【完結】星の海、月の船

BIRD

文字の大きさ
上 下
94 / 104
第9章:世代交代

第85話:滅びた文明

しおりを挟む
メンタル的な問題で喋れないまま大人になってしまったアニムス。
意図せずに罪もない人々の命を奪ってしまった記憶は、消えない心の傷となって彼の声を封じている。
アルビレオからの報告では、大人になってからは夜中に悪夢を見て苦しんだりはしていないそうだけど。
失語症があるうちは、まだ精神的に苦しんでいるのかもしれない。

 宇宙船アルビレオ号
 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より



その惑星ほしの文明は、既に滅びていた。
砂漠と化した大地、干上がった海。
生き物の姿は無く、都市の残骸と思われる瓦礫があるのみ。

かつて、地球人も犯した過ち。
知的生命体が放った大きすぎる力によって、壊滅的なダメージを受けたその星は死の世界となってしまっている。

「まるで、【核の冬】の地球みたいだね」

生命反応が1つも無い惑星。
その上空を飛行するアルビレオ号、その艦長室を展望モードに切り替えて地上を見下ろしながら、トオヤは呟く。
他の乗組員たちも白鳥型の宇宙船の胸元にある展望デッキに集まり、広がる砂漠を見つめていた。


砂漠の惑星。
かつて栄えた文明の民から【エバネセ】と呼ばれた星。
探索チームのカール、チアルム、アニムスの3名は、アルビレオによる環境適応化オプティマイズを受けて、生物が滅びて久しい場所に降下した。

「アニムスが気配を感じたというのは、この辺り?」
『うん』
「生命反応は感じないから、生き物ではないのかもしれないね」

3人はそんな会話を交わしながら、果てが見えない砂漠の上空を飛行していた。
白い翼をはばたかせるチアルムがカールを抱えて飛び、念動力による浮遊移動レビテーションが使えるアニムスが並ぶ。

異なる星に生まれた少年たちは大人になり、移民団の惑星調査メンバーになった。
防壁と気配探知を担うのが、アクウァ星人のカール。
メンバーの運搬と回復を担うのが、アーラ星人のチアルム。
強力なサイキックによって、メンバーに害なすものを片付けるのが、ミカルド星人のアニムス。
3人は統制のとれたチームとして、トオヤ艦長から信頼を寄せられている。

『あ、見つけた。あそこだよ』

未だアニムスは音声会話が出来ず、精神感応テレパシーによる会話に頼っていた。
その原因はメンタル的なもので、肉体に障害があるわけではない。

「遺跡……塔かな?」
「降りてみよう。念のため防壁は展開しておくよ」

青年たちは地上へ降りて、古い建造物に近付いてみた。
円筒形の建築物が、斜めに傾いた状態で砂漠の砂に半ば埋もれている。
彼らが地球人であったなら、ピサの斜塔を連想したかもしれない。

『あっちに誰かいるよ』
「気を付けて。僕には探知出来ないものみたいだ」

気配探知を続けるカールには発見出来ない何かを、アニムスは感じ取っている。
防壁に護られながら建物内を進む3人の前方に、高度な文明を思わせる設備が見えてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
 脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. ) 

あおっち
SF
 敵の帝国、AXISがいよいよ日本へ攻めて来たのだ。その島嶼攻撃、すなわち敵の第1次目標は対馬だった。  この序章2/7は主人公、椎葉きよしの少年時代の物語です。女子高校の修学旅行中にAXIS兵士に襲われる女子高生達。かろうじて逃げ出した少女が1人。そこで出会った少年、椎葉きよしと布村愛子、そして少女達との出会い。  パンダ隊長と少女達に名付けられたきよしの活躍はいかに!少女達の運命は!  ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。そして、初めての恋人ジェシカ。札幌、定山渓温泉に集まった対馬島嶼防衛戦で関係を持った家族との絆のストーリー。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

8分間のパピリオ

横田コネクタ
SF
人間の血管内に寄生する謎の有機構造体”ソレウス構造体”により、人類はその尊厳を脅かされていた。 蒲生里大学「ソレウス・キラー操縦研究会」のメンバーは、20マイクロメートルのマイクロマシーンを操りソレウス構造体を倒すことに青春を捧げるーー。 というSFです。

戦争と平和

澤村 通雄
SF
世界が戦争に。 私はたちの日本もズルズルと巻き込まれていく。 あってはならない未来。 平和とは何か。 戦争は。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...