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【猛猫リンネの物語】2024.4.15〜
第8話:遺棄の絶えない場所で
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「妊娠中と思われる猫が、棄てられています」
ボランティアからLINEがきた。
石垣島にある緑地公園。
市街地から離れた場所にあり、周辺に民家が無いことから、毎年100匹前後の猫が棄てられ続けている。
2012年に石垣市とどうぶつ基金とボランティアたちが協力して、一斉TNRを実施したこともあるが、今なお遺棄は続いており、猫の数は減らない。
僕がこの公園のTNR預かりをするようになった2018年からの5年間で、500匹以上の猫が棄てられた場所。
リンネの祖先が棄てられた公園に、また新たに猫が棄てられた。
今週は雨模様。
天気予報では激しい雨が降るかもしれないと報じていた。
妊娠中の身体で土砂降りの中を彷徨うことが、どんなに過酷なことか、飼い主は考えないのだろうか?
「シャーッ!(だから人間は嫌い)」
そんな話を聞いたら、リンネならこう言うだろう。
彼女の祖先も、棄てられた猫だ。
「ウウウゥ~!(人間はみんな敵だ)」
産後8日目、リンネは相変わらず怒っている。
リンネがいた場所は、緑地公園の外。
公園内にいれば食べ物を貰えるが、そこから出て行った埋立地には、餌やりボランティアは来ない。
リンネの祖先は、人間に頼ることをやめて生きた猫たちだ。
『俺たちは人間に捨てられたんじゃない、俺たちが人間を捨ててやったんだ』
もしも彼らが言葉を持っていたなら、そう言ったかもしれない。
そんな誇り高き猫たちの血を引くリンネは、人間には媚びない猫だ。
「ウアーオ、カッ!(人間なんかいらない)」
今日もパンチが飛んでくる。
リンネは毎日欠かさずパンチを放つ。
正に親の仇のように、人間を嫌っている。
祖先の恨みはかなり深いようだ。
そんなリンネを、ちょっとだけ変えたものがある。
それは【ちゅーる】。
多くの猫が大好物とする、あの液状オヤツだ。
ドライフードを入れる容器とは別に、小さな器をケージに固定して、外からちゅーるを絞り出していたら、なんとリンネが寄ってきた。
「ん? ちゅーる気に入った?」
「ウゥ~、シャーッ!(ちゅーるは好き、あんたは嫌い!)」
話しかけながらケージ越しにちゅーるを差し出したら、リンネはまだ絞り出す前の袋にガブッと噛み付いた。
なかなか気合の入った食いつき。
サファリパークのライオンに、肉をあげる観光客の気分だよ。
しかし、その後は絞り出すちゅーるをペロペロと舐め始めた。
中身を絞り出すために、細長い小袋を折って丸めていくので、次第に手とリンネの距離が近付く。
しまいにはリンネの口に触れそうなくらいまで手が近付いたけど、攻撃はされなかった。
「カッ!(近い!)」
って怒られたけどね。
威嚇したリンネの息が手にかかるような距離まで接近して、殴られなかったのは奇跡かもしれない。
というか、あの距離まで接近したのは初めてだ。
多分、ちゅーるに夢中のリンネが気付いてなかっただけかもしれない。
ボランティアからLINEがきた。
石垣島にある緑地公園。
市街地から離れた場所にあり、周辺に民家が無いことから、毎年100匹前後の猫が棄てられ続けている。
2012年に石垣市とどうぶつ基金とボランティアたちが協力して、一斉TNRを実施したこともあるが、今なお遺棄は続いており、猫の数は減らない。
僕がこの公園のTNR預かりをするようになった2018年からの5年間で、500匹以上の猫が棄てられた場所。
リンネの祖先が棄てられた公園に、また新たに猫が棄てられた。
今週は雨模様。
天気予報では激しい雨が降るかもしれないと報じていた。
妊娠中の身体で土砂降りの中を彷徨うことが、どんなに過酷なことか、飼い主は考えないのだろうか?
「シャーッ!(だから人間は嫌い)」
そんな話を聞いたら、リンネならこう言うだろう。
彼女の祖先も、棄てられた猫だ。
「ウウウゥ~!(人間はみんな敵だ)」
産後8日目、リンネは相変わらず怒っている。
リンネがいた場所は、緑地公園の外。
公園内にいれば食べ物を貰えるが、そこから出て行った埋立地には、餌やりボランティアは来ない。
リンネの祖先は、人間に頼ることをやめて生きた猫たちだ。
『俺たちは人間に捨てられたんじゃない、俺たちが人間を捨ててやったんだ』
もしも彼らが言葉を持っていたなら、そう言ったかもしれない。
そんな誇り高き猫たちの血を引くリンネは、人間には媚びない猫だ。
「ウアーオ、カッ!(人間なんかいらない)」
今日もパンチが飛んでくる。
リンネは毎日欠かさずパンチを放つ。
正に親の仇のように、人間を嫌っている。
祖先の恨みはかなり深いようだ。
そんなリンネを、ちょっとだけ変えたものがある。
それは【ちゅーる】。
多くの猫が大好物とする、あの液状オヤツだ。
ドライフードを入れる容器とは別に、小さな器をケージに固定して、外からちゅーるを絞り出していたら、なんとリンネが寄ってきた。
「ん? ちゅーる気に入った?」
「ウゥ~、シャーッ!(ちゅーるは好き、あんたは嫌い!)」
話しかけながらケージ越しにちゅーるを差し出したら、リンネはまだ絞り出す前の袋にガブッと噛み付いた。
なかなか気合の入った食いつき。
サファリパークのライオンに、肉をあげる観光客の気分だよ。
しかし、その後は絞り出すちゅーるをペロペロと舐め始めた。
中身を絞り出すために、細長い小袋を折って丸めていくので、次第に手とリンネの距離が近付く。
しまいにはリンネの口に触れそうなくらいまで手が近付いたけど、攻撃はされなかった。
「カッ!(近い!)」
って怒られたけどね。
威嚇したリンネの息が手にかかるような距離まで接近して、殴られなかったのは奇跡かもしれない。
というか、あの距離まで接近したのは初めてだ。
多分、ちゅーるに夢中のリンネが気付いてなかっただけかもしれない。
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