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出会い
5.
しおりを挟む高橋と先程の公園に戻り一緒にベンチに座る。
コーヒーを俺の方へ少し突き出し乾杯を要求してくる、それに答えるようにココアを高橋のコーヒーにあてる。
「お疲れ」
「お疲れさま」
公園の中は暗くて光といったらベンチの横に一本街灯があるくらいで、俺たちは並んでベンチに座りお互いに沈黙のまま、それぞれの飲み物を少し飲んだ。
「ありがとな手伝ってくれて、すげぇ助かった」
不意に高橋がそう言った、先程もこの公園に一緒にいたはずなのにその時とは公園の印象が全然違う。とても静かだ。そのせいか高橋の声がとてもクリアに聞こえる。
「大丈夫、別にやることもなかったし」
最初は関わりたくなかったなんて言える訳がない。
少しの沈黙のあと、「そういえば、最近家の方どうなの?親とは上手くやってんのか?」
ふいの高橋の言葉にビックっと反応してしまう。あれ、何で家のこと知ってるんだ?
「お前の兄貴からもよく聞いててさ大変そうだな」
兄貴、、、、俺には兄貴はいない、とゆうことは拓馬君のことか。
なるほど拓馬くんも俺と同じような悩みを持った子なのか。
どうしよう、、、さすがにここまで立ち入ってしまうのはまずいような気が、、、
「今日、抜け出してきたのか?」
本当の事を話すか決めかねていたとき、高橋の突然の言葉に狼狽する。
「え…」
「家、こんな時間に外出てるってことはそうなんだろ?お前の兄貴が門限以外の外出は禁止だって、前言ってた」
「う…うん」
こんなにも拓馬くんとリンクしてしまうとは、流れに任せてつい返事してしまった。
「なんかあったの?」高橋が拓馬である俺に聞く。
いいな拓馬君はこんなふうに聞いてくれる人がいるのか。
俺はこんな風に誰かに聞かれたことないかもな、拓馬君が少し羨ましかった。
「なんかあったなら、俺で良かったら話聞くし。力になれることがあればいいけど、、、」
やっぱ優しいんだな、
高橋のこちらを気遣ってくれる言葉に心が温まる
話を聞いてもらったらなにか変わるのかな
いつも心の奥にしまい込んでみないようにしていた気持ちが、だんたんと湧き上がってくる。
別に拓馬くんの仮面を付けた俺でもいい、むしろ俺じゃない俺の方が喋り安いかもしれない。
無性に高橋に、この溜め込んできた靄をぶつけたくなってきている。
どうしよう、、、でも。
俺があぐねいていると、高橋が俺の頭に手を置いて髪をクシャっとしてきた。
その手は凄く優しくて大きくて何でも許してくれそうで、
湧き上がってきていた気持ちが溢れ出した。
「あの、、、他の人からした大した事じゃないと思うんだけど、、、」
俺がそう前置きしながら高橋の反応を確かめるように見ると
高橋は、ほら、言ってみろ。というような表情でこちらを見ていた。
「うちの親ってさ、すごく仲悪くて、、毎日のように喧嘩してて、家が居心地悪いというか、、、でもそれって多分俺のせいでもあって、、、俺がもっと2人の自慢の子供になれてれば、父さんだって家のこと大事にしてくれるはずで、、」
喋り出してしまった、こんな事を口に出して言ったことがなかったため心臓がバクバクしている、喉が乾く。
「でも、、、やることなすこと全部がダメなんだ。母さんがあんなに俺のためにいろいろやってくれてるのに、受験にはことごとく失敗するし、社交性も身につかないし、見た目もダメだし、、、自分なりには頑張って期待に応えようとしてるんだけど、きっと母さんはそれじゃダメなんだ、」
何を言いたいのかいまいち自分でもわかってないが口が止まらなくなっている。
