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酔いは人格を壊す
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「うおぉぉぉぉぉぉぉ……!!」
ジークがヴェルネたちの周囲に落ちていた酒瓶の一つを抱え込み、豪快に泣いてしまっていた。もはや漢泣き。
えぇ……何事……?
「あぁ、アレはジークさんお気に入りの高級なお酒……そして中身はスッカラカンみたいですね」
「なるほど、そのお気に入りの酒を全部飲まれちまったのか」
まるでかけがいのない唯一の肉親を失ったかのような悲しみを表現しているのがなんとも声をかけ辛い……
よし、ジークは無視しよう。どうせ下手に慰める言葉すら見つからないし、だったら放置でいいだろう。
「それじゃあ、探しに行ってくるとしますかね……」
「カズさーん!」
ジークは放置してヴェルネたちはマヤルに任せて服を探しに行こうとしたところで、マヤルが俺を呼んでくる。
その声の方を見ると、ヴェルネとルルアがマヤルを拒絶している光景がそこにあった。
「むー!」
「やだ!お兄ちゃんじゃなきゃやだぁっ!」
「多分あっちじゃ無理です!あなたをご指名っぽいのでカズさんお願いします!」
「えぇ……」
ふくれっ面のヴェルネと駄々をこねているルルアを押し付けられてしまった。
そしてらそんな彼女らは俺と目が合うと、二人共両手を伸ばして「抱っこして」とでも言わんばかりに訴えてくる。
その姿のお前らを抱っこしろと?エプロン以外何も身に付けてないを?
精神的な意味では新手の拷問だな……
だが渋っていても仕方ないので両腕それぞれに彼女たち乗せて抱き上げる。腕には直接臀部の感覚が……いや、考えないようにしておこう。
そのまま屋敷の中へと向かう。
「あー、カズがお尻触ってきてるー!」
「いけないんだー!お兄ちゃんがエッチだー!」
だがヴェルネたちがそうさせてくれないようだ。抱いている二人がそう言いながら両方から挟むように頬擦りしてくる。
屋敷の中に入ってからもヴェルネたちはエッチを連呼して騒ぎ、ヴェルネの寝室に行く頃にはその言葉でリズムを刻みながら歌い始めてしまっていた。酔っ払いのテンションがかなり面倒臭い……
「そういやヴェルネに儀式をする時に吸血鬼たちがいるとこに行ったんだろ?何もされなかったのか?」
少しでも話題が逸れればいいなと思って別の話を振る。
「んー……そういえばなんかよく分からないこと言ってたかも?よくわからないからヴェルネお姉様が凍らせちゃった♪」
「やっちゃった♪」
そう言って二人で「えへっ」と笑う。可愛いけど凍らされた奴がかなり不憫なんだよな……
そうしてるうちに寝室に着いた。
一度も踏み入れたことのないヴェルネの部屋。可愛く飾るという絵が想像できなかったから気になっていたけれど……
内装は特別豪華というわけでもなく、どちらかというと本などが多くて書斎というのが近い。
女の子の部屋といえばピンクが多いというイメージだが、しかしそういう意味ではヴェルネにピッタリな雰囲気だ。
その中にあるベッドに二人を連れて行って座らせる。
ヴェルネたちはそのまま楽しそうに倒れ込む。
「ふかふかだぁ~」
「あ~、気持ちいいわね~」
本当なら寝る前に歯を磨いたり汗でベトベトみたいだからシャワーぐらいは浴びてほしいけれど、この状態の彼女たちにそれをさせるのは難しいだろうし、今夜くらいはそのままでいいかね。
ま、これだけ酔ってたら明日はそれどころじゃなくなると思うけど……
後はマヤルに任せて俺は部屋を出ようとする。
「あれ~……今日は一緒に寝ないの~?」
離れる俺に気付いたルルアがそんなことを言う。
「今日はヴェルネと二人で寝るんだろ?」
「あ、そうだった!じゃあ、今日はお姉様と一緒だ~」
思い出したルルアがそう言いながら横に寝ていたヴェルネに抱き着いて頬擦りする。
抱き着かれたヴェルネはほぼ半分寝た状態で「暑苦しい……」と苦悶の表情をして呟く。
「……で?」
「え?」
ヴェルネがさらに何かを要求するかのような「で?」を言ってくる。この酔っ払いは今度は何をさせようとしてるんだ……?
すると彼女は自らの頬に指をトントンと叩いて指し示す。
ん~?俺の頬に何か付いてるのか?
ちょうどこの部屋には鏡があるのでその前まで行って確認するが何も付いてない。
「ち~が~う~わ~よ~!寝る前に恋人にすることって言ったら決まってるでしょ!」
腕をブンブンと振り回してハイテンションにそう言うヴェルネ。
だがそう言われても結局何がしたいのかして欲しいのかわからない。
「そういう定番があったとしても、経験の無い俺に察せって言うのは無茶があると思わないか……?」
「もう、本当にそういうとこ鈍感なんだから……」
ヴェルネはそう言うとニヤニヤしながら近付いて、目の前まで来ると中腰になってあざとい見上げ方をしてくる。
「せっかく恋人になったんだし、寝る前には『おやすみのチュ~』でしょーがぁっ!」
叫ぶようにそう言って勢いよく俺に抱き着いて来たヴェルネ。
「えっ、チューするの? ルルアもするー!」
そしてその単語を聞いたルルアも宙を飛んで抱き着いてくる。
二人から左右に抱き着かれてしまい、動き辛い状態となってしまった。そしてそのまま――
――ぢゅ゛~~~~~~~~~~~!
両側両者がめっちゃ吸ってきた。……これなんか思ってたのと違うんだけど。
キスっていうより別の何かを吸われてる気がする。生気奪われてない?
気が済んだ二人は俺から離れて早歩きでベッドに向かいダイブする。
相当嬉しかったのかベッドの上で身悶えながらキャーキャーと騒ぐ二人。
行動は酔っ払いだけどこういうところは女の子だな、なんて思える。
そんな微笑ましい姿を横目に今度こそ部屋から出て行く。
そこでちょうどマヤルとすれ違い、「あとは任せてください!」と意気込んで中に入って行った。
若干の心配は残ったものの、マヤルの言う通り彼女に世話を任せることにする。
今日は少し疲れたから休みたいしな。
ヴェルネよ、何かあったとしても俺を恨んでくれるなよ……?
自分の部屋に戻ろうとしていると、眠そうに目を擦りながら歩いていたジルとバッタリと会う。
「……あれ、アニキ?」
ジルが細く開けた目で俺を捉えると少し嬉しそうに笑う。
「どうしたんですか、アニキもトイレ?……というかそのほっぺはどうしたんですか?」
「も」ってことはジルはトイレに起きたらしい。
ジルに指摘されたヴェルネたちに吸われた頬を隠して誤魔化そうとする。
「いや、さっきまで少し出かけててな。今酔っ払いの世話もして部屋に戻ろうと思ってたんだ」
「そうだったんですね。それじゃあ俺も寝ます、お休みなさいアニキ……」
頬の話題などなかったかのように忘れてフラフラとしながら俺の横を通り過ぎて自室に戻ろうとするジル。そのまま見送ろうとしたところが、ふと思い出したことがあって声をかける。
「ジル、よかったら一緒に寝るか?」
「…………え?」
寝惚けた頭で俺の言葉を理解するのに時間が掛かったらしく、止まってから長い沈黙の後に聞き返してきた。
「ほら、アマゾネスたちと一緒にゴブリンと戦わせたろ?頑張ってたみたいだし、ちょっとした願い事の一つくらいは……って思ってな」
ジルはさっきまでの眠そうな目を見開いて俺を凝視している。そこまで驚くことか?
するとすぐに頷いて答えると思っていたジルはモジモジしながら何かを言いたそうにしていた。
「俺はほとんど何もしてなかったですよ……?頑張ってたって言ってもゴブリンを十匹なんとか倒したくらいで、他はアマゾネスの人たちが全部倒しちゃってましたし……」
自信無さげに答えるジル。
「それでも倒してたことには変わりないし、頑張ってくれたんだ。いくらなんでも『ルルアと同じくらいのことをしろ』なんて言わないよ」
災害級のような普通は倒せないとされている奴らを倒したら、なんて言ってできるのは今のところ俺とルルアくらいだ。
他の奴らは「各個で撃破なんてありえない。撃退するだけでもやっとなんだから」と言う。それが当たり前なのだと。
それだけに撃退した時に落ちた皮や鱗が貴重なのだと聞いたが……まぁ、それは今はいいだろう。
つまりそんなレベルをジルに強要するわけにはいかないということだ。「今はまだ」という言葉が付くけれど。
「で、どうする?一応『お願い事』だから何も一緒に寝るだけが選択肢じゃないから『武器が欲しい』とか『力が欲しい』とか『世界が欲しい』でもいいぞ」
「えぇ……」
俺が適当に言った冗談にジルは困惑するのだった。
ジークがヴェルネたちの周囲に落ちていた酒瓶の一つを抱え込み、豪快に泣いてしまっていた。もはや漢泣き。
えぇ……何事……?
