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家族の在り方
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☆★☆★☆★
~ヴェルネ視点~
「はぁ、なんであたしが……」
「~♪」
あのカズとかいう人間に頼まれて、現在脱衣所で嬉しそうに鼻歌を歌って服を脱いでいるこの吸血鬼の少女をお風呂に入れることになった。
なんであたしが……とは思うけど、見た目が幼いとはいえ男のアイツに任せるわけにもいかないし、マヤルに任せるのも不安。
仕方ないから請け負ってやった。
まぁ?美味しい料理を食べさせて貰ったし?お礼って意味も含めていいんですけど?
……でも本当はちゃんとお礼の言葉を言いたかった。
料理を作ってくれて。
庭を綺麗にしてくれて。
あたしを……助けてくれて。
アイツと出会ってすぐに遭遇したクレイジースコーピオン、本当だったらあたしがあのまま逃げたところで追い付かれて食われてしまっていた。
それをアイツは簡単に倒してしまい、結果的に助けてもらったこととなる。
しかし相手が人間だということであたしは感謝どころか悪態をついてしまって突き放そうとした。
せめてもの感謝として町に連れて来てうちに泊めて上げたりしたけど、やっぱり直接伝えた方がいいのかと悩んでしまう。
「どうしたの、ヴェルネ姉様?お風呂入らないの?」
「あ、うん。入るわ……」
考え事をしていたあたしの顔をすでに服を脱いでいたルルアが見上げて覗き込んできたので答える。
あたしも服を脱ぎ、浴場に入ってルルアを椅子に座らせる。
「じゃあ、大人しくしてなさいよ。目の中に入っても知らないから」
「はーい!」
元気良く答えてソワソワしながらも言われた通りに大人しく座るルルアの頭に「魔道具」で暖かいお湯を出してかける。
アイツにはまだ言ってないけど、この世界には普通の道具と違って魔力で使うことのできる魔道具というものがある。
魔力を使うと言ってもこういうお湯を出すだけなら些細な量だから気にする必要は無いけど、アイツは魔力が使えないからこの魔道具を使えないのよね……
そういえば昨日はアイツ風呂に入ってなかったみたいだけど、入るとなるとどうするのかしら?ジークに出してもらって洗うのかしら?
……どうしよう、想像したらちょっと気持ち悪いわ。
それはそれとして、ルルアの濡れた頭に汚れを落とす石鹸を使って泡立て、再びお湯を出して洗い流す。
……そういえば吸血鬼って流水がダメとか言われてなかったっけ?でもルルアが大丈夫なら迷信だったのかしら……?
と、そう思いつつもそれ以上のことはあまり考えないようにして同じように体を洗ってやり、自分の分も終わらせて彼女と一緒に湯船に浸かる。
「あったか~い♪」
「そうねぇ……外で水浴びなんかより何万倍もマシだわぁ~……」
元々浅い湯船に寝るように浸かり、今までの疲れが取れていく気がする。
ちょっとした用事があって町の外に出てたけど、その途中の良い感じの湖で水浴びをしてたのよね。
目的地も近いし往復歩きでいいかと高を括ってたけど、帰り際に臭いが気になっちゃったわけで……そしたらそこに突然気配もなくカズが突然現れた。
あの時は咄嗟のことで忘れてたけど、アイツはあの時自宅にいるかのように寝て寛いでいた。
そう、まるで寛いでいたところをそのまま移動させられたみたいに。
カズの言ってることが本当だったら相当不運よね。
いきなり知らない土地に知識も資金も無い状態で飛ばされて……いや、お金に関してはすぐ稼げるから心配ないかもだけど。羨ましいくらい。
それに家族と別れてもあんまり気にしてないみたいだし。図太いというかなんというか……
「……家族、か……」
カズのことを考えているうちに自分の親を思い出しそうになってしまった。
それを頭から振り払うために頭を横に振ってお湯を顔にかける。
「……ヴェルネ姉様」
「何?」
「家族って……何かな?」
せっかく人が忘れようとしてるのに、ルルアがそんなことを聞いてくる。
だけどさっきまで無邪気に笑ってた子供とは思えないくらい神妙な顔をしていた。
