上 下
33 / 51
第3章:天界と魔界

第29話:嫉妬と悲哀

しおりを挟む
 堕天した者を天使に戻す方法はある。
 それは、欲望や絶望などの負の感情に打ち勝つこと。
 例えば色欲に溺れた堕天使レビヤタなら、1人の相手だけを強く愛することが出来たら天使に戻れる可能性がある。
 本人にその気が全く無いからゴブリン抱かせて倒しちゃったけど。

「サキ、あの淫魔の痕跡なんてカケラも残さず消えてる筈だよ。約束は守るから天使に戻って」
「…それは、無理……」

 絶望に打ち勝ってほしくて、僕はサキを抱き締めて懇願した。
 でも、サキは僕の背中に腕を回して抱き締め返しつつも、力なく首を横に振るばかり。

「お願い、絶望しないで。あんな変態野郎のことなんか脳内削除しようよ」
「私の絶望の原因は、あの馬鹿ではないから」
「……え?」

 原因はレビヤタではないとサキは言う。
 身体を穢された精神的ダメージが原因ではないとしたら、他に何が?
 困惑している僕にキスをして、彼は言う。

「ヒロ、君を愛してしまったことだよ」

 その言葉に、僕は何と言えばいいかすぐには思いつかなかった。
 ステータスウィンドウのことや、好感度で恋愛感情の有無が分かることは、僕以外ではルウとケイしか知らない。

「君が天使長だけを愛していて、私には恋愛感情が無いことを知っているのに、私は君を愛してしまったんだ」

 告白をするサキの腕に力がこもる。

 僕はコッソリと今のサキの好感度を確認してみた。
 サキの好感度を表わすハートは、灰色で暗く表示されたまま。
 ハートの数は5つ。この数は僕に対してハッキリと恋愛感情を抱いていることを意味する。

「……いつから……?」
「君に【初めて】をあげようとした頃からかな。君に『恋愛感情が無くてもいいの?』って聞かれたとき、胸の奥に痛みを感じたよ」

 サキの好感度は、ウリのボスイベントをクリアする前から4になっていた。
 そのことに僕が気付いたのは、サキがレビヤタに襲われた朝のこと。
 おそらく、戦技を学んだ最終日の時点で4まで上がっていたんだろう。
 

 このゲームの好感度は
 ハート1:主人公を気に入る
 ハート2:友情の芽生え
 ハート3:信じ合える友・親友
 ハート4:恋愛感情の芽生え
 ハート5:ハッキリとした恋愛感情

 6以降は他の攻略対象よりも高いか低いかで違いが出てくる。
 今のルウのように他キャラよりも飛び抜けて高い場合は、ほとんど夫婦みたいな関係で、他NPCから「主人公の恋人」として認識されるようになるんだ。
 

「あの淫乱男に身体を奪われたと知ったとき、私は自分が穢されたことよりも、ヒロにあげるつもりだった【初めて】をあいつに取られたことが嫌で、ショックで気を失ったんだよ」
「……もらいそこねて、ごめん」

 もしもあの日、僕が最後まで進んでいれば。
 サキが受ける精神ダメージは、もっと低かったかもしれない。

「詫びは要らないから、抱いて」
「それは、サキが天使に戻ってからだよ」
「私に天界へ戻れと言うの? 天使長と結ばれたヒロを見て生きろと?」

 サキの口調が強くなり、ベッドの上で僕に覆い被さるような体勢になって睨んでくる。
 僕は、どう答えたらいいか分からなかった。

 BLゲーム【天使と珈琲を】は、メインシナリオをクリアした後もゲーム世界の生活を楽しむことができる。
 でも僕は、クリアしたらケイを救出して現実世界へ帰ることだけを考えていたんだ。

「もう天界には戻れない。戻りたくない。君の手でこの悲しみを終わらせてよ」
「……!」

 サキが言ったその言葉。
 それは、ルウが闇落ちしてラスボスになる前の台詞だ!

 メイン攻略対象の四大天使たちと結ばれるルートで、ラスボスとなるルウはその台詞を言う。
 その台詞は公式ガイドにも載っているし、PVでも流れていたりする。
 ルウと結ばれるルートでは、その台詞を言うキャラはいない。

 なのに何故、サキが今その台詞を言う?!

「お願い。私を殺して……」

 僕に覆い被さりながら泣くサキの、その背中に漆黒の翼が現れる。
 夜の闇より暗い色彩の翼は6対、それはこのゲームのラスボスと同じだ。

 まさか、サキが?

 そういえば、僕を捕らえたフェイオはサキを「サキ様」と呼んでいた。
 四天王が様付けで呼ぶ相手といえば、1人しかいない。

 サキが【魔王】になった?!

「今なら簡単だよ? 私を抱いて体内に君の力を注ぎ続ければいいんだから」

 サキは涙を流しながら微笑み、僕を促すように下腹部へ片手を伸ばしてくる。
 強い刺激を受けて、僕はビクッとしつつ必死で耐えた。
 全攻略対象との身体の相性が抜群なことが、今は恨めしい。

「私は……どうせ死ぬなら……君に抱かれて逝きたい……」

 サキはそう言いながら、自らの体内に僕を迎え入れようとする。

 それは駄目! 
 こんなの嫌だ!

「やめてよ!」

 僕は全力で抵抗して、力いっぱいサキを突き飛ばした。
 サキはベッドから落ち、僕はシーツを掴んで身体に纏い、部屋の扉へ向かう。
 ドアノブを回して開けようと試みたら、扉は簡単に開いた。

 ここ、どこだろう?
 天井や壁や床は木でできていて、ログハウスっぽい。
 外に繋がるドアを開けて出たところで、僕はここがどこか理解した。

 ヨブ湖のほとりにある小屋。
 公式ガイドでは風景の1つとして掲載されているだけで、特にイベントは無かった建物だ。

 サキを連れ帰れないけど、とにかく天界へ戻って考えよう。
 僕の視界に映るものが視えるルウは、何があったかもう分かっているだろう。

「ヒロ!」
「ルウ?!」

 ……って、天使長自ら飛んできてるし!

「やっと居場所が分かった。いろいろ話があるから急いで帰ろう」

 ルウ……否、ケイは迷わず僕を抱き寄せて飛び立った。
 サキは小屋の中から出てこないので、どうしているかは分からない。

 混乱・困惑・動揺……頭の中が整理つかないよ。
 メイン攻略対象が魔王化するなんて、どうなってるんだ?!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

産卵おじさんと大食いおじさんのなんでもない日常

丸井まー(旧:まー)
BL
余剰な魔力を卵として毎朝産むおじさんと大食らいのおじさんの二人のなんでもない日常。 飄々とした魔導具技師✕厳つい警邏学校の教官。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。全15話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...