「あぁ、アレはジークさんお気に入りの高級なお酒……そして中身はスッカラカンみたいですね」
「なるほど、そのお気に入りの酒を全部飲まれちまったのか」
まるでかけがいのない唯一の肉親を失ったかのような悲しみを表現しているのがなんとも声をかけ辛い……
よし、ジークは無視しよう。どうせ下手に慰める言葉すら見つからないし、だったら放置でいいだろう。
「それじゃあ、探しに行ってくるとしますかね……」
「カズさーん!」
ジークは放置してヴェルネたちはマヤルに任せて服を探しに行こうとしたところで、マヤルが俺を呼んでくる。
その声の方を見ると、ヴェルネとルルアがマヤルを拒絶している光景がそこにあった。
「むー!」
「やだ!お兄ちゃんじゃなきゃやだぁっ!」
「多分あっちじゃ無理です!あなたをご指名っぽいのでカズさんお願いします!」
「えぇ……」
ふくれっ面のヴェルネと駄々をこねているルルアを押し付けられてしまった。
そしてらそんな彼女らは俺と目が合うと、二人共両手を伸ばして「抱っこして」とでも言わんばかりに訴えてくる。
その姿のお前らを抱っこしろと?エプロン以外何も身に付けてないを?
精神的な意味では新手の拷問だな……
だが渋っていても仕方ないので両腕それぞれに彼女たち乗せて抱き上げる。腕には直接臀部の感覚が……いや、考えないようにしておこう。
そのまま屋敷の中へと向かう。
「あー、カズがお尻触ってきてるー!」
「いけないんだー!お兄ちゃんがエッチだー!」
だがヴェルネたちがそうさせてくれないようだ。抱いている二人がそう言いながら両方から挟むように頬擦りしてくる。
屋敷の中に入ってからもヴェルネたちはエッチを連呼して騒ぎ、ヴェルネの寝室に行く頃にはその言葉でリズムを刻みながら歌い始めてしまっていた。酔っ払いのテンションがかなり面倒臭い……
「そういやヴェルネに儀式をする時に吸血鬼たちがいるとこに行ったんだろ?何もされなかったのか?」
少しでも話題が逸れればいいなと思って別の話を振る。
「んー……そういえばなんかよく分からないこと言ってたかも?よくわからないからヴェルネお姉様が凍らせちゃった♪」
「やっちゃった♪」
そう言って二人で「えへっ」と笑う。可愛いけど凍らされた奴がかなり不憫なんだよな……
そうしてるうちに寝室に着いた。
一度も踏み入れたことのないヴェルネの部屋。可愛く飾るという絵が想像できなかったから気になっていたけれど……
内装は特別豪華というわけでもなく、どちらかというと本などが多くて書斎というのが近い。
女の子の部屋といえばピンクが多いというイメージだが、しかしそういう意味ではヴェルネにピッタリな雰囲気だ。
その中にあるベッドに二人を連れて行って座らせる。
ヴェルネたちはそのまま楽しそうに倒れ込む。
「ふかふかだぁ~」
「あ~、気持ちいいわね~」
本当なら寝る前に歯を磨いたり汗でベトベトみたいだからシャワーぐらいは浴びてほしいけれど、この状態の彼女たちにそれをさせるのは難しいだろうし、今夜くらいはそのままでいいかね。
ま、これだけ酔ってたら明日はそれどころじゃなくなると思うけど……
後はマヤルに任せて俺は部屋を出ようとする。
「あれ~……今日は一緒に寝ないの~?」
離れる俺に気付いたルルアがそんなことを言う。
「今日はヴェルネと二人で寝るんだろ?」
「あ、そうだった!じゃあ、今日はお姉様と一緒だ~」
思い出したルルアがそう言いながら横に寝ていたヴェルネに抱き着いて頬擦りする。
抱き着かれたヴェルネはほぼ半分寝た状態で「暑苦しい……」と苦悶の表情をして呟く。
「……で?」
「え?」
ヴェルネがさらに何かを要求するかのような「で?」を言ってくる。この酔っ払いは今度は何をさせようとしてるんだ……?
すると彼女は自らの頬に指をトントンと叩いて指し示す。
ん~?俺の頬に何か付いてるのか?
