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第23話:2つの姿を持つ者

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  人々の間に悲鳴が上がる。
  気の弱い者は失神し、何人かが両手で顔を覆った。
  身体を震わせ、或いは硬直させ、すべてを見つめ続けた者達は、次の瞬間一斉に驚きと感嘆の入り混じった声を漏らす。

  巨鳥の身体が金茶色の粒子と化し、煌めきながら人型に集まってゆく。
 リオが差し延べたままの腕の間で、金茶色の雲母のような粒子は渦巻き、一人の人間となった。

  状況を直視出来なかった者が顔を覆っていた両手を離し、ざわめきによって失神者も気が付いた時、鷹の姿は消えていた。
  代わりに、金茶色の髪と瞳をもち、薄汚れた茶色の長衣を纏った少年が、痩せこけた両腕でリオに抱きついている。

 「……大丈夫……ですか……?」
  遠巻きにしていた人々は、恐る恐る二人の方へと歩み寄って問う。

 「お怪我はありませんか?」
 「大丈夫、敵意は無いみたいだ」
  心配する人々の方を振り返り、リオは微笑んでそう答えた。
  その首に両腕を絡めたまま、痩せた少年は微かに肩を震わせている。

 「驚いた……鳥が人間になっちゃったよ」
 「それとも、人間が鳥に化けてたのかな」
  リオと少年の周囲を飛び回りながら、風の妖精達が口々に言った。

 「……冷たい……」
  唐突に、リオはぽつりと呟く。

 「どうして、この子の身体はこんなに冷えきってるんだ?」
  首に触れる細い腕は、体温を全く感じさせない。
  先刻まで氷水に浸されていたかのような、生気を失った冷たさだ。
 空は地上より気温が低いからか、それとも元から低体温なのか?

「……」
 その時、痩せた少年が何か言葉を発した。
  けれど、音としてしか聞き取れぬ、掠れた声が漏れただけで、何を言ったのか判らない。

 「……ん? 今、何て……?」
  聞き返そうとした時、リオに抱きついていた少年の骨張った腕から、急に力が抜けた。
  少年糸が切れた人形のように地面へ頽れそうになり、リオが驚きつつも縦抱きの体勢で支える。
  触れ合う身体も、冷水に浸かった者のように冷たい。
 ふと何か嫌な予感がして少年の手首を調べた途端、リオは息を飲んだ。

 (脈が無い?!)
  それはすなわち「死」に近い事を意味している。

 「エレアヌ!」
  どうしていいか困惑したリオは、とっさに浮かんだ賢者の名を呼ぶ。

「医務室へ!」
 遅れて駆け付けて様子を見守っていたエレアヌが、建物を指差して答えた。

 脈はおろか、呼吸すらしていない少年は、薬草庫の隣にある医務室へ運ばれた。
  医術に心得のあるエレアヌでも、傷や病を治す力を持つリオでも、少年を蘇生させる事が出来ない。

 (会ったばかりで、いきなり死ぬなよ)
  質素な寝台に動かぬ身体を横たえさせ、リオはぼんやりと少年の顔を見つめる。

  彼は今まで、人の死というものを体験した事が無い。
  祖父母はまだ健在で、両親も病気といえば風邪ぐらいだ。
  唯一、曾祖父が肺炎で亡くなったけれど、当時リオは2~3歳くらいで記憶は薄い。
  覚えているのは白木の棺が霊柩車に運ばれるところぐらいだった。

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