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第8章:アルビレオの日常
第73話:艦内農園
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農園エリアから、今日も子供たちの賑やかな声が聞こえる。
ここは彼等に任せていて、僕やアイオはリクエストされた物を検討して提供する程度だ。
リーダーは、猫耳とシッポがチャームポイントの少年マヤ。
副リーダーはマヤと同じ一族の少年ニイ。
薬草の栽培に長けていたというフェレス族の血を引く子たちは、農業を始めると素晴らしい才能を開花させた。
おかげで毎日新鮮で美味しい野菜が食べられるよ。
ハーブティーも摘みたてのフレッシュハーブで淹れたものが飲めるのが嬉しい。
農園エリアにいると、ここが宇宙船の中だという事を忘れそうになるよ。
アルビレオにはそんな場所がいっぱいあるけどね。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「フラテル産の苗、病害虫チェックと駆除、環境最適化が済みましたよ」
「ありがとう、かあちゃん!」
「早速植えるね!」
アイオから手渡された苗の入った箱を抱えて、マヤとニイが嬉しそうに畑へ向かう。
訪れた惑星で採集した植物や購入した農作物の苗は、まず検疫を済ませて病害虫の駆除を行ない、艦内の環境で生育出来るように最適化が施される。
それが済むと農園チームに渡され、栽培が始まる。
そこからが、マヤとニイの腕の見せ所だ。
「この苗は砂地で、水は週に1回霧吹き程度でいいな」
「こっちは水耕栽培向きだね」
苗に付いている葉や根の状態を見ただけで、適した育て方が分かるフェレス族の子供たち。
彼等が育てた植物はすくすく育ち、原産地よりも状態が良いくらいだった。
屋外と違って病害虫の排除が完璧に出来て、日照時間や土壌や水などの調整が可能な事も味方している。
マヤたちは作物の研究や改良にも力を入れていて、より良い物が収穫出来る楽しみもあった。
「とうちゃん、かあちゃん! このプチトマト食べてみて!」
「いただくよ。……ん! こんな甘いトマト、初めて食べたよ」
「糖度13……果物並みですね」
マヤから手渡されたプチトマトを口に放り込んだトオヤとアイオは、フルーツのような甘さに驚く。
長卵型で鮮やかな赤色の小さなトマトは、完熟みかんのような糖度だった。
水を極限まで減らしたり、根が伸びる範囲を狭くしたりすることで、甘み成分が凝縮され、糖分が蓄えられている。
「トマトは厳しく育てると、いい味になるんだぜ!」
「へえ、じゃあマヤも厳しく育ててもらったら、いい男になるかも?」
得意そうに言うマヤに、夕食用の野菜を貰いに来たニアが悪戯っぽく笑って言う。
動揺したマヤのシッポがブワッと膨らんだ。
「い、いや、オイラは甘やかした方がいいよ?」
「マヤは褒められて伸びたい子ですね」
栽培技術では大人顔負けの才能を発揮するマヤだが、年上女子のニアには頭が上がらない。
耳をペタンと寝かせて焦るマヤを、アイオがニコニコしながら撫でてあげた。
ここは彼等に任せていて、僕やアイオはリクエストされた物を検討して提供する程度だ。
リーダーは、猫耳とシッポがチャームポイントの少年マヤ。
副リーダーはマヤと同じ一族の少年ニイ。
薬草の栽培に長けていたというフェレス族の血を引く子たちは、農業を始めると素晴らしい才能を開花させた。
おかげで毎日新鮮で美味しい野菜が食べられるよ。
ハーブティーも摘みたてのフレッシュハーブで淹れたものが飲めるのが嬉しい。
農園エリアにいると、ここが宇宙船の中だという事を忘れそうになるよ。
アルビレオにはそんな場所がいっぱいあるけどね。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「フラテル産の苗、病害虫チェックと駆除、環境最適化が済みましたよ」
「ありがとう、かあちゃん!」
「早速植えるね!」
アイオから手渡された苗の入った箱を抱えて、マヤとニイが嬉しそうに畑へ向かう。
訪れた惑星で採集した植物や購入した農作物の苗は、まず検疫を済ませて病害虫の駆除を行ない、艦内の環境で生育出来るように最適化が施される。
それが済むと農園チームに渡され、栽培が始まる。
そこからが、マヤとニイの腕の見せ所だ。
「この苗は砂地で、水は週に1回霧吹き程度でいいな」
「こっちは水耕栽培向きだね」
苗に付いている葉や根の状態を見ただけで、適した育て方が分かるフェレス族の子供たち。
彼等が育てた植物はすくすく育ち、原産地よりも状態が良いくらいだった。
屋外と違って病害虫の排除が完璧に出来て、日照時間や土壌や水などの調整が可能な事も味方している。
マヤたちは作物の研究や改良にも力を入れていて、より良い物が収穫出来る楽しみもあった。
「とうちゃん、かあちゃん! このプチトマト食べてみて!」
「いただくよ。……ん! こんな甘いトマト、初めて食べたよ」
「糖度13……果物並みですね」
マヤから手渡されたプチトマトを口に放り込んだトオヤとアイオは、フルーツのような甘さに驚く。
長卵型で鮮やかな赤色の小さなトマトは、完熟みかんのような糖度だった。
水を極限まで減らしたり、根が伸びる範囲を狭くしたりすることで、甘み成分が凝縮され、糖分が蓄えられている。
「トマトは厳しく育てると、いい味になるんだぜ!」
「へえ、じゃあマヤも厳しく育ててもらったら、いい男になるかも?」
得意そうに言うマヤに、夕食用の野菜を貰いに来たニアが悪戯っぽく笑って言う。
動揺したマヤのシッポがブワッと膨らんだ。
「い、いや、オイラは甘やかした方がいいよ?」
「マヤは褒められて伸びたい子ですね」
栽培技術では大人顔負けの才能を発揮するマヤだが、年上女子のニアには頭が上がらない。
耳をペタンと寝かせて焦るマヤを、アイオがニコニコしながら撫でてあげた。
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