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第一章
4-1. 平穏に悪魔の影を見て
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「で、昨日あんなことしてきたくせに、平然と話しかけてくるってのはどういう神経だと出来るんだ?」
「まあまあいいじゃねえか。昨日も言ったとおり、戦いは大体夜。学校は別だ」
翌日。
いつもの通り学食で昼飯を済ませていると、龍次郎がいつものようなへらへらした顔で対面に同席してきた。
「それに、ルールもなんも知らないうちに不意打ちってのはフェアじゃねえだろ」
龍次郎は昨日のことなどまるで過ぎたことのようにまったく気にしていないようで、こいつにとっては決闘というよりかは喧嘩の延長みたいな感覚だったのかもしれない。
そう言ってカレーをもりもり食べている龍次郎の元に、トレーを持った緋毬もやってきた。
「あ、カツカレーいいな。一口ちょうだい」
「ほらよ」
緋毬は龍次郎の隣に座ると、差し出されたスプーンの一口を口で受け止める。
その様子をあきれながら見ていると緋毬と目が合った。
緋毬はしばらく黙ってもぐもぐとカレーを咀嚼して、しっかり飲み込んでから口を開いた。
「そもそもあたしたち、アサヒと敵対したいわけじゃないからね」
そんなことをあっけらかんと言ってのける緋毬にほんのりと不信感を覚える。
「わかんないな。それこそ昨日の時点でさっさと脱落にも出来ただろ。敵は少ないに越したことはないんじゃないの」
龍次郎はそんな俺の言葉を気にせずカレーを食べ進めていた。
代わりに、とでも言うように緋毬が頭の悪そうな山盛り野菜にフォークを突き立てながら答える。
「それこそ敵は少ないに越したことはないからだよ」
緋毬はサラダから目を離さずに言う。
「龍次郎は、悪魔は全部で何人来てるって言ったっけ?」
俺は答える。
「666」
緋毬はフォークで俺を指して「そう」と切り出す。
「今こうしている間にも数は減ってるだろうけどね。665人全員を相手取るってのはあまりにも現実的じゃないじゃない」
「だから基本的には喧嘩は売らないようにしてんだよ」
もごもごとカレーと食べながらしゃべる龍次郎を頬杖しながら眺めつつ、緋毬は苦笑した。
「別に急ぐ戦いでもないしねえ」
そんな緋毬の言葉になるほどと思う。
666とは言うがそれがすべてこの町にいるわけでもあるまいし。
そもそもこの町だけでも何人人がいるっていう話だ。
期限のようなものもないのなら緋毬たちの考え方もわからなくはない。
俺は言う。
「そういうもんなのか」
緋毬は笑って答える。
「そういうもんなのだ」
そうしてサラダをもさもさと食べ始めた。
話は終わりかと思ったので俺も残りの飯に箸を伸ばす。
「ま、龍次郎の話じゃヨルくんはすごい悪魔みたいだし、露払いも期待してるってのと。ぶっちゃけアサヒが勝つならそれはそれでいいと思う」
そして、なんでもないことののように緋毬がそう言った。
その言葉に思わずギョッとして箸を止める。
「なにそれ」
「だってあんた。大した望みなんてないでしょ」
「そ、そうとは限らないだろ」
「当てて見せようか」
緋毬はそう言って俺の目をじっと見た。
なんだか自分を見透かされているような気がして落ち着かない。
そして口を開く。
「世界平和とかでしょ」
「エスパーかよ……」
俺がそう言うと緋毬はからからと笑って、
「別に馬鹿にしてるわけじゃないよ。あー、まあ、ちょっと筋金入りだとは思うけどね」
そうして龍次郎のカツの最後の一切れをかすめ取って口に入れた。
龍次郎は愕然とした顔で緋毬を見つめた。
俺は聞き返す。
「何が」
絶望に染まる龍次郎に緋毬はペロリと舌を出してから言った。
「だってそうでしょ。あたしたちは悪魔と協力すればなんだってできちゃうのよ?」
その言葉に俺は、首を傾げた。
「勝てれば、だろ」
「ほんとかわいいわねあんた」
緋毬はくすくす笑って、「そういうところが気に入ってるんだけど」なんて言いながら続けた。
「あんな化け物同士の戦い間近で見たのに、“力”があるっていう実感がない」
