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第3章:天界と魔界
第27話:知らない分岐
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レビヤタを倒した後、僕は天界へ帰って真っ先にウリの家を訪ねた。
もしかしたらサキが目覚めているかもしれない。
そう思いつつ扉を叩こうとしたら、ノックする前に慌てた様子のウリが飛び出してきた。
ウリが慌てているところなんて初めて見たかも?
「ヒロ! 大変だ! サキがいなくなった!」
「え?!」
いなくなった……って、意識が戻ったってこと?
天界で一番セキュリティ高いウリの家に、侵入者はありえないし。
そもそも、天界に水の大天使を攫おうなんて考える者はいない。
天界は聖なる波動、光の力が濃い場所だから、魔族や魔物は入れない。
レビヤタのような堕天使も、堕天で翼が黒く染まった時点で天界には入れなくなる。
立ち入れるのは天使と勇者と聖者くらいだろう。
そんな天界の、セキュリティトップクラスの家からサキが攫われるか?
「おそらく、目覚めて自力で何処かへ行ってしまったようだ」
「もしかして自分の家へ帰ったとか? ちょっとサキさんの家を見てくる!」
「では私は、サキが定期的に浄化しに行く水辺を見回ってこよう」
僕とウリは、それぞれサキが行きそうな場所を確認してみた。
自宅には帰った形跡が無い。
神殿にも来ていないらしい。
天界でサキが行きそうなところを見て回ったけれど、誰も見かけていないという。
サキ、どこ行った?!
念の為、ヨブ湖も見に行ってみた。
聖なる慈雨で清められた湖は、底が見えるほど澄んでいる。
周囲を探してもサキはいない。
主が倒されたので無人となった海辺の古城も行ってみた。
城内や白薔薇に変わった薔薇園がある庭園を見回ったけど、誰もいない。
サキ、なんでいなくなった?
心当たり全て探したけど、目撃者もサキがいた痕跡も見つからない。
僕は捜索隊を出してもらいに、天使長ルウのところへ行った。
「ヒロ、準備はしておいた。すぐ捜索に出られるよ」
僕の背中に移植された翼はルウの召喚獣だから、ルウは僕が見るものを共有していて、何故サキが意識不明になっていたのか知っている。
サキの失踪も僕の視覚を通して情報を得ており、僕が神殿へ行くと既に捜索隊の準備が行われていた。
「すまん。ヒロが帰ってくるまでサキを護ると約束したのに……」
「ウリが悪いわけじゃないよ。まさか意識不明のサキさんが突然姿を消すなんて思わないし」
ウリは責任を感じるらしく、僕に謝ってくる。
僕は彼が落ち込み過ぎないように慰めてみた。
行方不明で考えられる可能性は、貞操を穢された精神的ダメージで正気を失ってフラフラと何処かへ行ってしまったか、絶望して自死の選択をしてしまったか。
どちらにしても早く見つけないとサキが危ない。
こんな分岐、知らない。
サキのボスイベントは、シナリオがかなり変わっている。
元からあるバッドエピソードの分岐では、レビヤタに殺される流れはあっても、サキが発狂したり自殺したりなんてシナリオは無かった。
レビヤタを倒したらイベントクリアじゃないの?
これ、まだ続いてるの?!
天使たち300人と僕によるサキ捜索隊が組まれ、天界と人界を探し回る。
正気を失い彷徨っているなら、目撃者がいてもおかしくない。
でも、天使たちも人間たちも、水色の髪の天使を見かけていないという。
考えたくないけど、もしも自ら命を断つようなことがあれば、遺体が見つかる筈。
でも、サキの遺体はどこにも無い。
恐る恐る、僕はステータスウィンドウを開いてみた。
攻略対象リストには、表示が暗く文字やハートが灰色だけど、サキの名前が残っている。
絆スキルも使用不可と表示されたまま。
既に世を去っているなら、そこからサキのデータは消える筈。
つまり、今はまだ生きているということ。
この分岐は、ゲーム制作段階では存在しなかったもの。
だから僕は、サキが失踪してどこへ行ったか全く分からない。
「失踪してしまうなんて、サキは一体どうしたんだ……」
僕と並んで飛翔しながら、ファーが困惑気味に呟く。
残る中ボスイベントはファーのエピソードだけだ。
これまでの例から好感度関係なくいつ発生してもおかしくないので、僕はファーと行動を共にしている。
警戒していて正解だった。
ファーが率いる捜索隊に、中ボスキャラが魔法攻撃を放ってくる。
僕は範囲型の盾スキルでそれに応じた。
盾スキル:風の防壁
防いだ敵の攻撃魔法は風属性、姿を現したのは、風を操る最後の四天王フェイオ。
しかし公式ガイドにもアフレコ台本にも載っていないキャラが一緒にいる。
黒い髪、黒い瞳、黒い翼。
肌は白く、顔立ちは少女のように可愛らしい。
「……な……何故?!」
「ファー、敵の精神攻撃に負けないで!」
その少年を見た途端、ファーが動揺し始める。
サキに続いてまた精神ダメージかと思った僕は、ファーの手を握って励ました。
「精神攻撃なんてしてない」
僕の言葉を否定するのは、黒髪の少年。
その声……コージさん?!
え? そんなキャラ演じてた?
っていうか、美少年系の敵キャラいたっけ?!
僕はファーとは別の方向で驚いてしまった。
「ここはボクに任せて、サキ様は魔界へ向かって下さい」
「「?!」」
系統の違う困惑をする僕とファーは、その少年にフェイオが呼びかけた名を聞いた途端、同じ驚きに変わる。
よく見れば髪や目の色は違うけど、女の子みたいな顔立ちはサキに似ている。
声も少年の姿になったサキ(CV:神崎コージ)っぽい。
でも……
なんで?
どうして?
「ダメだ! 堕ちるな! サキ!」
「ごめんね。もう遅い」
必死で叫ぶファーに対して、黒髪になったサキは無表情で感情が死んだような声で答える。
堕天使となった少年は、僕たちに背を向けて片手で空中に魔法陣を描き、そこを通って姿を消した。
もしかしたらサキが目覚めているかもしれない。
そう思いつつ扉を叩こうとしたら、ノックする前に慌てた様子のウリが飛び出してきた。
ウリが慌てているところなんて初めて見たかも?
「ヒロ! 大変だ! サキがいなくなった!」
「え?!」
いなくなった……って、意識が戻ったってこと?
天界で一番セキュリティ高いウリの家に、侵入者はありえないし。
そもそも、天界に水の大天使を攫おうなんて考える者はいない。
天界は聖なる波動、光の力が濃い場所だから、魔族や魔物は入れない。
レビヤタのような堕天使も、堕天で翼が黒く染まった時点で天界には入れなくなる。
立ち入れるのは天使と勇者と聖者くらいだろう。
そんな天界の、セキュリティトップクラスの家からサキが攫われるか?
「おそらく、目覚めて自力で何処かへ行ってしまったようだ」
「もしかして自分の家へ帰ったとか? ちょっとサキさんの家を見てくる!」
「では私は、サキが定期的に浄化しに行く水辺を見回ってこよう」
僕とウリは、それぞれサキが行きそうな場所を確認してみた。
自宅には帰った形跡が無い。
神殿にも来ていないらしい。
天界でサキが行きそうなところを見て回ったけれど、誰も見かけていないという。
サキ、どこ行った?!
念の為、ヨブ湖も見に行ってみた。
聖なる慈雨で清められた湖は、底が見えるほど澄んでいる。
周囲を探してもサキはいない。
主が倒されたので無人となった海辺の古城も行ってみた。
城内や白薔薇に変わった薔薇園がある庭園を見回ったけど、誰もいない。
サキ、なんでいなくなった?
心当たり全て探したけど、目撃者もサキがいた痕跡も見つからない。
僕は捜索隊を出してもらいに、天使長ルウのところへ行った。
「ヒロ、準備はしておいた。すぐ捜索に出られるよ」
僕の背中に移植された翼はルウの召喚獣だから、ルウは僕が見るものを共有していて、何故サキが意識不明になっていたのか知っている。
サキの失踪も僕の視覚を通して情報を得ており、僕が神殿へ行くと既に捜索隊の準備が行われていた。
「すまん。ヒロが帰ってくるまでサキを護ると約束したのに……」
「ウリが悪いわけじゃないよ。まさか意識不明のサキさんが突然姿を消すなんて思わないし」
ウリは責任を感じるらしく、僕に謝ってくる。
僕は彼が落ち込み過ぎないように慰めてみた。
行方不明で考えられる可能性は、貞操を穢された精神的ダメージで正気を失ってフラフラと何処かへ行ってしまったか、絶望して自死の選択をしてしまったか。
どちらにしても早く見つけないとサキが危ない。
こんな分岐、知らない。
サキのボスイベントは、シナリオがかなり変わっている。
元からあるバッドエピソードの分岐では、レビヤタに殺される流れはあっても、サキが発狂したり自殺したりなんてシナリオは無かった。
レビヤタを倒したらイベントクリアじゃないの?
これ、まだ続いてるの?!
天使たち300人と僕によるサキ捜索隊が組まれ、天界と人界を探し回る。
正気を失い彷徨っているなら、目撃者がいてもおかしくない。
でも、天使たちも人間たちも、水色の髪の天使を見かけていないという。
考えたくないけど、もしも自ら命を断つようなことがあれば、遺体が見つかる筈。
でも、サキの遺体はどこにも無い。
恐る恐る、僕はステータスウィンドウを開いてみた。
攻略対象リストには、表示が暗く文字やハートが灰色だけど、サキの名前が残っている。
絆スキルも使用不可と表示されたまま。
既に世を去っているなら、そこからサキのデータは消える筈。
つまり、今はまだ生きているということ。
この分岐は、ゲーム制作段階では存在しなかったもの。
だから僕は、サキが失踪してどこへ行ったか全く分からない。
「失踪してしまうなんて、サキは一体どうしたんだ……」
僕と並んで飛翔しながら、ファーが困惑気味に呟く。
残る中ボスイベントはファーのエピソードだけだ。
これまでの例から好感度関係なくいつ発生してもおかしくないので、僕はファーと行動を共にしている。
警戒していて正解だった。
ファーが率いる捜索隊に、中ボスキャラが魔法攻撃を放ってくる。
僕は範囲型の盾スキルでそれに応じた。
盾スキル:風の防壁
防いだ敵の攻撃魔法は風属性、姿を現したのは、風を操る最後の四天王フェイオ。
しかし公式ガイドにもアフレコ台本にも載っていないキャラが一緒にいる。
黒い髪、黒い瞳、黒い翼。
肌は白く、顔立ちは少女のように可愛らしい。
「……な……何故?!」
「ファー、敵の精神攻撃に負けないで!」
その少年を見た途端、ファーが動揺し始める。
サキに続いてまた精神ダメージかと思った僕は、ファーの手を握って励ました。
「精神攻撃なんてしてない」
僕の言葉を否定するのは、黒髪の少年。
その声……コージさん?!
え? そんなキャラ演じてた?
っていうか、美少年系の敵キャラいたっけ?!
僕はファーとは別の方向で驚いてしまった。
「ここはボクに任せて、サキ様は魔界へ向かって下さい」
「「?!」」
系統の違う困惑をする僕とファーは、その少年にフェイオが呼びかけた名を聞いた途端、同じ驚きに変わる。
よく見れば髪や目の色は違うけど、女の子みたいな顔立ちはサキに似ている。
声も少年の姿になったサキ(CV:神崎コージ)っぽい。
でも……
なんで?
どうして?
「ダメだ! 堕ちるな! サキ!」
「ごめんね。もう遅い」
必死で叫ぶファーに対して、黒髪になったサキは無表情で感情が死んだような声で答える。
堕天使となった少年は、僕たちに背を向けて片手で空中に魔法陣を描き、そこを通って姿を消した。
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