飽くまで悪魔です

ごったに

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第一章

4-2. 平穏に悪魔の影を見て

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しかしそう言われても。

「いまいち実感湧かないんだよなあ」

家に帰り考えるのは昼休みの緋毬との会話。

「それは戦いのこと?」

不思議そうに首をかしげるヨルくんが目に入る。

「ああ、うん」

適当に返事をして、ベッドを背にして天井を仰ぐ。
眩しい灯りに目が眩みながら、ぽつりと漏れる。
正直、自分のことのように思えないって言うか。

「君と会った日の、大男との時は必死だったし。龍次郎との時は急すぎて他人事みたいに感じた」
「人間にはデメリットもないもんね。僕たちも負けたら帰るだけだし」

ヨルくんは言いながら四つん這いでこちらに寄ってきて、それから俺を真似るようにベッドを背にして三角座りした。
ヨルくんの方を向かずに俺は答える。

「悪魔同士が戦うんじゃ命の危険があるってわけでもないしねえ」
「いやそれは、……うん。まあ護るからね。ないようなもんだよ」
「なんか含みがあるような」

微妙に歯切れの悪いヨルくんの言葉にぼんやりと不安がよぎった。

「ヨルくんはやっぱり、どうしても勝ちたいって気持ちがあるのかな」

ヨルくんは俺の言葉にうーんと唸ってからこちらを向く。

「そんなに頻繁に行うものでもないし。それにこう見えても僕の家はどちらかというと名家だからね。ほら、一族の悲願ってやつ?」

それから、自分で納得するようにうんと頷いて続ける。

「勝ちたいって気持ちはもちろんだけどね。それと同時に勝たせたくないんだ」
「勝たせたくないっていうのは?」

ヨルくんは俺の言葉に、頷く。

「これまでの生活でわかるとおり、僕たち悪魔は今、この世界に存在してる。ご飯も食べるしゲームも出来る。でもこの間見せたように、人間なんかよりよっぽど強いんだ。だから、人を傷付けることだって簡単にできてしまう」

ヨルくんの話に俺は考える。
ドルドを真っ二つにしたヨルくんを。
龍次郎を力で圧倒したヨルくんを思い出す。
戦いに関してしなければただの普通の少年だ。黙っていれば人間に見える。
でもそれは、きっとこの子がいい子だからだ。
俺は、幸せそうにハンバーグを食べるヨルくんを思い出す。
本当に、いい子なんだ。
そして、龍次郎だっていい奴なんだ。
だから俺は、悪魔に悪いイメージが今のところないんだ。
しかしヨルくんは言う。

「ドルドやルジェロみたいに人間に友好的な奴ばかりじゃない。人を傷付けることなんてなんとも思ってない奴もいる」

そしてヨルくんは、決意を改めるように拳を握る。

「そんな奴、野放しにできないよ」
「人を傷付ける?」

俺の問いに、ヨルくんは眉を顰める。

「何か勘違いしているのか知らないけど、僕たちは悪魔だ。そもそも人間とは違う種族なんだよ。当然文化や生き方も違う。倫理観もね」

そして、ヨルくんは真剣な顔で言う。

「ただハンバーグは大変すばらしい文化だと思う」
「…また今度作るよ」

俺がそう言うとヨルくんは「やった」と小声で言ってから居住まいを正して続ける。

「それに人間同士だって、平気で他人を傷付ける奴はいるでしょ?戦いの中で人間が狙われることもあるだろうね。悪魔に戦うための魔力を供給しているのは人間だから。そこを潰せば実質勝ちだし」

そこまで言ってからヨルくんは、

「言うならばそれがデメリットというか。まあリスクだよね」

なんて、小声で付け足すように言った。

「さらっとすごいこと言ってない?」

俺がそう言うとヨルくんは誤魔化すように声を大にして言う。

「大丈夫だよ。さっきも言った通り僕が全力で護る」

俺がじっとりと見つめるとヨルくんは申し訳なさそうに苦笑して、

「まあ色々言ったけど。やっぱり実際に経験してみるしかないかもね」
「経験ねえ」
「うん。今夜。実際に戦うために外に出てみよう」

そう言って立ち上がるヨルくんに、俺は時計を見てから言った。

「その前に行くとこがある」
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