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第12章:魔王が遺したもの
第116話:裏切りの蛇
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「何故そんな処におられるのですか? 皆、陛下の復活を待っていますよ」
アサギリ島の中心に在る木に、1匹の白蛇が話しかける。
蛇が「陛下」と呼ぶのは、長い黒髪の女性の霊。
「今は考えているの。どうすれば6つの心臓を出現させずに転生出来るのか……」
困ったような表情で言う美女の霊はルル。
我が子の転生の為に使い果たした魂の力は回復し、彼女も転生が可能になっていた。
生まれ変わって記憶が消えるのが嫌で、魂から心を引きはがしてこの木に宿らせている。
「何故ですか? 6つの心臓が無ければ、猫人どもを滅ぼせなくなりますよ」
「猫人たちを滅ぼそうなんて、今はもう思ってないから」
困惑する蛇に、ルルは静かな声で答える。
彼女はもう世界を滅ぼす魔王ではなく、愛する者と平和に暮らしたいと願う普通の女性となっていた。
その感情は、蛇には理解出来なかった。
「では俺は何をすればよいのですか? この身は陛下に捧げ、猫人どもを屠る為に在るのですよ?」
「あなたには、自由を与えるわ。殺戮の為の駒ではなく、1匹の蛇として生きてゆきなさい」
抗議する蛇に、ルルは最後の言葉を告げる。
蛇は自然に還り、普通の生き物として生活すればよい。
その言葉は、蛇には納得できなかった。
「……それが陛下の望みとあらば。もうお会いする事は無いでしょう」
少々吐き捨てるような気配を纏う言葉を残して、蛇はアサギリ島から去っていった。
蛇の話をエカたちが聞いたのは、神様に呼ばれて世界樹の根元へ行った時だった。
平和を望む魔王から離反した蛇はどこへ行ったのか?
神様はそれを教えてくれた。
『再び、お前たちの力を借りねばならぬ事態となった』
そう告げる神様は、少し憂えている感じがした。
生まれた時に与えた役目を終えた者たちに、新たな役目を与えるつもりは無かったのに……神様はそう思っていたのかもしれない。
世界樹の根元に集うのは、ソロの冒険者として世界を旅するアズ、アサケ王国内での活動メインの冒険者パーティ所属エカ、アスカ王国の聖女となったローズ、世界に支店を広げる薬局の主となったエア、アカツキ王国の宮廷魔導師ロコの5名。
『地球の創造神から報告があった。こちらの世界から白き蛇が抜け出して、あちらの人間に憑依しているようだ』
「以前、魔王がソナの学校の生徒に憑依していたようなものですね」
創造神は、他の世界の神様と連絡を取り合った情報を告げた。
状況を理解して言うエカは、ソナを苦しめた魔王はルルとは別物として扱うように「魔王」と呼ぶ。
『そうだ。憑依は転生とは似て非なるもの、元の記憶を維持している』
「蛇は何をしようとしているのですか?」
問いかけるアズは、ルルから蛇との会話を全て聞いていた。
その流れで彼が予測したのは、蛇が何か悪事を企んでいるのでは? という事。
『憑依は魔族独自の力ゆえ、蛇が何者に憑依しているのかは分からぬ。故に其方等に蛇と戦う役目を与え、異世界へ転生させるより他に術は無い。……行ってくれるか?』
神様の問いかけに、エカ、ローズ、エアはしばし考え込んだ。
彼等はまだ若く、まだこれから長い時を生きてゆける筈だったから。
異世界への転生は、こちらでの死を意味する。
「私は行くわ。アカツキ王国は優秀な弟子がいるから大丈夫だし、こちらの世界にもう家族はいないから平気よ」
最初に答えたのはロコだった。
彼女はもう何百年も生きているから、今の生にそれほど未練は無いらしい。
「創造神、俺の心をアサギリ島に遺してもらえますか?」
『よかろう。その亡骸も妻の傍で眠らせておこう』
「では、俺も行きます。地球には息子がいるから、他人事ではないです」
次に答えたのはアズだった。
彼ならそう答えそうな予感がしてたから、エカたちは驚かなかった。
