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第4章:星の絆
第39話:少年たちの絆
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アニムスが失踪して誰よりも悲しんだのは、その心を癒そうと寄り添っていた子供たちだった。
ずっと一緒にいたいという願いは、アニムスが姿を消した今も変わらない。
大人たちが捜索に出ている間、何もせずにプレイルームで待っていられないほど、カールとチアルムはアニムスを心配していた。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「アニムス、何処へ行ったんだろう?」
「お腹空かせてるんじゃないかな?」
いつもよりやけに広く感じるプレイルームで、カールとチアルムはいつもより小さな声で話している。
トオヤたちが探しに出て随分経つが、アニムスは未だ見つからない。
2人は肩を寄せ合いながら、溜息をついていた。
「う~、だめだ」
「まってられない」
子供が待つには長すぎる時間が経過した頃、2人は立ち上がった。
仲良く手を繋ぐと、子供たちの姿はプレイルームから消える。
「「僕たちもアニムスを探そう!」」
それは、2人が練習していた瞬間移動。
潜在的にその力を持っていた翼人のチアルムに、同調増幅が出来るカール。
森の上空に現れたチアルムはカールをしっかり抱くと、大きな白い翼を広げて飛翔し始めた。
その腕に抱かれたカールは、アクウァ人が最も得意とする探知能力でアニムスを探し始める。
アクウァ人は独自の精神波を放ち、探したい対象を見つける能力を持つ。
それは一般的な思念探知と異なり、人であった場合は意識の有無に関わらず発見出来る優秀さがあった。
「見つけた!」
「どっち?!」
「あっち!」
カールは、これまで1ヶ月近く毎日抱き締めていた少年の気配を感知して声を上げる。
チアルムはカールが指差す方角に高速飛翔を開始した。
その頃、脳と身体の自由を奪われ操られるアニムスは、支配者に従い戦場へ来ていた。
それは内戦で、道具のように扱われるサイキック能力者たちが、政府に反旗を翻している現場だった。
『行け』
隊長格の兵士に命令された少年は、レジスタンスの軍勢中央に瞬間移動した。
銀髪をなびかせて佇む少年の顔には表情が無く、上空と同じ青の瞳は何も映してはいない。
「子供を使うとは卑怯な!」
「操られているぞ! 気を付けろ!」
能力者たちは、同族ともいえる子供への攻撃を躊躇する。
それは戦場では、致命的な事だった。
『殺れ』
少年の脳に打ち込まれたコネクタから、命令が送られる。
無表情のまま、アニムスはAランクと評された力を解放した。
戦場を飲み込む巨大な光球、それは建物もレジスタンスも覆い尽くして消し去ってゆく。
「素晴らしい」
「AランクどころかSランクだな」
指令室のモニターで現場の映像を眺めている人々が感嘆した。
今回の作戦の司令官と、研究所の所長。どちらも口角を上げて笑みを浮かべている。
爆発のような光が収まった後、クレーターと少年以外は何も残っておらず、レジスタンスは全滅していた。
「次の地区も殲滅させよう。奴を戻らせろ」
満足気な司令官が隊長に命じ、隊長がアニムスに帰還命令を出そうとした時……
「「アニムス!」」
……少年たちの声が響いた。
クレーターの中心で無表情のまま立っている少年を、上空から舞い降りた2人の少年が抱き締める。
背中に白い鳥の翼を持つ金髪の少年と、その腕に抱かれて来た翼の無い白い髪の少年。
虚ろなままのアニムスの瞳から、涙が溢れ出て頬を伝った。
「異星人?」
「珍しいものが飛び込んで来たな。奴に瞬間移動を使わせて研究所へ運べ」
司令官が隊長に指示を出す。
アニムスを操る隊長は、次の命令を送信した。
『その2人を連れて研究所に瞬間移動しろ』
しかし、少年は従わなかった。
無表情で涙を流しながら、2人を押しのけて後ずさりする。
「アニムス! 逃げないで!」
「僕たちと一緒に帰ろう!」
カールとチアルムが必死で呼びかけるが、アニムスはジリジリと後退してゆく。
それは2人を嫌がっているというよりは、巻き込みたくないから離れようとしている感じがした。
「抵抗しているようです」
「コネクタの信号をもっと強くしろ」
報告を受けて、司令官が命じた。
隊長は腕時計型のコントロール装置を操作して、アニムスに強い命令信号を送り込む。
「……ウ……アァ……」
抵抗するアニムスが苦しそうに呻き、血の涙を流し始めた。
「「アニムス!」」
カールとチアルムの声が重なる。
それが後押しとなり、アニムスの額の中で何かがスパークするように弾けた。
眉間の皮膚が爆ぜるように破れ、血しぶきと共に細長い部品が排出されて地面に転がる。
強い支配を強引に押しのけた少年は、そこで力尽きて意識を失った。
「完全支配コネクタを自力ではずした?!」
「奴を回収しろ! 邪魔をする異星人もまとめて捕獲だ」
動揺する所長の横で、司令官が命じる。
現場にいる兵士たちが、倒れているアニムスとそれを抱き起こすカールとチアルムに向けて銃を構える。
しかし、発砲した麻酔銃は少年たちには当たらず、向きを変えて撃った兵士本人を直撃した。
「?!」
兵士たちが次々に昏倒するのを見て、現場の隊長もモニターを見ている司令官と所長も驚愕する。
「ふう、ぶっつけ本番で成功した」
「カール凄い、偉い!」
ベガ直伝の攻撃反射、カールは初めて実戦で使った。
チアルムがカール褒め讃える。
「アニムス酷い怪我、でもここでヒーリングボイスを使うとあいつらも回復しちゃう」
