上 下
14 / 169
勇者セイル編

第13話:王女と勇者

しおりを挟む



プルミエ王国の剣術大会は星琉の優勝で幕を閉じた。
1~3位は表彰され、優れた剣士である事を示す剣と賞金が渡される。
国王が壇上に立ち、その左右に王妃と王女、背後に王と王妃の守護騎士と護衛たちが控えていた。
表彰は3位から進み、最後は1位となった星琉。

「異世界の剣士セイルよ…」
国王が話し始めた、その時。
ヒュッと風を切り、イリアめがけて矢が放たれた。
キンッと音を立て、矢はイリアを包む球状の防護壁に弾かれる。
星琉が贈った守護石の効果が発動していた。
「誰だ!!!」
場内を警備していた騎士たちが殺気立つ。
彼等が見つけるより早く、星琉が動いた。
瞬時に敵の前まで移動し、刀の峰打ちで沈黙させる。
(まだいる…!)
捕縛は騎士にたちに任せ、星琉は次の敵を気絶させた。
敵がどこに何人いるか、まるでレーダーのように探知出来る。
星琉は確実に敵を見つけ出し、捉えた。
獣人よりも速い攻撃に抗える敵は無く、全てが一撃で沈められ騎士に捕縛される。
驚くほど短時間で敵グループは制圧され、騎士たちが牢へ連行した。

危険が無くなった事を確認して、星琉は表彰の場へ戻った。
「セイルよ、大会の成績だけでなく、二度も王家の者の危機を救った事、その功績は称賛に値する」
先程の事件に動揺している気配も無く、王は威厳を保って言う。
「よってそなたに【勇者】の称号を与える。この国の永住権を授け、王城に住まう事を許可する」
「?!」
想定外の待遇に一番驚いたのは星琉本人。
観客が沸いた。
異を唱える者はいなかった。
(…え…永住権? 王城住まい? っていうかなんで俺が勇者??)
本人だけが困惑していた。

表彰式が終わった後は、王城で立食パーティが催された。
大会の優勝者~3位までは当然主役扱いで、色々な人々が挨拶に来る。
星琉は獣人ブロック参加だったので獣人たちが集まってくる。
…が
(…どうしてこうなった…?)
星琉はヒクッと頬を引き攣らせた。
やけに女性の数が多い。
参加した選手の姉やら妹やらワラワラ寄って来る。
加えて人間の令嬢たちもやって来る。
向こうの方で楽師たちが準備をしているのが見えたので、おそらくダンス狙いだろう。
(…いや、駄目だ)
星琉は周囲に流されないように意志を保ち、ちょっと失礼、と声をかけてその場を離れる。
最初に踊りたい相手は決まっていた。
「イリア」
王家の人々がいるところまで行くと、星琉は王女に声をかける。
音楽が流れ始めた。
「一緒に踊って頂けませんか?」
丁寧に一礼。
王女は嬉しそうに微笑み、答える。
「はい」

前夜祭の時以上に人々の注目を浴びつつ踊る少年少女を、サラリーマン2人はやれやれという感じで眺めていた。
「まさか勇者になっちゃうなんてねぇ」
ワイン片手に渡辺が呟く。
「セイル君4月から就活とか言ってたけど異世界就職ですかね?」
チキンを手に森田が言う。
「あの剣技をVRゲームだけに使うのは勿体ない」
渡辺は言った。

ダンスタイムが終わると、星琉はイリアを誘って庭園へ移動した。
今夜も満点の星空、小妖精たちは花の中で寝たフリをしている。
「冒険者じゃなくて勇者になっちゃったね」
クスッと笑ってイリアが言う。
「まだすんごく困惑してるんだけど。勇者って何したらいい?」
戸惑いを隠しきれない星琉が聞く。
「王国の危機を救えばいいんじゃない?」
「そこを詳しく」
「そうねぇ…例えば、この国の未来の女王を護るとか?」
「…未来の女王…?」
意味深な笑みを向けられ、しばし考える星琉。
「ここにいるじゃない」
イリアが、自らを指さしてみせた。
「…って、王位継承権あったの?!」
今更驚く星琉。
「私を何だと思ってたの?」
「えーと、王女で聖女」
「この国、王子いないでしょ?むしろ国王の子供って私だけでしょ?」
「…つまり、漏れなく次の王様?」
「そういう事ね」
「…つまり、未来の俺の上司?」
ようやくイリアの立場を把握した星琉であった。

