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勇者セイル編
第106話:海の学校
しおりを挟むプルミエ王国・シイの村。
通称【人魚の里】と呼ばれるそこは今、隷属紋から解放された子供たちのメンタルケアを担っている。
といっても特別に何か治療するわけではなく、綺麗な風景を眺めて美味しい物を食べてノンビリするだけ。
でもそれが、奴隷経験で傷ついた心を癒すのに良いらしく、半年ほど経つ頃にはほとんどの子供たちが無邪気な笑顔を取り戻していた。
「先生~! 採れましたぁ!」
得意そうな笑顔で大きな二枚貝を手に駆けて来る7~8歳くらいの少年。
半年ほど前、隷属紋から解放されたが心の傷が深く、笑顔も言葉も失っていた子だ。
彼と仲のいい少女も一緒に走ってくる。
「お! いい物採れたねロシュ!」
駆け寄って来た少年に笑顔で応えるのはヒロヤ。
マリンサービスを提供する人魚の里の命を守る者、SETA社員・森田である。
自然ガイドも兼ねており、海の生き物の事などを教えていたら先生と呼ばれるようになっていた。
「じゃあ、そろそろ火を起こしますね」
そう言ってSETA社製の点火棒で炭火に着火するのは、ロシュと同じ時期に来た女性エミー。
彼女の家族は既に病気で他界しているそうで、里が気に入った事もあり永住を希望している。
エミーやロシュたちと一緒にバーベキューの準備を始めていると、他の子どもたちも収穫を手に集まってきた。
「先生、クースが怪我しちゃった」
と言って負傷した少年に付き添いながら戻って来たのは同じ年頃の少年パーチ。
子供たちの中で最初に来た2人で、12~3歳くらいの双子の兄弟だ。
「クース、こっちへおいで」
ヒロヤは呼び寄せて来た子をベンチに座らせた。
無属性魔法・洗浄で患部とその周辺を清潔にする。
その後、回復魔法で傷を完治させた。
「ありがとう!」
笑顔でベンチから立ち上がり、少年はバーべキュー準備に加わる。
「先生、僕も回復魔法が使えるようになりたい」
もう1人の少年パーチが、その心に芽生えた願いを告げた。
「じゃあ、回復魔法の練習を始めようか」
ヒロヤは穏やかな笑みを浮かべてそれに応えた。
子供たちが望むなら、魔法を教えようと思う。
彼の中には、女神に授けられた全ての属性の魔法があった。
「おにぎり持って来たぜ」
そう言って転移して来たのは奏真。
プルミエ騎士団の食堂で作った物を手土産に持っていて、テーブルに並べてゆく。
彼はバレル&ラムル兄弟も連れて来ていた。
比較的早い時期に隷属紋から開放されたバレルはメンタルの回復が早く、プルミエ王都のSETA魔道具店で働き始めた。
後から保護されたラムルは奴隷になる前の記憶が無く、隷属紋に縛られた期間の記憶のみだったので回復に時間がかかっている。
そこで奏真の提案でシイの村に遊びに通わせて、メンタルケアをしてみる事となった。
「ほらこれ食べてみて。」
「これつけると美味しいよ」
早速世話を焼くのは歳が近い双子。
渡された焼き魚を手にラムルは少し戸惑い、奏真の方を見た。
実の兄はバレルだが、こうした場面でラムルは奏真を頼る事が多い。
「食べてみな。ここの魚は美味いぞ」
同じ魚を手にした奏真が先に齧り付いて見せると、ようやくラムルは焼き魚を口に運んだ。
焼きたての魚は皮がパリッとしていて、身はふっくらした食感、クセの無い白身で美味しかった。
「僕たちも最初は自分が何をしたいのかとか、これからどうするかとか、全然思い浮かばなかったよ」
食後、砂浜に座って海を眺めながら、双子の片割れパーチが言う。
その言葉を、クースとラムルが静かに聞いている。
「でもね、今日初めて思ったんだ。先生みたいに誰かの怪我を治せるようになりたいって」
パーチはそう言うと、優しい笑みを見せた。
夕方、片付けを済ませて帰ろうとした時、ラムルは奏真を見上げて言った。
「ソーマさん、僕もここにいていいですか?」
珍しく意思表示するラムルに、奏真はニッと笑って答える。
「いいと思うぞ。あそこにいる先生にお願いしてみろよ」
言われて、ラムルはヒロヤのところへ行く。
「先生、僕もここにいさせて下さい」
ラムルに言われたヒロヤは、それを予感していたのか驚く事は無く答える。
「いいよ」
ノンビリ過ごしていい。
そう言うとヒロヤはラムルの手を引いて、子供たちが暮らす建物へ向かった。
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