「ルルアね、お兄様とかお母様とかお父様に褒めてもらいたくてずっと頑張ってたんだ。やれって言われたらやったし、邪魔だって言われたらちゃんと邪魔にならないところにいたし、みんなの絵だって頑張ってお絵描きしたんだ。でも誰も褒めてくれなかったんだ……なのにカズ兄様はルルアが何がする度に頭を撫でて褒めてくれるの!すっごい暖かいの!……ねぇ、家族ってなんなのかな……?」
……吸血鬼は他の種族と比べて長命だと聞いたことがある。見た目や性格は多少幼いところがあろうとも、物事をしっかり考えられる程度の年齢は生きているのかもしれない。
家族とは、か……
「さぁね、あたしにもわからないわ。親なんてとっくの昔にいないから。兄弟姉妹もいないしね」
「えっ……ごめん、なさい……」
悪いことをした子供のように肩を落として落ち込んでしまうルルア。
カズがいきなり奴隷を買って来たなんて言うから「なんで?」と思ったけれど、気遣いのできる良い子じゃない。
「気にしなくてもいいわよ。というか子供が変な気遣いするんじゃないの」
そう言ってルルアの頭をワシャワシャしてやる。
あたしの親は人間に殺された。でもだからってカズを憎んでいるわけじゃない。
少し抵抗はあるけれど、だからってアイツを恨んだところでどうにかなるわけじゃないってのはわかってるから。
それにもしかしたら……ここに攻めてくる人間がいて、魔族を目の敵にしないアイツがもしその場に居たらあたしたちの味方をしてくれるかも、って思ってしまったりする。
同じ人間同士でそんなことするわけないのにね。
「ほら、そろそろ上がるわよ」
「うん!」
返事をしたルルアにはさっきまでの暗い雰囲気はなく、明るく返してきた。
そんな彼女と浴場から出ようとした時、そこの戸がガラガラと開く。
「ヴェルネ様!なんであっちを呼んでくれなかったんですか!?」
マヤルが半泣きで入って来た。
うわっ、面倒臭いのに嗅ぎ付けられたか……
「そんな可愛い子とお風呂なんてズルい!」
「知らないわよ。そんなにお風呂に入りたいなら1人で入りなさい」
「それじゃあ意味が――うわっ!?」
あたしはルルアを連れて強引に話を終わらせて逃げようとマヤルの横を通り過ぎると、後ろで彼女の悲鳴が聞こえてきた。
チラッと横目で見るとマヤルはあられもない姿で転んでいたが、それも無視して戸を閉めて脱衣所に入った。
着替えも終えて風と火の魔法を合わせた温風で自分とルルアの髪を乾かす。
「……綺麗な髪ね」
「うふふ、ヴェルネ姉様も褒めてくれるの?」
嬉しそうに言うルルア。
そんな彼女の金色の髪はフワフワで指の通しも良く枝毛もない。しばらく手入れもできないような環境にいたというのにこの状態が保てるというのは羨ましく思える。
……羨ましく思ってばかりね、あたしって。こんなに嫉妬深かったかしら?なんて。
「さっきの話だけどね」
「ん?」
「家族。少なくとも自分を売るような奴らを家族とは呼ばないわ。血の繋がりはあってもね。だからもし家族が欲しいなら自分で作りなさい」
「作るってどうやって?」
「あなたが『この人と家族だったらいいな』って人を見付けるの。それでずっと一緒に居られるんだったらそれが家族になる……と思うわ」
そう言うに値する根拠となるのはマヤルとジークだった。
マヤルたちとはそれなりに長年一緒に居て、あたしが産まれた頃からいた彼らのことを家族だと思ってる。
……じゃなかったら暗殺くらいしか脳の無い奴らなんて雇ってないし。
「わかるようでわからないようで……」
頭に疑問符を浮かべて首を傾げるルルアに苦笑する。
「……そのうちわかるようになるわよ」
偉そうに言っといてなんだけど、少女に難しいことを理解させるような語彙を持ち合わせてないだけなのでそう言って逃げた。
~ヴェルネ視点~
「はぁ、なんであたしが……」
「~♪」
あのカズとかいう人間に頼まれて、現在脱衣所で嬉しそうに鼻歌を歌って服を脱いでいるこの吸血鬼の少女をお風呂に入れることになった。
なんであたしが……とは思うけど、見た目が幼いとはいえ男のアイツに任せるわけにもいかないし、マヤルに任せるのも不安。
仕方ないから請け負ってやった。
まぁ?美味しい料理を食べさせて貰ったし?お礼って意味も含めていいんですけど?
