優しい人

mami

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高橋斗真

8.

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この学校の2年の教室は、二階と三階に分かれていて。屋上からの流れで、取り敢えずは三階にあるクラスから見ていくことにする。

休み時間の教室は賑やかで、噂話や恋バナに花を咲かせる奴、隣の席の奴と雑誌を見ながら雑談する奴、クラスから離れ勢力範囲外の場所で存在をアピールするかのように騒ぐ奴、携帯で動画を見てる奴、机にうつぶせて寝る奴。皆、それぞれ好きなように時間をつぶす中、何人かの生徒は休み時間にも関わらず、机に教科書やノートを広げ勉強している。

きっと、あいつが居るとしたらあんな感じだろうな。
一人席に座って黙々と勉強している姿が容易に想像できる。
変にうろちょろしなさそうなのは、不幸中の幸いだろう。

机にへばりついている奴を一通りチェックし、クラス全体を見渡すが、目当ての人物は確認できない。休み時間も限られているため、早々に切り上げ次のクラスへ行くことにする。

隣のクラスも、先ほどとさして代り映えはなく賑やかだ。
先ほどと同じように見ていこうと机に座っている奴を探しているところへ、聞き覚えのある声がかかり、意識を削がれる。

「斗真?」
「あぁ、みきか久しぶりだな」
声をかけてきた人物に内心、面倒だなとゆう考えがよぎる。
みきとは1年の時に少しの間、付き合っていた。俺は、結構みきのことを大事にしていたつもりだったが、何が勘に障ったのか向こうから突然別れを切り出された。
ある日、みきが合コンに行ってもいいかと、伺いを立っててきたときに。ひとつ返事でOKをだした事が決めてだった、とのことだ。
まぁ、何となくみきの言い分もわかる。好きな奴に全く執着心をもたれなければ不安にもなるだろう。
だからといって嘘の感情で繋ぎとめようと思えるほど俺の気持ちは強くなかった。
別れを告げられた時もあっさりしたもんで、何の感情も出ない事に自分でも驚いた。

付き合っていた頃、好きだと囁いていたあの言葉は一体どこから来ていたのだろうか、とか
そもそも恋愛感情なんて自分にあるのだろうか、とか色々と考えさせられた。

答えはまだわからない。ただ、みきのことを心から愛してはいない。あの時も、そしてこれからも
、みきへはそんな感情は浮かばないと思う。

「斗真がこのクラスに来るなんて、珍しいね。どうしたの?」みきは上目遣いに聞いてくる。目の裏には期待の色が少し見える気がする。
その期待に答える素振りを全く見せぬよう、教室を見渡しながら「ちょっと人を探してて」と言い、あいつに似た影がないか探す。見当たらない。

「ここには居そうにないから、俺もう行くわ。じゃあ元気でな」
そう言い、立ち去ろうとしたがみきの手が俺の袖を引く。
「あっ待って、斗真」
「ん?なに?」
「斗真ってさ、今彼女とかいるの?」きみは恐る恐る聞いてくる。
「いや、いないけど?」その言葉を聞いたみきは、顔をほころばせながら「あのね?私もまだいないんだよ?」と訴えてきた。
「あ、そうなんだ。じゃあお互い頑張んなきゃだな」口調を少し明るめて言いながら、やんわりと袖にかかったみきの手をどける。
あからさま過ぎただろうか。でも、もうそろそろ授業開始のチャイムが鳴ってしまう、それまでにもうひとクラス位は見ときたい。
「え…あ、うんそうだね」俺の拒絶を感じたのか、手を引き顔を曇らす。
少し心が傷んだが、先を急ぐため別れを告げる。
「じゃあ、もう行くな」
「うん…」
今度は呼び止められることはなく、みきを背に次のクラスへ向かう。

教室に顔を覗かせる時にはもう、頭にはみきの事は綺麗に消えていて、あいつに会えるかどうかで埋まっていた。

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