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勇者セイル編
第100話:もう1つの道
しおりを挟む対象を眠らせた状態で心を読み取る尋問用魔道具、deep consciousness reading。
独房の中、眠りの深さを調整する人工呼吸器やバイタルチェック用のケーブルを取り付けられ横たわる雷斗、脳波通信によって会話を試みる瀬田、それを見守る空也がいる。
情報の共有のため、星琉・奏真・海世も加えてのグループチャット内で雷斗との会話は行われる。
メインの対話は瀬田が担当した。
『…ここは何処だ? 地獄か?』
レム睡眠状態の雷斗は思ったより落ち着いていた。
ベッド脇のバイタルチェック用パネルに表示される心拍や呼吸は、リラックス状態を示している。
『いや、現世だよ。 君は牢獄に幽閉されている』
『わたしは死んだのではないのか?』
瀬田が簡単に今の状況を教えると、雷斗は不思議そうに問う。
驚いたのか、心拍が一瞬乱れた。
意識を失う直前の記憶が海世の持つ刀に胸を貫かれた光景だったので、死んだと認識していたらしい。
『死んではいない。 確かに一度は心臓が止まったが、蘇生されて生きている』
『それは何だ? 神の奇跡か?』
『神から力を授かった人間の技だよ』
魔法を殆ど知らない人間の質問に、瀬田は一番分かりやすそうな説明で答えた。
『私は死なせてはもらえぬのか?』
『何故生きようとは思わないんだい?』
雷斗は抵抗しない代わりに、生きる事を諦めた様子。
『私は負けたのだ。 死んで当然であろう?』
『負けたからって死んで終わりなんて駄目です!』
傍観していられなくなり、空也が通話に割り込んだ。
その【声】に反応して、雷斗の心拍がまた乱れる。
『お前の進む道は1つじゃないんだよ。帝になれなくても他の道で生きればいい』
続いて割り込む奏真の言葉に、雷斗の心拍がまた反応を示した。
『んじゃ、ちょいとアイツんとこ行ってくる』
星琉が戻って来たところで海世の護衛を交代し、奏真は雷斗の近くに転移する。
行ってみると雷斗はまだ眠らされていたが、空也と奏真の言葉で動揺しているらしく、脈が少し速くなっていた。
「社長、こいつに日本を見せてやってもいいスか?」
「お願いします父さん、見れば気持ちが変わる筈です」
奏真が提案し、空也が賛同する。
「それがいいかもしれないね」
言うと、瀬田は独房内にカプセル型の大型魔道具を転送した。
変身用魔道具・transform capsule
お馴染み、容姿と服装を変化させる魔道具。
奏真は雷斗をベッドから抱き上げて、カプセル内に寝かせた。
瀬田がパネルを操作し、蓋が閉じると変身が始まる。
「では覚醒させるぞ。一応警戒していてくれ」
魔道具を操作しながら瀬田が言う。
意識レベルを少しずつ上げてゆくと、雷斗が目を開けた。
彼はしばらくぼんやりした後、起き上がろうとするが身体が上手く動かせない。
「いきなり小さくなったから、馴染むまで動きづらいよな」
言うと、奏真が軽々と抱き上げる。
そこで雷斗は、自分が幼い子供の姿になっている事に気付いた。
「??????」
愕然としながら、自分の手や足を確認するように見る。
そんな雷斗を抱いたまま、奏真は日本へ転移した。
ジパングの民が日本へ行くのは海世・空也・風斗に続いて雷斗で4人目。
雷斗は別世界の風景と音に驚き、しばらく放心状態になった。
「しっかり見とけよ、ここがジパング国民の祖先の国、日本だ」
奏真は雷斗を連れて市街地を巡り、景勝地を見せたり、ラーメン屋で食事をさせたりする。
先の3人と同じく、雷斗の心も大きな影響を受けつつあった。
そして郊外の林へ行くと、奏真は自分が日本を離れてアーシアに移住した経緯を語った。
家族が望む道は1つしかなかったが、それに抗い違う道へ進んだ事。
血縁者に自分が選んだ道を認めてくれる人はいないが、友人たちは応援してくれる事。
娯楽を通して親しくなった友が、自分の力を活かせる世界へ呼んでくれた事。
「お前が目指してた【帝位】って、本当にお前がなりたいものだったか? 周囲の人間に押し付けられてたんじゃないか? 本当は何をしたいのか、今から考えてみたらいいんじゃないか?」
林の中を流れる川を眺めつつ、奏真は言う。
その腕に抱かれた幼子・雷斗は、言葉も無く静かにそれを聞いていた。
日本見物を終えて独房に帰った後、雷斗は変身用魔道具に入る事を拒否する。
「元の姿には戻さないでほしい」
「え? そのままがいいのか?」
抱いていた雷斗をカプセル内に寝かせようとして言われ、奏真がキョトンとした。
「この姿の方が良い。 この姿なら、新しい道を歩める気がする」
その言葉から雷斗の心の変化を感じ、瀬田と空也がホッとした表情になる。
「ジパングには戻らなくていいのか?」
瀬田が聞く。
「戻る気は無い。 どこか外国に行ってそこで暮らそうと思う」
雷斗はきっぱりと答えた。
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