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第6章:作られた生命
第58話:自我の目覚め
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フィリウス殿下の寝室で眠り続ける人工生命体の少女セラフィ。
眠り続けて1週間経過、生命維持装置に繋がれた彼女は、依然として殿下の呼びかけに応じていなかった。
眠らせたのは僕だけど、その強制睡眠は所有者権限によるもので、セラフィから僕に関する記憶を消去した際に効力は失われている。
いつ目覚めてもおかしくない彼女が、未だ眠り続ける原因は何だろう?
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「目覚めぬならもうそれで構わぬ。眠り姫として愛でる事にしよう」
「分かりました。では我が社からはお詫びの品として、新品の生命維持装置を殿下に無償提供させて頂きます」
フィリウスはジュリアに告げ、眠り続けるセラフィは王室に引き取られた。
美しい少女の姿をした人工生命体は華やかなドレスを着せられ、生命維持のために様々な管を繋がれて、花で飾られた棺のようなガラスケースに納められた。
「おとうさん、セラフィをうちの子にしないの?」
「セラフィはアイオの影響で僕を慕ってただけだからね。本来の行き先に引き取られて大切にしてもらえるなら、その方がいいと思うよ」
残念がる子供たちに、トオヤはそう言い聞かせる。
目を覚ましてくれれば本当に一緒に行きたいのか確認するところだが、眠ったままでは確認も出来ない。
「記憶領域を調べていた時に、急に引っ張られて、閉じ込められたんです」
アイオはセラフィの脳にアクセスしていた時の異変を、そう説明した。
閉じ込められていた間の事は、何も覚えていないらしい。
「アイオが、あのまま戻らなかったら、どうしようかと思ったよ」
「心配してもらえて嬉しいです」
アルビレオに帰還したトオヤは、元気そうなアイオと再会すると迷わず抱き締める。
その腕の中で、アイオは幸せそうに微笑んだ。
やがてアルビレオの光エネルギー補給が終わり、旅立ちの日が近付いた。
トオヤは王宮へ出発前の挨拶に行き、ついでにセラフィの様子も見せてもらった。
侍女が毎日着替えさせるというセラフィは、今日は白いドレスを着せられて、赤やピンクの花々に半ば埋もれて眠っている。
「研究室で初めて見た時よりも、綺麗になってるね」
「毎日湯あみをさせて、お肌のお手入れもしているんですよ」
化粧を施された少女の顔を覗き込み、トオヤは言う。
侍女たちが王族の姫君のように扱うセラフィは、意識不明の寝たきりとは思えない美しさを保っていた。
「意識が戻らないのは残念だけど、ここで大事にしてもらえるなら幸せかな?」
トオヤは、眠り続ける美少女に話しかけてみた。
花に埋もれるセラフィは、死んだようにピクリとも動かない。
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。元気でね、セラフィ」
お別れの挨拶代わりに優しく頭を撫でて、トオヤは帰ろうとした。
その時、変化は起きた。
今まで身動き一つしなかった少女が、目を開け、起き上がり、ガラスケースから出てトオヤの後を追おうとする。
しかし身軽に床へ降り立った直後、長いドレスの裾を踏んづけて盛大に転んだ。
「きゃあっ!」
「?!」
転ぶ音と悲鳴に驚いたトオヤが振り返ると、床に倒れて泣きそうな顔をしたセラフィと目が合った。
さすがに放置出来ず駆け寄って抱き起こすと、セラフィは必死で抱きついてくる。
「やだ、おいていかないで」
「って、僕が誰か分かるの?」
「わかんない。でも、おいていかないで」
「……とりあえず、一緒に殿下のところへ行こうか」
しがみついて離れないセラフィをお姫様抱っこして、トオヤは庭園まで歩いて行く。
薔薇に似た花々が咲き誇る庭園には、トオヤとのティータイムを待つフィリウスがいた。
「なっ?! お、起きたのか?!」
「起きちゃったみたい」
敬語無しで会話を交わす仲になっているフィリウスは驚いて駆け寄り、トオヤはセラフィを抱いたまま苦笑する。
フィリウスに抱っこさせようとしても、セラフィはトオヤにしがみついて離れない。
「自分の所有者の名は分かるか?」
「わかんない。でも、この人がいい」
試しに聞いてみたフィリウスに、セラフィはきっぱりと言い切る。
トオヤは近くにいた侍女に頼んでジュリアを呼んでもらい、事の次第を報告した。
眠り続けて1週間経過、生命維持装置に繋がれた彼女は、依然として殿下の呼びかけに応じていなかった。
眠らせたのは僕だけど、その強制睡眠は所有者権限によるもので、セラフィから僕に関する記憶を消去した際に効力は失われている。
いつ目覚めてもおかしくない彼女が、未だ眠り続ける原因は何だろう?
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「目覚めぬならもうそれで構わぬ。眠り姫として愛でる事にしよう」
「分かりました。では我が社からはお詫びの品として、新品の生命維持装置を殿下に無償提供させて頂きます」
フィリウスはジュリアに告げ、眠り続けるセラフィは王室に引き取られた。
美しい少女の姿をした人工生命体は華やかなドレスを着せられ、生命維持のために様々な管を繋がれて、花で飾られた棺のようなガラスケースに納められた。
「おとうさん、セラフィをうちの子にしないの?」
「セラフィはアイオの影響で僕を慕ってただけだからね。本来の行き先に引き取られて大切にしてもらえるなら、その方がいいと思うよ」
残念がる子供たちに、トオヤはそう言い聞かせる。
目を覚ましてくれれば本当に一緒に行きたいのか確認するところだが、眠ったままでは確認も出来ない。
「記憶領域を調べていた時に、急に引っ張られて、閉じ込められたんです」
アイオはセラフィの脳にアクセスしていた時の異変を、そう説明した。
閉じ込められていた間の事は、何も覚えていないらしい。
「アイオが、あのまま戻らなかったら、どうしようかと思ったよ」
「心配してもらえて嬉しいです」
アルビレオに帰還したトオヤは、元気そうなアイオと再会すると迷わず抱き締める。
その腕の中で、アイオは幸せそうに微笑んだ。
やがてアルビレオの光エネルギー補給が終わり、旅立ちの日が近付いた。
トオヤは王宮へ出発前の挨拶に行き、ついでにセラフィの様子も見せてもらった。
侍女が毎日着替えさせるというセラフィは、今日は白いドレスを着せられて、赤やピンクの花々に半ば埋もれて眠っている。
「研究室で初めて見た時よりも、綺麗になってるね」
「毎日湯あみをさせて、お肌のお手入れもしているんですよ」
化粧を施された少女の顔を覗き込み、トオヤは言う。
侍女たちが王族の姫君のように扱うセラフィは、意識不明の寝たきりとは思えない美しさを保っていた。
「意識が戻らないのは残念だけど、ここで大事にしてもらえるなら幸せかな?」
トオヤは、眠り続ける美少女に話しかけてみた。
花に埋もれるセラフィは、死んだようにピクリとも動かない。
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。元気でね、セラフィ」
お別れの挨拶代わりに優しく頭を撫でて、トオヤは帰ろうとした。
その時、変化は起きた。
今まで身動き一つしなかった少女が、目を開け、起き上がり、ガラスケースから出てトオヤの後を追おうとする。
しかし身軽に床へ降り立った直後、長いドレスの裾を踏んづけて盛大に転んだ。
「きゃあっ!」
「?!」
転ぶ音と悲鳴に驚いたトオヤが振り返ると、床に倒れて泣きそうな顔をしたセラフィと目が合った。
さすがに放置出来ず駆け寄って抱き起こすと、セラフィは必死で抱きついてくる。
「やだ、おいていかないで」
「って、僕が誰か分かるの?」
「わかんない。でも、おいていかないで」
「……とりあえず、一緒に殿下のところへ行こうか」
しがみついて離れないセラフィをお姫様抱っこして、トオヤは庭園まで歩いて行く。
薔薇に似た花々が咲き誇る庭園には、トオヤとのティータイムを待つフィリウスがいた。
「なっ?! お、起きたのか?!」
「起きちゃったみたい」
敬語無しで会話を交わす仲になっているフィリウスは驚いて駆け寄り、トオヤはセラフィを抱いたまま苦笑する。
フィリウスに抱っこさせようとしても、セラフィはトオヤにしがみついて離れない。
「自分の所有者の名は分かるか?」
「わかんない。でも、この人がいい」
試しに聞いてみたフィリウスに、セラフィはきっぱりと言い切る。
トオヤは近くにいた侍女に頼んでジュリアを呼んでもらい、事の次第を報告した。
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