すると…

「…妻かもしれないわよ?」
「………えっ?!」
唐突にボソッと言われ、星琉は慌てた。
「勇者が王女と結婚するのはよくある事だってシロウが言ってたよ」
(…何を教えてるんだ瀬田さん…)
どうやらイリアは瀬田から何か教えられたらしい。
「この国の永住権もらったし、お城に住むし、もう結婚でいいんじゃない?」
「そ、そんな軽いノリでいいのか?」
何か開き直った感じのイリアにまた困惑する星琉。
「忘れてって言ったけど本当に忘れちゃったの?」
イリアが迫る。
圧倒されてタジタジの星琉。
唐突にイリアが顔を近付けてきて、不意打ちみたいに唇を奪う。
星琉、しばし呆然。
回避能力に優れた彼だが、これは避けられなかった。
「…い…今の…俺の…ファーストなんだけど…」
「私もよ。だからおあいこね」
思考が半分停止した星琉にイリアが告げる。
「…セイルがいい、セイルじゃなきゃヤダ」
更に追い打ちをかけるようにポロポロ涙を零し始めた。
美少女の泣き落としは最強である。
「…わ、分かったから。泣かないで」
星琉、陥落。
そして、イリアに負けて、婚約する事になる星琉であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

╣淫・呪・秘・転╠亡国の暗黒魔法師編

流転小石
ファンタジー
淫 欲の化身が身近で俺を監視している。 呪 い。持っているんだよねぇ俺。 秘 密? 沢山あるけど知りたいか? 転 生するみたいだね、最後には。 これは亡国の復興と平穏な暮らしを望むが女運の悪いダークエルフが転生するまでの物語で、運命の悪戯に翻弄される主人公が沢山の秘密と共に波瀾万丈の人生を綴るお話しです。気軽に、サラッと多少ドキドキしながらサクサクと進み、炭酸水の様にお読み頂ければ幸いです。 運命に流されるまま”悪意の化身である、いにしえのドラゴン”と決戦の為に魔族の勇者率いる"仲間"に参戦する俺はダークエルフだ。決戦前の休息時間にフッと過去を振り返る。なぜ俺はここにいるのかと。記憶を過去にさかのぼり、誕生秘話から現在に至るまでの女遍歴の物語を、知らないうちに自分の母親から呪いの呪文を二つも体内に宿す主人公が語ります。一休みした後、全員で扉を開けると新たな秘密と共に転生する主人公たち。 他サイトにも投稿していますが、編集し直す予定です。 誤字脱字があれば連絡ください。m( _ _ )m

最強勇者は二度目を生きる。最凶王子アルブレヒト流スローライフ

ぎあまん
ファンタジー
勇者ジークは人魔大戦で人類を勝利に導いた。 その後、魔王の復活を監視するために自ら魔王城に残り、来たる日のために修行の日々を続けていた。 それから時は流れ。 ある時、気がつくと第一王子として生まれ変わっていた。 一体なにが起こった。 混乱しながらも勇者は王子としての日々を過ごすことになる。 だがこの勇者、けっこうな過激派だった。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

【☆彡】ラグナロク【☆彡】異世界転生 ~それは神の頂へとたどり着き、2人の嫁とスローライフする男の物語~

マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
しがないサラリーマンの大神丹次郎(おおじん・たんじろう)は、授かり婚で結婚した妻と愛娘と3人で暮らしていた。 しかし家族のために必死に働いていたある日、丹次郎は妻の浮気と、愛娘が実子ではなく托卵であったことを知ってしまう。 娘にはキモいと言われ、家の名義が妻の物に書き換えられていた挙句に、必死に稼いだ預金はFXと仮想通貨で溶かされている始末。 人生に絶望した丹次郎はさらに悲惨なことに、おやじ狩りにあって命を落とすが、なんと異世界転生することになった。 最強チートで異世界転生した丹次郎は、そこでエルフの神官嫁と運命の出会いを果たす――。 最後にどんでん返し(オチ)が用意してありますので、最後まで読んでいただけると嬉しいです!

【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」  これが婚約者にもらった最後の言葉でした。  ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。  国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。  やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。  この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。  ※ハッピーエンド確定  ※多少、残酷なシーンがあります 2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2021/07/07 アルファポリス、HOT3位 2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位 2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位 【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676) 【完結】2021/10/10 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

処理中です...