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一騎当千ならぬ二騎当千

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「……ちょっと早過ぎたか」

 俺とルルアは黒い穴がある場所にたどり着いたが、魔物が溢れ返っているとかそんなことはなかった。
 ついでにその穴を調べることにする。、
 黒い穴はラグの言った通りそれは落ちるような穴ではなく、丸く黒い模様が地面に広がってるだけのようで、直接触れられた。
 その触感はなんとも不思議で、ツルツルの絨毯じゅうたんのような、プラスチックのような、そんな感触。

「うーん……壊れそうで壊れなさそうな素材でできてるのか?試しに叩いてみるか?」

 素早く殴ってみた。
 ドンッと地面を揺らすくらいの打撃を与えてみたが黒い地面に変化はない。
 それに不思議な感じもした。
 殴れば大抵少なからず衝撃が返ってくるはずなのだが、それを感じなかった。
 手応えがなかったと言うのが正しいのか……触る感触はあるのに殴った手応えがないとは変な感じだ。
 そんなことをしているとついに黒い地面から魔物が這い上がってくる。
 さっき遭遇した緑色の肌をしたゴブリン、そしてソイツ以外にも緑色の巨体をしたイノシシ顔の奴、同じく巨体の豚顔。
 複数種類の魔物が出てきた。

「おーおー、湧き水並に出てくるな。まぁ、これくらい次々と出てきてくれるんならすぐ終わるかもな」

「ねーねー、もうやっていい?」

 ソワソワして待ち遠しそうにしていたルルアが聞いてくる。

「ああ、いいぞ」

「キュッとするのは?」

「ん~……許可!」

 少し溜めた後に許可すると「やったー!」と言って意気揚々と突っ込んでいってしまう。
 ルルアは真っ先に豚顔をした巨体の奴の前に行き、その腹を殴りつける。
 強い力で殴られた豚顔は後方へ吹き飛び、後ろにいたゴブリンを巻き込んでしまう。
 その後何匹かがルルアに向かって襲いかかるが、彼女は手を広げて長い爪を横に振るう。
 ただそれだけだったが、距離があったにも関わらずルルアが手を振り払った先にいたゴブリンたちは切り裂かれて血を撒き散らした。
 そのルルアは次に緑色の肌をした巨体の魔物にターゲットを定め、手の平を向けて握り潰す挙動をする。
 次の瞬間にはその魔物は吐血してそのまま地面に倒れてしまった。
 多分「キュッ」という技なのだろうがさっきのように外傷はなく、恐らく内蔵が潰されている。
 んー、なんだろうな。認識したものを何かを壊す技か?
 いずれにしてもあんな初見殺しみたいな技、誰もが食らったらひとたまりもないだろうな。
 正にチートって奴だ。
 実力で彼女に勝てる奴はあまりいないんじゃないか?
 それが固有技だというのなら同じ吸血鬼でも……

「……にしても数が多い。ルルアが負ける可能性は低いだろうけど、このままだと漏れるな」

 いくらルルアが強くても全てを処理しきれないほどの数が出てきている。
 まぁ、彼女一人に任せていればの話だけども。

「ふんぬ!」

 変な気合の入れ方をして力を入れた腕で豚顔の巨体を殴る。
 豚顔の上半身を吹き飛ばし、その方向にいた細かいゴブリンたちが吹き飛ぶ。

「アハハハハハッ、どっちが多く倒せるか勝負しましょカズ兄様!」

 また若干暴走気味な状態になっているルルアが楽しそうにそう言い始める。

「いいだろう。それじゃ、俺よりも倒せたら願い事を一つ叶えてやるよ」

「本当?本当の本当!? じゃあ凄い頑張っちゃうんだから!」

 するとルルアの動きがさらに速くなり、次々と倒していく。
 あっ、この速さなら漏れる心配ないな。
 モンパレが始まって五分が経った辺りだろうか、すでに俺とルルアが倒した魔物の数は五百を超えていた。
 しかし溢れる数が衰える様子がないのだが……まだ出てくるのか?
 兆候で出会う魔物の数倍って聞いたが、明らかに数が多い。
 ふぅむ、もういっそ百体くらい出てきてくれないかな?
 出てくる数が多いのに出てくるのが十体二十体とちまちま倒してたら面倒なんだが……
 そんな時、魔物とは別の気配を複数感じた。

「おい!大丈夫……か……?」

 現れたのはラグと他の冒険者だった。
 よく見るとその数人は最初にラグと一緒に絡んできた奴らだ。
 その全員が俺たちの様子を見て唖然とした顔をしていた。

「ああ、問題ないぞー。いや、問題はあるかもしれないが倒す分には問題ない、ぞっと!」

 そう言いながら前方を蹴り上げてその方向にいたゴブリンや豚顔の魔物たちを吹き飛ばす。
 勢いが凄かったためか風圧がそちらまでいってしまい、ラグと一緒にいた女メンバーが悲鳴を上げながら頭を抱えてしゃがんでしまう。
 「あ、わり」と軽く謝りながら駆除、もとい戦闘を続ける。

「もしかしてずっとそうやって倒してるのか?」

「おう、今のところ一匹もここから逃がしてない」

 ラグの問いに答えると彼と一緒に来た奴らが「スゲー……」と呆気に取られていた。
 するとしばらく経ったところでピタリと魔物が溢れなくなる。

「ん、もう終わったのか?」

「もうって……お前らどんだけの数と戦ったかわかってるのか?」

 ラグが地面に落ちている玉を見ながら眉をひそめて聞いてくる。
 それこそゴミのようにそこら中に落ちていた。

「さぁな……千近くは相手にしたんじゃないか?」

「オークとオーガが混ざった軍勢を相手に軽く言うよな……ま、クレイジースコーピオンを倒したってんならこれくらいなんてことないってか?まさか本当だとは思わなかったが」

 呆れたように笑ってそう言うラグ。
 奴の仲間も「アレってマジだったのかよ……」と苦笑いしている。

「数でどうにかなるほどヤワじゃないよ」

「カズだけに?」

「……寒いこと言ってると本当に埋めるぞ?」

 流石にイラッときたので笑顔になりつつ額に血管を浮かべて言ってやる。半分冗談だが。
 そんな冗談を言ってると周りの空気が重くなる。

「なんだっ!?」

「…………」

 ラグたちもその異様な気配を感じ取ったらしく、武器を握り締めて体を強張らせる。
 そして次の瞬間、黒い地面から巨大な腕が出現し、その手が地面に着くと同時にズンッ!と地震のような振動が響く。

「あれは……!」

 驚愕するラグたちの前にさっきのオーガやらオークと呼ばれた巨体よりも巨大な何かの上半身が姿を現す。
 その姿はオーガとオークを足したような外見である。

『オオォォォォォ……』

「……森の王バークオーグ」

 空気を振動させるほどのソイツの声の中、ラグの仲間の一人がそう呟いた。
 あー、大きなサソリの次は超大型巨人かよ。ここには壊す壁はねぇぞ……
 あっ、そういえば何体倒したか数えるの忘れてた。
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