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第一章
6.6 悪魔に黄昏を
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人間離れした、まるで映画や漫画の悪魔のような出で立ちになった彼女を眺めながら。
俺は落下していた。
空中で無理やりヨルくんに振り下ろされたからだった。
直後、俺の横っ腹に何かが直撃し呻き声が出る。
見ればヨルくんが俺に抱きついていた。
屋上に降ろしてもらうと、ヨルくんはそのまま飛び立ち、直所、先ほどの木の幹のようなものが俺の真横、先ほどまでヨルくんのいた場所に突き刺さった。
しゅるしゅると戻っていくそれはどうやら彼女の腕から伸びているようで、そのまま別れて複数の蔦のようになって彼女の腕に巻きついた。
空中で彼女を睨むヨルくんに声をかける。
「ヨルくん、あれは!?」
「さあね。少なくとも、ただ僕たちにとって良くないことが起きたのは確かだ」
茨の悪魔から視線を逸らさず、ヨルくんは続ける。
「まるで悪魔のようだけれど、僕たち悪魔とは何かが違うように思える。いずれにせよ、あいつの狙いは僕みたいだから、ちょっとアサヒくんは離れててね」
その言葉に俺は首を傾げる。
「なんでだ?さっきみたいにくっついとけば」
言いながらヨルくんに駆け寄ろうとして、遮るように茨が伸びた。
それを飛行することで躱したヨルくんが口元を歪めるように笑って言う。
「あいつは僕とヨルくんがくっつくのが心底嫌みたいだ!」
直後、高速で飛行するヨルくんと、茨の追いかけっこが始まった。
その様子を見上げ、俺は思わず叫んだ。
「だから、俺を蚊帳の外にするんじゃねえよッ!!」
・・・
迫る茨の鞭を掻い潜りながら飛行し、ヨルは柳さくらを観察する。
「力を振るってるだけ、本人がこちらを追いかけてくる様子はない。…攻撃の元が動かない分さっきよりはやりやすいかな?」
ヨルの言葉の通り、さくらはその場から一歩も動いていなかった。
そう結論付けるヨルの元に更に茨が振るわれる。
体を逸らし、軌道を曲げ、茨を掻い潜るが、躱しきれずに何本かがヨルの体を掠めた。
「鞭っていうか触手だね。結構伸びるし。しかも操作に集中してるせいか速度も速い…っ!」
ヨルは少し考え、動きを止めた。
そこに迫る三本の茨を、剣を振るうことで斬り落とす。
そのまま間髪入れずに迫る多くの茨を、ヨルはすべて斬り落としていく。
「防御に徹すれば捌けないことはない。でも、このままじゃじり貧だ」
不規則に、四方八方から殺到する茨を斬り落としきり、一瞬の静寂が訪れる。
その直後。
轟、と空をかき分ける音と共に、複数の茨が組み合わさり木の幹のように太く絡まった一本がヨル目掛けて伸びる。
タイミングをずらされたヨルは躱すことは困難と判断し、それを切り崩すために剣を振り下ろす。
しかし。
「!?かったい……!!」
その硬度を切り裂くことができなかった。
それにより、ヨルの動きは一瞬止まった。
その一瞬の隙で、十分だった。
茨は、ヨルに殺到し、その体を瞬く間にボロボロに打ち据えた。
・・・
ヨルくんが、墜ちる。
そこに駆け寄ろうとしたらまた、遮るように茨の一振りが俺の足元を襲った。
その軌跡を辿るように、アスファルトは亀裂が入っていた。
俺はその茨を辿るように、悪魔のような少女を見据える。
彼女は言う。
「もう諦めたらどうですか?別に、アサヒさんを傷つけたいわけじゃないんです」
そうして、ビルの外に落ちて行ったヨルくんの方向に目を向け、言った。
「わたしの敵は、飽くまで悪魔ですから」
思い返すと、確かに言葉の通り彼女は俺に向けては攻撃してこない。
だからこそ、俺は疎外感を覚えているわけだが、まあいい。
鎖を通じて、ヨルくんを感じている。
ヨルくんは無事だ。
ならここは、俺が注意を引き付けるか。
それが彼女の隙になれば。
そう思い彼女に向けて一歩踏み出そうとすると、
「何を願ったんですか?」
そんな問いが彼女の口から零れた。
戦いが始まる前の縋るような表情ではなく。
どこか晴れやかな表情だった。
きっと、ヨルくんを圧倒していることに満足しているんだろう。
「アサヒさんも、何か叶えたい願いがあったから、契約したんですよね?」
彼女はどこか危なげな笑みのまま、続ける。
「さっきのアサヒさんの申し出、見当違いだったけど、すごく嬉しかったから。だから、逆にわたしが叶えてあげようと思って」
俺?
彼女の言葉に改めて思う。
願い。そうだよな。
本来悪魔との契約は人間側に叶えたい夢、つまり協力するメリットがあるからこそ行われるものなんだろう。
だからこそこの戦いのリスクも負える。
そしてそこまで考えて。
だからこそ、俺はありのままを答える。
「別に。なんか気付いたら契約したことにされてた」
結局そういうことだ。
世界中の人が幸せになれば、なんて考えてはいるけれど。
俺は、“そのため”に契約したわけじゃない。
言ってしまえば契約だって、したくてしたわけじゃない。
そして、俺のその言葉に、
「……は?」
と。
まるで信じられないとでも言うように、彼女は目を見開いて声を漏らした。
なんだか、さっきもそんな表情を見た気がする。
彼女は続ける。
「なにそれ。じゃあなんですか、その悪魔は、アサヒさんに危険があることを隠して、騙して無理やり契約したってことですか」
ふり絞るように声を出す彼女に、俺は答える。
「そういうことになるね、うん。でも」
でも。
たとえ、押し付けられた関係だったとしても。
俺は彼女に、誠実に答える。
「ヨルくんはきっとそうまでして戦いたいってことなんだろうから、別に大した望みなんかなくたって、俺はヨルくんに力を貸すよ」
俺の言葉を聞いた彼女は、口から、零した。
「な、んで」
そして堰を切ったかのように、
「なんで!?なんでなんでなんで!?なんでそんなこと言えるんですか!?騙されたんですよ!?そのせいであなたは今、巻き込まれてるんですよ!?」
巻き込まれている。確かにそうだ。でも。
次から次へと俺に問いかける彼女の目をじっと見返して、俺は答える。
「いいんだよ。経緯はなんだって」
彼女が裂いたアスファルトを跨いで、一歩踏み込み、答える。
「俺が今、納得してるんだから。これでいいんだよ!!」
「あああああああああああああああああああああッ!!」
彼女の絶叫が、夜の闇に響いた。
彼女は顔を覆い、体を折り、腹の底から悲痛な叫びを上げる。
その叫びに共鳴するように彼女の背から、腕から、足からも数多の茨が伸び、暴れる。
振り乱される茨は、近づくものを許さないとでも言うように闇雲に、空を、地面を引き裂く。
まるで嵐のようなその乱撃は少しずつ範囲を伸ばし、そして俺の眼前に来た瞬間。
脇の下に腕を通され、不意に体が浮き上がった。
まるで羽交い絞めのような形で、俺は抱き上げられていた。
背後に目を向ける。
「サンキューヨルくん」
ヨルくんが、呆れた顔でこちらを見ていた。
ヨルくんは言う。
「……君悪魔の才能あるよ。人の心とかないの?」
「こ、こんなはずじゃ」
怒りで前後不覚になっている彼女の攻撃範囲からヨルくんに連れられる形で、離れる。
彼女は俺たちが離れていることに気付いていないのか、それともただただ感情を発散しているのか。
茨は、先ほどのようにはこちらに伸びてこない。
その光景を見て、俺は思ったことを口にした。
「なあ、ヨルくん」
「なんだいアサヒくん」
「あれ、俺もできると思うか?」
曖昧な言い方になってしまったが、わかる。
ヨルくんには俺の意図が伝わっていることが。
ヨルくんは俺に目を向けて、笑う。
「たぶんできるよ、今のアサヒくんなら」
その笑みに、どこか悪戯っぽいものを感じた俺は言い返した。
「それは俺が悪魔みたいだって言ってる?」
その言葉に、ヨルくんは曖昧に笑う。
「……あとで鏡を見てみるといい」
「どういう意味だ?」
それからヨルくんは、暴れ狂う茨の方に目を向けて言う。
「あれはあくまで、柳さくらだ。彼女が悪魔(ロアノス)の魔力を吸収した姿だ。だからいつかやった時のように、僕の魔力を君に渡せば。それも、すべての魔力を渡せば、同じことが起きるだろうね」