目元が熱くなる、鼻の奥がジンジンする。
「ちゃんと、、、おれが」
次の言葉を発する前に高橋が頭に置いていた手をグっと自分の方へ引き寄せた。俺は体を高橋に預ける形になった。
高橋はなんにも言わないが、高橋の手とか、表情とかが凄く優しくて。
ぼろっと涙がでた
「俺は、頑張ってる…ダメって言われたらちゃんと直したし、勉強も誰よりも頑張ってるつもりだし…理不尽な事言われたって口答えしなかった。俺の……何がいけないんだよ……母さんだって前は、もっと優しかったし、父さんだって……」
俺はボロボロ泣きながら今まで誰にも言えなかった不平、不満をぐちぐちつぶやいた。その間、高橋は黙っていて。
たまに頭に乗せてる手でポンポン頭を叩いたり撫でたり髪をクシャっとしたりしてくる。
小さい子供に戻ったみたいだ…まさか自分でもこんなになってしまうとは思っていなかった。
聞いている相手が高橋だからっていうのもあるかも知れない、だってこいつ凄く優しいんだもん。
「うぅ~~ぅっ~~~~」
しばらくの間、高橋の肩を借りてグズグズ泣いていたが高橋は全然嫌な顔もせず、途中で帰ることもせず、ずっと俺が泣き止むまで一緒にいてくれた。
こんなに泣いたのは初めてだ、あんなに笑ったのも初めてだ、高橋って凄い。たった数時間でこんなにいろんな俺を見つけてくれた。
俺だってこんな自分知らなかったのに……
だいぶ頭もスッキリして、高橋から体をはなす。高橋は名残惜しそうに俺の髪から手をはなした。
「ご、、、、、、ごめん、、、、」
泣いてスッキリした頭には先程のことは余りにも恥ずかしすぎて、泣いて赤くなった顔がさらに赤くなる。
あぁ。穴があったら入りたい……
「気にすんなって」優しく言いながら高橋が乱れた俺の前髪を直してくれる。
その行為がさらに恥ずかしくて、目元がまた熱くなる。
「スッキリしたか?」
「うん、こんなに泣いたの初めてで、、、意外と自分で思ってたより俺って溜め込んでたんだな」
ヘラっと笑いながら俺が言うと、
先程整えてくれた俺の髪を高橋がまたグシャグシャとなでる
「わ!また!やめろよ!」
俺が振り払うと同時に、高橋は「さ~てとっ」とベンチから立ち上がり、グっと伸びをしだす。
「もうこんな時間だしそろそろ帰るか?」高橋がそう切り出した。
「え?あ……うん」
流石にもう時間も結構経ったし、父さんと母さんも寝てるだろう
またあの家に帰らなくちゃ行けない。
何度も帰っている家だが、今はとくに帰るのが億劫だ。
高橋との時間もこれで終わりか、こんなに話を聞いてもらったのに、なんだか申し訳ないな、、、
「また家に遊びに行くから」
そうか、高橋は俺を拓馬君だと思ってるからまた会えると思ってるんだ。
実際の拓馬君に会ったらびっくりするだろうな。
「うん……また」
胸がぎゅっとなる。
「健人、いや兄貴によろしく言っといてな!まぁ明日学校で合うけど」
健人?あぁいつも高橋とつるんでる奴か、と言うことは拓馬君はあいつの弟なのか……
「うん、わかた、伝えとく……」
胸がキリキリ傷んだが何とか笑って言えた。
「あんま、溜め込みすぎるなよ、俺もなんかしてやれる事あるか考えてみるわ」
「え、いや、それは」
おれは拓馬君じゃないし。そんな事は不要だと伝えたかったが、高橋はもう歩き出してしまっていた。
「じゃあ、またな。気をつけて帰れよ」
「うん、、、」
公園からもう道が反対だったようで、そこでさよならする。
高橋は何回か振り返ってそのたびに手を降った。
高橋の姿が見えなくなって俺は少し泣いた。
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