優しい人

mami

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日高明希

10.

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―日高明希―








教室からは男女問わず若さに満ちた沢山の声が響く。
昨日放送されたドラマの話、最近流行りの音楽の話、どの話題も俺にはついていけそうになくて、雑談は騒音にしか聞こえない。
両耳をシャットダウンしながら、昨日の事を思い出す。

高橋と会って、犬を保護して、警察に連れていって…。
考えを巡らせ、静かな公園での出来事を思い出し、顔が赤くなる。
人前であんなに泣いてしまったこととか、高橋の手とか、
恥ずかしすぎる、昨日の俺は本当に変だった。
よりにもよって、あの高橋とあんな感じになってしまうなんて。今まで、なるべく関わらないように生きてきた人種だ。
確かに、高橋はいい奴だった。けど、それとこれとは話が別だ。いや、寧ろいい奴だったからこそ、避けていかなきゃいけない気がする。
これ以上関わると、俺の心が乱れてしまう。
あんな短時間一緒にいただけでも、俺の心は乱れまくった。その結果あんなに号泣するはめになったのだ。
恐ろしい奴だ……
それに、高橋はどういうつもりか俺の顔見てかわいいとかなんとかいってくるし、、、
めちゃくちゃ頭触ってくるし、、、
高橋は一体どういうつもりなんだろう、でも高橋が友達と抱き合っているところをよく目撃するので、もしかしたら、ああゆう不良っぽい人たちはスキンシップが激しいのかも知れない。

高橋、かっこよかったな、、、

色々と思い出してしまって顔が熱くなってしまう、少しでも温度を下げるため赤くなった目元を、手の甲で抑え、ふ~っと息を吐いてみたが、体温が変わる事は無かった。
俺やっぱおかしいよな…
もう、これ以上は考えないようにしないと。早くいつもの自分を取り戻さなければ。

それよりも、これからの事を考えていかなくてはいけない。
高橋と学校で出くわす事は、どうしても避けなければ、せめて高橋が昨日の事を忘れるまでは。
まぁ、高橋がクラスに顔を出すなんてめったにないので、何とかなるとは思うが。

ただ、もし昨日の奴が俺だって分かったら…
高橋のせいでもあるが、俺は高橋に自分が拓馬君だって嘘ついてしまっているし、嘘に気づいた高橋はどう思うだろう。もしかしたらキレられるかもれない。
逆にもし、学校でもあんなフレンドリーに話かけられたら、どうしよう、生徒からもだが、教師にまで何か誤解をうみそうだ。カツアゲされてるんじゃないかとか、グレたんじゃないかとか、教師から親の耳に入ることだけはどうしても避けなくては。
あとは、やはり…高橋といるとおかしくなってしまうから。勉強に手がつかなくなるかも知れないのは困る。あんなスキンシップをまたされたらたまったもんじゃない。
やはり、何とか高橋との関係は、無かった事にしなくては。

悶々と考えていると、シャットダウンしていた耳にある言葉が入ってきた。

「さっきさ~廊下に高橋がいてさ」
「え?今日、もう来てるんだ早くね?」

ビクッ。
高橋とゆう名前に反応してしまう。
そういえば確か、昨日の別れぎわに今日は学校に来るといっていた。
もう、登校したのか。
つまり、相川健人にはもう、会っているかもしれないということだ、そうなると俺が相川弟の拓馬君じゃないって事は必然的にわかるだろう。
少しの不安がうまれる。
いや、でもそれが分かった所で、俺に結び付くわけではない。
俺が避けなくてはいけないのは、高橋とばったり遭遇してしまうとゆうことだけだ。
それさえ気を付けていれば、後は時間が解決してくれるはず……

取敢えず勉強に集中しよう、もうそろそろ休み時間が終わってしまう。

頭の中を切り替えている時にちょうど良くチャイムが鳴る。
結局、勉強できなかった……
次の教科は確か公民だったかな、鞄から教科書やノートをとりだし授業を受ける準備をする。
教室でバラけていた生徒たちも、席につき、無人の机がちらほらと所有者を向い入れている中、斜めまえの机だけはいつまでたっても主を向かえることはない。
だからといってそのことを教師が指摘することもなく、授業は始まる。

授業の内容は、もうすでに頭に入っている事ばかりで、軽くおさらいをするつもりで教師の話を聞く。
この教師は、よく授業の内容から逸れ私的な事を話し出すので、苦手だ。
今日は特にひどく、何やら最近買ったテレビの写りに早くも異常が出たらしく、そのことで授業の半分が終わりそうだ。
あぁ…時間がもったいない。
俺が内心そう思っている事など知らず、教師の話はテレビの話題から、最近観た映画の話へと移っていった。
「いや~あのサメが接近してくるシーンなんて、こっちの心臓まで止まりそうになったな。あの映画を観たあと、こっそり嫁はんの着信音をあのメロディーに変えて……」
教師の雑談の途中で休み時間のチャイムが鳴る。
あんなに話を盛り上げていた教師はチャイムが鳴ると、話のオチも話さずそそくさと教室を出ていった。

教師が出ていくと同時に、また教室は賑やかになり、何人かの生徒は他の教室へ顔を出しに出ていった。

俺は机に、参考書やノートを広げ、先程の休み時間にできなかった分も取り戻そうと、黙々と勉強を始めることにし、高橋のことを考えるな、考えるな、と心に言い聞かせながら、必死にペンを動かした。
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