『では、決断した者は遺す者たちに伝えてまたここへ来なさい。まだ決断出来ぬ者はしばし考えてから答えてくれればよい』
そう言われて、5人はそれぞれの家へと帰っていった。
アサギリ島の中心に在る木に、1匹の白蛇が話しかける。
蛇が「陛下」と呼ぶのは、長い黒髪の女性の霊。
「今は考えているの。どうすれば6つの心臓を出現させずに転生出来るのか……」
困ったような表情で言う美女の霊はルル。
我が子の転生の為に使い果たした魂の力は回復し、彼女も転生が可能になっていた。
生まれ変わって記憶が消えるのが嫌で、魂から心を引きはがしてこの木に宿らせている。
「何故ですか? 6つの心臓が無ければ、猫人どもを滅ぼせなくなりますよ」
「猫人たちを滅ぼそうなんて、今はもう思ってないから」
困惑する蛇に、ルルは静かな声で答える。
彼女はもう世界を滅ぼす魔王ではなく、愛する者と平和に暮らしたいと願う普通の女性となっていた。
その感情は、蛇には理解出来なかった。
「では俺は何をすればよいのですか? この身は陛下に捧げ、猫人どもを屠る為に在るのですよ?」
「あなたには、自由を与えるわ。殺戮の為の駒ではなく、1匹の蛇として生きてゆきなさい」
抗議する蛇に、ルルは最後の言葉を告げる。
蛇は自然に還り、普通の生き物として生活すればよい。
その言葉は、蛇には納得できなかった。
「……それが陛下の望みとあらば。もうお会いする事は無いでしょう」
少々吐き捨てるような気配を纏う言葉を残して、蛇はアサギリ島から去っていった。
蛇の話をエカたちが聞いたのは、神様に呼ばれて世界樹の根元へ行った時だった。
平和を望む魔王から離反した蛇はどこへ行ったのか?
神様はそれを教えてくれた。
『再び、お前たちの力を借りねばならぬ事態となった』
そう告げる神様は、少し憂えている感じがした。
生まれた時に与えた役目を終えた者たちに、新たな役目を与えるつもりは無かったのに……神様はそう思っていたのかもしれない。
世界樹の根元に集うのは、ソロの冒険者として世界を旅するアズ、アサケ王国内での活動メインの冒険者パーティ所属エカ、アスカ王国の聖女となったローズ、世界に支店を広げる薬局の主となったエア、アカツキ王国の宮廷魔導師ロコの5名。
『地球の創造神から報告があった。こちらの世界から白き蛇が抜け出して、あちらの人間に憑依しているようだ』
「以前、魔王がソナの学校の生徒に憑依していたようなものですね」
創造神は、他の世界の神様と連絡を取り合った情報を告げた。
状況を理解して言うエカは、ソナを苦しめた魔王はルルとは別物として扱うように「魔王」と呼ぶ。
『そうだ。憑依は転生とは似て非なるもの、元の記憶を維持している』
「蛇は何をしようとしているのですか?」
問いかけるアズは、ルルから蛇との会話を全て聞いていた。
その流れで彼が予測したのは、蛇が何か悪事を企んでいるのでは? という事。
『憑依は魔族独自の力ゆえ、蛇が何者に憑依しているのかは分からぬ。故に其方等に蛇と戦う役目を与え、異世界へ転生させるより他に術は無い。……行ってくれるか?』
神様の問いかけに、エカ、ローズ、エアはしばし考え込んだ。
彼等はまだ若く、まだこれから長い時を生きてゆける筈だったから。
異世界への転生は、こちらでの死を意味する。
「私は行くわ。アカツキ王国は優秀な弟子がいるから大丈夫だし、こちらの世界にもう家族はいないから平気よ」
最初に答えたのはロコだった。
彼女はもう何百年も生きているから、今の生にそれほど未練は無いらしい。
「創造神、俺の心をアサギリ島に遺してもらえますか?」
『よかろう。その亡骸も妻の傍で眠らせておこう』
「では、俺も行きます。地球には息子がいるから、他人事ではないです」
次に答えたのはアズだった。
彼ならそう答えそうな予感がしてたから、エカたちは驚かなかった。
『では、決断した者は遺す者たちに伝えてまたここへ来なさい。まだ決断出来ぬ者はしばし考えてから答えてくれればよい』
そう言われて、5人はそれぞれの家へと帰っていった。
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