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アマゾネスという種族
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「《スタートアップ》!」
フウリがそう口にすると彼女の筋肉が膨張するように一回り大きく膨れ、地面が陥没するほどの脚力でデク人形の目の前まで一瞬で移動する。
そしてすぐにフウリが一撃を放ち、デク人形はそれを避けると拳の先から風圧が生まれ、その拳が生半可な威力ではないことを示していた。
そのままフウリとデク人形の激しい攻防が始まる。
「凄ぇ……」
ジルの口からポツリと言葉が零れる。コイツから見れば目にも止まらぬ速さなのだろう。
フウリは技術こそないが、その圧倒的なスペックでデク人形と渡り合って――
――バシッ
「ああっ!」
「……ん?」
――ドスッ
「んぁ……!」
――ドドドドドドドド……
「あぁっ、そんなに激しくされたらぁぁぁぁっ!!!!」
「…………」
途中からフウリは一方的に殴られるようになり、愉悦の表情を浮かべてされるがままとなっていた。
結局そうなるのね……
呆れて溜め息を吐いたところでフウリの顔付きが変わる。
「興奮しちゃうじゃないかっ!!」
地面に倒され馬乗りのマウントを取られていたフウリが体を拗らせて脱出し、地面に手を付け上に向かって蹴り上げた。
「へぇ……あの体勢から抜け出した上に蹴り上げたか」
武術において重要なものの一つが体の柔らかさであり、彼女の体はかなり解れている上に体幹の主軸もしっかりしていたので感心する。
フウリは変態だが戦う技術に関しては目を見張るものがあるようだ。
「あ、そっか。柔軟もやっておかないといけなかったな、そういえば」
俺の呟きが聞こえていたジルがこっちを見て首を傾げる。
「次からは体を柔らかくすることも視野に入れてくよ」
「体を柔らかくするってどうやって?」
すると俺の背中で今まで黙っていたルルアが疑問を口にする。さっきまでは嫉妬で張り付いていたが、時間が経つにつれて俺の背中に顔を擦ったり血を吸うわけでもなく首をチューチュー吸ってきたりとただ甘えてるだけの行動となっていた。
おかげで首だけ痣だらけみたいになっちまってるよ……
「方法は色々あるから片っ端から試してみる。体が柔らかくなれば今のフウリみたいに適応力が上がるからな」
「でもああいうのって押し返しちゃえばいいんじゃない?」
ルルアは力で強引にねじ伏せればいいと考えているようだ。だが……
「自分より力の強い奴にされたらできないだろ?武の技術ってのは単純なパワーバランスをひっくり返すためにあるんだ。そこに圧倒的な力の差があっても、その差を埋めるためにな」
目の前ではさっきまで無抵抗に殴られていたとは思えないほどの反撃を見せるフウリの姿があり、それを眺めながら次の鍛錬方法など色々考える。
そんな中でふとある疑問が浮かぶ。
「……ジルって魔法は使えないのか?」
「魔法、ですか……知ってるとは思いますが、獣人は他と比べて元々の魔力が少ないんです。吸血鬼みたいな魔力の多い奴もいますけど、でも魔狼族はみんな魔力をほとんど持ってないので魔法は使えないんです……」
ジルは吸血鬼の話題になってルルアを羨ましそうな目で一瞥だけし、魔法を使えないことが残念そうに落ち込む。
ルルアも自分が見られたことに気付き、呆れた様子で「フンッ」と鼻を鳴らす。
「だったらアイツが使ったのを試してみれば?フウリだって魔力が無い獣人なのに身体能力を強化させてたんだから、同じのくらい使えるんじゃないの?」
ルルアの提案にジルは「うーん」と何か懸念がある悩むように唸る。しかしそれとは別に俺の中で疑問が浮かぶ。
「フウリって……いや、というかアマゾネスって獣人なのか?」
俺の言葉にルルアとジルが首を傾げる。
「そうだよ?」
「知らなかったんですか?」
二人から「なぜ当然のことなのに……?」と言いたげな表情で不思議そうにされてしまう。
「すまんな、勉強不足で。獣っぽい要素が無いから他より身体能力が高いだけの人間の集まりかと思ってた」
狼のようなジルや前に会ったライオンっぽいライネルだったら一目で獣人だとわかるけれど、アマゾネスにはそれっぽい要素が一つも無い。
獣耳や尻尾も無ければ耳が尖ってるわけでもない。どちらかと言うと夏を満喫している少女たちにしか見えないのだ。
でもそう言われると、「アマゾネス」という一族全体が持つその身体能力の高さにも納得がいく。
人間であれば得意不得意で体を動かすのが苦手な奴も出てくるが、アマゾネスには誰一人としてインドア派な奴はいない。
人と関わらないようにあまり外に出ないらしいフウリでさえあんなに動けるのだから、アマゾネスは獣人寄りなのだと今更ながら理解できた。
「つまりアレか、魔力が少ない奴でも使える魔法があるってことか?」
「そだよー。遠くから撃つ魔法は一発で決まった魔力を使うけど、体を強くする魔法は時間でちょっとずつ減ってくタイプだから割と誰でも使えるんだよ」
ルルアがそう教えてくれる。あらヤダ、ついこの前まで魔法の知識なんてなかったのに、いつの間にか博識になっちゃってるわこの子!
本で読んだか、または血を吸って誰かの知識を得たかのどちらかなんだろうけど、魔法の知識が無かった点について同類だと思ってたのに置いてけぼりを食らった気分である。
……俺も魔法の勉強しようかな。
フウリがそう口にすると彼女の筋肉が膨張するように一回り大きく膨れ、地面が陥没するほどの脚力でデク人形の目の前まで一瞬で移動する。
そしてすぐにフウリが一撃を放ち、デク人形はそれを避けると拳の先から風圧が生まれ、その拳が生半可な威力ではないことを示していた。
そのままフウリとデク人形の激しい攻防が始まる。
「凄ぇ……」
ジルの口からポツリと言葉が零れる。コイツから見れば目にも止まらぬ速さなのだろう。
フウリは技術こそないが、その圧倒的なスペックでデク人形と渡り合って――
――バシッ
「ああっ!」
「……ん?」
――ドスッ
「んぁ……!」
――ドドドドドドドド……
「あぁっ、そんなに激しくされたらぁぁぁぁっ!!!!」
「…………」
途中からフウリは一方的に殴られるようになり、愉悦の表情を浮かべてされるがままとなっていた。
結局そうなるのね……
呆れて溜め息を吐いたところでフウリの顔付きが変わる。
「興奮しちゃうじゃないかっ!!」
地面に倒され馬乗りのマウントを取られていたフウリが体を拗らせて脱出し、地面に手を付け上に向かって蹴り上げた。
「へぇ……あの体勢から抜け出した上に蹴り上げたか」
武術において重要なものの一つが体の柔らかさであり、彼女の体はかなり解れている上に体幹の主軸もしっかりしていたので感心する。
フウリは変態だが戦う技術に関しては目を見張るものがあるようだ。
「あ、そっか。柔軟もやっておかないといけなかったな、そういえば」
俺の呟きが聞こえていたジルがこっちを見て首を傾げる。
「次からは体を柔らかくすることも視野に入れてくよ」
「体を柔らかくするってどうやって?」
すると俺の背中で今まで黙っていたルルアが疑問を口にする。さっきまでは嫉妬で張り付いていたが、時間が経つにつれて俺の背中に顔を擦ったり血を吸うわけでもなく首をチューチュー吸ってきたりとただ甘えてるだけの行動となっていた。
おかげで首だけ痣だらけみたいになっちまってるよ……
「方法は色々あるから片っ端から試してみる。体が柔らかくなれば今のフウリみたいに適応力が上がるからな」
「でもああいうのって押し返しちゃえばいいんじゃない?」
ルルアは力で強引にねじ伏せればいいと考えているようだ。だが……
「自分より力の強い奴にされたらできないだろ?武の技術ってのは単純なパワーバランスをひっくり返すためにあるんだ。そこに圧倒的な力の差があっても、その差を埋めるためにな」
目の前ではさっきまで無抵抗に殴られていたとは思えないほどの反撃を見せるフウリの姿があり、それを眺めながら次の鍛錬方法など色々考える。
そんな中でふとある疑問が浮かぶ。
「……ジルって魔法は使えないのか?」
「魔法、ですか……知ってるとは思いますが、獣人は他と比べて元々の魔力が少ないんです。吸血鬼みたいな魔力の多い奴もいますけど、でも魔狼族はみんな魔力をほとんど持ってないので魔法は使えないんです……」
ジルは吸血鬼の話題になってルルアを羨ましそうな目で一瞥だけし、魔法を使えないことが残念そうに落ち込む。
ルルアも自分が見られたことに気付き、呆れた様子で「フンッ」と鼻を鳴らす。
「だったらアイツが使ったのを試してみれば?フウリだって魔力が無い獣人なのに身体能力を強化させてたんだから、同じのくらい使えるんじゃないの?」
ルルアの提案にジルは「うーん」と何か懸念がある悩むように唸る。しかしそれとは別に俺の中で疑問が浮かぶ。
「フウリって……いや、というかアマゾネスって獣人なのか?」
俺の言葉にルルアとジルが首を傾げる。
「そうだよ?」
「知らなかったんですか?」
二人から「なぜ当然のことなのに……?」と言いたげな表情で不思議そうにされてしまう。
「すまんな、勉強不足で。獣っぽい要素が無いから他より身体能力が高いだけの人間の集まりかと思ってた」
狼のようなジルや前に会ったライオンっぽいライネルだったら一目で獣人だとわかるけれど、アマゾネスにはそれっぽい要素が一つも無い。
獣耳や尻尾も無ければ耳が尖ってるわけでもない。どちらかと言うと夏を満喫している少女たちにしか見えないのだ。
でもそう言われると、「アマゾネス」という一族全体が持つその身体能力の高さにも納得がいく。
人間であれば得意不得意で体を動かすのが苦手な奴も出てくるが、アマゾネスには誰一人としてインドア派な奴はいない。
人と関わらないようにあまり外に出ないらしいフウリでさえあんなに動けるのだから、アマゾネスは獣人寄りなのだと今更ながら理解できた。
「つまりアレか、魔力が少ない奴でも使える魔法があるってことか?」
「そだよー。遠くから撃つ魔法は一発で決まった魔力を使うけど、体を強くする魔法は時間でちょっとずつ減ってくタイプだから割と誰でも使えるんだよ」
ルルアがそう教えてくれる。あらヤダ、ついこの前まで魔法の知識なんてなかったのに、いつの間にか博識になっちゃってるわこの子!
本で読んだか、または血を吸って誰かの知識を得たかのどちらかなんだろうけど、魔法の知識が無かった点について同類だと思ってたのに置いてけぼりを食らった気分である。
……俺も魔法の勉強しようかな。
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