エセエッセイ

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【一皮むけた実話】

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【9/16】Day1【入院日】

普段は車で行く病院にバスを乗り継いで行く。

バスは未だに乗るのがヘタクソで、近からず遠からずの所で降り、結局徒歩で行く。

この日は祝日で緊急外来の出入口から入る。

いつもの喧騒がウソみたいにシーンと静まり返っている。

受付時間まで10分あったので、食べ損なっていたお昼を院内の売店で買って胃に掻き込む。

受付を済ますと書類を渡され、病室を案内される。

そして告げられる衝撃の言葉。

「今日はお夕飯が出ますが、明日は1日出ません。飲み物は明日、許可が出た後に水かお茶なら飲めます。」

な、なんだってーーーッ!?

普段ドカ食いするくらい食べる自分が明日は絶食だって??

さすがに心とおなかの準備をしてなかったのでその言葉を聞いた瞬間、食べたばかりのハズなのにおなかが空いた。

この日はまだ何もしていないのでただダラダラとベッドの上でスマホをいじり倒して1日が終わった。

正確には約12時間後に効果が現れるという下剤を飲んだ。

枕が変わると中々寝れないので日にちは跨ぐことになったがそこでやっと意識が途切れた。




【9/17】Day2【手術日】

朝5時頃に目が覚める。

そういえば水を飲んで良いのが朝6時までだったなと昨日の説明を思い出したので、義務的にコップ2杯分を一気に飲んだ。

その後看護師さんが朝の見回りの際に説明をしてくれた。

「聞いていると思いますが今日は絶食になります。あと、この後浣腸をしますので手術着とT字帯を着て待っていてください。8時30分までによろしくお願いします。」

そう言いながら検温や血圧を測り終え、他の患者さんのところに移動していった。

絶食……。

浣腸……。

子どもの頃に1回やったことあるけど、今回もやるのか。

そう思っているとわりとすぐに再度看護師さんが来て、自分は情けなくお尻を出して浣腸をしてもらった。

昔浣腸をした時は「浣腸後は5分待て」と言われたので一応待つ時間を聞くと

「便意がきたらすぐに行ってもらって大丈夫ですよ。」

と言ってもらえた。

それでも3分くらいは耐えて、そしてトイレに駆け込んだ。

そもそも朝の水の一気飲みで浣腸前からおなかが少し痛かったのもあり、ブーストが掛かった。

トイレも終わり、今か今かとベッドの上で待っていると看護師さんから声が掛かる。

言われるがまま看護師さんに付いて行き、気付けばオペ室の中のベッドに横たわっている。

まずは左腕を差し出し、点滴を打つ。

次に背中に何かをガーゼのようなもので塗られているのか、拭かれているのか、とにかくさすられている。

そしていよいよ初めての麻酔。

「背中に刺しますね~。」

自分の背中が少し強張ったのがわかったが、それと同時にチクリッと鋭い痛みが一瞬走った。

麻酔の先生は氷の入った袋を自分の胸から順々に足に向けて当てながら

「冷たいのがわかりますか~。」と聞いてくる。

最初の方は何も変わらなかったが、次第に足が痺れてきてそのまま腰から下の感覚がなくなった。

もちろん冷たさも全く感じなくなった。

上半身は何も変わらない自分に麻酔の先生は「眠くなる麻酔は入れますか」と尋ねてくる。

「お、おまかせで。」

と定食屋のようなオーダーをしてしまったが、そうすると麻酔の先生は

「わかりました~。では一応打っておきますね~。」

と言って、多分背中に刺したのだろう。

すでに痛みはなかった。

そして瞬きをしたような、自分の中では一瞬の時間感覚だったのだが、名前を呼ばれて

「はい。」

と返事をすると、すでに手術は終わっていた。

自分はハッキリ意識があるつもりだったが、ストレッチャーで自分のベッドに戻されていること以外の景色は何も覚えていないしわからなかった。

仰向けで天井しか見えなかったことと、今思えばなんだかんだ意識が朦朧としていたのだろう。

腰から下の下半身は全く動かなかった。

少し眠くなる麻酔も身体に残っているせいなのか身体が怠く、1日ほぼ寝たきりかベッドの上半身部分だけリモコンで上昇させて背もたれにして座って過ごした。

顔には酸素マスクが装着されていた。

左腕は先程の点滴が繋げられ、袋もいくつか増えていた。

胸にはおそらく心電図の吸盤みたいなコードが機械に繋がれていた。

下半身には知らない間にカテーテルが突っ込まれており、意識しなくても尿が勝手にベッド横下の袋に溜まっていた。

両足にはフットマッサージャーが足枷のように付けられており、麻酔で動けない下半身を壊死させないように血流を動かしていた。

そう、文字通り身動きがほぼとれなかった。

辛うじて動くのは右手と首から上のみだったので、とりあえず有線イヤホンをスマホに挿してひたすら何かを聴いていた。

長い永い1日だった。

ずっと仰向けだったので後頭部や背中が痛くなるが動けないので、できることといえばベッドをリモコンで動かすくらいだった。

定期的に看護師さんが様子を見に来てくれて、その度に点滴の袋の差し替えとカテーテルの袋を取り替えてくれた。

全然先の話だと思っているが、いつ介護が必要になる生活になるかわからない。

そんな中での完全介護は改めて色々と感じるものがあった。

「すいません。」

「ありがとうございます。」

右手と首から上しか動かせない自分にはこの言葉を言う他なかった。

夕方頃になって足の指をゆっくりだが「ぐーぱー」と動かせるようになってきていた。

そして夕方最後の担当の先生の巡回、様子を見に来てくれた際に

「今の状況で何か聞きたいことはありますか。」

と聞かれたので自分は

「い、いつから食事を摂っても良いですか……。」

と尋ねた。

先生は笑いながら

「そうですよね。朝から何もおなかに入れてませんもんね。わかりました。夕食からオッケーにしましょう。水もその時から自由に飲んでいただいて大丈夫です。」

もはや食べることしか頭になかった自分は重ねて先生に尋ねる。

「夕食が足りなかったら売店で補食を買っても良いですか。」

と聞くと先生は

「それは退院までダメです。がんばってください。」

と答え、颯爽と立ち去ってしまったのだった。

そして待ちに待った夕食。

普段なら呼吸をするようにたいらげるところなのだが、身体はゆっくりした動作しかできなかったので結果として時間を掛けて食べることになり、そのおかけで意外と満腹感を得られた。

食後から翌日まではぼーっとベッドの上で過ごした。

ずっと寝ているので眠くなく、だからといって身体は思うように動かず、ただでさえ働いていない頭もさらにモヤが掛かったように働いていなかった。

ただ時間が過ぎるのを待った。

途中途中で看護師さんが見回りに来てくれて、必要な時は淡々と各種袋を足し引きしてくれた。

そうこうしている内にまた眠りについた。




9/18【Day3】退院日

起床時間より1時間早く起きた自分は、眠る前の自分よりも身体や頭が動いていることがわかった。

相変わらず色々繋がっていたが、足が動くようになっていた。

早速ベッドを動かして背もたれ状態にして、足を胡座の形にする。

太ももの筋肉が伸びる感覚が気持ち良い。

改めて足が動くことの喜びを感じた。

何はともあれ退院日ということで気持ちがソワソワしていた。

前日の頭の働きがウソのようにスマホで何を調べるべきか、何を観ようか等が次々と浮かび、それに対して指が追い付いた。

そうこうしている内に看護師さんが起床時間になった、ということで巡回を始め、様子を見た際にカテーテルとフットマッサージャーを外してくれた。

カテーテルを抜く時に少し身体の奥が痛かった。

できればもうカテーテルはしたくないとも思った。

何というか、色々と痛かった。

足も軽くなり、トイレにも言って良いということで早速ベッドから足を下ろすと痛い。

下半身が痛い。

麻酔も抜けたのでここに来て痛みが伝わった。

ひりつくように痛いしズキズキする。

そして酸素マスクも外れていたので心電図のコードと点滴をガラガラと持って、ペンギン歩きで広めのトイレに入った。

そこでT字帯を見ると所々血が滲んでおり、それを外すとグルグルに巻かれた血だらけのアレの包帯を初めて見る。

この包帯を取って良いのか。

でも取らないと用は足せないし。

いつかは取らないといけないなら、やはり今取るしかない!

そう決心して包帯を取ると、2日前の面影はなくなり、また術後ということもあり、めちゃくちゃグロくなっていた。

所々血と謎の液体が付いており(リンパ液とかなのかな)、めためたに腫れていた。

また部分部分で縫合されており、黒と白の糸の縫い目がさながらフランケンシュタインの怪物のイメージで浮かぶ、あの縫い目であった。

もちろん全部触ると痛い。

というか見てるだけで痛い。

自分、こいつといっしょにこれから暮らすん?という気持ちだった。

初めましてこんにちは。

これからどうぞ仲良くしてください。

そういう気持ち。

ご対面後もペタペタとペンギン歩きでベッドに戻り、なるべく痛くない体勢で少し過ごすと朝食が出た。

点滴状態だけど、スムーズに動く身体は素晴らしい。

美味しくいただきました。

そして朝食後に先生の朝の巡回があった。

担当の先生は今日はお休みということでまともにお礼も言えなかった。

「何か質問ある?」

代わりに来てくれた先生は髪が気持ち長い茶髪で、担当の先生の先輩か上司らしく、呼び捨てだった。

口調も何か軽い。

「先生、これ、どういう状態なんですか。」

「あー、これは腫れているだけだから大丈夫。時間が経てば治まるよ。」

「その間は塗り薬や飲み薬はあるんですか。」

「うーん、その指示書を見る限り無いねぇ。」

「えっ、何も無いんですか。」

「そうだねー、ないねー。」

「お風呂はどうしたら良いですか。」

「湯船に浸かるのはしばらく無理かなー。医者のGOサインが出るまでは禁止ー。」

「じゃあシャワーは……?」

「シャワーはオッケー。ソコは勢いよく当てなければお湯を当てても良いよー。まぁ手でお湯を掛けるくらいなら大丈夫って感じかなー。上がったらやさしく水気を取ってねー。」

「わ、わかりました。」

「まっ、あとはまた何かあったら病院に電話か外来で来てよー。では、お大事にー。あ、退院手続きはこの後看護師さんが来るからそこで聞いてねー。」

そう言って颯爽と立ち去ってしまった。

ここの病院の先生は颯爽と立ち去る決まりでもあるのだろうか。

そんなこんなでペンギン歩きで荷物をまとめた。

来た時の服を着ただけなのがキツく感じる。

もちろん痛い。

そして手術と入院をした割には破格の値段の会計を済ましてお昼時の病院を後にした。

イチモツ、いや、一抹の不安を抱えながら。

【終】
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