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第20話:2つの世界
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沐浴を終えると、リオは神殿のすぐ横に建つ塔へ登り、細い線のように見える地割れに目を向けた。
見張りが居る塔とは別の場所なので、そこに常駐する者はいなかった。
(あの向こう側には、誰も住んでいないのかな?)
地割れを眺めつつリオは思う。
妖精たちの呼び名はすぐ思い出せるのに、彼はこの世界がどういう状況なのか、自分は何をすべきか、はっきりとは分からない。
ふわふわと髪を揺らす風は、親し気に寄って来る小妖精たちによるもの。
少し長く湯に浸かって火照った頬に、その風はとても心地よかった。
「ここにいらしたのですか」
低く穏やかな声がして、足首までのびた長髪をもつ青年が、リオに歩み寄ってきた。
湿った金髪が、しなやかに風に揺れる。
「良い風ですね」
空へと向けられた瞳は、木々の若芽と同じ淡い緑。
「エレアヌ」
リオは、日本人には発音しにくいその名を呼んだ。
「はい」
深みのある声が、すぐに応える。
向けられる微笑みは、緑柱石色の空間で会った時から変わらない。
「ここと日本って、どういう関係がある?」
リオは問うた。
違う時空間とか異なる世界とか言われても、ついこの間まで普通の高校生だった彼には、その構造がよく分からない。
「近くに在りながら、通常は行き来できない場所同士……それがエルティシアと日本の関係です……」
穏やかな口調で、エレアヌは語る。
「例えば、この二つの石……こうして転がった状態では触れ合う事はありませんが、これを近付ければ……」
足元に落ちている小石を二つ拾うと、彼はそれを左右の手に持って近付けてみせた。
カチンと音をたて、石の表面が接触する。
「生命の木は、エルティシアと異世界とを、このように繋げる力を秘めています。勿論、貴方が居た世界以外とも接触は可能です」
「じゃあ、僕の前世はどうしてあの世界を、日本を選んだ?」
「それは、私にも知らされていないのです」
新たな疑問を投げかけるリオに、エレアヌは珍しく笑みを翳らせた。
「日本人に生まれてなければ、もっとスムーズにここの人たちに受け入れてもらえた気がするんだけど」
「黒髪・黒い瞳の人種に生まれる必要があったからだとは思われますが、何故かは分かりません」
あえて嫌悪される色を持って生まれた訳を、転生者も賢者も思いつかない。
エレアヌによれば、リュシアは日本という国を把握した上で転生したらしい。
転生者の苦労を分っててあえてそうしたのか?
少々恨めしく思うリオであった。
沈まぬ太陽が、空をオレンジ色に染める。
エルティシアに来てから二日目、間もなくそれも過ぎようとしていた。
見張りが居る塔とは別の場所なので、そこに常駐する者はいなかった。
(あの向こう側には、誰も住んでいないのかな?)
地割れを眺めつつリオは思う。
妖精たちの呼び名はすぐ思い出せるのに、彼はこの世界がどういう状況なのか、自分は何をすべきか、はっきりとは分からない。
ふわふわと髪を揺らす風は、親し気に寄って来る小妖精たちによるもの。
少し長く湯に浸かって火照った頬に、その風はとても心地よかった。
「ここにいらしたのですか」
低く穏やかな声がして、足首までのびた長髪をもつ青年が、リオに歩み寄ってきた。
湿った金髪が、しなやかに風に揺れる。
「良い風ですね」
空へと向けられた瞳は、木々の若芽と同じ淡い緑。
「エレアヌ」
リオは、日本人には発音しにくいその名を呼んだ。
「はい」
深みのある声が、すぐに応える。
向けられる微笑みは、緑柱石色の空間で会った時から変わらない。
「ここと日本って、どういう関係がある?」
リオは問うた。
違う時空間とか異なる世界とか言われても、ついこの間まで普通の高校生だった彼には、その構造がよく分からない。
「近くに在りながら、通常は行き来できない場所同士……それがエルティシアと日本の関係です……」
穏やかな口調で、エレアヌは語る。
「例えば、この二つの石……こうして転がった状態では触れ合う事はありませんが、これを近付ければ……」
足元に落ちている小石を二つ拾うと、彼はそれを左右の手に持って近付けてみせた。
カチンと音をたて、石の表面が接触する。
「生命の木は、エルティシアと異世界とを、このように繋げる力を秘めています。勿論、貴方が居た世界以外とも接触は可能です」
「じゃあ、僕の前世はどうしてあの世界を、日本を選んだ?」
「それは、私にも知らされていないのです」
新たな疑問を投げかけるリオに、エレアヌは珍しく笑みを翳らせた。
「日本人に生まれてなければ、もっとスムーズにここの人たちに受け入れてもらえた気がするんだけど」
「黒髪・黒い瞳の人種に生まれる必要があったからだとは思われますが、何故かは分かりません」
あえて嫌悪される色を持って生まれた訳を、転生者も賢者も思いつかない。
エレアヌによれば、リュシアは日本という国を把握した上で転生したらしい。
転生者の苦労を分っててあえてそうしたのか?
少々恨めしく思うリオであった。
沈まぬ太陽が、空をオレンジ色に染める。
エルティシアに来てから二日目、間もなくそれも過ぎようとしていた。
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