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いざダンジョンへ

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☆★☆★☆★
~カズ視点~

 俺たちはヴェルネとダイス、そしてレトナの4人でダンジョンの入口へと来ていた。
 アスタの森と言われたところで発生したダンジョンの入り口と同じように大きな穴があり、下へ続いている階段がある。
 その周囲には店を開き、物を売る出店を開いている者が多くいた。

「ダンジョンが冒険者にとって稼ぎになるように、その冒険者たちを客にしようとする商人はいくらでもいる。もちろん全員が地主である私の許可を取っている」

「こういう祭りみたいな雰囲気は俺も好きだしな、毎日が祭りみたいで楽しいゼ♪」

 ダイスがそう話し、レトナがウキウキした様子で周囲を見渡す。
 その周囲からは「ども魔王様!」「今日は親子で来たんですか?」「一本おまけしますよ!」と魔族の人々が親しく話しかけてくる。
 それだけでこのダイスという魔王が魔族たちから好かれているというのがよくわかる。
 ちなみにレトナがどこから聞いたのか、勉強を抜け出して「俺もダンジョン行きたい!」と言い出してついて来て、娘を心配したダイスもついて来たのだ。
 そんな全員で階段を降りていく。

「魔王様は仕事とかしなくていいのか?」

「よくない。さっき机の上を見てもらえばわかる、仕事いっぱいある。でも娘を放っておけない」

 ダイスが若急に干カタコトになりながら気を落として答え、そんな姿を見てレトナが「親父が壊れた!」と指差して笑う。

「そ、そうか……ところでこの階段って結構長いのな。どんだけ続くんだ?」

 こうやって会話をしながらかれこれ10分ほど階段を降りていた。
 にも関わらず未だにその先が暗く見えずにいる。街灯のない夜でもここまで見えないのは中々ない。

「もうそろそろだ」

 ダイスがそれだけ言うと、前方にバチバチと青い電流がほとばしる。
 爆発でも起きるのかと身構えたが、それは爆発などせず、代わりに丸い形となって宙に固定された。

「これはゲートと言って迷宮に繋がる扉となり、ここからが本当のダンジョンになる」

「ゲート……ってことはこれをくぐれってことか」

 誰に言われるでもなく進んでゲートに手を伸ばす。
 触ると軽くビリビリと微量な電気が手に伝わり、その向こうに確かな空間があるのを感じた。
 そのまま進んで潜ると正面のみの一本道に出た。

「これがダンジョン……というかトンネル?」

 洞窟のようなトンネルのような……その二つを足して二で割ったような感じ。
 中には他の冒険者らしき魔族の姿もチラホラと見え、しゃがんで会話しながら休憩してる奴や意気揚々とこれから奥へ進もうとする奴がいる。
 なんだかこれだけ見ると外の景色とあまり変わりない気がする。
 だが中には魔族じゃない奴も紛れていたりする。
 そういえば人間とはいがみ合ってると聞いていたが、他の種族と衝突してるという話は聞かないな。
 人間だけが排他的なのか……しかしそれにしても街灯などの灯りもないのにずいぶんと明るく感じるのはダンジョンの不思議な力的なのが働いてるのか?

「今回はこういう形か」

 ヴェルネたちが後から入ってきて辺りを見渡しながらダイスが呟く。

「知ってる形なのか?」

「知っている、というよりは似通ったものがいくつか報告されてる。森、山、砂漠、町、水中……入るまで中がどんな状況なのかわからない。もしかしたら入った瞬間にマグマへ落とされて死ぬなんてこともありえる」

 それは嫌だな……問答無用のマグマ落下とか探索どころじゃないじゃねえか。

「とはいえ、ゲートの先がそのような危険地帯であればゲート自体が赤色になって知らせてくれるから大丈夫だとは思うが……ダンジョンはまだまだ未開の地。どの種族も踏破を目指して腕自慢が挑むんだ」

「一つも踏破されてないのか?」

「報告はないな。そもそも浅いところでも十分な稼ぎになる上に深いところに潜って戦利品を手に入れることができれば大体の者が満足して帰って来る。無理にリスクを犯す必要がないからな」

 異世界出身の奴らでもまだ踏破できないほど広大な迷路ってことなのか……
 踏破されてないと聞いて少しやる気が出そうになる。「どこまで行けるか俺が試してみたい」と。

「……ちょっとワクワクしてるわね、あんた?」

 後ろにいたヴェルネが俺を見て指摘する。おっとバレた。

「まぁな。これでも健全な男の子なもんで」

「『健全な』男、ねぇ……?」

 何やら含みのある言い方をしてジト目で俺を見るヴェルネ。

「……何か言いたいことでも?」

「別に?あたしの知ってる健全な男ってエッチなことばっか考えてるってイメージだから、女の子が胸を触らせたり薄着でベッドの横で寝てても平然としてるあんたには似合わないって思っただけ」

「何、コイツもう女と寝てたのか!誰と寝たんだ!?」

 溜め息を吐いて呆れ気味に言ったヴェルネの言葉にレトナが過剰に反応する。やはりサキュバス的にそういうのが気になるのか?

「そんなことないぞ、男だって色んな奴がいる。あとレトナ、下世話な話に花を咲かせる気はないからな?」

「ブー、それくらい教えてくれてもいいじゃん……っと」

 するとレトナの近くに黒い壁のようなものが現れ、レトナがそこに腕を入れて身の丈以上ある大きなハンマーを取り出した。

「ん……?なんだそれ?」

「これ?俺の武器だよ」

「違う、そっちじゃない。カッコイイけどもそっちじゃなくて、そのハンマーを取り出した黒いやつのこと」

 レトナが首を傾げて横を向き、黒い壁を見る。

「これは闇属性の収納魔法だぞ?闇に一定以上の素質を持ってて使えるなら一般的にもみんな使ってる基本的なやつ」

 え、俺それ知らない。めっちゃ便利そうだから知りたいんですけど。
 俺が教えてオーラを出して彼女を見つめると、レトナは気まずそうにして目を逸らす。

「あー……俺ってそういう理屈的なのぶっ飛ばして使ってるから説明とかできないんだよな……」

「レトナはいつも感覚的に魔法を無詠唱で使うからな……勉強したところは覚えないのに」

「マジでか……」

 ダイスが付け加えて言うとレトナが照れ臭そうに「へへへー」と笑い、「褒めてないぞ」と彼に咎められる。
 そういえばさっきもその魔法を使う時に詠唱みたいなのを言わずにやってたな……そういう意味じゃレトナも天才ってことになるのか。

「ま、仕方ないわよ。闇と光ってイメージし難いし」

 ヴェルネもフォローするようにそう言う。
 たしかに火や水と違って光や闇は視覚で形を捉えることができない。
 だからイメージしろなんて言われても難しいのだが……

「さっきのレトナのとその先に『箱』をイメージ……」

 ――ブゥン

「……えっ」

 俺の横に現れた丸く黒いナニカを見たレトナから声が漏れる。な

「何したの?」

「既存のイメージが難しいなら別のイメージを掛け合わせて作ってみた。さっきのレトナがやった黒い壁に箱の入り口を合わせたイメージ……あとはこれで機能するか試すだけだ」

 レトナの問いに答えながら辺りを見渡して適当な石を見繕い、その黒い場所に放り投げた。
 するとその石は貫通することなく跡形もなく消えてしまう。
 んー……石だと消滅したかもわからないから何か長い物の方がよかったか?
 今一度周囲を見て細い木の枝を見つけて黒い場所に入れてみる。
 ……なんでこんな石と岩しかなさそうなとこに木の枝なんか落ちてるんだ?
 そんな疑問は長く持たず、黒い場所から離した木の枝は何の変化もなくそのままの形を保っていた。
 それを確認してから腕を突っ込んで、さっき放り込んだ石を取り出す。

「ふむ、ということで成功したな」

「「「マジか」」」

 ヴェルネ、ダイス、レトナの三人が口を揃えて言った。

「普通、初めて魔法を使う時って魔導杖の補助とか詠唱して発動できるんだけど。一度見たからって真似るなんて……やっぱあんたはおかしいわ」

 「やっぱり」と言う辺り、常々そう思ってるんだなと感じた……
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