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第3章:翼の惑星
第25話:残留思念
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僕はカエルムとルチアの子に【チアルム】と呼び名を付けた。
真名は他人に聞かれてはいけないので呼べない。
呼び名が普段使われる名で、親代わりとなる僕が付けるのが良いらしい。
カエルムの思念が脳にアクセスした事で、僕は彼の思いを知った。
生まれたばかりの我が子を残して消えたくない、傍に居て見守りたいという思い。
その思いは、ルチアの残留思念も同じ筈。
アルビレオ号には故人の思念を保存する機能がある。
僕はそれをルチアの残留思念に話して、アルビレオの中に残ってもらった。
ルチアはアイオの身体を借りて、初めて我が子を抱き締める事が出来た。
カエルムの思念は僕の深層意識に残らせたので、求められれば入れ替わる。
気がかりなのは、自害したというルチアの遺体。
出来ればカエルムの遺体と一緒に埋葬してあげたい。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「カエルムの遺体は、しばらくコールドスリープ装置で保管しておくよ」
翼人の埋葬を続ける移民団にそう告げて、トオヤはカエルムの亡骸を抱き上げると艦内へ運ぶ。
空を飛ぶように進化した翼人の身体は、見た目よりもずっと軽く、横抱きで楽に運ぶ事が出来た。
垂れ下がってしまう大きな白い翼の先を、息子チアルムが両手で持って付き添う。
「悪い奴からお母さんの身体を取り返してくるから、この艦の中で待っててくれる?」
「うん」
カエルムの遺体を寝かせて、コールドスリープ装置を起動させながらトオヤは聞いた。
チアルムは頷いて、装置の中を覗き込む。
そこへ、アイオが瞬間移動で入ってきた。
「オヤツの時間ですよ」
「はーい!」
カールと同じく、チアルムもアイオに餌付けされている。
チアルムは嬉しそうな笑顔を浮かべて、母親代わりのアイオに抱きついた。
見た目は母親というより兄か姉のような歳に見えるアイオは、優しく微笑んでチアルムを抱き締める。
「トオヤにはこれを。もしもに備えて携帯して下さい」
「ありがとう。留守は任せるよ」
アイオが差し出す袋の中には、経口補水液のパックと錠剤タイプの栄養剤が入っている。
もしも生存者を見つけたら飲ませられるように、翼人に合わせて作ってある。
それを受け取ると、トオヤは瞬間移動で艦内から移動した。
ルチアの思念がアルビレオ号に入ったので、情報を共有するトオヤは彼女が連れ去られた場所を特定出来る。
吸血族のコメスという男は美しいものを集める趣味があり、翼人の中でも美しい女性は彼の屋敷に運ばれるという。
村いちばんの美女と言われたルチアも、その1人だった。
「……なんと愚かな事を……」
身だしなみがしっかり整った黒髪の男コメスが、血だまりの中に倒れて動かない女性を見て嘆く。
そこへ、女性型の機人が入って来た。
「血液を回収致します」
「うむ。1滴も無駄にしてはならない」
機人の女性が慣れた手つきで壁の仕掛けを操作すると、天井から管が降りてくる。
コメスの指示により、その管の先が床に広がる大量の血液に近付けられ、吸引機能が起動した。
床の血だまりが全て吸い取られ、倒れた女性が着ている服からも血液が完全に取り除かれる。
続けて女性の胸に刺さっているナイフが抜き取られ、そこに付いた血も管の中に吸い込まれる。
管の先がナイフの抜けた傷口に押し当てられると、体内に残っていた血液も全て吸い取られていった。
「遺体はいつものように保存しますか?」
「そうしてくれ。こんなに美しいのに死んだりするとは、勿体ない……」
溜息をついたコメスはその直後、グラリと傾いで倒れる機人を見てギョッとした。
「その人は返してもらうよ」
「……!」
声に驚いて振り向いた直後、コメスの眉間から血が噴き出す。
いつの間にか、室内に知らない青年がいた。
栗色の短髪、緑の双眸、翼人と同じく整った容姿だが、その背中には白い翼も黒い翼も無い。
青年は構えていた短銃を腰のホルダーに収める。
しかし、コメスがそれを見る事はなかった。
開かれたままの黒い瞳が虚ろになり、撃たれた男の意識は暗転した。
トオヤはルチアの遺体に歩み寄ると、そっと抱き上げた。
既に息絶えている身体に力が入る事は無く、ルチアは目を閉じたまま喉を反らしてしまう。
蒼白な顔ではあるものの、綺麗な女性だった。
(……ルチア……助けられなくてすまない……)
