雷獣

ごったに

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 あれから一か月が経った。

 とっくに退院を済ませ、俺はもう学校へ復帰している。

 ギプスとも松葉杖ともお別れを済ませた。

 もう昼休みに明代の介添えなしで、メシも食える。

 箸が使えるまで回復したから、うどんもラーメンもかつ丼も食える。

 ちなみに今日は、まぐろの漬け丼を食った。

 常人のほぼ半分の期間で動かしても良い状態になっている、と主治医から驚かれたっけな。

 あと二か月もすればスポーツや戦闘任務も、問題なく行えるとのこと。

 別にスポーツはやらないけど。

 だが雷獣の脅威がなくなったわけでもないし、またいつ在日新ライス軍みたいなのに狙われるかもわからない。

 骨折が完治し次第、戦闘訓練を受けてもらうと四方津から言われた。

 自分でまた骨を折るのは心理的に抵抗があるから、主治医を攻略できんものか。

 どうにか「やっぱり完治に一年かかります」と言わせらんねぇかなぁ。

 怠け心から、身体の治りの早さには複雑なものを感じている俺だが。

 世界が災禍から立ち直ろうとしているのは、素直に喜べる。

 エルマー前大統領の暴走を受け、放電暴力への目が世界的に厳しくなった。

 ライス共和国は現在、前大統領の尻拭いに必死だ。

 当のエルマーは投獄され、禁固三〇〇年だとか。

 その荒唐無稽な数字に何の意味があるのかは、わからないけど。

 日本からの賠償請求もあるし、よくよく反省してくれ。

 国旗も稲妻鉤十字から元のものに戻ったが、それでエルマーとやつを放置したかの国の罪が消えるわけではない。

 後任の大統領は完全に貧乏くじを引かされた感じで、ちょっと可哀想だ。ニュースで見る度、痩せているように見える。

 国際的にライス共和国が信用や影響力を大きく落としたことで、良からぬ動きをする国が出なければいいのだが……。

 また別に、一般の放電犯罪者への対策も大きく向上した。

 特に、逮捕するための道具の絶縁性能とそのコストカットは日進月歩だ。

 女力発電所のキャプチャー弾が警察にも配備される、なんて話も聞く。

 信号弾発射用の拳銃を改良するとかで、さすがにロケランでは撃たないみたいだが。

 関連企業の株とか絶対買い目だろうなぁ。元手も知識もないから、詳しくは知らんけど。

 世の中が変化したときに求められるものといえば、それに関連する法律だ。

 放電無罪などと揶揄された頃とは、もう違う。

 議会など公共の場で少しでも不要な放電をすれば、暴行罪。

 この当たり前が徹底されるようになって、胸を撫で下ろした男性は多いだろう。

 また、男は強いから弱い女からDVを受けるわけがない、という価値観も見直されてきている。

 放電DVが社会問題として表出したからだ。

 似たものでは、放電性犯罪もなかなか深刻だ。

 中年女が少年を電撃で痛めつけて強制性交をし、妊娠出産。少年を望まれない子供の父親にしてしまう、卑劣な犯罪が頻発している。

 前に四方津から在日新ライス軍の悪行の一つとして聞いたのと同じ犯罪。それが日本人によってなされているのは、嘆かわしい限りだ。

 そういった背景もあり、以前より男性がDV被害に対して声を上げやすくもなった。

 これら犯罪を巡る変化をどう評価すべきかは、わからない。

 被害者が救済されやすくなったのなら、それはいいことだろうけど。

 最近話題なのは、離婚した際の子供の親権問題か。

 女性の方が子供の親権を得やすかった旧来の慣習を、変えようという動きが活発だ。

 実際、母親による放電虐待で子供が黒焦げにされる、なんて事件も聞く。

 メディアは若干、そんな母親の犯罪を過剰に取り上げているきらいがあるから、そこは気になるのだが。

「おーい、辰雄!」
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