではいきなり個室へ繋がる扉が現れたり、部屋から出たら構造が一気に変わっていたりとアクシデント続きだったからまともにダンジョンを探索できなかったが、今回はそんなことが起きることもなく、分かれ道があったり犬型やコウモリ型など多種のロボットが出てきて襲われてばかりだった。
たまにロボットに苦戦していた魔族パーティと鉢合わせたりもする。
「助けるか?」
「助けを求められない限りは手を出さない。そういう暗黙のルールってのがここにはあるんだよ。でなければ『獲物の横取り』と言いがかりを付けられかねないんだとよ」
と、前にダンジョンに潜ってそういう奴らを見かけて助けようとした際にヴェルネから注意されたことがある。
中には人の善意を利用してわざと苦戦している風に見せかけて手を出させ、倒させた魔物の素材を全て奪うだけでなく迷惑料と称して金銭を巻き上げようとするようだ。
どこにでも小賢しい小悪党はいるってことらしい。
しかし見て見ぬフリをして後で文句を言われたり、そのまま死なれたりしても後味が悪いので一応最後まで見守ることにはしている。そのことは彼女にも説明済みだ。
もうすでに俺がいない間にもアマゾネスと魔族たちでちょっとした揉め事があったらしいので、そこら辺の説明をアマゾネス全体で共有してほしいと言っておいた。
するとそのパーティのうちの一人が水が弱点であることに気付き、そこからの戦闘はすぐに終わった。俺が助けるまでもなかったわけだ。
戦闘が終わってようやく俺たちの存在に気付いた魔族たちがギョッとした顔でこっちを見る。
俺が人間だからか、もしくはただ見られていたことに驚いていたのか……何にせよ俺たちは気にせず彼らの横を通り過ぎる。
「しかし多種族のルールは面倒だな。アマゾネスは力が全て、早い者勝ちで文句はないのだが……」
「それで納得してるのはお前らの中でも力が強い奴だけだろ。ただ指を咥えてる力の無い奴は不満に思うだろうよ……まぁ、アマゾネスの感性をそこまで理解してないからお前らの中にいるかはわからんがな」
強い男が好きになったから部族全員で引っ越しに来たなんて、普通は理解できないしな。それで本当にアマゾネス全員が弱肉強食を納得していると言うのなら仕方ないと言う他ない。
結局種族などによる感性の違いってのはどうしようもないわけで、だから他者との交流ってのはどうしても争いが起こりやすい。
そこら辺を上手くやるには相手を理解するか、必要以上に干渉しないようにするしかないと思う。
「他者との交流というのはやはり難しいものだな」
「身内だけだったら好き勝手やっててよかったけれど、もしこれからも『外』でやっていこうとするならその『難しい』を『当たり前』にしていかないとな」
軽く笑い飛ばしながら言い、さらに先へと進む。
スマホの地図を見ながら進み、ボスがいる部屋のところまで一直線に進み続けた。いくらか進んだかというところでそれっぽい大きな扉を見付けた。
その前には多くの魔族たちが立ち往生しており、溜め息を零して道を戻る奴がチラホラ見られる。
「どうかしたのか?」
道を引き返そうとしていた一人の魔族の男に声をかける。
「ん?ああ、あんたか。いや、どうやらここはボス部屋らしくてな、この先に進むのは諦めようって話をしてたところだ。この部屋の魔物は決まって強いって話だからな……あっ、そうだ!」
諦める理由を話していた魔族が何かを思い付いたように大きめの声を上げる。
その声に反応して他の魔族がこっちに注目し始めた。
「なぁ、あんたって災厄とか災害級の魔物を一人で倒せるんだろ?ここのも倒してくれない――がっ!?」
興奮した男の頭を誰かが殴り付ける。
ソイツは魔族の女で赤髪と黄色の瞳をし、腕が四本あり片腕二本で大剣を持っていた。その大剣の側面で男を殴っていた。
「何すんだソルカ!」
「うるさいアホグラン!楽したいからって何バカなこと言おうとしてんの!」
どうやら男の方はグラン、女の方はソルカという名前らしい。他にも二人が近くで待機してることから四人でパーティを組んでいるようだが……
一人は長い黒髪で表情の見えにくい男。武器は見当たらないが暗器みたいに隠しているのか?
もう一人は大きな杖を持ち、金の長髪と瞳をした三つ目……のような模様が額にあるおっとりした雰囲気の少女。
俺のその視線に気付いた金髪の女が俺たちの方に近付いて来た。
「あの……私ミミィです。喧嘩してるのがグラン君とソルカ、向こうの男の人はジャッカードさんと言います」
「これは丁寧に。俺はカズ、こっちはアウタル」
軽く名乗るとミミィは微笑む。ジャッカードという男はボーッとしていてどこを見ているどころか何を考えているのかわからない。
「凄く強い変わった人間さんがいると聞いたことがありますが、本当に魔族に対して強い感情を抱いていないのですね」
「……ただ雑談するために近付いて来たのか?」
「えっ……あっ、いえ、そんなことは……」
少し意地悪な言い方をすると動揺してしまうミミィに俺はクスリと笑う。
「冗談だ……だけど言いたいことがあるなら遠慮無く言ってほしい。無駄話はそこまで好きじゃないからな。あんたも俺たちに先に行ってほしいと思ってるのか?」
急かし気味の問いかけに言葉を詰まらせながらも小さく頷くミミィ。
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