44 / 99
第4章:星の絆
第37話:精神波の感知
しおりを挟む
アニムスの過去は、大人でも耐えられるか分からない重いものだった。
僕のように物心ついた時から軍事コロニーで訓練を受けていれば、耐えられたかもしれない。
普通の子供として民間人の両親に愛され、幸せに暮らしていた子供には過酷な現実、多くの人の死。
閉ざしていた心を開きかけていた少年は、差し伸べられた手を振り切って逃げてしまった。
カールとチアルムは、それでも手を伸ばしている。
優しい2人の元へ、アニムスを戻してあげたい。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
トオヤが残留思念感知を使い始める少し前。
アルビレオ号から瞬間移動で逃げ出したアニムスは、クレーターの中央に立ち尽くしていた。
今更ながら、自らが起こしてしまった事に驚愕する。
物心ついた時から暮らしていた村が、跡形もない。
兵士に撃たれて命を落とした両親も、兵士たちの所業に怯えていた村人たちも、村の建物や井戸も、畑の作物も木々も、何もかもが消滅している。
その場にいた兵士もおそらく一緒に消え去ったのだろう。
雑草が芽吹いてはいるものの、そこには村の痕跡は欠片も無かった。
「……アァ……ウゥ……」
あの日以来、一度も声を発した事が無かった少年は、その場に膝をついて言葉にならぬ声を上げる。
空色の瞳から流れる涙は、今は拭ってくれる者がいなかった。
「やはり戻って来たな」
突然の声に、アニムスはハッと振り返った。
見覚えのあるデザインの服、あの日両親を殺した軍人と同じ服を着た男たちが立っている。
「お前の思念波は登録済だったが、感知出来なかったから死んだと思っていたぞ」
軍服の男の1人が言う。
彼だけ少しデザインが異なる服なので、おそらく隊長格の兵士なのだろう。
しかしアニムスには、そんな事はどうでも良かった。
両親の仇、幸せを奪った者たちの仲間、彼は軍人たちを見た途端、理性という殻が砕けた。
猛烈な殺意に目覚めた少年は、あの日のように力を解放しようとする。
「無駄だ」
しかし、冷ややかな声と共に、膨れ上がっていた【力】が打ち消された。
「お前の力は調べてある。既に対策済みだ」
隊長格の男はそう言うと、アニムスに銃を向ける。
危険を感じて瞬間移動で逃げようとしたアニムスは、何かにぶつかるような衝撃と共に地面へ転がった。
「力は封じた。逃げられんぞ」
何が起きたか分からず困惑する少年に、銃を向けたまま男が言う。
その背後に立つ部下の1人が、片手をアニムスに向けて何かの力を発動していた。
「貴重な能力者だ、殺しはしない。しばらく眠っていろ」
アニムスに向けて銃を発砲した後、隊長はまた冷ややかに言う。
その声は、意識を奪われた少年にはもう聞こえていなかった。
僕のように物心ついた時から軍事コロニーで訓練を受けていれば、耐えられたかもしれない。
普通の子供として民間人の両親に愛され、幸せに暮らしていた子供には過酷な現実、多くの人の死。
閉ざしていた心を開きかけていた少年は、差し伸べられた手を振り切って逃げてしまった。
カールとチアルムは、それでも手を伸ばしている。
優しい2人の元へ、アニムスを戻してあげたい。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
トオヤが残留思念感知を使い始める少し前。
アルビレオ号から瞬間移動で逃げ出したアニムスは、クレーターの中央に立ち尽くしていた。
今更ながら、自らが起こしてしまった事に驚愕する。
物心ついた時から暮らしていた村が、跡形もない。
兵士に撃たれて命を落とした両親も、兵士たちの所業に怯えていた村人たちも、村の建物や井戸も、畑の作物も木々も、何もかもが消滅している。
その場にいた兵士もおそらく一緒に消え去ったのだろう。
雑草が芽吹いてはいるものの、そこには村の痕跡は欠片も無かった。
「……アァ……ウゥ……」
あの日以来、一度も声を発した事が無かった少年は、その場に膝をついて言葉にならぬ声を上げる。
空色の瞳から流れる涙は、今は拭ってくれる者がいなかった。
「やはり戻って来たな」
突然の声に、アニムスはハッと振り返った。
見覚えのあるデザインの服、あの日両親を殺した軍人と同じ服を着た男たちが立っている。
「お前の思念波は登録済だったが、感知出来なかったから死んだと思っていたぞ」
軍服の男の1人が言う。
彼だけ少しデザインが異なる服なので、おそらく隊長格の兵士なのだろう。
しかしアニムスには、そんな事はどうでも良かった。
両親の仇、幸せを奪った者たちの仲間、彼は軍人たちを見た途端、理性という殻が砕けた。
猛烈な殺意に目覚めた少年は、あの日のように力を解放しようとする。
「無駄だ」
しかし、冷ややかな声と共に、膨れ上がっていた【力】が打ち消された。
「お前の力は調べてある。既に対策済みだ」
隊長格の男はそう言うと、アニムスに銃を向ける。
危険を感じて瞬間移動で逃げようとしたアニムスは、何かにぶつかるような衝撃と共に地面へ転がった。
「力は封じた。逃げられんぞ」
何が起きたか分からず困惑する少年に、銃を向けたまま男が言う。
その背後に立つ部下の1人が、片手をアニムスに向けて何かの力を発動していた。
「貴重な能力者だ、殺しはしない。しばらく眠っていろ」
アニムスに向けて銃を発砲した後、隊長はまた冷ややかに言う。
その声は、意識を奪われた少年にはもう聞こえていなかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
MASK 〜黒衣の薬売り〜
天瀬純
キャラ文芸
【薬売り“黒衣 漆黒”による現代ファンタジー】
黒い布マスクに黒いスーツ姿の彼“薬売り”が紹介する奇妙な薬たち…。
いくつもの短編を通して、薬売りとの交流を“あらゆる人物視点”で綴られる現代ファンタジー。
ぜひ、お立ち寄りください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる