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粗相ってなんだろね
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ヴェルネの屋敷に泊めてもらうこととなったその日の夕食時間、ある事件が起きていた。
「……これは……なんだ?」
屋敷らしい広い部屋の大きな食卓。その上に並べられていたのは謎の物体だった。明らかに食い物じゃない。
「あっちの自信作『グロいスープ』!」
マヤルが自信満々に紹介してくれるが、もう色々ツッコミ所満載過ぎて頭が痛い。この頭の痛さって机の上にある物体のせいじゃないよな?
そもそもなんだよ「グロいスープ」って……見た目のまんまじゃねえか。
なんでグロいってわかってて作って人前に出してんだよ。せめて使った素材の名前を入れて安心させろよ……
「……なぁ、コレ何を入れたんだ?」
「ヒヒヒ、それは食べてからのお楽しみですよ!」
食べてからだと手遅れな気がする。俺を毒殺する気なのかな?
少し離れたところに座ってるヴェルネも自分の前に出された何かを見下ろすだけで食べることを躊躇していた。
よかった、これが魔族の中で普通の食事だったらどうしようかと思った。
「ちなみに味見は?」
「してないよ?だって最初にヴェルネ様たちに食べてもらいたかったんだもん!」
一見健気なことを言ってるように見えるマヤル。そうか、味見してないのか……
「ちょっとお口を拝借」
「え?ムグッ!?」
マヤルが作った料理を持ち運び、彼女の前まで行って半ば強制的に食わせた。
するとそれを口に含んだマヤの顔が次第に青く……いや、すでに青肌の彼女の場合は青黒く、が正しいか。
「おげぇぇぇっ、マッズ!何これぇ……」
女子高生くらいの少女が両手両膝突いて嗚咽するという色々酷い絵面である。
「よくこんなん食わせようと思ったな。殺す気か?」
「ち、おえぇ……違うんですってー!これでも凄い頑張ったんですよ!」
「でも残念、食えないものが出来上がってる」
「こんなはずじゃ……あっ!もしかしてヴェルネ様が食事時にいつもどこかに行っちゃうのって食べたくないから……?」
マヤルがバッとヴェルネの方に振り向くと、ヴェルネは気まずそうに目を逸らす。
「いや、用事は本当にあったから……急ぐ必要のない用事だけど」
「やっぱり食べたくないんじゃないですかー!……ま、自分もこんなんだって知ってたら食べたくありませんけど」
「色々酷いな、お前……」
悲しむかと思ったが、ケロッとした最初の調子に戻るマヤル。そして今までの様子を無言で眺めるジークフリートが気になった。
「なぁおい、ジークフリート。あんたは料理しないのか?マヤルがダメならあんたが作れば……」
「……恐らく私の料理もヴェルネ様のお口には合わないかと。同じく食事時には頻繁に不在となるので」
ジト目だろうか、細くした目をヴェルネに向けるジークフリート。ヴェルネはやはり目を合わせることができない。
いや、本当ならヴェルネが後ろめたく感じる必要はないんだよ?コイツらの料理がマズイのが悪いんだから。
……ん?じゃあなんで今日は家で飯を食おうなんて思ったんだ?
「……それでなんだけど、あんた料理は作れる?」
「まぁ、そこそこ……まさか俺に作らせるためにここで食おうとしたのか?」
ヴェルネは頷くことはしなかったが肯定してるようだった。
「だって……外で食べてばかりだとお金無くなるし、もしかしたらコイツらの料理の腕が少しでも上がってるかもって思って……」
「不甲斐なく申し訳ない……」
「申し訳ない!」
口を尖らせてそう言うヴェルネ。
だがジークフリートは本当に申し訳なさそうにしてるけど、マヤルは本当に軽い言い方をする。謝る気ないだろ、コイツ。
「まぁいい、その期待に答えてやるよ。少なくとも料理と呼べるものを作れる自負はあるからな。じゃあ厨房の場所を教えてくれるか?」
「ではあっちが案内しまーす!」
元気良く手を挙げて自ら立候補するマヤル。そのまま彼女と一緒に部屋から出て行く。
「まー、案内って言ってもここを真っ直ぐ行けばあるんですけどねー。しっかしなんでまた人間がヴェルネ様と一緒にいるんですか?」
そっちが本題であろう質問をしてくるマヤル。そしてそこには純粋な質問ってだけでじゃなく、どうやら俺のことを疑って警戒しているようだった。
「全部を説明しようとするとややこしいからある程度省くが、まぁ諸々成り行きでな」
「本当に雑な省き方しましたね……じゃあヴェルネ様のことはどう思ってるんですか?」
「可愛い」
「でーすーよーねー!あっちも常々そう思ってるんです!悪態を突くことは多いですけど、なんだかんだ言って優しいというか……あっ、着きましたよ」
マヤルがヴェルネのことで盛り上がりそうなところで厨房に着き、スイッチでも押したかのように彼女のテンションが切り替わる。切り替え早ぇー……
マヤル「どぞ!」と言って俺を先に行かせようとし、その言葉に甘えて一足先に厨房へと入ろうとする。
……その前に気配の変化を感じて足を止めた。
「――だからヴェルネ様の障害になりそうなものはあっちたちが排除しないとならないんですよ」
後ろから聞こえるマヤルの言葉。
その次の瞬間、俺は背後にいるマヤルをカカトで即蹴り上げた。
「――――ッ!?」
声を出す間もなく蹴り上げられたマヤルは天井へと打ち上げられ、背中を強く打った。
彼女はそのままカエルのような姿で地面にビタンッ!と音を立てて落下する。
そして俺の首には細い糸……いや、長い髪の毛が軽く巻かれていた。
「自分の毛で暗殺とは珍しいな。しかも手馴れてるときた」
「なんっ、で……?」
一瞬意識が飛んだようだが、すぐに意識を取り戻して言葉を漏らすマヤル。
「なんで?どの『なんで』を聞きたいのかわからないが……暗殺に失敗した理由なら、お前の殺意がバレバレだったからだ。そして殺しに来ることがわかっていれば対処も簡単ってわけだ。それともまさか俺が自分より格下だとでも思ってたか?だとしたらそれはそれで残念だったな。俺はお前らが本気で殺しにかかって来ても返り討ちにできるほど強いぞ」
そう言いながらマヤルに近付き、しゃがんでも尚見下ろした先にいる彼女と目を合わせる。
「……お前らじゃ俺を殺れねぇよ」
その一言を発した次の瞬間、遠くから俺の頭に向けて放たれた細長い何かを指の間に挟んで受け止める。
細いな……的確に狙わなければ人1人すら満足に殺すこともできなさそうな道具だが、今確実に俺を殺せる場所を当てにきやがった。
「なんだ、お前ら俺に恨みでもあんのか?ジークフリート」
クナイに似た道具を投げたであろう本人の名を呼ぶと、暗闇から姿を現したジークフリート。
その表情はさっきと違って険しく、人殺しの顔をしていた。
「粗相が過ぎると困りますよ、お客様……」
「ははっ、お前らがそう言うのかよ?それに、だから『大人しく死んでください』ってんなら……その程度の実力でもてなそうとするお前らの方が粗相じゃないか?なぁ――」
平然と話しながらさっきジークフリートが投擲した細長い棒を不意打ちに近い状態で投げ返してやった。
それをジークフリートは余裕で避ける。速さは投げられた時と同じ速度で返してやったので反応されることは折り込み済みだ。
だが……ジークフリートは視線を俺から外し、飛んでいった棒を目で追っている。その視線の先に俺はすでにそこにいた。
「な――」
「そぉい!」
ジークフリートが驚いて硬直してる隙に顔面にアイアンクローからの壁に叩き付ける。
「ジークさん!」
「ふーん、ジークって呼ばれてるのか。まぁ、ジークフリートって長いもんな……俺もジークって呼んでいい?」
手を離して地面に崩れ落ちるジークフリートにマヤルが心配して駆け寄り、俺は世間話でもするかのように話しかける。
「ぐっ、私をそう呼んでいいのは……親しい方のみです……」
苦しそうにしながらそう言って立ち上がり、抵抗の意志を見せるジークフリート。 落ち着いてる性格をしてると思ったら意外と熱い奴なのかもしれない。
「……まぁ、その話は後回しにするとして、なんで俺を襲った?ヴェルネが俺のことを客人だって言っただろうに」
「私たちはヴェルネ様をよく知っています。あの方が人間を客人などと言って家に上げるわけがない……ならば脅されていると考えるのが自然。あの方がそのような事態に陥るなど考えられませんでしたが、実際に我々はあなたの暗殺に失敗したのが何よりの証拠……」
「……いや、違うけど。たしかに色々強引に話を引っ張りはしたけど脅してはない」
「自分の意思であなたを招いたと言う気ですか?人間に両親を殺されたあの人が――」
「マヤル!」
マヤルがかなり衝撃的なことを口走るのを制止しようと声を荒らげたが、もう遅かった。
マヤルも遅れて失言したことに気付いて「あっ……」と声を漏らす。
「そうか、人間に……だとしたらアイツには悪いことをしたかもな……」
近くにいる情報提供者を逃したくなかったがために人間を嫌っていたヴェルネの意志を半ば強引に無視してついて来てしまったが、彼女の心境をそれほど気にしてなかった。感情を見ても少し嫌がっててもそこまで酷いものじゃなかったから。
……一応謝った方がいいか?
