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怒ってくれる嬉しさ
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「ふぅ……それにしてもまた頭の痛い話が出てきたわね……」
フウリが他のアマゾネスたちに説明しに行くと部屋を出て行き、三人だけとなった部屋でヴェルネが溜め息を吐いてそう呟いた。
「勇者の話か?」
今さっきあった出来事で心当たりのあることと言ったらそれくらいなので口にしてみるとヴェルネが頷く。
「人間は基本的にあたしたち魔族や獣人のように魔力や肉体が特化していないのだけれど、稀に異常な力を持つ強い個体が生まれてくることがあるの。それが勇者と呼んでいる奴らよ」
彼女の説明を聞いてる中でふと疑問が浮かぶ。
「……なぁ、勇者ってのはみんなこの世界出身なのか?」
俺の質問がおかしかったらしく、キョトンとした顔で見つめ返してくるヴェルネ。
「そうだけど……何、その質問?」
「いや、俺の世界には『別の世界から召喚された人間が勇者として戦う』って話が結構あったから、もしかしたら……って思っただけだ」
「あんたの世界は人間が別の世界に移動することが当たり前なの……?」
「んなわけ。ただの創作話だよ……なのに実際、俺がこんな世界に来ちまってるんだからおかしいよな」
「事実は小説よりも奇なり」なんて言うが、本当に異世界転生しちまう人間なんて世界ひろしといえど俺くらいだろうな。
もしくは俺のように異世界に来て戻った奴がいるとか……考え過ぎか?
「それにしても……あんなのが他にも何人もいるのよね……」
「え、勇者ってそんな何人もいるもんなのか?」
何やら書類を書き始めたヴェルネにそう聞き返すと「まぁね」と返事を返してくる。
「別に一人だけだったらうちの魔王様だけで十分潰せるけど、複数人だから面倒って話なのよ。一人一人が魔王様たちと同じくらいの力を持ってるのに、それが何人もいるとか……」
溜め息を吐いて「もう面倒!」とハッキリ言い、椅子の背もたれに寄りかかって背伸びをするヴェルネ。しかし自分たちを殺そうって相手が出てきたのに「面倒」だけで済ませられる彼女の神経もかなり図太い気がする。
「……ん?魔王ってダイス以外にもいるのか?」
「そりゃいるわよ。いくらダイス様が凄い力を持ってるって言ってもそれは戦闘面だけで、広大な魔族領を統治できるほど万能じゃないもの」
そこまで言うとヴェルネはなぜか微妙な表情になる。
「……結局は人間とやってることは変わらないわね。大きな国を作って、それを管理するために王様と王様を補佐する貴族や領主なんて役職を作ってみんな偉そうにする。ただ違うのはあたしたち魔族は人間や獣人よりも人の形を失いかけていることくらいかしらね……」
憂鬱そうな表情で切なそうに言うヴェルネ。
人の形を失いかけている……たしかに言い得て妙かもしれない。
魔族は姿がかなりバラバラで、腕や足が複数ある者から肌の色も緑や黒、白というような人間では有り得ないシンプルな単一色が強く出てるのまでいる。
それにヴェルネも肌が青く黒い角が生えている。
……知性があって話すこともできるから魔族として捉えられているが、もし彼ら彼女らが正気を失って襲ってくるような奴がいればソイツを魔物と勘違いしてしまうかもしれない。
それだけにヴェルネの言葉は的を得ているように思えた。
でも――
「でもそれは気にしなくていいだろ。人間と比べたところで種族が違うんだから比較する意味が無い。俺も、ヴェルネも、それにルルアも……それぞれに基準があるんだからよ。ただあるとするなら、人間が勝手な基準を作って押し付けてきてるだけだ」
