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第12章:魔王が遺したもの

第118話:心はいつも傍に

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「……エカ……逝かないで……」
「家族を置いて逝きたくないよ。でも、アズたちが必死で戦ってるのに俺だけ安全で幸せなんて、卑怯だと思うから」

リヤンを抱いて号泣するソナを、エカは優しく抱き締めた。

「ごめんね……愛してるよ……」

大切な妻と子にの額に、彼は家族のキスをする。
生涯愛し続けると誓った妻を残して逝く事は、どれほど悲しかったろうか。
我が子の成長を見られない無念は、どれほどのものだったろうか。

エカは爆裂魔法の使い手だから、死ぬ際に苦しみや恐怖などは感じない。
彼は家族と会えなくなる事が苦しくて怖いだけ。
名残惜しむエカを、創造神かみさまは急かす事はしなかった。


「俺の心も魂から引きはがして、この世界に遺してもらえますか?」

転生する覚悟を決めたエカは、ソナとリヤンの為に心を残す事を望む。

『よかろう。其方はどこに心を残すのだ?』
「この指輪に……」

創造神かみさまに問われて、エカは自分の手から結婚指輪を抜き取ってソナに手渡す。
金色で翼をイメージするデザインの指輪は、ソナが制作魔法で作ったものだ。
ソナが着けている指輪も同じ。
それぞれの指輪には「ずっと傍にいる」という言葉が刻印されていた。

「これをソナに持っていてもらいます」
「……エカ……」
「ルルやアズのように、俺も大切な人の為に心は残して逝くよ」

指輪を乗せたソナの手に自身の手を重ねて、エカは微笑んで言う。
ソナは声を震わせて泣いていたけど、エカの決意が変わらない事を感じていた。


『では、転生の準備を始めてもよいか?』
「はい」

創造神かみさまの問いに、エカが頷く。

「リヤンは僕が抱っこするから、ソナさんはエカさんを抱いててあげて下さい。魂の抜き取りで倒れるから」

そう言って、ルイがリヤンを受け取り、抱っこして優しく背中を撫で始める。
泣いていたリヤンが、少しずつ落ち着いてゆく。

「ソナ、地球人の寿命は短いから、君が生きているうちにこちらの世界へ還ってくるよ」
「うん。待ってるからね……」

エカとソナは世界樹の根と根の間に座り込んで抱き合い、優しく囁き合って唇を重ねた。
しばらくして神様が魂を抜き取ると、エカの身体から力が抜けてゆく。
ソナを抱き締めていたエカの両腕が、力を失いほどけてしまう。
苦しむ様子もなく、静かに目を閉じて喉を反らすエカを抱き締めて、ソナが嗚咽し続けた。

主人マスターの死によって召喚獣は契約を封印され、実体化出来なくなる。
意識も保てなくなり、その魂は主人の魂に溶け込んで転生を共にする。
不死鳥の場合は主が死亡したら完全復活の力が発動するんだけど、創造神かみさまがもたらす死の場合は発動しない。
ホクの魂はエカの魂の中に溶け込み、そこで意識が途切れた。
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