31 / 79
第3章:七海の願いとリッカの夢
第29話:火食の神(イリキヤアマリ)
しおりを挟む港を爆破しようとした悪者は、ヤイマ国に火薬や武器を売ろうとして断られた商人が雇ったものだった。
火と知恵の神、イリキヤアマリ様の加護を受けるヤイマ国の人々は、火薬なんか使わなくても強い火の力を使える。
武器なんか持たなくても、魔術で身を守ったり獲物をとったりできる。
だから父上は、輸入しても売れ残るからって断ったらしいんだ。
断られた商人は、それを不満に思って、他の貿易のジャマをしようとしたらしい。
外国人がやったことだから、罰をあたえるのはその国に任せると父上は言った。
悪いことを考えた商人も、爆弾をしかけたオジサンたちも、今後はヤイマ国に立ち入ることを禁止されるそうだよ。
「父上、今年はオレとナナミも出ます」
「うむ、許可しよう」
翌日、リッカにいにぃとぼくは、王族の魔術披露に参加することを伝えに行った。
城間家のおじぃに似ている(髪の毛は赤いけど)父上は、何も聞かずにOKしてくれた。
「本当は、ふたりとも部屋で休んでいてほしいのだけど」
「オレは最近体の調子がいいから平気だ」
「ぼくはもともと元気だから、だいじょうぶだよ」
母上は、めずらしくリッカにぃにぃだけじゃなく、ぼくの心配までしている。
魂戻しで生き返らせてもらったぼくは、ケガは完全に治っているし、痛くも苦しくもない。
「イリキヤアマリさまのお告げで、リッカとナナミも参加させるようにとのことだからな」
「ぼくは弥勒さまから『強い魔術を他国に見せてやりなさい』って言われました」
「ならば、参加するべきであろうな」
父上に言われて、リッカにぃにぃとぼくはたがいの顔を見て、ヨシとうなずき合った。
空に星々が輝くころ。
リッカにぃにぃとぼくは、大きいにぃにぃたちといっしょにお城の中庭に来た。
「光魔術は人々を楽しませるだけじゃなく、夜空の向こうから近付こうとする魔物をはらう役割もあるんだよ。リッカもナナミも今年が初めてだから、最初はぼくたちの魔術を見ていてね」
そう言って、カズマにぃにぃがほほえむ。
一番上のカズマにぃにぃから順に、魔術で光の舞を見せるらしい。
「天の群星!」
ガスマにぃにぃが片手を夜空に向けると、その手からうずまく光が現れて、打ち上げられる花火のように空へとのぼり、花のように広がった。
大きな光の花が、夜空に美しく開いた。
その後に、リュウジにぃにぃ、シュウゾウにぃにぃ、シロウにぃにぃ、シンゴにぃにぃが続く。
はなやかな光の花々に照らされて、ヤイマ城はライトアップされたみたいに見えるよ。
「次はオレたちだな」
リッカにぃにぃがぼくを見て言う。
何度もふたりで練習した、光の魔術をみんなに見せるときがきた。
「天の川!」
「星の魚!」
リッカにぃにぃの光が川のように夜空に広がり、ぼくの光がたくさんの魚になって、その川を泳ぐ。
大きいにぃにぃたちがなんども打ち上げる光の花が、その周囲を飾る。
「もうひとつ、大きいのを出すぞ」
「うん!」
魔力に余裕のあるリッカにぃにぃが作り出したのは、アカハチさまをイメージした光の人形。
続いてぼくが作り出したのは、クイツバさまをイメージした光の人形。
2つの人形は手をつなぎ、バッと散って無数の光の雨になって地上へ降り注いだ。
まるで世果報雨のようだった、と、ヤイマの人々は言っていたらしい。
その光の雨は癒しの力を持っていて、浴びた人たちはケガや病気が治ったそうだよ。
お城の外から、わーっとたくさんの人々の歓声が上がる。
その声にはヤイマ国の民だけじゃなく、外国の人たちもまじっているはず。
演じているぼくたちも、見ている人たちも、みんなが楽しんで、幻想的な光の時間は終わった。
……その後……
ぼくがこの世界のナナミだと知ってから、大きいにぃにぃたちがやたらとかまってくるんだけど。
どうすればいい?
「ナナミ~っ!」
「だきしめてもいいかい?」
「もうひとりのナナミにはかまってもらえなくて、にぃにぃたちはさびしかったぞ」
にぃにぃたちを前に、ぼくは思わず後ずさりした。
どうやらぼくの代わりにこの世界にいたナナミは、大きいにぃにぃたちのことも避けていたらしい。
そりゃあこんなデッカイ体で近付かれたら、にげたくなるけど!
「えっ? やだ。にぃにぃたち力強すぎて骨が折れちゃう」
「ナナミ、にげるぞ!」
そんなとき、いつもリッカにぃにぃが助けてくれる。
リッカにぃにぃとは、ずっといっしょに生活しているよ。
ぼくにだきついたリッカにぃにぃの【帰還】で、今日も脱出成功だ。
「まぁ~た、デカイにいにぃたちからにげてきたのか?」
「あっ、ムイ来てたの?」
「おう。ミジュンがいっぱいとれたから、カラアゲを作ってもらいに来たのさ」
ぼくに巻きこまれてこの世界に来たキジムナーのムイは、弥勒さまから「元の世界へ帰してやろうか?」と言われたそうだよ。
でも、この世界が気に入ったから残ることにしたと言っていた。
最近は割と堂々と城の中を歩き回っていて、海でとってきた魚を大台所で料理してもらっている。
「おどろくほど健康になられましたね。これならシロマさまといっしょに学校へ通えますよ」
「ほんとうか?!」
この世界の健康診断は、ぼくがいた世界よりもカンタンだ。
命の鏡っていう道具があって、それにふれるだけで健康状態が分かる。
リッカにぃにぃの健康診断に来たお医者さんは、ニッコリ笑ってうれしいお知らせをしてくれた。
リッカにぃにぃは今までは病気ばかりしていて、学校には通えていなかったらしい。
年下のナナミが学校へ行くようになって、くやしくてイジワル言ったこともあったそうだよ。
今ではナナミがで0点をとったのをからかってしまったことを、後悔しているみたいだ。
「リッカがこんなにも元気になったのは、きっとナナミがいっしょにいてくれるからね」
「きっとそうだ。ナナミが近くにいると、体の調子がいいぞ」
母上は、リッカにぃにぃが健康になったおかげで、心配性が減ってきたみたいだ。
リッカにぃにぃは、ぼくから何か力をもらっているみたいだと言う。
そういえば、弥勒さまが、ぼくは赤毛の兄弟に力をあたえられるみたいなことを言っていたような?
「我が国に兵器は要らぬ。強すぎる火は人を苦しめるだけだ」
あるとき父上は、兄弟全員を呼んでそう言った。
子孫の代になっても、外国から兵器を仕入れてはならない、と、父上は特にカズマにぃにぃに言い聞かせている。
「魔術がある限り、この国は滅ぶことはない。子々孫々までイリキヤアマリさまと共にあれ」
「はい」
父上の言葉に、カズマにぃにぃがうなずいた。
カズマにぃにぃがいつか王様になって、その子供が王様になっても、火と知恵の神様と共にいてほしいね。
31
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時 更新予定です※
すみません、2/1の予約公開を失敗しておりました…(日付を間違えてたー!)
2-2話は2/2 10時頃公開いたしました。
2-3話は2/2 18時に公開いたします。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる