優しい人

mami

文字の大きさ
上 下
8 / 13
高橋斗真

8.

しおりを挟む





この学校の2年の教室は、二階と三階に分かれていて。屋上からの流れで、取り敢えずは三階にあるクラスから見ていくことにする。

休み時間の教室は賑やかで、噂話や恋バナに花を咲かせる奴、隣の席の奴と雑誌を見ながら雑談する奴、クラスから離れ勢力範囲外の場所で存在をアピールするかのように騒ぐ奴、携帯で動画を見てる奴、机にうつぶせて寝る奴。皆、それぞれ好きなように時間をつぶす中、何人かの生徒は休み時間にも関わらず、机に教科書やノートを広げ勉強している。

きっと、あいつが居るとしたらあんな感じだろうな。
一人席に座って黙々と勉強している姿が容易に想像できる。
変にうろちょろしなさそうなのは、不幸中の幸いだろう。

机にへばりついている奴を一通りチェックし、クラス全体を見渡すが、目当ての人物は確認できない。休み時間も限られているため、早々に切り上げ次のクラスへ行くことにする。

隣のクラスも、先ほどとさして代り映えはなく賑やかだ。
先ほどと同じように見ていこうと机に座っている奴を探しているところへ、聞き覚えのある声がかかり、意識を削がれる。

「斗真?」
「あぁ、みきか久しぶりだな」
声をかけてきた人物に内心、面倒だなとゆう考えがよぎる。
みきとは1年の時に少しの間、付き合っていた。俺は、結構みきのことを大事にしていたつもりだったが、何が勘に障ったのか向こうから突然別れを切り出された。
ある日、みきが合コンに行ってもいいかと、伺いを立っててきたときに。ひとつ返事でOKをだした事が決めてだった、とのことだ。
まぁ、何となくみきの言い分もわかる。好きな奴に全く執着心をもたれなければ不安にもなるだろう。
だからといって嘘の感情で繋ぎとめようと思えるほど俺の気持ちは強くなかった。
別れを告げられた時もあっさりしたもんで、何の感情も出ない事に自分でも驚いた。

付き合っていた頃、好きだと囁いていたあの言葉は一体どこから来ていたのだろうか、とか
そもそも恋愛感情なんて自分にあるのだろうか、とか色々と考えさせられた。

答えはまだわからない。ただ、みきのことを心から愛してはいない。あの時も、そしてこれからも
、みきへはそんな感情は浮かばないと思う。

「斗真がこのクラスに来るなんて、珍しいね。どうしたの?」みきは上目遣いに聞いてくる。目の裏には期待の色が少し見える気がする。
その期待に答える素振りを全く見せぬよう、教室を見渡しながら「ちょっと人を探してて」と言い、あいつに似た影がないか探す。見当たらない。

「ここには居そうにないから、俺もう行くわ。じゃあ元気でな」
そう言い、立ち去ろうとしたがみきの手が俺の袖を引く。
「あっ待って、斗真」
「ん?なに?」
「斗真ってさ、今彼女とかいるの?」きみは恐る恐る聞いてくる。
「いや、いないけど?」その言葉を聞いたみきは、顔をほころばせながら「あのね?私もまだいないんだよ?」と訴えてきた。
「あ、そうなんだ。じゃあお互い頑張んなきゃだな」口調を少し明るめて言いながら、やんわりと袖にかかったみきの手をどける。
あからさま過ぎただろうか。でも、もうそろそろ授業開始のチャイムが鳴ってしまう、それまでにもうひとクラス位は見ときたい。
「え…あ、うんそうだね」俺の拒絶を感じたのか、手を引き顔を曇らす。
少し心が傷んだが、先を急ぐため別れを告げる。
「じゃあ、もう行くな」
「うん…」
今度は呼び止められることはなく、みきを背に次のクラスへ向かう。

教室に顔を覗かせる時にはもう、頭にはみきの事は綺麗に消えていて、あいつに会えるかどうかで埋まっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

空は遠く

chatetlune
BL
素直になれないひねくれ者同士、力と佑人のこじらせ同級生ラブ♥ 高校では問題児扱いされている力と成績優秀だが過去のトラウマに縛られて殻をかぶってしまった佑人を中心に、切れ者だがあたりのいい坂本や落ちこぼれの東山や啓太らが加わり、積み重ねていく17歳の日々。すれ違いから遠のいていく距離。それでもやっぱり惹かれていく。

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

処理中です...