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第49話:セレスティン
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―――「…母さん、どうして兄さんと遊んではいけないの?」
白亜の壁に囲まれた部屋の中、彼は質問を投げかける。
「あの子は呪われた子、一緒に居たらお前も闇に落ちてしまうよ」
答えるのは、彼に背を向けたままの、年輩と思われる女性。
卵形の頭から痩せた背中へ流れる、クセの無い赤毛、それを器用に編んでゆく手の指は細いが、関節や血管が浮き出していて、綺麗とは言えない。
「どうして兄さんは呪われた子なの? それじゃあ、僕も呪われた子?」
「お前は呪われてなんかいないよ。お前は私の大事な息子。父さんと母さんが愛し合って生まれた可愛い子供だから」
更に問うと、彼女は髪を編む手を止め、彼を抱き寄せ優しく囁いた。
「……でも、あの子は違う」
と、急にその声が少し低くなり、彼女は彼をギュッと抱き締め、前方にある扉を睨む。
「そこにいるのは分ってるよ! でもお前の名は呼んでやらない。お前にその名を与えたあの人はもういないのだから!」
木肌がゴツゴツした粗末な扉に向かって、彼女は声を張り上げた。
「お前が殺したのよ、私の愛するレイルを! とっとと出ておいき、二度と私達の前に姿を見せるんじゃないよっ!」
途端に、扉の向こうでパサッという軽い物を落としたような音がして、木の床を駆け出す足音が聞こえる。
「兄さん!」
彼は背後の扉へと顔を向けるが、母は抱き締めた腕を離してくれず、駆け出す事は出来なかった。
「追っては駄目。あの子に関わっていたら殺されてしまうよ。……父さんのように……」
彼をしっかりと抱き締めたまま、母は囁く。
「側に居て頂戴、母さんにはもう、お前しかいないのだから……」
水仕事のせいでガサガサに荒れた手で、彼女は愛し子の頭を撫でた。
「……母さん……」
抗議の意を込め、眉を寄せて顔を向ける彼の視界に、母の潤んだスミレ色の双眸が映る。
幾筋もの涙がそこから溢れ、すり減った木の床に落ちて小さな染みを作った。
「……お前の髪は、父さんと同じ色……」
彼の髪を一房片手ですくい上げ、宝物でも見る様なまなざしを向けて母は言う。
「……そして瞳は、私と同じ色……」
彼女は揺れる瞳で、我が子の顔を見つめた。
その両眼に映るのは、銀の髪とスミレ色の瞳をもつ、五歳くらいの少年。
健康な子供特有の、薔薇色の頬や唇。
睫毛の長い大きな目は、ともすれば女の子にも見える。
「……セレスティン……」
母は最愛の息子の名を呼ぶ。
「……この世で、たった一人だけの、私の大事な子なのよ……」
我が子に言い聞かせるように、母は呟いた…―――――
白亜の壁に囲まれた部屋の中、彼は質問を投げかける。
「あの子は呪われた子、一緒に居たらお前も闇に落ちてしまうよ」
答えるのは、彼に背を向けたままの、年輩と思われる女性。
卵形の頭から痩せた背中へ流れる、クセの無い赤毛、それを器用に編んでゆく手の指は細いが、関節や血管が浮き出していて、綺麗とは言えない。
「どうして兄さんは呪われた子なの? それじゃあ、僕も呪われた子?」
「お前は呪われてなんかいないよ。お前は私の大事な息子。父さんと母さんが愛し合って生まれた可愛い子供だから」
更に問うと、彼女は髪を編む手を止め、彼を抱き寄せ優しく囁いた。
「……でも、あの子は違う」
と、急にその声が少し低くなり、彼女は彼をギュッと抱き締め、前方にある扉を睨む。
「そこにいるのは分ってるよ! でもお前の名は呼んでやらない。お前にその名を与えたあの人はもういないのだから!」
木肌がゴツゴツした粗末な扉に向かって、彼女は声を張り上げた。
「お前が殺したのよ、私の愛するレイルを! とっとと出ておいき、二度と私達の前に姿を見せるんじゃないよっ!」
途端に、扉の向こうでパサッという軽い物を落としたような音がして、木の床を駆け出す足音が聞こえる。
「兄さん!」
彼は背後の扉へと顔を向けるが、母は抱き締めた腕を離してくれず、駆け出す事は出来なかった。
「追っては駄目。あの子に関わっていたら殺されてしまうよ。……父さんのように……」
彼をしっかりと抱き締めたまま、母は囁く。
「側に居て頂戴、母さんにはもう、お前しかいないのだから……」
水仕事のせいでガサガサに荒れた手で、彼女は愛し子の頭を撫でた。
「……母さん……」
抗議の意を込め、眉を寄せて顔を向ける彼の視界に、母の潤んだスミレ色の双眸が映る。
幾筋もの涙がそこから溢れ、すり減った木の床に落ちて小さな染みを作った。
「……お前の髪は、父さんと同じ色……」
彼の髪を一房片手ですくい上げ、宝物でも見る様なまなざしを向けて母は言う。
「……そして瞳は、私と同じ色……」
彼女は揺れる瞳で、我が子の顔を見つめた。
その両眼に映るのは、銀の髪とスミレ色の瞳をもつ、五歳くらいの少年。
健康な子供特有の、薔薇色の頬や唇。
睫毛の長い大きな目は、ともすれば女の子にも見える。
「……セレスティン……」
母は最愛の息子の名を呼ぶ。
「……この世で、たった一人だけの、私の大事な子なのよ……」
我が子に言い聞かせるように、母は呟いた…―――――
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