この世界に来てある程度それぞれの種族が互いにどう思っているかがわかってきていた。
簡単に言ってしまえば、他種族を非難しているのは人間だけだということ。
獣人は獣に近いからペット扱いして見下し、魔族は形容しがたい姿をしていることから化け物扱いしている。
姿形色が違うから蔑む対象にするってのはどの世界でも同じだということだ……
それが自分と同じ種族だと思うと思わず溜め息が出てしまい、下に向けていた視線をヴェルネに向けると意外そうな顔で俺を見ていた。
「あんたって最初からそうだったけど、人間贔屓しないわよね。むしろちょっと嫌ってない?」
「……はっはっは、よくわかってらっしゃる」
ヴェルネの指摘に思わず口角が上がり、背中のルルアを剥がして近くのソファーに下ろしつつ俺も横に座って足を組む。
「ヴェルネたちに話したか忘れたが、前の世界で俺の家族は世界から注目されるほどの武術一家だった……んで問題。もしこの世界にどの種族よりも強大な国家が現れたら、お前らならどうする?」
「ルルアはどうでもいいかなー?もしルルアたちを攻撃してくるならやり返すけど♪」
「…………」
ルルアは子供らしい無邪気な表情をしていたかと思えば、殺意に満ちた妖しい笑みを浮かべる。
ヴェルネはしばらく考えてからその口を開いた。
「同盟を結ぶか排除するために戦いを仕掛けるか、もしくは最初から支配下に降るか……選択肢があるとしたらそんなとこかしらね。つまりあんたたちはその例え話の国そのものだったわけ?」
「……正解♪」
全然嬉しくないが問題の意味を当てたヴェルネに微笑みかける。
「俺たちの力を懐柔して利用しようとする奴や邪魔だからと殺しにかかって来たり、もちろんそれ思ってる以上に色んなことをされてきた。国を動かすほどの大きな力をどうにかしようっていうお偉いさんたちがこぞって近寄ってきたよ。そんでそれが人間しかいない世界なんだ、同じ人間でも同族不信になっちまうってもんだ……笑えるだろ?」
俺がそう言っても彼女らは決して笑わない。
笑えない話をしたってのはわかってるが、笑う笑わないよりもヴェルネたち二人が怒りに眉をひそめさせていた。
「ホンット、くだらないわね……」
「もー、お兄ちゃんにそんなことする奴がいるなんて!もしこの世界にいたらキュッとして潰しちゃうのに!」
別に本当に笑ってくれた方が気が楽だったけど、こうやって怒ってくれるのも意外と嬉しいもんだな……
それはそれとしてルルアさん、あなたが掴んでる手に力が入って腕がミシミシいってます。痛いです。
フウリが他のアマゾネスたちに説明しに行くと部屋を出て行き、三人だけとなった部屋でヴェルネが溜め息を吐いてそう呟いた。
「勇者の話か?」
今さっきあった出来事で心当たりのあることと言ったらそれくらいなので口にしてみるとヴェルネが頷く。
「人間は基本的にあたしたち魔族や獣人のように魔力や肉体が特化していないのだけれど、稀に異常な力を持つ強い個体が生まれてくることがあるの。それが勇者と呼んでいる奴らよ」
彼女の説明を聞いてる中でふと疑問が浮かぶ。
「……なぁ、勇者ってのはみんなこの世界出身なのか?」
俺の質問がおかしかったらしく、キョトンとした顔で見つめ返してくるヴェルネ。
「そうだけど……何、その質問?」
「いや、俺の世界には『別の世界から召喚された人間が勇者として戦う』って話が結構あったから、もしかしたら……って思っただけだ」
「あんたの世界は人間が別の世界に移動することが当たり前なの……?」
「んなわけ。ただの創作話だよ……なのに実際、俺がこんな世界に来ちまってるんだからおかしいよな」
「事実は小説よりも奇なり」なんて言うが、本当に異世界転生しちまう人間なんて世界ひろしといえど俺くらいだろうな。
もしくは俺のように異世界に来て戻った奴がいるとか……考え過ぎか?