自然に頬を伝った涙は、深層意識に在るカエルムが流したもの。
トオヤはルチアの亡骸を抱いて、アルビレオ号に帰還した。
真名は他人に聞かれてはいけないので呼べない。
呼び名が普段使われる名で、親代わりとなる僕が付けるのが良いらしい。
カエルムの思念が脳にアクセスした事で、僕は彼の思いを知った。
生まれたばかりの我が子を残して消えたくない、傍に居て見守りたいという思い。
その思いは、ルチアの残留思念も同じ筈。
アルビレオ号には故人の思念を保存する機能がある。
僕はそれをルチアの残留思念に話して、アルビレオの中に残ってもらった。
ルチアはアイオの身体を借りて、初めて我が子を抱き締める事が出来た。
カエルムの思念は僕の深層意識に残らせたので、求められれば入れ替わる。
気がかりなのは、自害したというルチアの遺体。
出来ればカエルムの遺体と一緒に埋葬してあげたい。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「カエルムの遺体は、しばらくコールドスリープ装置で保管しておくよ」
翼人の埋葬を続ける移民団にそう告げて、トオヤはカエルムの亡骸を抱き上げると艦内へ運ぶ。
空を飛ぶように進化した翼人の身体は、見た目よりもずっと軽く、横抱きで楽に運ぶ事が出来た。
垂れ下がってしまう大きな白い翼の先を、息子チアルムが両手で持って付き添う。
「悪い奴からお母さんの身体を取り返してくるから、この艦の中で待っててくれる?」
「うん」
カエルムの遺体を寝かせて、コールドスリープ装置を起動させながらトオヤは聞いた。
チアルムは頷いて、装置の中を覗き込む。
そこへ、アイオが瞬間移動で入ってきた。
「オヤツの時間ですよ」
「はーい!」
カールと同じく、チアルムもアイオに餌付けされている。
チアルムは嬉しそうな笑顔を浮かべて、母親代わりのアイオに抱きついた。
見た目は母親というより兄か姉のような歳に見えるアイオは、優しく微笑んでチアルムを抱き締める。
「トオヤにはこれを。もしもに備えて携帯して下さい」
「ありがとう。留守は任せるよ」
アイオが差し出す袋の中には、経口補水液のパックと錠剤タイプの栄養剤が入っている。
もしも生存者を見つけたら飲ませられるように、翼人に合わせて作ってある。
それを受け取ると、トオヤは瞬間移動で艦内から移動した。
ルチアの思念がアルビレオ号に入ったので、情報を共有するトオヤは彼女が連れ去られた場所を特定出来る。
吸血族のコメスという男は美しいものを集める趣味があり、翼人の中でも美しい女性は彼の屋敷に運ばれるという。
村いちばんの美女と言われたルチアも、その1人だった。
「……なんと愚かな事を……」
身だしなみがしっかり整った黒髪の男コメスが、血だまりの中に倒れて動かない女性を見て嘆く。
そこへ、女性型の機人が入って来た。
「血液を回収致します」
「うむ。1滴も無駄にしてはならない」
機人の女性が慣れた手つきで壁の仕掛けを操作すると、天井から管が降りてくる。
コメスの指示により、その管の先が床に広がる大量の血液に近付けられ、吸引機能が起動した。
床の血だまりが全て吸い取られ、倒れた女性が着ている服からも血液が完全に取り除かれる。
続けて女性の胸に刺さっているナイフが抜き取られ、そこに付いた血も管の中に吸い込まれる。
管の先がナイフの抜けた傷口に押し当てられると、体内に残っていた血液も全て吸い取られていった。
「遺体はいつものように保存しますか?」
「そうしてくれ。こんなに美しいのに死んだりするとは、勿体ない……」
溜息をついたコメスはその直後、グラリと傾いで倒れる機人を見てギョッとした。
「その人は返してもらうよ」
「……!」
声に驚いて振り向いた直後、コメスの眉間から血が噴き出す。
いつの間にか、室内に知らない青年がいた。
栗色の短髪、緑の双眸、翼人と同じく整った容姿だが、その背中には白い翼も黒い翼も無い。
青年は構えていた短銃を腰のホルダーに収める。
しかし、コメスがそれを見る事はなかった。
開かれたままの黒い瞳が虚ろになり、撃たれた男の意識は暗転した。
トオヤはルチアの遺体に歩み寄ると、そっと抱き上げた。
既に息絶えている身体に力が入る事は無く、ルチアは目を閉じたまま喉を反らしてしまう。
蒼白な顔ではあるものの、綺麗な女性だった。
(……ルチア……助けられなくてすまない……)
自然に頬を伝った涙は、深層意識に在るカエルムが流したもの。
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