「よし逃げよう」
カールの腕の中でグッタリしているアニムスは、眉間の傷から血が溢れ続けている。
治療を急ぎたいチアルムは、2人を抱き寄せて瞬間移動した。
ずっと一緒にいたいという願いは、アニムスが姿を消した今も変わらない。
大人たちが捜索に出ている間、何もせずにプレイルームで待っていられないほど、カールとチアルムはアニムスを心配していた。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「アニムス、何処へ行ったんだろう?」
「お腹空かせてるんじゃないかな?」
いつもよりやけに広く感じるプレイルームで、カールとチアルムはいつもより小さな声で話している。
トオヤたちが探しに出て随分経つが、アニムスは未だ見つからない。
2人は肩を寄せ合いながら、溜息をついていた。
「う~、だめだ」
「まってられない」
子供が待つには長すぎる時間が経過した頃、2人は立ち上がった。
仲良く手を繋ぐと、子供たちの姿はプレイルームから消える。
「「僕たちもアニムスを探そう!」」
それは、2人が練習していた瞬間移動。
潜在的にその力を持っていた翼人のチアルムに、同調増幅が出来るカール。
森の上空に現れたチアルムはカールをしっかり抱くと、大きな白い翼を広げて飛翔し始めた。
その腕に抱かれたカールは、アクウァ人が最も得意とする探知能力でアニムスを探し始める。
アクウァ人は独自の精神波を放ち、探したい対象を見つける能力を持つ。
それは一般的な思念探知と異なり、人であった場合は意識の有無に関わらず発見出来る優秀さがあった。
「見つけた!」
「どっち?!」
「あっち!」
カールは、これまで1ヶ月近く毎日抱き締めていた少年の気配を感知して声を上げる。
チアルムはカールが指差す方角に高速飛翔を開始した。
その頃、脳と身体の自由を奪われ操られるアニムスは、支配者に従い戦場へ来ていた。
それは内戦で、道具のように扱われるサイキック能力者たちが、政府に反旗を翻している現場だった。
『行け』
隊長格の兵士に命令された少年は、レジスタンスの軍勢中央に瞬間移動した。
銀髪をなびかせて佇む少年の顔には表情が無く、上空と同じ青の瞳は何も映してはいない。
「子供を使うとは卑怯な!」
「操られているぞ! 気を付けろ!」
能力者たちは、同族ともいえる子供への攻撃を躊躇する。
それは戦場では、致命的な事だった。
『殺れ』
少年の脳に打ち込まれたコネクタから、命令が送られる。
無表情のまま、アニムスはAランクと評された力を解放した。
戦場を飲み込む巨大な光球、それは建物もレジスタンスも覆い尽くして消し去ってゆく。
「素晴らしい」
「AランクどころかSランクだな」
指令室のモニターで現場の映像を眺めている人々が感嘆した。
今回の作戦の司令官と、研究所の所長。どちらも口角を上げて笑みを浮かべている。
爆発のような光が収まった後、クレーターと少年以外は何も残っておらず、レジスタンスは全滅していた。
「次の地区も殲滅させよう。奴を戻らせろ」
満足気な司令官が隊長に命じ、隊長がアニムスに帰還命令を出そうとした時……
「「アニムス!」」
……少年たちの声が響いた。
クレーターの中心で無表情のまま立っている少年を、上空から舞い降りた2人の少年が抱き締める。
背中に白い鳥の翼を持つ金髪の少年と、その腕に抱かれて来た翼の無い白い髪の少年。
虚ろなままのアニムスの瞳から、涙が溢れ出て頬を伝った。
「異星人?」
「珍しいものが飛び込んで来たな。奴に瞬間移動を使わせて研究所へ運べ」
司令官が隊長に指示を出す。
アニムスを操る隊長は、次の命令を送信した。
『その2人を連れて研究所に瞬間移動しろ』
しかし、少年は従わなかった。
無表情で涙を流しながら、2人を押しのけて後ずさりする。
「アニムス! 逃げないで!」
「僕たちと一緒に帰ろう!」
カールとチアルムが必死で呼びかけるが、アニムスはジリジリと後退してゆく。
それは2人を嫌がっているというよりは、巻き込みたくないから離れようとしている感じがした。
「抵抗しているようです」
「コネクタの信号をもっと強くしろ」
報告を受けて、司令官が命じた。
隊長は腕時計型のコントロール装置を操作して、アニムスに強い命令信号を送り込む。
「……ウ……アァ……」
抵抗するアニムスが苦しそうに呻き、血の涙を流し始めた。
「「アニムス!」」
カールとチアルムの声が重なる。
それが後押しとなり、アニムスの額の中で何かがスパークするように弾けた。
眉間の皮膚が爆ぜるように破れ、血しぶきと共に細長い部品が排出されて地面に転がる。
強い支配を強引に押しのけた少年は、そこで力尽きて意識を失った。
「完全支配コネクタを自力ではずした?!」
「奴を回収しろ! 邪魔をする異星人もまとめて捕獲だ」
動揺する所長の横で、司令官が命じる。
現場にいる兵士たちが、倒れているアニムスとそれを抱き起こすカールとチアルムに向けて銃を構える。
しかし、発砲した麻酔銃は少年たちには当たらず、向きを変えて撃った兵士本人を直撃した。
「?!」
兵士たちが次々に昏倒するのを見て、現場の隊長もモニターを見ている司令官と所長も驚愕する。
「ふう、ぶっつけ本番で成功した」
「カール凄い、偉い!」
ベガ直伝の攻撃反射、カールは初めて実戦で使った。
チアルムがカール褒め讃える。
「アニムス酷い怪我、でもここでヒーリングボイスを使うとあいつらも回復しちゃう」
「よし逃げよう」
カールの腕の中でグッタリしているアニムスは、眉間の傷から血が溢れ続けている。
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