「余計な気を回してんじゃないわよ、バカ共」
「「ヴェルネ様!」」
すると今度はヴェルネがやってきた。
その彼女の登場にマヤルとジークフリートが驚く。
「2人が居なくなった後にジークも様子を見に行きたいだなんて言ってわかり易く居なくなるし……あたしの言葉を変な捉え方してんじゃないわよ。もう一度言うわ、ソイツは本当にただの客人。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「っ……かしこまりました。どうやら早とちりをしてしまったようですね、この度は誠に申し訳ありませんでした……」
「……ごめんなさい」
ジークフリートとマヤルが俺に向けて謝ってくる。
あまりに素直な謝罪に少し驚いている俺にヴェルネが呆れた様子で「あとは任せるわ」と言って肩をすくめながらその場を立ち去る。
仲裁してくれたことには感謝するが、この状況を俺にどうしろってんだよ……
「……とりあえず……料理するか」
なんだか許す許さないとかいう重そうな空気のままでいるのも嫌なので別の話題にして誤魔化そうとした。
「……これは……なんだ?」
屋敷らしい広い部屋の大きな食卓。その上に並べられていたのは謎の物体だった。明らかに食い物じゃない。
「あっちの自信作『グロいスープ』!」
マヤルが自信満々に紹介してくれるが、もう色々ツッコミ所満載過ぎて頭が痛い。この頭の痛さって机の上にある物体のせいじゃないよな?
そもそもなんだよ「グロいスープ」って……見た目のまんまじゃねえか。
なんでグロいってわかってて作って人前に出してんだよ。せめて使った素材の名前を入れて安心させろよ……
「……なぁ、コレ何を入れたんだ?」
「ヒヒヒ、それは食べてからのお楽しみですよ!」
食べてからだと手遅れな気がする。俺を毒殺する気なのかな?
少し離れたところに座ってるヴェルネも自分の前に出された何かを見下ろすだけで食べることを躊躇していた。
よかった、これが魔族の中で普通の食事だったらどうしようかと思った。
「ちなみに味見は?」
「してないよ?だって最初にヴェルネ様たちに食べてもらいたかったんだもん!」
一見健気なことを言ってるように見えるマヤル。そうか、味見してないのか……
「ちょっとお口を拝借」
「え?ムグッ!?」
マヤルが作った料理を持ち運び、彼女の前まで行って半ば強制的に食わせた。
するとそれを口に含んだマヤの顔が次第に青く……いや、すでに青肌の彼女の場合は青黒く、が正しいか。
「おげぇぇぇっ、マッズ!何これぇ……」
女子高生くらいの少女が両手両膝突いて嗚咽するという色々酷い絵面である。
「よくこんなん食わせようと思ったな。殺す気か?」
「ち、おえぇ……違うんですってー!これでも凄い頑張ったんですよ!」
「でも残念、食えないものが出来上がってる」
「こんなはずじゃ……あっ!もしかしてヴェルネ様が食事時にいつもどこかに行っちゃうのって食べたくないから……?」
マヤルがバッとヴェルネの方に振り向くと、ヴェルネは気まずそうに目を逸らす。
「いや、用事は本当にあったから……急ぐ必要のない用事だけど」
「やっぱり食べたくないんじゃないですかー!……ま、自分もこんなんだって知ってたら食べたくありませんけど」
「色々酷いな、お前……」
悲しむかと思ったが、ケロッとした最初の調子に戻るマヤル。そして今までの様子を無言で眺めるジークフリートが気になった。
「なぁおい、ジークフリート。あんたは料理しないのか?マヤルがダメならあんたが作れば……」
「……恐らく私の料理もヴェルネ様のお口には合わないかと。同じく食事時には頻繁に不在となるので」
ジト目だろうか、細くした目をヴェルネに向けるジークフリート。ヴェルネはやはり目を合わせることができない。
いや、本当ならヴェルネが後ろめたく感じる必要はないんだよ?コイツらの料理がマズイのが悪いんだから。
……ん?じゃあなんで今日は家で飯を食おうなんて思ったんだ?
「……それでなんだけど、あんた料理は作れる?」
「まぁ、そこそこ……まさか俺に作らせるためにここで食おうとしたのか?」
ヴェルネは頷くことはしなかったが肯定してるようだった。
「だって……外で食べてばかりだとお金無くなるし、もしかしたらコイツらの料理の腕が少しでも上がってるかもって思って……」
「不甲斐なく申し訳ない……」
「申し訳ない!」
口を尖らせてそう言うヴェルネ。
だがジークフリートは本当に申し訳なさそうにしてるけど、マヤルは本当に軽い言い方をする。謝る気ないだろ、コイツ。
「まぁいい、その期待に答えてやるよ。少なくとも料理と呼べるものを作れる自負はあるからな。じゃあ厨房の場所を教えてくれるか?」
「ではあっちが案内しまーす!」
元気良く手を挙げて自ら立候補するマヤル。そのまま彼女と一緒に部屋から出て行く。
「まー、案内って言ってもここを真っ直ぐ行けばあるんですけどねー。しっかしなんでまた人間がヴェルネ様と一緒にいるんですか?」
そっちが本題であろう質問をしてくるマヤル。そしてそこには純粋な質問ってだけでじゃなく、どうやら俺のことを疑って警戒しているようだった。
「全部を説明しようとするとややこしいからある程度省くが、まぁ諸々成り行きでな」
「本当に雑な省き方しましたね……じゃあヴェルネ様のことはどう思ってるんですか?」
「可愛い」
「でーすーよーねー!あっちも常々そう思ってるんです!悪態を突くことは多いですけど、なんだかんだ言って優しいというか……あっ、着きましたよ」
マヤルがヴェルネのことで盛り上がりそうなところで厨房に着き、スイッチでも押したかのように彼女のテンションが切り替わる。切り替え早ぇー……
マヤル「どぞ!」と言って俺を先に行かせようとし、その言葉に甘えて一足先に厨房へと入ろうとする。
……その前に気配の変化を感じて足を止めた。
「――だからヴェルネ様の障害になりそうなものはあっちたちが排除しないとならないんですよ」
後ろから聞こえるマヤルの言葉。
その次の瞬間、俺は背後にいるマヤルをカカトで即蹴り上げた。
「――――ッ!?」
声を出す間もなく蹴り上げられたマヤルは天井へと打ち上げられ、背中を強く打った。
彼女はそのままカエルのような姿で地面にビタンッ!と音を立てて落下する。
そして俺の首には細い糸……いや、長い髪の毛が軽く巻かれていた。
「自分の毛で暗殺とは珍しいな。しかも手馴れてるときた」
「なんっ、で……?」
一瞬意識が飛んだようだが、すぐに意識を取り戻して言葉を漏らすマヤル。
「なんで?どの『なんで』を聞きたいのかわからないが……暗殺に失敗した理由なら、お前の殺意がバレバレだったからだ。そして殺しに来ることがわかっていれば対処も簡単ってわけだ。それともまさか俺が自分より格下だとでも思ってたか?だとしたらそれはそれで残念だったな。俺はお前らが本気で殺しにかかって来ても返り討ちにできるほど強いぞ」
そう言いながらマヤルに近付き、しゃがんでも尚見下ろした先にいる彼女と目を合わせる。
「……お前らじゃ俺を殺れねぇよ」
その一言を発した次の瞬間、遠くから俺の頭に向けて放たれた細長い何かを指の間に挟んで受け止める。
細いな……的確に狙わなければ人1人すら満足に殺すこともできなさそうな道具だが、今確実に俺を殺せる場所を当てにきやがった。
「なんだ、お前ら俺に恨みでもあんのか?ジークフリート」
クナイに似た道具を投げたであろう本人の名を呼ぶと、暗闇から姿を現したジークフリート。
その表情はさっきと違って険しく、人殺しの顔をしていた。
「粗相が過ぎると困りますよ、お客様……」
