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勇者エリシオ編
第35話:風の鎮魂歌
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「当家の呪いが解けるのですか?!」
ペンタイア家の応接室、当主ミランは思わず身を乗り出す。
対面するソファに座るエリシオが、コクリと頷いた。
「解呪する前に、御当主に見てほしいものがあります」
エリシオの隣に座る拓郎が、タブレット状の魔道具をスッと差し出す。
そこに記録された映像は、ペンタイア家に呪いをかけた聖女の記憶。
聖女の霊はロミュラに憑依した際に、フォンセに関する記憶を全て開示していた。
映像は彼女から血族を呪った経緯を聞き、拓郎が文字と静止画像のスライドに仕上げたもの。
「………当家を呪っていたのは追放された子ではなく、子供を追放した聖女だったのですね」
ミランは溜息をついた。
「聖女の霊は鎮魂花の導きで成仏させたけど、呪いはここの敷地に染み込んだ血が媒介になってるから、それを浄化する必要があるんだ」
説明するエリシオは、7歳とは思えぬ知性と知識量を感じさせる。
その才知を分っているので、ミランは真剣に聞き入っていた。
屋敷の庭園、かつては聖女の象徴である白薔薇が植えられていた場所。
今では草も生えない荒れた場所と化していた。
そこへペンタイア家の人々と拓郎、エリシオと従魔たちが歩いて来る。
大量の血が染み込んだ地面は、あちこちから黒い靄のようなものを噴き出す。
エリシオに抱っこされた赤ん坊マーニが、怯えてギュッとしがみついてくる。
幼いマーニをこの場に同行させるつもりは無かったが、何を感じたのか必死な様子で泣き、侍女たちがあやしても泣き止まず、エリシオが抱っこすると落ち着いたので仕方なく連れて来た。
「大丈夫だよマーニ、僕が付いてるからね」
穏やかな声で語りかけ、背中をトントンしてあげると、マーニはホッとしたように身体の力を抜いた。
「マーニったら、エリシオ様イチバンなのねぇ」
ナタルマが溜息混じりに呟く。
「父さんはいつもプイッてされて悲しいよ」
ミランも溜息をついた。
なんだか申し訳ない感があり、エリシオは苦笑した。
「じゃあ、始めるよ」
黒ずんだ地面が剥き出しの場所、その真ん中に立つエリシオが人々に声をかける。
人々は胸の前で手を組み、遥かな昔ここで辛い思いをした2人に追悼の意を示す。
二度と同じ過ちを犯さぬ誓いを、その心に。
鎮魂花を身体に宿す仔猫ルシエを肩に、無垢な赤ん坊マーニを腕に抱きながら、エリシオは神樹と風の複合魔法を発動する。
神樹の御使いと風の妖精、2種類の妖精たちが周囲に集う。
青い星型の花が、無数に現れて風に舞い始めた。
『その血の主は天へと還った。戒めを理解した人々から、呪いよ退け』
神樹・風魔法複合:風の鎮魂歌
大量の花弁が風に乗り、地面から噴き出していた黒い靄を覆って消し去る。
敷地内全体に青い花と花弁が舞った後、心地よく清らかな風が吹いた。
地面の黒い染みは消え、エリシオが立つ場所を中心に緑の新芽が現れ、急速に育ってゆく。
棘の無い蔓が広がり、次々に蕾が育って開花し、白薔薇の庭園が復活した。
ペンタイア家の人々は、その奇跡にしばし言葉が出ない。
エリシオに抱かれたマーニは神樹と風の妖精たちを見詰め、無邪気な笑みを浮かべた。
赤ん坊の髪の色が変化した事にエリシオは気付き、その頭を撫でる。
くすんだ灰色だったマーニの髪は、艶やかな銀髪に変化していた。
ペンタイア家の応接室、当主ミランは思わず身を乗り出す。
対面するソファに座るエリシオが、コクリと頷いた。
「解呪する前に、御当主に見てほしいものがあります」
エリシオの隣に座る拓郎が、タブレット状の魔道具をスッと差し出す。
そこに記録された映像は、ペンタイア家に呪いをかけた聖女の記憶。
聖女の霊はロミュラに憑依した際に、フォンセに関する記憶を全て開示していた。
映像は彼女から血族を呪った経緯を聞き、拓郎が文字と静止画像のスライドに仕上げたもの。
「………当家を呪っていたのは追放された子ではなく、子供を追放した聖女だったのですね」
ミランは溜息をついた。
「聖女の霊は鎮魂花の導きで成仏させたけど、呪いはここの敷地に染み込んだ血が媒介になってるから、それを浄化する必要があるんだ」
説明するエリシオは、7歳とは思えぬ知性と知識量を感じさせる。
その才知を分っているので、ミランは真剣に聞き入っていた。
屋敷の庭園、かつては聖女の象徴である白薔薇が植えられていた場所。
今では草も生えない荒れた場所と化していた。
そこへペンタイア家の人々と拓郎、エリシオと従魔たちが歩いて来る。
大量の血が染み込んだ地面は、あちこちから黒い靄のようなものを噴き出す。
エリシオに抱っこされた赤ん坊マーニが、怯えてギュッとしがみついてくる。
幼いマーニをこの場に同行させるつもりは無かったが、何を感じたのか必死な様子で泣き、侍女たちがあやしても泣き止まず、エリシオが抱っこすると落ち着いたので仕方なく連れて来た。
「大丈夫だよマーニ、僕が付いてるからね」
穏やかな声で語りかけ、背中をトントンしてあげると、マーニはホッとしたように身体の力を抜いた。
「マーニったら、エリシオ様イチバンなのねぇ」
ナタルマが溜息混じりに呟く。
「父さんはいつもプイッてされて悲しいよ」
ミランも溜息をついた。
なんだか申し訳ない感があり、エリシオは苦笑した。
「じゃあ、始めるよ」
黒ずんだ地面が剥き出しの場所、その真ん中に立つエリシオが人々に声をかける。
人々は胸の前で手を組み、遥かな昔ここで辛い思いをした2人に追悼の意を示す。
二度と同じ過ちを犯さぬ誓いを、その心に。
鎮魂花を身体に宿す仔猫ルシエを肩に、無垢な赤ん坊マーニを腕に抱きながら、エリシオは神樹と風の複合魔法を発動する。
神樹の御使いと風の妖精、2種類の妖精たちが周囲に集う。
青い星型の花が、無数に現れて風に舞い始めた。
『その血の主は天へと還った。戒めを理解した人々から、呪いよ退け』
神樹・風魔法複合:風の鎮魂歌
大量の花弁が風に乗り、地面から噴き出していた黒い靄を覆って消し去る。
敷地内全体に青い花と花弁が舞った後、心地よく清らかな風が吹いた。
地面の黒い染みは消え、エリシオが立つ場所を中心に緑の新芽が現れ、急速に育ってゆく。
棘の無い蔓が広がり、次々に蕾が育って開花し、白薔薇の庭園が復活した。
ペンタイア家の人々は、その奇跡にしばし言葉が出ない。
エリシオに抱かれたマーニは神樹と風の妖精たちを見詰め、無邪気な笑みを浮かべた。
赤ん坊の髪の色が変化した事にエリシオは気付き、その頭を撫でる。
くすんだ灰色だったマーニの髪は、艶やかな銀髪に変化していた。
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