16 / 27
第一章
4-2. 平穏に悪魔の影を見て
しおりを挟む
しかしそう言われても。
「いまいち実感湧かないんだよなあ」
家に帰り考えるのは昼休みの緋毬との会話。
「それは戦いのこと?」
不思議そうに首をかしげるヨルくんが目に入る。
「ああ、うん」
適当に返事をして、ベッドを背にして天井を仰ぐ。
眩しい灯りに目が眩みながら、ぽつりと漏れる。
正直、自分のことのように思えないって言うか。
「君と会った日の、大男との時は必死だったし。龍次郎との時は急すぎて他人事みたいに感じた」
「人間にはデメリットもないもんね。僕たちも負けたら帰るだけだし」
ヨルくんは言いながら四つん這いでこちらに寄ってきて、それから俺を真似るようにベッドを背にして三角座りした。
ヨルくんの方を向かずに俺は答える。
「悪魔同士が戦うんじゃ命の危険があるってわけでもないしねえ」
「いやそれは、……うん。まあ護るからね。ないようなもんだよ」
「なんか含みがあるような」
微妙に歯切れの悪いヨルくんの言葉にぼんやりと不安がよぎった。
「ヨルくんはやっぱり、どうしても勝ちたいって気持ちがあるのかな」
ヨルくんは俺の言葉にうーんと唸ってからこちらを向く。
「そんなに頻繁に行うものでもないし。それにこう見えても僕の家はどちらかというと名家だからね。ほら、一族の悲願ってやつ?」
それから、自分で納得するようにうんと頷いて続ける。
「勝ちたいって気持ちはもちろんだけどね。それと同時に勝たせたくないんだ」
「勝たせたくないっていうのは?」
ヨルくんは俺の言葉に、頷く。
「これまでの生活でわかるとおり、僕たち悪魔は今、この世界に存在してる。ご飯も食べるしゲームも出来る。でもこの間見せたように、人間なんかよりよっぽど強いんだ。だから、人を傷付けることだって簡単にできてしまう」
ヨルくんの話に俺は考える。
ドルドを真っ二つにしたヨルくんを。
龍次郎を力で圧倒したヨルくんを思い出す。
戦いに関してしなければただの普通の少年だ。黙っていれば人間に見える。
でもそれは、きっとこの子がいい子だからだ。
俺は、幸せそうにハンバーグを食べるヨルくんを思い出す。
本当に、いい子なんだ。
そして、龍次郎だっていい奴なんだ。
だから俺は、悪魔に悪いイメージが今のところないんだ。
しかしヨルくんは言う。
「ドルドやルジェロみたいに人間に友好的な奴ばかりじゃない。人を傷付けることなんてなんとも思ってない奴もいる」
そしてヨルくんは、決意を改めるように拳を握る。
「そんな奴、野放しにできないよ」
「人を傷付ける?」
俺の問いに、ヨルくんは眉を顰める。
「何か勘違いしているのか知らないけど、僕たちは悪魔だ。そもそも人間とは違う種族なんだよ。当然文化や生き方も違う。倫理観もね」
そして、ヨルくんは真剣な顔で言う。
「ただハンバーグは大変すばらしい文化だと思う」
「…また今度作るよ」
俺がそう言うとヨルくんは「やった」と小声で言ってから居住まいを正して続ける。
「それに人間同士だって、平気で他人を傷付ける奴はいるでしょ?戦いの中で人間が狙われることもあるだろうね。悪魔に戦うための魔力を供給しているのは人間だから。そこを潰せば実質勝ちだし」
そこまで言ってからヨルくんは、
「言うならばそれがデメリットというか。まあリスクだよね」
なんて、小声で付け足すように言った。
「さらっとすごいこと言ってない?」
俺がそう言うとヨルくんは誤魔化すように声を大にして言う。
「大丈夫だよ。さっきも言った通り僕が全力で護る」
俺がじっとりと見つめるとヨルくんは申し訳なさそうに苦笑して、
「まあ色々言ったけど。やっぱり実際に経験してみるしかないかもね」
「経験ねえ」
「うん。今夜。実際に戦うために外に出てみよう」
そう言って立ち上がるヨルくんに、俺は時計を見てから言った。
「その前に行くとこがある」
「いまいち実感湧かないんだよなあ」
家に帰り考えるのは昼休みの緋毬との会話。
「それは戦いのこと?」
不思議そうに首をかしげるヨルくんが目に入る。
「ああ、うん」
適当に返事をして、ベッドを背にして天井を仰ぐ。
眩しい灯りに目が眩みながら、ぽつりと漏れる。
正直、自分のことのように思えないって言うか。
「君と会った日の、大男との時は必死だったし。龍次郎との時は急すぎて他人事みたいに感じた」
「人間にはデメリットもないもんね。僕たちも負けたら帰るだけだし」
ヨルくんは言いながら四つん這いでこちらに寄ってきて、それから俺を真似るようにベッドを背にして三角座りした。
ヨルくんの方を向かずに俺は答える。
「悪魔同士が戦うんじゃ命の危険があるってわけでもないしねえ」
「いやそれは、……うん。まあ護るからね。ないようなもんだよ」
「なんか含みがあるような」
微妙に歯切れの悪いヨルくんの言葉にぼんやりと不安がよぎった。
「ヨルくんはやっぱり、どうしても勝ちたいって気持ちがあるのかな」
ヨルくんは俺の言葉にうーんと唸ってからこちらを向く。
「そんなに頻繁に行うものでもないし。それにこう見えても僕の家はどちらかというと名家だからね。ほら、一族の悲願ってやつ?」
それから、自分で納得するようにうんと頷いて続ける。
「勝ちたいって気持ちはもちろんだけどね。それと同時に勝たせたくないんだ」
「勝たせたくないっていうのは?」
ヨルくんは俺の言葉に、頷く。
「これまでの生活でわかるとおり、僕たち悪魔は今、この世界に存在してる。ご飯も食べるしゲームも出来る。でもこの間見せたように、人間なんかよりよっぽど強いんだ。だから、人を傷付けることだって簡単にできてしまう」
ヨルくんの話に俺は考える。
ドルドを真っ二つにしたヨルくんを。
龍次郎を力で圧倒したヨルくんを思い出す。
戦いに関してしなければただの普通の少年だ。黙っていれば人間に見える。
でもそれは、きっとこの子がいい子だからだ。
俺は、幸せそうにハンバーグを食べるヨルくんを思い出す。
本当に、いい子なんだ。
そして、龍次郎だっていい奴なんだ。
だから俺は、悪魔に悪いイメージが今のところないんだ。
しかしヨルくんは言う。
「ドルドやルジェロみたいに人間に友好的な奴ばかりじゃない。人を傷付けることなんてなんとも思ってない奴もいる」
そしてヨルくんは、決意を改めるように拳を握る。
「そんな奴、野放しにできないよ」
「人を傷付ける?」
俺の問いに、ヨルくんは眉を顰める。
「何か勘違いしているのか知らないけど、僕たちは悪魔だ。そもそも人間とは違う種族なんだよ。当然文化や生き方も違う。倫理観もね」
そして、ヨルくんは真剣な顔で言う。
「ただハンバーグは大変すばらしい文化だと思う」
「…また今度作るよ」
俺がそう言うとヨルくんは「やった」と小声で言ってから居住まいを正して続ける。
「それに人間同士だって、平気で他人を傷付ける奴はいるでしょ?戦いの中で人間が狙われることもあるだろうね。悪魔に戦うための魔力を供給しているのは人間だから。そこを潰せば実質勝ちだし」
そこまで言ってからヨルくんは、
「言うならばそれがデメリットというか。まあリスクだよね」
なんて、小声で付け足すように言った。
「さらっとすごいこと言ってない?」
俺がそう言うとヨルくんは誤魔化すように声を大にして言う。
「大丈夫だよ。さっきも言った通り僕が全力で護る」
俺がじっとりと見つめるとヨルくんは申し訳なさそうに苦笑して、
「まあ色々言ったけど。やっぱり実際に経験してみるしかないかもね」
「経験ねえ」
「うん。今夜。実際に戦うために外に出てみよう」
そう言って立ち上がるヨルくんに、俺は時計を見てから言った。
「その前に行くとこがある」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる