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第一章
3-1. 宴席に戯れを混ぜて
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バイトを終えて家に帰ると、ドアを開けた直後に随分と騒がしい声が聞こえた。
「ばか! 下手くそ! だからあそこでバフかけとけっていったでしょ!?」
「うるっせえ! 知らなかったんだよあそこで即死級の攻撃くるって!」
ヨルくんと龍次郎がゲームをしているところらしかった。
正確には龍次郎がゲームしているところをヨルくんが横から茶々を入れているところだった。
鼻息荒く声を上げる龍次郎を鼻で笑いながら、ヨルくんが言う。
「嘘ばっか。始める前、これはアサヒくんがやってるの見てたから余裕って言い張ってたじゃん」
「覚えてねえな」
バイトで一通り説教を受けたこともあり、怒る気力も湧かないのでゆっくりと居間に進む。
「何してんのお前ら」
「おー、おかえり」
そう言いつつも画面から目を離さない龍次郎にため息が出る。
上着を適当に脱ぎながら俺は尋ねた。
「お前、どうやって入ったの」
「ヨルが入れてくれた」
龍次郎に言葉にヨルくんに目を向けると、てへっという声が聞こえそうな表情でヨルくんがペロリと舌を出していた。
龍次郎はコントローラから手を離さない。
仕方がないので適当に腰を下ろして画面に目を向ける。
俺が最近買ったRPGだった。
そういえばやってみたいとか言っていたなあ。
ちょうどボス戦のようだった。
ヨルくんと龍次郎はああでもないこうでもないとどのコマンドを選択するかで口論をしていた。
「……なにしに来たの」
「いや気付いたのよ俺。最近お前忙しいじゃん? 遊べないじゃん会えないじゃん?」
そうして龍次郎は笑顔でこちらを見て、言った。
「じゃあ会いに行けばいいじゃん!」
「何言ってんの?」
そう言っている間にまたひとりパーティの仲間が倒されたようだった。
ヨルくんが龍次郎を馬鹿にする。
龍次郎はそれに軽口で返す。
なんだかそのやりとりは気の良い仲間同士の掛け合いのようだった。
ヨルくんも龍次郎も、その表情から悪い気はしていないように見えた。
「てか、随分仲良さそうだけど。知り合いだったの?」
「いんや? さっき初めて会った。な?」
「うん。あー! だからそこは」
こちらに目を向けずに二人ははしゃいでいる。
随分苦戦しているようだ。自分のやっていた時にそんなに大変なボス戦があっただろうか。
つうか勝手に人んちでゲームやってんじゃ……、って。
……俺こんなボス見たことないな?
「……お前それ続きからじゃねえか? 何勝手に進めてんだ!」
俺がそう言うと龍次郎はへらへら笑って答える。
「おう。まさかあの後主人公の父親が死ぬとは思わなったぜ」
なんて、ふざけたことを抜かすのだった。
というかそれネタバレ――――
「あとラスボスは幼馴染だったぞ」
「あー!やめろ!ネタバレやめろ!」
そこまで言って、はたと思い出す。
「ってかそのゲームセーブデータ一個しか作れなくない?」
その俺の声は震えていた。
だが龍次郎はにっこり笑ってこちらを向いて、そして親指を立てて言うのだった。
「上書きしといた」
俺は、龍次郎に飛びかかった。
「ちょ、ゲーム中だぞ!」などと慌てて声を上げる龍次郎を気に止めず、掴みかかった勢いで押し倒しながら、俺は叫んだ。
「おっまえ! どうすんだよお前! 俺の楽しみ奪ってんじゃねえぞおらー!」
そこで不意にガチャンとドアが開く音。
あれ?俺鍵閉めてなかったっけ。
などと意識を奪われている間にドカドカと音を立てて歩いてくる侵入者。
その侵入者はなんとも気の抜けた声で楽しそうに言うのだった。
「やー。遊びに来たよー」
目を向けると、両手にビニール袋をぶら下げた緋毬がいた。
「……ん?」
緋毬は少しの間こちらを見て、それから気付いたかのように焦りながら自分の顔を両手覆った。
「ちょ、や、やめてよまだ明るい時間なのにいやらしいっ! アサヒのえっち!」
「え、何言ってんのお前」
「とぼけないでよ」
指の間からこちらを伺いながら緋毬は言う。
「龍次郎とまぐわう所だったんでしょ? 隠さなくていいわよ」
「ほんと何言ってんの!?」
思わず漏れた緋毬へのツッコミにしかし反応があったのは、後ろからだった。
驚愕に目を見開き、今にも膝から崩れ落ちそうな表情のヨルくんが叫ぶ。
「そんな!? 僕というものがありながら、浮気!?」
「浮気とは言わない!!」
そもそもヨルくんをそんな目で見たことはない!
……いやちょっとあるが!そういうのではない!
というかそう言う関係じゃない!龍次郎ともそういう関係じゃない!
そんな俺たちを見て震える女が一人。
「え、ちょっとやだ。そんな、そんな関係だったのあんた達。だから隠してたのね? 自分の愛する弟の存在を。え、ってことは何。修羅場? ちょ、やめてよあたし純愛派なのに」
その震えは、歓喜の震えだったらしい。
「修羅場でも純愛でもねえよ!」
「あ、待って。動かないで」
そう言いながら携帯を構える緋毬。それからぱしゃりという間抜けな音が居間に響いた。
「……なに撮ってんだテメエ」
「いや、もうホント、気にしないで。私のことは植物かなんかだと思って。……どうしたの?」
呆然とする俺たち3人に緋毬は悠然と、そして堂々と告げる。
「続けなさい!」
「続けない!」
呆れたようにため息を吐くと龍次郎は言う。
「つうかなんだヒマリまでどうしたんだよ」
そこでようやく緋毬は思い出したかのように、ビニール袋を掲げ言うのだった。
「肉、食おうよ」
「ばか! 下手くそ! だからあそこでバフかけとけっていったでしょ!?」
「うるっせえ! 知らなかったんだよあそこで即死級の攻撃くるって!」
ヨルくんと龍次郎がゲームをしているところらしかった。
正確には龍次郎がゲームしているところをヨルくんが横から茶々を入れているところだった。
鼻息荒く声を上げる龍次郎を鼻で笑いながら、ヨルくんが言う。
「嘘ばっか。始める前、これはアサヒくんがやってるの見てたから余裕って言い張ってたじゃん」
「覚えてねえな」
バイトで一通り説教を受けたこともあり、怒る気力も湧かないのでゆっくりと居間に進む。
「何してんのお前ら」
「おー、おかえり」
そう言いつつも画面から目を離さない龍次郎にため息が出る。
上着を適当に脱ぎながら俺は尋ねた。
「お前、どうやって入ったの」
「ヨルが入れてくれた」
龍次郎に言葉にヨルくんに目を向けると、てへっという声が聞こえそうな表情でヨルくんがペロリと舌を出していた。
龍次郎はコントローラから手を離さない。
仕方がないので適当に腰を下ろして画面に目を向ける。
俺が最近買ったRPGだった。
そういえばやってみたいとか言っていたなあ。
ちょうどボス戦のようだった。
ヨルくんと龍次郎はああでもないこうでもないとどのコマンドを選択するかで口論をしていた。
「……なにしに来たの」
「いや気付いたのよ俺。最近お前忙しいじゃん? 遊べないじゃん会えないじゃん?」
そうして龍次郎は笑顔でこちらを見て、言った。
「じゃあ会いに行けばいいじゃん!」
「何言ってんの?」
そう言っている間にまたひとりパーティの仲間が倒されたようだった。
ヨルくんが龍次郎を馬鹿にする。
龍次郎はそれに軽口で返す。
なんだかそのやりとりは気の良い仲間同士の掛け合いのようだった。
ヨルくんも龍次郎も、その表情から悪い気はしていないように見えた。
「てか、随分仲良さそうだけど。知り合いだったの?」
「いんや? さっき初めて会った。な?」
「うん。あー! だからそこは」
こちらに目を向けずに二人ははしゃいでいる。
随分苦戦しているようだ。自分のやっていた時にそんなに大変なボス戦があっただろうか。
つうか勝手に人んちでゲームやってんじゃ……、って。
……俺こんなボス見たことないな?