「ははっ、お前らがそう言うのかよ?それに、だから『大人しく死んでください』ってんなら……その程度の実力でもてなそうとするお前らの方が粗相じゃないか?なぁ――」
平然と話しながらさっきジークフリートが投擲した細長い棒を不意打ちに近い状態で投げ返してやった。
それをジークフリートは余裕で避ける。速さは投げられた時と同じ速度で返してやったので反応されることは折り込み済みだ。
だが……ジークフリートは視線を俺から外し、飛んでいった棒を目で追っている。その視線の先に俺はすでにそこにいた。
「な――」
「そぉい!」
ジークフリートが驚いて硬直してる隙に顔面にアイアンクローからの壁に叩き付ける。
「ジークさん!」
「ふーん、ジークって呼ばれてるのか。まぁ、ジークフリートって長いもんな……俺もジークって呼んでいい?」
手を離して地面に崩れ落ちるジークフリートにマヤルが心配して駆け寄り、俺は世間話でもするかのように話しかける。
「ぐっ、私をそう呼んでいいのは……親しい方のみです……」
苦しそうにしながらそう言って立ち上がり、抵抗の意志を見せるジークフリート。 落ち着いてる性格をしてると思ったら意外と熱い奴なのかもしれない。
「……まぁ、その話は後回しにするとして、なんで俺を襲った?ヴェルネが俺のことを客人だって言っただろうに」
「私たちはヴェルネ様をよく知っています。あの方が人間を客人などと言って家に上げるわけがない……ならば脅されていると考えるのが自然。あの方がそのような事態に陥るなど考えられませんでしたが、実際に我々はあなたの暗殺に失敗したのが何よりの証拠……」
「……いや、違うけど。たしかに色々強引に話を引っ張りはしたけど脅してはない」
「自分の意思であなたを招いたと言う気ですか?人間に両親を殺されたあの人が――」
「マヤル!」
マヤルがかなり衝撃的なことを口走るのを制止しようと声を荒らげたが、もう遅かった。
マヤルも遅れて失言したことに気付いて「あっ……」と声を漏らす。
「そうか、人間に……だとしたらアイツには悪いことをしたかもな……」
近くにいる情報提供者を逃したくなかったがために人間を嫌っていたヴェルネの意志を半ば強引に無視してついて来てしまったが、彼女の心境をそれほど気にしてなかった。感情を見ても少し嫌がっててもそこまで酷いものじゃなかったから。
……一応謝った方がいいか?
「余計な気を回してんじゃないわよ、バカ共」
「「ヴェルネ様!」」
すると今度はヴェルネがやってきた。
その彼女の登場にマヤルとジークフリートが驚く。
「2人が居なくなった後にジークも様子を見に行きたいだなんて言ってわかり易く居なくなるし……あたしの言葉を変な捉え方してんじゃないわよ。もう一度言うわ、ソイツは本当にただの客人。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「っ……かしこまりました。どうやら早とちりをしてしまったようですね、この度は誠に申し訳ありませんでした……」
「……ごめんなさい」
ジークフリートとマヤルが俺に向けて謝ってくる。
あまりに素直な謝罪に少し驚いている俺にヴェルネが呆れた様子で「あとは任せるわ」と言って肩をすくめながらその場を立ち去る。
仲裁してくれたことには感謝するが、この状況を俺にどうしろってんだよ……
「……とりあえず……料理するか」
なんだか許す許さないとかいう重そうな空気のままでいるのも嫌なので別の話題にして誤魔化そうとした。
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