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勇者エリシオ編

第42話:創造神アーシア

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 わらわらと大集合する緑の羽根の妖精たち。
 訪れた勇者の魔力が高いほど集まる数が多い。
 という話はプルミエ王家にも伝わっており、エリシオも知っている。
 小妖精たちの挨拶の後には、神樹の精霊が現れて祝福をする事も。

 しかし今回は、ここでもイレギュラーな事になってしまった。

『待っていたよ』
 微笑みながら現れたのは、神樹の精霊ではない。

 藍色の長い髪、穏やかで中性的な顔立ち、青の中に緑や茶など異なる色が混ざった不思議な瞳。
 湧き出るのは、神聖魔法よりも純度の高い清らかな光の波動。

 創造神アーシア。

 この世界を創った神が、エリシオの前にいた。

『愛し子よ、我が祝福を受け取りなさい』
 神の声が心の中に流れ込む。
『その力は、これからそなたに必要となるだろう』
 何か温かい力が、左腕に流れ込んでくる。

「どうして神様がここに?」
 エリシオは問うた。

 昔、祖先のセイルとイリアが創造神の祝福を受けているが、神樹の精霊を介してのものだった。
 以降プルミエ王族が創造神の祝福を受ける事はよくあるが、直接会った者はいない。

『歴代の勇者の中で、そなたは特異な者ゆえに』
 神の答えに、何の事だろう?と疑問に思ったが、肩の上の仔猫ルシエを見てなんとなく察した。

 聖剣を得る神竜の間でも、勇者の認定を受ける神樹の間でも、エリシオの肩には仔猫ルシエがいる。
 それらの場に魔王を連れて来た勇者など史上初だとシアンが言っていた。

『勇者とは魔王を斃す為に私が創った役割。けれどそなたは魔王と戦わぬと言う』
 流れ込む神の言葉には、僅かに困惑の気配が感じられる。
「ルシエは世界を滅ばさないと決めたから。僕は古代の民たちと共存したいと思っています」
 魔王と言わず個人名を、魔族と言わずに古代の民と言う。
 偉大な存在を相手に臆する事無く、エリシオは応えた。

『その気持ちに揺らぎはないようだな』
 創造神が穏やかに微笑む。
「もう決めました」
 エリシオも笑みを返す。
 ルシエたちと共に暮らして6年、共存の道へ進めると信じている。

『では、聖剣を抜いてみなさい』
「はい」
 創造神に言われ、エリシオは左腕に右手をかざす。
 宿っている日本刀カタナを鞘から抜き放つイメージで取り出すと、抜き身の刀身が現れた。
 左腕の中に残った鞘は、青い燐光と化して湧き出ると、全身を護るように覆う。
 歴代の聖剣の中でも稀な、主を護る力を持つ剣。
 その力が、エリシオを包んでいた。

『剣も主に従うと決めているようだ』
 神はまた微笑んだ。

「我が子よ、未来へ向かう前に、そなたは過去を知らねばならぬ」
 神は告げる。
 それが鍵であったのか、大量の情報が脳内に流れ込んできた。


 …それは、聖剣に残された2人の勇者の記憶…。
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