「……お前それ続きからじゃねえか? 何勝手に進めてんだ!」
俺がそう言うと龍次郎はへらへら笑って答える。
「おう。まさかあの後主人公の父親が死ぬとは思わなったぜ」
なんて、ふざけたことを抜かすのだった。
というかそれネタバレ――――
「あとラスボスは幼馴染だったぞ」
「あー!やめろ!ネタバレやめろ!」
そこまで言って、はたと思い出す。
「ってかそのゲームセーブデータ一個しか作れなくない?」
その俺の声は震えていた。
だが龍次郎はにっこり笑ってこちらを向いて、そして親指を立てて言うのだった。
「上書きしといた」
俺は、龍次郎に飛びかかった。
「ちょ、ゲーム中だぞ!」などと慌てて声を上げる龍次郎を気に止めず、掴みかかった勢いで押し倒しながら、俺は叫んだ。
「おっまえ! どうすんだよお前! 俺の楽しみ奪ってんじゃねえぞおらー!」
そこで不意にガチャンとドアが開く音。
あれ?俺鍵閉めてなかったっけ。
などと意識を奪われている間にドカドカと音を立てて歩いてくる侵入者。
その侵入者はなんとも気の抜けた声で楽しそうに言うのだった。
「やー。遊びに来たよー」
目を向けると、両手にビニール袋をぶら下げた緋毬がいた。
「……ん?」
緋毬は少しの間こちらを見て、それから気付いたかのように焦りながら自分の顔を両手覆った。
「ちょ、や、やめてよまだ明るい時間なのにいやらしいっ! アサヒのえっち!」
「え、何言ってんのお前」
「とぼけないでよ」
指の間からこちらを伺いながら緋毬は言う。
「龍次郎とまぐわう所だったんでしょ? 隠さなくていいわよ」
「ほんと何言ってんの!?」
思わず漏れた緋毬へのツッコミにしかし反応があったのは、後ろからだった。
驚愕に目を見開き、今にも膝から崩れ落ちそうな表情のヨルくんが叫ぶ。
「そんな!? 僕というものがありながら、浮気!?」
「浮気とは言わない!!」
そもそもヨルくんをそんな目で見たことはない!
……いやちょっとあるが!そういうのではない!
というかそう言う関係じゃない!龍次郎ともそういう関係じゃない!
そんな俺たちを見て震える女が一人。
「え、ちょっとやだ。そんな、そんな関係だったのあんた達。だから隠してたのね? 自分の愛する弟の存在を。え、ってことは何。修羅場? ちょ、やめてよあたし純愛派なのに」
その震えは、歓喜の震えだったらしい。
「修羅場でも純愛でもねえよ!」
「あ、待って。動かないで」
そう言いながら携帯を構える緋毬。それからぱしゃりという間抜けな音が居間に響いた。
「……なに撮ってんだテメエ」
「いや、もうホント、気にしないで。私のことは植物かなんかだと思って。……どうしたの?」
呆然とする俺たち3人に緋毬は悠然と、そして堂々と告げる。
「続けなさい!」
「続けない!」
呆れたようにため息を吐くと龍次郎は言う。
「つうかなんだヒマリまでどうしたんだよ」
そこでようやく緋毬は思い出したかのように、ビニール袋を掲げ言うのだった。
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