飽くまで悪魔です

ごったに

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第一章

3-4. 宴席に戯れを混ぜて

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部屋に戻った俺は、ちゃぶ台を挟む形でヨルくんを向かいに座らせ、詰問をしていた。
尋ねるのは、昨日のこと、先ほどのこと。
この二日間の夜の出来事。
俺が問い詰めると、ヨルくんはまるで悪戯を咎められる子供のように縮こまりながら、答えてくれた。

「整理すると。こことは違う世界には悪魔って呼ばれる種族がいて。この世界で、悪魔を決める戦いをしている、と」

俺が確認のようにそう尋ねると、ヨルくんはこくりと頷いた。

「うん。信じた?」
「そりゃあ、龍次郎のあの様子を見せられちゃねえ…」

そうだ。
昨日のことなら夢で済ませてたかもしれないが、目の前で友人たちが角を生やして翼を生やして。まるで人間には不可能な動きと速さで戦っているところを目の前で見せられたら、事実として認めるしかない。
そこまで考えてから、俺は目の前のちょっと不貞腐れた様子の少年をじっとり見つめる。

「それで? なんで黙ってたの?」
「だって」
「だってじゃないでしょ」

咎める俺に、ヨルくんはぷくりと頬を膨らませた。

「だってえ。聞かれなかったから」
「そりゃ聞かないでしょうよ。実はそんなことしてましたなんて、思いつきもしないよ」
「でもアサヒくん。この間はちゃんと戦ってくれたじゃない」
「この間?」
「ほら、ドルドと。あの体の大きい悪魔とだよ」
「あ、あれは、なんつうか必死だったつうか。実感なかったし。夢かと思ってたんだよ」

昨夜は、戦ったという認識はなかった。
ただいなくなったヨルくんを感覚頼りに見つけ出して、それからぼろぼろのヨルくんに驚いて。
ヨルくんをドルドから引き離すことに必死で何も考えず飛び込んで。
引き抜かれた力、ヨルくんたちが言うところの魔力を吸われる感覚に混乱して、倒れた。
そして起きたらベッドで元通りのヨルくんがいたわけだ。
それが夢だと言われた方が納得する。
しかしヨルくんはまじめな顔で言う。

「夢じゃないよ。悪魔がいることも。悪魔の王を決める為の戦いをしていることも。それから」

そう言って小さな角と翼を生やして、言う。

「僕が悪魔だってことも」

悪魔、ねえ。
そんなもの映画かゲームでしか見たことがないし。
もちろん創作上の生物で、実在なんてしないと思ってた。
それがこれだ。
しかし会った直後のこの少年の醸し出していた、まるでこの世のものではないかのような雰囲気は、確かに人外であると言われれば納得するところもあった。
ただ、俺はヨルくんの話の中で納得がいってない部分もあった。

「…俺と君がその、“契約”をしたってことも?」

ヨルくんの話では、俺は彼と契約を交わしていたらしい。
だからこんな現実味のない戦いに参加することになったらしい。
具体的には俺がハンバーグを手ずから食べさせたことで晴れて契約と相成ったらしい。
思い返せばどおりで施しだなんだと気にしていたわけだ。
なにそれ。

「そう。ちゃんと僕は確認したじゃない。いいのって?」

ヨルくんはそう言うが、ぶっちゃけあの時はただ痛いことを言っている子供くらいにしか思ってなかったわけで。
理解も納得もしていなかったわけで。
俺は目の前の少年をじろりと見る。

「そりゃ詐欺だよヨルくん」
「詐欺でもなんでも。もう契約しちゃったもんね。返品はききませーん」

悪びれずにそっぽを向いて、ヨルくんはぴこぴこと小さい羽根を動かした。
悪魔っつうか小悪魔だな。
だととくだらないことを考えてからため息を吐く。

「しかし、そう言われてもなあ」

要はヨルくんに協力して、他の悪魔と戦え、とのことである。
いきなりそんなこと言われても。その、困る。
だって俺は映画でよく見る元軍人とか伝説の殺し屋とかでもないわけだ。
テレビでぼんやり格闘技を見たことがあるくらいか。
戦え!なんて急に言われても、何をどうすればいいのかもわからない。

「で、俺はどうすればいいの?」

俺が尋ねると鼻高々にどんと胸を張って答えた。

「心配しないでよ。戦いとかは全部僕がやるから。アサヒくんを怖い目にあわせることはない」

その様子を見てさらに漠然とした不安が増す。

「そのドルドって奴にはやられてたのに?」
「あれは、少し油断しただけ」
「いつ龍次郎みたいな奴が襲ってくるかもわからないのに?」
「あ、あいつは特別強い悪魔なんだよ。その辺の有象無象が相手なら僕は負けない」
「ふうん」
「し、信じてないでしょ!? 僕こう見えても結構すごい悪魔なんだからね!」
「どうだか」
「もう!」

頬を膨らませるヨルくんは、まるで本当に見たまんまの少年のようで、こんな子が戦いなんかに参加して本当にいいんだろうか。
そんなことを思った。

「そういえばさっきはありがとねアサヒくん。魔力、助かったよ」

さっき、というのは龍次郎の最後の一撃のことだろうが。
感謝されてもやっぱり必死だっただけで。
まあうまくいってよかったなとは思う。
そんなことを考えているとヨルくんが言う。

「ちょっともらいすぎちゃったし、返すね」

すると、俺とヨルくんの間に光の鎖が現れ、それを辿るように、光がヨルくんから俺に向けて放たれた。
光が俺に到達する。
その時。
魔力を抜かれた時とはまるで正反対の、自分の中に何かを無理やりねじ込まれるかのような感覚が走った。
そして感じる、満腹感のようなもの。

「いやあ、でもほんとアサヒくんはすごいねえ。こんなに魔力を持ってる人間なんてそうそういないよ。さっきだってあれがなければ、」

そこまで言って、ヨルくんが言葉を切った。
目をまん丸に、口をあんぐり開けてこちらを見ている。

「なに?」

俺がそう問うと、ヨルくんは震える声で、言う。

「あ、あさひくん。あた、あたま…」

頭?
なんだろうか。鳥の糞でも引っかかっているのだろうか。
ヨルくんの反応を不思議に思いながらも洗面所に向かって鏡を見る。

俺は愕然とした。

「な、ななななななんで!?」

俺の頭には、まるでヨルくんのような。
まるで悪魔かのように、小さな2本の角が生えていた。

「なにこれ!?どういうこと!?ヨルくんどういうこと!?」
「わわわわからないよとりあえずおおおおお落ち着いてアサヒくん!悪魔だったのアサヒくん!?」
「んなわけあるか!!生まれも育ちも人間界だわ!!」
「だよね!そもそも悪魔だったら僕と契約ができるわけないもんね!じゃあなにそれ!?」
「しらねえよ!きみがやったんじゃないのかよ!」
「そ、そんな、僕はただもらった魔力を返しただけで!…ちょっと僕の魔力混じっちゃったかもだけど」
「絶対それじゃねえか!?」

そんな感じでばたばたしながら夜は更けていった。
少ししたら角は消えたので。
なんというか、あほほど疲れた俺は、とにかく今日はもう寝よう。そう思った。
そして布団に入ると当然のように隣に潜り込んでくるヨルくんに、俺はまた一つため息を吐いた。
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