ちょうどこの部屋には鏡があるのでその前まで行って確認するが何も付いてない。
「ち~が~う~わ~よ~!寝る前に恋人にすることって言ったら決まってるでしょ!」
腕をブンブンと振り回してハイテンションにそう言うヴェルネ。
だがそう言われても結局何がしたいのかして欲しいのかわからない。
「そういう定番があったとしても、経験の無い俺に察せって言うのは無茶があると思わないか……?」
「もう、本当にそういうとこ鈍感なんだから……」
ヴェルネはそう言うとニヤニヤしながら近付いて、目の前まで来ると中腰になってあざとい見上げ方をしてくる。
「せっかく恋人になったんだし、寝る前には『おやすみのチュ~』でしょーがぁっ!」
叫ぶようにそう言って勢いよく俺に抱き着いて来たヴェルネ。
「えっ、チューするの? ルルアもするー!」
そしてその単語を聞いたルルアも宙を飛んで抱き着いてくる。
二人から左右に抱き着かれてしまい、動き辛い状態となってしまった。そしてそのまま――
――ぢゅ゛~~~~~~~~~~~!
両側両者がめっちゃ吸ってきた。……これなんか思ってたのと違うんだけど。
キスっていうより別の何かを吸われてる気がする。生気奪われてない?
気が済んだ二人は俺から離れて早歩きでベッドに向かいダイブする。
相当嬉しかったのかベッドの上で身悶えながらキャーキャーと騒ぐ二人。
行動は酔っ払いだけどこういうところは女の子だな、なんて思える。
そんな微笑ましい姿を横目に今度こそ部屋から出て行く。
そこでちょうどマヤルとすれ違い、「あとは任せてください!」と意気込んで中に入って行った。
若干の心配は残ったものの、マヤルの言う通り彼女に世話を任せることにする。
今日は少し疲れたから休みたいしな。
ヴェルネよ、何かあったとしても俺を恨んでくれるなよ……?
自分の部屋に戻ろうとしていると、眠そうに目を擦りながら歩いていたジルとバッタリと会う。
「……あれ、アニキ?」
ジルが細く開けた目で俺を捉えると少し嬉しそうに笑う。
「どうしたんですか、アニキもトイレ?……というかそのほっぺはどうしたんですか?」
「も」ってことはジルはトイレに起きたらしい。
ジルに指摘されたヴェルネたちに吸われた頬を隠して誤魔化そうとする。
「いや、さっきまで少し出かけててな。今酔っ払いの世話もして部屋に戻ろうと思ってたんだ」
「そうだったんですね。それじゃあ俺も寝ます、お休みなさいアニキ……」
頬の話題などなかったかのように忘れてフラフラとしながら俺の横を通り過ぎて自室に戻ろうとするジル。そのまま見送ろうとしたところが、ふと思い出したことがあって声をかける。
「ジル、よかったら一緒に寝るか?」
「…………え?」
寝惚けた頭で俺の言葉を理解するのに時間が掛かったらしく、止まってから長い沈黙の後に聞き返してきた。
「ほら、アマゾネスたちと一緒にゴブリンと戦わせたろ?頑張ってたみたいだし、ちょっとした願い事の一つくらいは……って思ってな」
ジルはさっきまでの眠そうな目を見開いて俺を凝視している。そこまで驚くことか?
するとすぐに頷いて答えると思っていたジルはモジモジしながら何かを言いたそうにしていた。
「俺はほとんど何もしてなかったですよ……?頑張ってたって言ってもゴブリンを十匹なんとか倒したくらいで、他はアマゾネスの人たちが全部倒しちゃってましたし……」
自信無さげに答えるジル。
「それでも倒してたことには変わりないし、頑張ってくれたんだ。いくらなんでも『ルルアと同じくらいのことをしろ』なんて言わないよ」
災害級のような普通は倒せないとされている奴らを倒したら、なんて言ってできるのは今のところ俺とルルアくらいだ。
他の奴らは「各個で撃破なんてありえない。撃退するだけでもやっとなんだから」と言う。それが当たり前なのだと。
それだけに撃退した時に落ちた皮や鱗が貴重なのだと聞いたが……まぁ、それは今はいいだろう。
つまりそんなレベルをジルに強要するわけにはいかないということだ。「今はまだ」という言葉が付くけれど。
「で、どうする?一応『お願い事』だから何も一緒に寝るだけが選択肢じゃないから『武器が欲しい』とか『力が欲しい』とか『世界が欲しい』でもいいぞ」
「えぇ……」
俺が適当に言った冗談にジルは困惑するのだった。
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