【完結】声優憑依〜隠し攻略対象とのエンディングを目指せ〜

BIRD

文字の大きさ
上 下
31 / 51
第3章:天界と魔界

第27話:知らない分岐

しおりを挟む
 「襲われないようにする方法ないんですか?」
 「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」

 普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
 けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
 大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。

 「……多すぎて分からないです……」
 「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」

 きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
 一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。

 「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
 「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
 「違うわ!そんな事してない!」
 「では何故憎まれてると思うの?」
 「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
 「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」

 リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
 彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
 相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
 
 「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
 「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
 「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
 「あの、何か探す方法無いですか」
 「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
 「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
 「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
 「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
 「そ、そっか……」

 急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
 しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
 よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。

 「一人で立ち向かおうなどと思うな」
 「え、だ、駄目ですか」
 「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
 「……そうですよね」

 それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
 しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
 そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。

 「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」

 お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました

むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。

処理中です...