……でも本当はちゃんとお礼の言葉を言いたかった。
料理を作ってくれて。
庭を綺麗にしてくれて。
あたしを……助けてくれて。
アイツと出会ってすぐに遭遇したクレイジースコーピオン、本当だったらあたしがあのまま逃げたところで追い付かれて食われてしまっていた。
それをアイツは簡単に倒してしまい、結果的に助けてもらったこととなる。
しかし相手が人間だということであたしは感謝どころか悪態をついてしまって突き放そうとした。
せめてもの感謝として町に連れて来てうちに泊めて上げたりしたけど、やっぱり直接伝えた方がいいのかと悩んでしまう。
「どうしたの、ヴェルネ姉様?お風呂入らないの?」
「あ、うん。入るわ……」
考え事をしていたあたしの顔をすでに服を脱いでいたルルアが見上げて覗き込んできたので答える。
あたしも服を脱ぎ、浴場に入ってルルアを椅子に座らせる。
「じゃあ、大人しくしてなさいよ。目の中に入っても知らないから」
「はーい!」
元気良く答えてソワソワしながらも言われた通りに大人しく座るルルアの頭に「魔道具」で暖かいお湯を出してかける。
アイツにはまだ言ってないけど、この世界には普通の道具と違って魔力で使うことのできる魔道具というものがある。
魔力を使うと言ってもこういうお湯を出すだけなら些細な量だから気にする必要は無いけど、アイツは魔力が使えないからこの魔道具を使えないのよね……
そういえば昨日はアイツ風呂に入ってなかったみたいだけど、入るとなるとどうするのかしら?ジークに出してもらって洗うのかしら?
……どうしよう、想像したらちょっと気持ち悪いわ。
それはそれとして、ルルアの濡れた頭に汚れを落とす石鹸を使って泡立て、再びお湯を出して洗い流す。
……そういえば吸血鬼って流水がダメとか言われてなかったっけ?でもルルアが大丈夫なら迷信だったのかしら……?
と、そう思いつつもそれ以上のことはあまり考えないようにして同じように体を洗ってやり、自分の分も終わらせて彼女と一緒に湯船に浸かる。
「あったか~い♪」
「そうねぇ……外で水浴びなんかより何万倍もマシだわぁ~……」
元々浅い湯船に寝るように浸かり、今までの疲れが取れていく気がする。
ちょっとした用事があって町の外に出てたけど、その途中の良い感じの湖で水浴びをしてたのよね。
目的地も近いし往復歩きでいいかと高を括ってたけど、帰り際に臭いが気になっちゃったわけで……そしたらそこに突然気配もなくカズが突然現れた。
あの時は咄嗟のことで忘れてたけど、アイツはあの時自宅にいるかのように寝て寛いでいた。
そう、まるで寛いでいたところをそのまま移動させられたみたいに。
カズの言ってることが本当だったら相当不運よね。
いきなり知らない土地に知識も資金も無い状態で飛ばされて……いや、お金に関してはすぐ稼げるから心配ないかもだけど。羨ましいくらい。
それに家族と別れてもあんまり気にしてないみたいだし。図太いというかなんというか……
「……家族、か……」
カズのことを考えているうちに自分の親を思い出しそうになってしまった。
それを頭から振り払うために頭を横に振ってお湯を顔にかける。
「……ヴェルネ姉様」
「何?」
「家族って……何かな?」
せっかく人が忘れようとしてるのに、ルルアがそんなことを聞いてくる。
だけどさっきまで無邪気に笑ってた子供とは思えないくらい神妙な顔をしていた。
「ルルアね、お兄様とかお母様とかお父様に褒めてもらいたくてずっと頑張ってたんだ。やれって言われたらやったし、邪魔だって言われたらちゃんと邪魔にならないところにいたし、みんなの絵だって頑張ってお絵描きしたんだ。でも誰も褒めてくれなかったんだ……なのにカズ兄様はルルアが何がする度に頭を撫でて褒めてくれるの!すっごい暖かいの!……ねぇ、家族ってなんなのかな……?」
……吸血鬼は他の種族と比べて長命だと聞いたことがある。見た目や性格は多少幼いところがあろうとも、物事をしっかり考えられる程度の年齢は生きているのかもしれない。
家族とは、か……
「さぁね、あたしにもわからないわ。親なんてとっくの昔にいないから。兄弟姉妹もいないしね」
「えっ……ごめん、なさい……」
悪いことをした子供のように肩を落として落ち込んでしまうルルア。
カズがいきなり奴隷を買って来たなんて言うから「なんで?」と思ったけれど、気遣いのできる良い子じゃない。
「気にしなくてもいいわよ。というか子供が変な気遣いするんじゃないの」
そう言ってルルアの頭をワシャワシャしてやる。
あたしの親は人間に殺された。でもだからってカズを憎んでいるわけじゃない。
少し抵抗はあるけれど、だからってアイツを恨んだところでどうにかなるわけじゃないってのはわかってるから。
それにもしかしたら……ここに攻めてくる人間がいて、魔族を目の敵にしないアイツがもしその場に居たらあたしたちの味方をしてくれるかも、って思ってしまったりする。
同じ人間同士でそんなことするわけないのにね。
「ほら、そろそろ上がるわよ」
「うん!」
返事をしたルルアにはさっきまでの暗い雰囲気はなく、明るく返してきた。
そんな彼女と浴場から出ようとした時、そこの戸がガラガラと開く。
「ヴェルネ様!なんであっちを呼んでくれなかったんですか!?」
マヤルが半泣きで入って来た。
うわっ、面倒臭いのに嗅ぎ付けられたか……
「そんな可愛い子とお風呂なんてズルい!」
「知らないわよ。そんなにお風呂に入りたいなら1人で入りなさい」
「それじゃあ意味が――うわっ!?」
あたしはルルアを連れて強引に話を終わらせて逃げようとマヤルの横を通り過ぎると、後ろで彼女の悲鳴が聞こえてきた。
チラッと横目で見るとマヤルはあられもない姿で転んでいたが、それも無視して戸を閉めて脱衣所に入った。
着替えも終えて風と火の魔法を合わせた温風で自分とルルアの髪を乾かす。
「……綺麗な髪ね」
「うふふ、ヴェルネ姉様も褒めてくれるの?」
嬉しそうに言うルルア。
そんな彼女の金色の髪はフワフワで指の通しも良く枝毛もない。しばらく手入れもできないような環境にいたというのにこの状態が保てるというのは羨ましく思える。
……羨ましく思ってばかりね、あたしって。こんなに嫉妬深かったかしら?なんて。
「さっきの話だけどね」
「ん?」
「家族。少なくとも自分を売るような奴らを家族とは呼ばないわ。血の繋がりはあってもね。だからもし家族が欲しいなら自分で作りなさい」
「作るってどうやって?」
「あなたが『この人と家族だったらいいな』って人を見付けるの。それでずっと一緒に居られるんだったらそれが家族になる……と思うわ」
そう言うに値する根拠となるのはマヤルとジークだった。
マヤルたちとはそれなりに長年一緒に居て、あたしが産まれた頃からいた彼らのことを家族だと思ってる。
……じゃなかったら暗殺くらいしか脳の無い奴らなんて雇ってないし。
「わかるようでわからないようで……」
頭に疑問符を浮かべて首を傾げるルルアに苦笑する。
「……そのうちわかるようになるわよ」
偉そうに言っといてなんだけど、少女に難しいことを理解させるような語彙を持ち合わせてないだけなのでそう言って逃げた。
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