「……」
なるほど確かに。
考えても見なかった。
悪魔の身体能力は人間の比ではなく。
背に生えた翼は飾りではなく空も飛べる。
そして悪魔は魔力がある限り死なないと言う。
なるほど。確かに。
使い方次第ではなんでもできそうだった。
だが。
俺は家で俺の帰りを待っているであろうヨルくんのことを思い出す。
なんでもできるなんて言うがそれは俺の力ではないし、悪魔の協力が必要なわけだ。
そのヨルくんに、何をさせようというのだろうか。
そもそも元々俺は誰かの力を借りてまでやりたいことなんてないし。
そこまで考えてふと思う。
「そういうお前はなんなんだよ」
「何が」
水の入ったグラスを傾けながら応じる緋毬を見据え、俺は尋ねた。
「叶えたい夢があるから契約したんだろ?」
しかし俺のそんな問いに緋毬は意味深に笑う。
「ふふふ。さあ、どうかな?」
そんな緋毬に俺は、もう一つ問う。
「……幼なじみってのは嘘だったのか?」
龍次郎と緋毬は幼馴染だと聞いていた。
だが、龍次郎は悪魔だった。
そして、ヨルくんの話では契約者は人間しかなれない。
緋毬は人間だ。
なら、二人はいつどこで知り合ったのだろうか。
そう思ったのだ。
しかし緋毬は、
「さあ?」
なんて。
まじめに取り合うつもりがないのかやはりごまかすように笑うのだった。
「でも、これだけは信じて」
それから一転して真面目な顔をする。
まるで今まで見たことがないようなそんな真剣な表情に、背筋を正す。
「あたしたちは、アサヒの友達だよ」
その緋毬の言葉に俺は龍次郎をチラリと見る。
龍次郎も、同じく真面目な顔でこちらを見ていた。
少なくともその言葉に嘘はないように感じた。
そうか。
それだけわかれば今は、それでいい。
そんな俺の気持ちが表情に出ていたのか、龍次郎と緋毬は俺の顔を見て笑う。
そして言うのだった。
「たった二人のね」
「最後のいらなくない?」
昨日も言ったけど友達いないのはお前らもだろ。
「まあ、慣れないうちは慎重に動くなり雑魚狩りで経験を積むなりすると良いよ」
からかうように笑う緋毬。
なんだか急に馬鹿らしくなったのでさっさと飯の残りをかき込んで俺は席を立った。
「ありがたいお言葉どーも」
そうして俺は、楽しそうに笑う緋毬に背中越しにそう伝えた。
「まあまあいいじゃねえか。昨日も言ったとおり、戦いは大体夜。学校は別だ」
翌日。
いつもの通り学食で昼飯を済ませていると、龍次郎がいつものようなへらへらした顔で対面に同席してきた。
「それに、ルールもなんも知らないうちに不意打ちってのはフェアじゃねえだろ」
龍次郎は昨日のことなどまるで過ぎたことのようにまったく気にしていないようで、こいつにとっては決闘というよりかは喧嘩の延長みたいな感覚だったのかもしれない。
そう言ってカレーをもりもり食べている龍次郎の元に、トレーを持った緋毬もやってきた。
「あ、カツカレーいいな。一口ちょうだい」
「ほらよ」
緋毬は龍次郎の隣に座ると、差し出されたスプーンの一口を口で受け止める。
その様子をあきれながら見ていると緋毬と目が合った。
緋毬はしばらく黙ってもぐもぐとカレーを咀嚼して、しっかり飲み込んでから口を開いた。
「そもそもあたしたち、アサヒと敵対したいわけじゃないからね」
そんなことをあっけらかんと言ってのける緋毬にほんのりと不信感を覚える。
「わかんないな。それこそ昨日の時点でさっさと脱落にも出来ただろ。敵は少ないに越したことはないんじゃないの」
龍次郎はそんな俺の言葉を気にせずカレーを食べ進めていた。
代わりに、とでも言うように緋毬が頭の悪そうな山盛り野菜にフォークを突き立てながら答える。
「それこそ敵は少ないに越したことはないからだよ」
緋毬はサラダから目を離さずに言う。
「龍次郎は、悪魔は全部で何人来てるって言ったっけ?」
俺は答える。
「666」
緋毬はフォークで俺を指して「そう」と切り出す。
「今こうしている間にも数は減ってるだろうけどね。665人全員を相手取るってのはあまりにも現実的じゃないじゃない」
「だから基本的には喧嘩は売らないようにしてんだよ」
もごもごとカレーと食べながらしゃべる龍次郎を頬杖しながら眺めつつ、緋毬は苦笑した。
「別に急ぐ戦いでもないしねえ」
そんな緋毬の言葉になるほどと思う。
666とは言うがそれがすべてこの町にいるわけでもあるまいし。
そもそもこの町だけでも何人人がいるっていう話だ。
期限のようなものもないのなら緋毬たちの考え方もわからなくはない。
俺は言う。
「そういうもんなのか」
緋毬は笑って答える。
「そういうもんなのだ」
そうしてサラダをもさもさと食べ始めた。
話は終わりかと思ったので俺も残りの飯に箸を伸ばす。
「ま、龍次郎の話じゃヨルくんはすごい悪魔みたいだし、露払いも期待してるってのと。ぶっちゃけアサヒが勝つならそれはそれでいいと思う」
そして、なんでもないことののように緋毬がそう言った。
その言葉に思わずギョッとして箸を止める。
「なにそれ」
「だってあんた。大した望みなんてないでしょ」
「そ、そうとは限らないだろ」
「当てて見せようか」
緋毬はそう言って俺の目をじっと見た。
なんだか自分を見透かされているような気がして落ち着かない。
そして口を開く。
「世界平和とかでしょ」
「エスパーかよ……」
俺がそう言うと緋毬はからからと笑って、
「別に馬鹿にしてるわけじゃないよ。あー、まあ、ちょっと筋金入りだとは思うけどね」
そうして龍次郎のカツの最後の一切れをかすめ取って口に入れた。
龍次郎は愕然とした顔で緋毬を見つめた。
俺は聞き返す。
「何が」
絶望に染まる龍次郎に緋毬はペロリと舌を出してから言った。
「だってそうでしょ。あたしたちは悪魔と協力すればなんだってできちゃうのよ?」
その言葉に俺は、首を傾げた。
「勝てれば、だろ」
「ほんとかわいいわねあんた」
緋毬はくすくす笑って、「そういうところが気に入ってるんだけど」なんて言いながら続けた。
「あんな化け物同士の戦い間近で見たのに、“力”があるっていう実感がない」
「……」
なるほど確かに。
考えても見なかった。
悪魔の身体能力は人間の比ではなく。
背に生えた翼は飾りではなく空も飛べる。
そして悪魔は魔力がある限り死なないと言う。
なるほど。確かに。
使い方次第ではなんでもできそうだった。
だが。
俺は家で俺の帰りを待っているであろうヨルくんのことを思い出す。
なんでもできるなんて言うがそれは俺の力ではないし、悪魔の協力が必要なわけだ。
そのヨルくんに、何をさせようというのだろうか。
そもそも元々俺は誰かの力を借りてまでやりたいことなんてないし。
そこまで考えてふと思う。
「そういうお前はなんなんだよ」
「何が」
水の入ったグラスを傾けながら応じる緋毬を見据え、俺は尋ねた。
「叶えたい夢があるから契約したんだろ?」
しかし俺のそんな問いに緋毬は意味深に笑う。
「ふふふ。さあ、どうかな?」
そんな緋毬に俺は、もう一つ問う。
「……幼なじみってのは嘘だったのか?」
龍次郎と緋毬は幼馴染だと聞いていた。
だが、龍次郎は悪魔だった。
そして、ヨルくんの話では契約者は人間しかなれない。
緋毬は人間だ。
なら、二人はいつどこで知り合ったのだろうか。
そう思ったのだ。
しかし緋毬は、
「さあ?」
なんて。
まじめに取り合うつもりがないのかやはりごまかすように笑うのだった。
「でも、これだけは信じて」
それから一転して真面目な顔をする。
まるで今まで見たことがないようなそんな真剣な表情に、背筋を正す。
「あたしたちは、アサヒの友達だよ」
その緋毬の言葉に俺は龍次郎をチラリと見る。
龍次郎も、同じく真面目な顔でこちらを見ていた。
少なくともその言葉に嘘はないように感じた。
そうか。
それだけわかれば今は、それでいい。
そんな俺の気持ちが表情に出ていたのか、龍次郎と緋毬は俺の顔を見て笑う。
そして言うのだった。
「たった二人のね」
「最後のいらなくない?」
昨日も言ったけど友達いないのはお前らもだろ。
「まあ、慣れないうちは慎重に動くなり雑魚狩りで経験を積むなりすると良いよ」
からかうように笑う緋毬。
なんだか急に馬鹿らしくなったのでさっさと飯の残りをかき込んで俺は席を立った。
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