その言葉を聞いて、ドクリと一際大きく鼓動が鳴った気がした。
ああ、いいね。すごくいい。
そもそもなんかしっくりこなかったんだ。
悪魔に全部任せるってのが。
俺はヨルくんに顔を向けて、言う。
「じゃあそれで」
「わかった。じゃあアサヒくん」
互いに目の前で顔を突き合わせた状態で、ヨルくんは笑って。
それからまつげを揺らして、ぽつりと。
「僕の全部、受け取ってくれる?」
そのどこか、何かを恐れるような声色に、思わず笑ってしまう。
「何言ってんだ。頼むのは俺の方だよ」
だって、これが悪魔たちだけでなく、俺の戦いでもあるっていうんなら。
やっぱり、決着は俺の手で着けたい。
でも、俺はただの人間だから。
そんな俺が、力のない俺が、この戦場に立つために。
俺は、しっかりとヨルくんの目を見つめて続ける。
「力を貸してくれ、ヨルムンノート」
ヨルくんは、俺の言葉にぱちりと瞬きして、俯いた。
そして独り言のように零す。
「“契約者”なんて。なんで必要なんだろうと思ってたけど…」
俺から俺の目を見て、にやりと笑って答えた。
「了解だ我が主。僕の力、今すべて預けよう」
ぎゅう、と。
ヨルくんが、より強く俺に抱きつく。
先ほどと同じ。混ざり合うような感覚が俺を襲う。
眩い青い光に包まれる。
ただそれは劇的なものではなくて。
その感覚は、とても温かい、何かに全身を包まれるようなものだった。
俺は落下していた。
空中で無理やりヨルくんに振り下ろされたからだった。
直後、俺の横っ腹に何かが直撃し呻き声が出る。
見ればヨルくんが俺に抱きついていた。
屋上に降ろしてもらうと、ヨルくんはそのまま飛び立ち、直所、先ほどの木の幹のようなものが俺の真横、先ほどまでヨルくんのいた場所に突き刺さった。
しゅるしゅると戻っていくそれはどうやら彼女の腕から伸びているようで、そのまま別れて複数の蔦のようになって彼女の腕に巻きついた。
空中で彼女を睨むヨルくんに声をかける。
「ヨルくん、あれは!?」
「さあね。少なくとも、ただ僕たちにとって良くないことが起きたのは確かだ」
茨の悪魔から視線を逸らさず、ヨルくんは続ける。
「まるで悪魔のようだけれど、僕たち悪魔とは何かが違うように思える。いずれにせよ、あいつの狙いは僕みたいだから、ちょっとアサヒくんは離れててね」
その言葉に俺は首を傾げる。
「なんでだ?さっきみたいにくっついとけば」
言いながらヨルくんに駆け寄ろうとして、遮るように茨が伸びた。
それを飛行することで躱したヨルくんが口元を歪めるように笑って言う。
「あいつは僕とヨルくんがくっつくのが心底嫌みたいだ!」
直後、高速で飛行するヨルくんと、茨の追いかけっこが始まった。
その様子を見上げ、俺は思わず叫んだ。
「だから、俺を蚊帳の外にするんじゃねえよッ!!」
・・・
迫る茨の鞭を掻い潜りながら飛行し、ヨルは柳さくらを観察する。
「力を振るってるだけ、本人がこちらを追いかけてくる様子はない。…攻撃の元が動かない分さっきよりはやりやすいかな?」
ヨルの言葉の通り、さくらはその場から一歩も動いていなかった。
そう結論付けるヨルの元に更に茨が振るわれる。
体を逸らし、軌道を曲げ、茨を掻い潜るが、躱しきれずに何本かがヨルの体を掠めた。
「鞭っていうか触手だね。結構伸びるし。しかも操作に集中してるせいか速度も速い…っ!」
ヨルは少し考え、動きを止めた。
そこに迫る三本の茨を、剣を振るうことで斬り落とす。
そのまま間髪入れずに迫る多くの茨を、ヨルはすべて斬り落としていく。
「防御に徹すれば捌けないことはない。でも、このままじゃじり貧だ」
不規則に、四方八方から殺到する茨を斬り落としきり、一瞬の静寂が訪れる。
その直後。
轟、と空をかき分ける音と共に、複数の茨が組み合わさり木の幹のように太く絡まった一本がヨル目掛けて伸びる。
タイミングをずらされたヨルは躱すことは困難と判断し、それを切り崩すために剣を振り下ろす。
しかし。
「!?かったい……!!」
その硬度を切り裂くことができなかった。
それにより、ヨルの動きは一瞬止まった。
その一瞬の隙で、十分だった。
茨は、ヨルに殺到し、その体を瞬く間にボロボロに打ち据えた。
・・・
ヨルくんが、墜ちる。
そこに駆け寄ろうとしたらまた、遮るように茨の一振りが俺の足元を襲った。
その軌跡を辿るように、アスファルトは亀裂が入っていた。
俺はその茨を辿るように、悪魔のような少女を見据える。
彼女は言う。
「もう諦めたらどうですか?別に、アサヒさんを傷つけたいわけじゃないんです」
そうして、ビルの外に落ちて行ったヨルくんの方向に目を向け、言った。
「わたしの敵は、飽くまで悪魔ですから」
思い返すと、確かに言葉の通り彼女は俺に向けては攻撃してこない。
だからこそ、俺は疎外感を覚えているわけだが、まあいい。
鎖を通じて、ヨルくんを感じている。
ヨルくんは無事だ。
ならここは、俺が注意を引き付けるか。
それが彼女の隙になれば。
そう思い彼女に向けて一歩踏み出そうとすると、
「何を願ったんですか?」
そんな問いが彼女の口から零れた。
戦いが始まる前の縋るような表情ではなく。
どこか晴れやかな表情だった。
きっと、ヨルくんを圧倒していることに満足しているんだろう。
「アサヒさんも、何か叶えたい願いがあったから、契約したんですよね?」
彼女はどこか危なげな笑みのまま、続ける。
「さっきのアサヒさんの申し出、見当違いだったけど、すごく嬉しかったから。だから、逆にわたしが叶えてあげようと思って」
俺?
彼女の言葉に改めて思う。
願い。そうだよな。
本来悪魔との契約は人間側に叶えたい夢、つまり協力するメリットがあるからこそ行われるものなんだろう。
だからこそこの戦いのリスクも負える。
そしてそこまで考えて。
だからこそ、俺はありのままを答える。
「別に。なんか気付いたら契約したことにされてた」
結局そういうことだ。
世界中の人が幸せになれば、なんて考えてはいるけれど。
俺は、“そのため”に契約したわけじゃない。
言ってしまえば契約だって、したくてしたわけじゃない。
そして、俺のその言葉に、
「……は?」
と。
まるで信じられないとでも言うように、彼女は目を見開いて声を漏らした。
なんだか、さっきもそんな表情を見た気がする。
彼女は続ける。
「なにそれ。じゃあなんですか、その悪魔は、アサヒさんに危険があることを隠して、騙して無理やり契約したってことですか」
ふり絞るように声を出す彼女に、俺は答える。
「そういうことになるね、うん。でも」
でも。
たとえ、押し付けられた関係だったとしても。
俺は彼女に、誠実に答える。
「ヨルくんはきっとそうまでして戦いたいってことなんだろうから、別に大した望みなんかなくたって、俺はヨルくんに力を貸すよ」
俺の言葉を聞いた彼女は、口から、零した。
「な、んで」
そして堰を切ったかのように、
「なんで!?なんでなんでなんで!?なんでそんなこと言えるんですか!?騙されたんですよ!?そのせいであなたは今、巻き込まれてるんですよ!?」
巻き込まれている。確かにそうだ。でも。
次から次へと俺に問いかける彼女の目をじっと見返して、俺は答える。
「いいんだよ。経緯はなんだって」
彼女が裂いたアスファルトを跨いで、一歩踏み込み、答える。
「俺が今、納得してるんだから。これでいいんだよ!!」
「あああああああああああああああああああああッ!!」
彼女の絶叫が、夜の闇に響いた。
彼女は顔を覆い、体を折り、腹の底から悲痛な叫びを上げる。
その叫びに共鳴するように彼女の背から、腕から、足からも数多の茨が伸び、暴れる。
振り乱される茨は、近づくものを許さないとでも言うように闇雲に、空を、地面を引き裂く。
まるで嵐のようなその乱撃は少しずつ範囲を伸ばし、そして俺の眼前に来た瞬間。
脇の下に腕を通され、不意に体が浮き上がった。
まるで羽交い絞めのような形で、俺は抱き上げられていた。
背後に目を向ける。
「サンキューヨルくん」
ヨルくんが、呆れた顔でこちらを見ていた。
ヨルくんは言う。
「……君悪魔の才能あるよ。人の心とかないの?」
「こ、こんなはずじゃ」
怒りで前後不覚になっている彼女の攻撃範囲からヨルくんに連れられる形で、離れる。
彼女は俺たちが離れていることに気付いていないのか、それともただただ感情を発散しているのか。
茨は、先ほどのようにはこちらに伸びてこない。
その光景を見て、俺は思ったことを口にした。
「なあ、ヨルくん」
「なんだいアサヒくん」
「あれ、俺もできると思うか?」
曖昧な言い方になってしまったが、わかる。
ヨルくんには俺の意図が伝わっていることが。
ヨルくんは俺に目を向けて、笑う。
「たぶんできるよ、今のアサヒくんなら」
その笑みに、どこか悪戯っぽいものを感じた俺は言い返した。
「それは俺が悪魔みたいだって言ってる?」
その言葉に、ヨルくんは曖昧に笑う。
「……あとで鏡を見てみるといい」
「どういう意味だ?」
それからヨルくんは、暴れ狂う茨の方に目を向けて言う。
「あれはあくまで、柳さくらだ。彼女が悪魔(ロアノス)の魔力を吸収した姿だ。だからいつかやった時のように、僕の魔力を君に渡せば。それも、すべての魔力を渡せば、同じことが起きるだろうね」
その言葉を聞いて、ドクリと一際大きく鼓動が鳴った気がした。
ああ、いいね。すごくいい。
そもそもなんかしっくりこなかったんだ。
悪魔に全部任せるってのが。
俺はヨルくんに顔を向けて、言う。
「じゃあそれで」
「わかった。じゃあアサヒくん」
互いに目の前で顔を突き合わせた状態で、ヨルくんは笑って。
それからまつげを揺らして、ぽつりと。
「僕の全部、受け取ってくれる?」
そのどこか、何かを恐れるような声色に、思わず笑ってしまう。
「何言ってんだ。頼むのは俺の方だよ」
だって、これが悪魔たちだけでなく、俺の戦いでもあるっていうんなら。
やっぱり、決着は俺の手で着けたい。
でも、俺はただの人間だから。
そんな俺が、力のない俺が、この戦場に立つために。
俺は、しっかりとヨルくんの目を見つめて続ける。
「力を貸してくれ、ヨルムンノート」
ヨルくんは、俺の言葉にぱちりと瞬きして、俯いた。
そして独り言のように零す。
「“契約者”なんて。なんで必要なんだろうと思ってたけど…」
俺から俺の目を見て、にやりと笑って答えた。
「了解だ我が主。僕の力、今すべて預けよう」
ぎゅう、と。
ヨルくんが、より強く俺に抱きつく。
先ほどと同じ。混ざり合うような感覚が俺を襲う。
眩い青い光に包まれる。
ただそれは劇的なものではなくて。
その感覚は、とても温かい、何かに全身を包まれるようなものだった。
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