「それにしても……あんなのが他にも何人もいるのよね……」
「え、勇者ってそんな何人もいるもんなのか?」
何やら書類を書き始めたヴェルネにそう聞き返すと「まぁね」と返事を返してくる。
「別に一人だけだったらうちの魔王様だけで十分潰せるけど、複数人だから面倒って話なのよ。一人一人が魔王様たちと同じくらいの力を持ってるのに、それが何人もいるとか……」
溜め息を吐いて「もう面倒!」とハッキリ言い、椅子の背もたれに寄りかかって背伸びをするヴェルネ。しかし自分たちを殺そうって相手が出てきたのに「面倒」だけで済ませられる彼女の神経もかなり図太い気がする。
「……ん?魔王ってダイス以外にもいるのか?」
「そりゃいるわよ。いくらダイス様が凄い力を持ってるって言ってもそれは戦闘面だけで、広大な魔族領を統治できるほど万能じゃないもの」
そこまで言うとヴェルネはなぜか微妙な表情になる。
「……結局は人間とやってることは変わらないわね。大きな国を作って、それを管理するために王様と王様を補佐する貴族や領主なんて役職を作ってみんな偉そうにする。ただ違うのはあたしたち魔族は人間や獣人よりも人の形を失いかけていることくらいかしらね……」
憂鬱そうな表情で切なそうに言うヴェルネ。
人の形を失いかけている……たしかに言い得て妙かもしれない。
魔族は姿がかなりバラバラで、腕や足が複数ある者から肌の色も緑や黒、白というような人間では有り得ないシンプルな単一色が強く出てるのまでいる。
それにヴェルネも肌が青く黒い角が生えている。
……知性があって話すこともできるから魔族として捉えられているが、もし彼ら彼女らが正気を失って襲ってくるような奴がいればソイツを魔物と勘違いしてしまうかもしれない。
それだけにヴェルネの言葉は的を得ているように思えた。
でも――
「でもそれは気にしなくていいだろ。人間と比べたところで種族が違うんだから比較する意味が無い。俺も、ヴェルネも、それにルルアも……それぞれに基準があるんだからよ。ただあるとするなら、人間が勝手な基準を作って押し付けてきてるだけだ」
この世界に来てある程度それぞれの種族が互いにどう思っているかがわかってきていた。
簡単に言ってしまえば、他種族を非難しているのは人間だけだということ。
獣人は獣に近いからペット扱いして見下し、魔族は形容しがたい姿をしていることから化け物扱いしている。
姿形色が違うから蔑む対象にするってのはどの世界でも同じだということだ……
それが自分と同じ種族だと思うと思わず溜め息が出てしまい、下に向けていた視線をヴェルネに向けると意外そうな顔で俺を見ていた。
「あんたって最初からそうだったけど、人間贔屓しないわよね。むしろちょっと嫌ってない?」
「……はっはっは、よくわかってらっしゃる」
ヴェルネの指摘に思わず口角が上がり、背中のルルアを剥がして近くのソファーに下ろしつつ俺も横に座って足を組む。
「ヴェルネたちに話したか忘れたが、前の世界で俺の家族は世界から注目されるほどの武術一家だった……んで問題。もしこの世界にどの種族よりも強大な国家が現れたら、お前らならどうする?」
「ルルアはどうでもいいかなー?もしルルアたちを攻撃してくるならやり返すけど♪」
「…………」
ルルアは子供らしい無邪気な表情をしていたかと思えば、殺意に満ちた妖しい笑みを浮かべる。
ヴェルネはしばらく考えてからその口を開いた。
「同盟を結ぶか排除するために戦いを仕掛けるか、もしくは最初から支配下に降るか……選択肢があるとしたらそんなとこかしらね。つまりあんたたちはその例え話の国そのものだったわけ?」
「……正解♪」
全然嬉しくないが問題の意味を当てたヴェルネに微笑みかける。
「俺たちの力を懐柔して利用しようとする奴や邪魔だからと殺しにかかって来たり、もちろんそれ思ってる以上に色んなことをされてきた。国を動かすほどの大きな力をどうにかしようっていうお偉いさんたちがこぞって近寄ってきたよ。そんでそれが人間しかいない世界なんだ、同じ人間でも同族不信になっちまうってもんだ……笑えるだろ?」
俺がそう言っても彼女らは決して笑わない。
笑えない話をしたってのはわかってるが、笑う笑わないよりもヴェルネたち二人が怒りに眉をひそめさせていた。
「ホンット、くだらないわね……」
「もー、お兄ちゃんにそんなことする奴がいるなんて!もしこの世界にいたらキュッとして潰しちゃうのに!」
別に本当に笑ってくれた方が気が楽だったけど、こうやって怒ってくれるのも意外と嬉しいもんだな……
それはそれとしてルルアさん、あなたが掴んでる手に力が入って腕がミシミシいってます。痛いです。
応援ありがとうございます!
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