優しい人

mami

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日高明希

11.

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勉強に、休み時間を半分程使ったところで、やっと脳内に高橋がチラつかなくなった。
スラスラと問題を解き、間違えがないか確認していく。
まる…まる…まる…まる……よし、全問正解。
この辺はもう大丈夫かな。後は、数学の問題集をしたら丁度いい時間だ。

やっていた教科書やノートをまとめ、机にトントンと合わせる。
勉強をしていると、変な事を考えずにすみ心が落ち着き、本来の自分を取り戻せたような気になる。
あぁ、このまま昨日の事を忘れてしまいたい。
そんなことを思っていると、また高橋の顔がチラつきだす。忘れたいと思えば逆に意識してしまうからいけない。無にならなくては。
脳から高橋を追い出すように頭をふり、心からモヤモヤを出すように、ため息をついた。

鞄の中に、全ての教材をしまい込もうとしたところで、教室に何人かの生徒が他のクラスから帰ってきた。
何やら、三階にあるクラスの生徒に借り物を返しに行っていたらしく、ワイワイと話しながら教室へと入ってくる。
何と無しに、その話を聞いていたら一人の生徒が耳を疑うような事を言い出した。
その驚愕の内容に、手に持っていた教材などを全て床にすべり落としてしまう。

「わわ、大丈夫か日高」
床にバサバサっと落ちる音に、隣の席の秋原が心配して声をかけてくれる。
「あ…あぁ、大丈夫」
驚きで顔を強張らさせながらも何とか答える。

それよりも先程の話の内容が気になる、俺の耳がおかしくなければ、あいつらは高橋の話をしていたように思う。しかも、高橋が今「三階の教室を調べ歩いてる」だとか「誰か探してる」だとか、聞捨てならない内容ばかりだ。
まだ話は続いているようで、そちらに意識を集中させる。

「何か真面目そうな奴ばっか意識してみてたけど、何の用なんだろうな?」
「あれだろ、いいカモでも見つけてんじゃねぇーの?」
「あぁ!なるほどね」
そう言って、ゲラゲラと笑い合う。

俺の方はというと、そいつらの会話に顔は青ざめるは、冷や汗がでるはで大変だ。笑いごとでは無い。

昨日の今日で、高橋がそういう行動を起こすということは
、俺の頭脳をフルで使って考え直してみても、俺を探しているかもしれない。という確率がずば抜けて高い。
いや、今の真っ白な俺の頭ではそうとしか思えない。

どうしよう………俺が同じ学校の生徒だってバレた?何で?てゆーか、何で探されてるんだ?やっぱりキレてるのか?探してるってことは、名前とかクラスは分かってないってことだよな?じゃあ、どこまで気づかれてるんだ??いつ気づいた?てか気づくの早くないか?

ポンっと一つ疑問が浮かべば、真っ白だった頭の中に、一瞬にして沢山の疑問が浮かびだす。

今、三階の教室を見てるって事は、そのうちこのクラスにも来るってことなのか?

これは…まずいことになった。

「日高、本当に大丈夫か?」
青を通り越し、白くなってきた顔でフリーズしている俺をみて、秋原が再度声をかけてくれる。

「え?あ……あぁ。大丈夫だと思う」
体の動き自体もフリーズしていたようで、床にはまだ教材が散らばっている、何とかかき集めて鞄にぶち込む。
鞄の中でグチャグチャになった教材達を秋原は眺め、どう考えても正常じゃ無いと判断したのか「体調悪いなら保健室行く?」と言う。

秋原の提案に、光がさした。
保健室……そうだ、保健室に逃げよう、あわよくばそのまま帰ってしまおう。高橋も一日探して居なければ諦めてくれるかもしれない。

「秋原……」
「な、何?日高」
不振な行動をとり続けている俺に戸惑いながらも、微笑んでくれる秋原が天使に見える。
今まで、勉強ばっかりしてて、あんまり話したこと無かったけど秋原っていいやつだ。

「保健室行ってくる」
俺がそれだけ伝えてのっそりと、席を立つと「お、おう。ついてかなくて大丈夫?」と、天使秋原は言ってくれる。
「ありがと、大丈夫」
心配してくれる優しさに嬉しくて、目を細めて礼を言い、教室の扉へと足を進める。


保健室へと続く廊下をいつもより早いペースで歩き、頭の中を整理しようと考える。
取り敢えず、あの教室にいるのは危険だ、いつ高橋が来るかわからない。
今日は、やはり早退させてもらうしかないな、それが一番安全だろう。保険医には何と言おうか、何とか、すぐに帰してもらわないといけない。

保険医への言い訳を、何通りか考えて保健室の扉をあける。





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