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第4章:星の絆
第36話:消えた少年
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アニムスが消えた。
ついさっきまで腕の中にいたのに。
移民団に入るのが嫌だったわけじゃないと思う。
精神感応が流れ込んできた時、アニムスの本当の気持ちも一緒に伝わってきたから。
一緒に行こうと誘われた事を、彼は喜んでいた。
けれど同時に、何か大きな罪の意識を持っているのが感じられた。
自分は人殺しだと彼は言った。
でも僕たちは彼が悪人とは思えない。
きっと何か、そうしなければならなかった事情があると思う。
僕はアニムスが最初に着ていた衣服に、【残留思念感知】を試してみる事にした。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
アニムスを保護した際に着ていた衣服は、アイオが洗濯して子供部屋のクローゼットに保管していた。
トオヤはそれを取り出してプレイルームのテーブルに置き、衣服に残る過去の思念を読み取り始める。
最初に視えたのは、白いフサフサした猫に似た生き物。
アルビレオのデータによれば、ミカルドキャットと訳せる種の生物だった。
少年はそれを可愛がっていた。
優しく微笑む成人男女の姿も視える。
それはおそらく少年の両親だろう。
木造建築の質素な家の中で、少年は愛されて育っていた。
風景は変わり、村の広場らしき場所。
軍服を着た男たちが、村人たちに何か話している。
男たちは少年に徴兵を命じていた。
両親は愛する息子を守ろうとする。
まだ成人もしていないのに兵役なんてさせられない、兵士の前に立ち塞がり抗議した父親は、何かに胸を撃ち抜かれた。
胸から大量の血を溢れさせて倒れた父、悲痛な叫びを上げる母も眉間を何かに撃ち抜かれる。
邪魔する者がいなくなった兵士たちが、呆然とする少年の頭に金属の輪を装着しようとした時、何かが壊れたような感覚と共に爆発が起きた。
数秒ほどのホワイトアウトの後、少年の視界に映ったのは陥没した地面。
建物も草木も人々も、全てが消滅していた。
それらを消し去ったのが自分の力であると、少年は感覚的に理解した。
少年は言葉にならない叫びを上げ、その場から逃げ出す。
行き先など定まっておらず、森の中に駆け込んで走り続けるうちに、足を踏み外して渓流へ落下した。
頭や身体に強い衝撃を受け、朦朧としながら冷たい川の水に浸かり、意識はそこで途切れる。
暗転した意識が戻った時、少年は誰かの腕に抱かれていた。
両親よりも若い、けれど両親と同じ温かさを感じる青年。
それが味方か敵か、少年には分からない。
ただ、温かさと共に何か安らぐような感じがする。
(……もう、何も考えたくない……)
その温もりに身を委ねて、少年の心は深層へ落ちていった。
残留思念感知を終えたトオヤは、アニムスが残していった衣服をそっと撫でた。
あのクレーターを作り上げたアニムスのサイキックは、子供が持つには強過ぎる。
無慈悲に殺された両親、その兵士への怒りが爆発した力は、罪の無い村人も巻き込んでしまった。
大人でも耐えられそうにない過去を、少年は抱えている。
「おとうさん、アニムスはどこへ行ったの?」
「アニムス帰ってくるよね?」
両脇に座って見ていたチアルムとカールが、不安そうに見上げてくる。
トオヤは左右の子供たちの頭にポンッと手を置き、何か決意したように立ち上がる。
「帰ってこないなら、迎えに行くよ」
そう告げる彼は、アニムスをこのまま見捨てるつもりは無かった。
ついさっきまで腕の中にいたのに。
移民団に入るのが嫌だったわけじゃないと思う。
精神感応が流れ込んできた時、アニムスの本当の気持ちも一緒に伝わってきたから。
一緒に行こうと誘われた事を、彼は喜んでいた。
けれど同時に、何か大きな罪の意識を持っているのが感じられた。
自分は人殺しだと彼は言った。
でも僕たちは彼が悪人とは思えない。
きっと何か、そうしなければならなかった事情があると思う。
僕はアニムスが最初に着ていた衣服に、【残留思念感知】を試してみる事にした。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
アニムスを保護した際に着ていた衣服は、アイオが洗濯して子供部屋のクローゼットに保管していた。
トオヤはそれを取り出してプレイルームのテーブルに置き、衣服に残る過去の思念を読み取り始める。
最初に視えたのは、白いフサフサした猫に似た生き物。
アルビレオのデータによれば、ミカルドキャットと訳せる種の生物だった。
少年はそれを可愛がっていた。
優しく微笑む成人男女の姿も視える。
それはおそらく少年の両親だろう。
木造建築の質素な家の中で、少年は愛されて育っていた。
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軍服を着た男たちが、村人たちに何か話している。
男たちは少年に徴兵を命じていた。
両親は愛する息子を守ろうとする。
まだ成人もしていないのに兵役なんてさせられない、兵士の前に立ち塞がり抗議した父親は、何かに胸を撃ち抜かれた。
胸から大量の血を溢れさせて倒れた父、悲痛な叫びを上げる母も眉間を何かに撃ち抜かれる。
邪魔する者がいなくなった兵士たちが、呆然とする少年の頭に金属の輪を装着しようとした時、何かが壊れたような感覚と共に爆発が起きた。
数秒ほどのホワイトアウトの後、少年の視界に映ったのは陥没した地面。
建物も草木も人々も、全てが消滅していた。
それらを消し去ったのが自分の力であると、少年は感覚的に理解した。
少年は言葉にならない叫びを上げ、その場から逃げ出す。
行き先など定まっておらず、森の中に駆け込んで走り続けるうちに、足を踏み外して渓流へ落下した。
頭や身体に強い衝撃を受け、朦朧としながら冷たい川の水に浸かり、意識はそこで途切れる。
暗転した意識が戻った時、少年は誰かの腕に抱かれていた。
両親よりも若い、けれど両親と同じ温かさを感じる青年。
それが味方か敵か、少年には分からない。
ただ、温かさと共に何か安らぐような感じがする。
(……もう、何も考えたくない……)
その温もりに身を委ねて、少年の心は深層へ落ちていった。
残留思念感知を終えたトオヤは、アニムスが残していった衣服をそっと撫でた。
あのクレーターを作り上げたアニムスのサイキックは、子供が持つには強過ぎる。
無慈悲に殺された両親、その兵士への怒りが爆発した力は、罪の無い村人も巻き込んでしまった。
大人でも耐えられそうにない過去を、少年は抱えている。
「おとうさん、アニムスはどこへ行ったの?」
「アニムス帰ってくるよね?」
両脇に座って見ていたチアルムとカールが、不安そうに見上げてくる。
トオヤは左右の子供たちの頭にポンッと手を置き、何か決意したように立ち上がる。
「帰ってこないなら、迎えに行くよ」
そう告げる彼は、アニムスをこのまま見捨てるつもりは無かった。
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