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もうこれ普通のスマホじゃないよ

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☆★☆★☆★
~ヴェルネ視点~

「吹き飛べっ!《ブラックバレット》!!」

 レトナ様が黒い魔法の弾を前方に放ち、複数いる狼型の魔物を一掃して近付いてきた奴を手に持ったハンマーで殴り飛ばしたり叩き潰していた。

「流石ですね、レトナ様。前より魔法の威力と精度が上がっているんじゃないですか?」

「だろ?俺だって全く勉強してないわけじゃないんだぜ!」

 そう言って得意気に胸を張り、低い身長にも関わらずあたしよりもある二つの脂肪が大きく縦に揺れる。
 それは暗にあまり勉強してないとも取れるのでは、という思いと年下に女性として負けた気がしてならない感情だったりと色々考えてしまいそうになるけど、それらは敢えて口に出さない。
 彼女はただ魔王様の娘だからというだけでなく、昔からあたしを姉のように慕ってくれていた。
 ガサツではあるけど、だからこそ愛嬌があって本当の妹のように思っている。
 でもそれはそれとして。
 なぜそんなにも早い年齢から胸がそこまで育ってしまったのかと羨ましさを向けざるを得ない。

「でも、ヴェルネ姉ちゃんほどじゃないんだよなぁ……無詠唱で強い魔法を平然と撃っちゃうし」

 レトナ様があたしの周りで氷漬けになっている魔物を見て残念がるように苦笑いしながら肩を落とす。

「それもそうですよ。伊達に魔王様の右腕なんて呼ばれてませんから」

 そう言ってあたしも苦笑で返す。
 そう、これでもあたしは魔族の中でも結構強くて、戦闘では魔王ダイス様の次に強いと言われている。
 だからこそ一部の地域の領主を任されているんだけど。
 だけど……あの人間のせいであたしの力が霞んでしまっている気がして、最近では自信が無くなってしまっている始末。
 肉体的にも異常だったカズという人間。それが最近になって魔法まで使えるようになったと言うではないか。
 というか使い方が色々おかしいのよ。既存の魔法とちょっと違うし、魔法を使って家事をする手を増やすとか、もう意味がわからない。
 魔法を一つ使うにも魔法術式を理解して覚えないといけないのに、存在していない魔法を創造とかどれだけの労力と時間を必要としてると思ってるのかしらね?
 それを当たり前のようにアレンジを加えたり新しい魔法を使ったり……
 そもそも魔力がゼロなのにどうやって魔法を使ってるのか全く理解できない!
 もう存在自体が異常!規格外なのよ!

「……どした、ヴェルネ姉ちゃん?」

 レトナ様に呼びかけられてハッとする。
 いつの間にか自分で氷漬けにした魔物を無意識に蹴っていた。それだけストレスが溜まってたのかしら……
 はぁ……考えてもしょうがないってわかってるけど、やっぱり妬ましいものは妬ましいのよね……

「なんでもないです。それより魔物はもういないようだから先に進んで――」

 ――ピピッ

「……え?」

「え?」

 突然何かの音が鳴り、その音に驚くとレトナ様もあたしの方を見る。

 ――ピピッピピッ

「どうしたんだ?」

 ――ピピッピピッピピッ

「え……え……?レトナ様は……聞こえないんですか?この音……」

「音?んー……何も聞こえないけど?どっかで鳴ってるのか?」

 ――ピピッピピッピピッピピッ

 妙な音が鳴り続ける。
 空耳とかでもなく遠くで何となく鳴ってるでもない。
 あたしの……あたしのすぐ右耳近くで鳴ってる……!?
 振り向いてもそこに何も無い。
 しかもいくら辺りを見渡しても右耳から変わらない。まるで耳そのものに何かが張り付いているよう……

「ああもう、何なのよこの鬱陶しい音!」

 思わず大声を出して右耳を触る。そのせいでレトナ様を驚かせてしまったけれど……

 ――ピッ

 するとさっきとは違う音が鳴り、今まで鳴っていた鬱陶しいほどの音がパタリと消えてしまった。

「……あれ、音が消えた――」

【おっ、繋がったか?】

 ……ん?
 なんだろう、今聞き覚えのある声が右耳の近くで聞こえてきたんだけど。

【おーい、もしもしヴェルネ?聞こえてるか?カズさんだよー】

 間違いない、あいつの……カズの声だ。
 バッと周囲を何度も確認する。首を傾げているレトナ様以外の姿はない。でも右耳の近くで「もしもし?もしもーし?もしもしもしも?」と何度も呼びかけてくる声が聞こえてくる。

「は……はぁぁぁぁぁっ!?!?」

 再び大声を上げてしまいレトナ様を驚かせてしまう。

☆★☆★☆★

 スマホの電話帳に載っていたヴェルネの名前を押すと、プルルルルと電話がかかる音が鳴った。

「おー……鳴るってことは本当に繋がったってことかよ……」

「カズ?それは一体……」

 俺のスマホが気になったライネルが話しかけてくるが、俺は人差し指を口に当てて「静かに」とジェスチャーする。
 何度か呼び出した後「ガチャ」と音が鳴る。

【……あれ、音が消えた――】

「おっ、繋がったか?」

 向こうから聞こえるヴェルネの声と俺の声が重なる。
 どうやらちゃんと繋がったらしい。

「おーい、もしもしヴェルネ?聞こえてるか?カズさんだよー」

 そう言って呼びかけてみるが応答が無い。あれ、電波が悪いのか?いや、そもそもここ圏外になってて電波なんて元からないんですけど。

「もしもし?もしもーし?もしもしもしも?も――」

【は……はぁぁぁぁぁっ!?!?】

 ふざけて何度も呼びかけてみると、スマホの向こうから叫びのような大声が聞こえてきた。
 どうやらかなり驚いているようだが……そういや向こうってどんな状況になってるんだろ?

【え、ちょっ、は……あんたカズなの?】

 信じられないと言いたげな焦り声だ。

「ああ、カズだ。ちゃんと繋がったみたいだな」

【これっ、これどういうことよ!なんで何も無い右の耳からあんたの声が聞こえてくるの?まさかあたしの近くにいて遊んでるんじゃないでしょうね!?】

 もはや怒り状態じゃないかってぐらいにグイグイ質問してくるヴェルネ。なるほど、何も無い状態で俺の声だけが聞こえてくるらしい。

「違う違う、スマホの機能だよ。さっきアップデートしてこうやって電話できるようになったんだが、そこにヴェルネの名前があったから試してみたんだ。まさか電波どころかスマホを持ってない相手に電話できるなんて俺も驚いたよ」

【ホント……――】

 電話の向こうから「スゥー」と息を吸う音が聞こえてきたのでスマホから耳を離す。

【だから一体なんなのよ、そのスマホってやつはッッッ!!!!】

 スピーカーモードにもしてないのに周囲に聞こえてしまうほどの大声で怒鳴るヴェルネ。
 それを聞いた奴らがなんだなんだと様子を窺ってくる。

「これぞ便利な魔法道具ってな。それよりもどうせこうやって話せるから近況報告だけでもしとくぞ」

 向こうも混乱してるだろうけど、伝えられることをさっさと伝えておく。

「こっちは今アラクネのいた大部屋で十人弱を救出、道中で助けた奴も二十人くらいをそっちに向かわせたからよろしくな」

【よろしくって……っていうか大部屋のアラクネ?それってあんたにとって超ラッキー部屋じゃない】

 早くも順応したらしく、落ち着いた声でそう言うヴェルネ。

「俺にとって超ラッキー部屋ってなんだ?」

【そこは一種のボス部屋とも呼ばれてて、そこの魔物を倒すことができれば報酬が必ず出てくるのよ。部屋の奥とかにあるんじゃない?】

 そう言われて出入り口がある方とは逆を見ると、たしかに三つの箱がいつの間にか現れていた。

【普通、そこの魔物は通常の個体より厄介で強い奴が多いし、実際アラクネなんて魔法がロクに効かないから戦いたくないような相手なんだけど、あんたのさっきの言い方ならもうちゃっちゃと倒しちゃったんでしょ?苦労もなく報酬を貰える、だからあんたにとって超ラッキー部屋なのよ】

「なるへそ。箱が三つあるのは大部屋だからか?」

【いいえ、箱の数はその部屋で一緒に戦ったパーティ内の人数分が出てくるって言われてるわ】

 一緒に戦ったパーティ内の人数……つまりジルとライネルの二人も含まれてるってわけか。
 そんでアラクネに捕まった奴らはカウントしないと。それなら辻褄が合うな。

【ともかく帰って来れるなら早く帰って来なさいよね。よく考えたらあたしもレトナ様も近接戦は得意じゃないから面倒な奴が出てきたら嫌だし……あっ、でも先に魔王様の方も行ってよ?あの方は強いけどあまり一人にさせたくないの】

「一人にさせるとなんかあるのか?」

【何かある、というより……あの方って極度の――】

 もう少し長話になるかと適当な壁に寄りかかる。
 するとヴェルネがそこまで言ったところで俺の顔のすぐ横壁が爆発した。
 何事かと顔を向けると、そこには骸骨の顔がぬっと現れる。
 突然の出来事に周囲の奴らが敵かと思って騒然とし、武器まで構える奴まで出てきた。しかしコイツは……

【――方向音痴だから……って、なんか変な音しなかった?】

「……あっ、カズくん」

「…………」

 その骸骨の正体はどうやら別の道を行ったはずのダイスだった。

「……ああ、うん。もう合流したからその心配は無さそうだわ」

【え、なんでもうそこで合流……?まぁいいわ。じゃあ、あとはよろしくね。って、コレどうやって切るの?】

 ヴェルネがそう言うので俺の方で切るボタンを押す。
 画面が切り替わったのを確認して壁から顔だけ出しているダイスの方を向く。

「カズくん、少しお願いがあるんだけど……そっちから壁を壊すの手伝ってくれない?」

「……どうしてそうなった?」
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