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第3章:翼の惑星
第23話:真名を秘める子
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吸血族の襲撃を受けた時、カエルムたちの村には卵が7つあった。
そのうちの1つがカエルムと妻ルチアの間に生まれた卵で、ルチアは孵化を待ちきれずにもう名前を付けていた。
翼人たちは母親から貰う名前を【真名】と言い、家族または心から信頼する者にしか教えない。
真名を知られる事は、相手に心を委ねる事になるから。
真名の影響力は刷り込みよりも強い。
今回はそれがカエルムとルチアの子を刷り込みの支配から護る事になった。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユ―ジアライトの日記より
惑星アーラの森の中。
移送中の檻から逃げ出した少年は、必死に翼を動かして飛び続けていた。
『逃げて! こっちよ!』
小さな光の玉が、少年の行き先を示す。
孵化から数時間しか経たぬ翼人の子には無茶な距離を、少年は懸命に飛び続ける。
その後ろから、少年の脱走に気付いた吸血族が2人、追って来ていた。
「このクソガキ!」
「てめえの血は全部吸い尽くしてやる!」
黒い翼の吸血族たちが、次第に距離を詰めてくる。
『あと少し! 頑張って! もっと速く!』
光の玉が何かは知らないけれど、少年はその声に励まされて逃げ続けた。
空を飛ぶという動作は、惑星の重力に逆らうので地上を走るよりもエネルギーを消費する。
少年は卵から得たエネルギーのみで飛翔を続けていた。
生まれてすぐガスで眠らされ、運ばれる途中での脱走で、まだ何も口にしていない。
脳に栄養が足りなくなり、意識が朦朧としてくる。
酷使した身体は限界に達し、力尽きた少年は翼を動かせなくなって落下を始める。
「残念だったな!」
「もう逃げられねえように、この翼を切り落としてやるぜ!」
追いついてきた黒い翼の男たちが、少年の白い翼をそれぞれ片手で掴んで捕えると、腰の剣を抜く。
少年はもう抵抗する力は無く、されるがままになっていた。
『やめて! 助けて! カエルム!』
光の玉が助けを求める。
その時、銃声が続けざまに2回響いた。
眉間に穴が開いた男たちは目を見開き、少年の翼から手を放すと落下してゆく。
男たちの手から解放された少年は、別の誰かに抱き留められた。
「間に合った……かな?」
片手に短銃を持ち、空いている方の腕で少年を抱き寄せたトオヤが、空中に浮かんでいる。
その胸ポケットには、カエルムの白い羽根が淡い光を放っていた。
『怪我は無い?』
少年の心に、トオヤの精神感応が流れ込む。
まだ言葉が思い浮かばない少年は、頷く事で答える。
『怖かったね。もう大丈夫だよ』
トオヤは短銃を腰のホルダーに納め、両腕で少年を抱き締めて優しく語りかける。
その抱擁も【声】も、少年には心地よいと感じられる。
少年はホッとした顔になり、トオヤの腕に身を委ねながら意識を手放した。
そのうちの1つがカエルムと妻ルチアの間に生まれた卵で、ルチアは孵化を待ちきれずにもう名前を付けていた。
翼人たちは母親から貰う名前を【真名】と言い、家族または心から信頼する者にしか教えない。
真名を知られる事は、相手に心を委ねる事になるから。
真名の影響力は刷り込みよりも強い。
今回はそれがカエルムとルチアの子を刷り込みの支配から護る事になった。
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『逃げて! こっちよ!』
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孵化から数時間しか経たぬ翼人の子には無茶な距離を、少年は懸命に飛び続ける。
その後ろから、少年の脱走に気付いた吸血族が2人、追って来ていた。
「このクソガキ!」
「てめえの血は全部吸い尽くしてやる!」
黒い翼の吸血族たちが、次第に距離を詰めてくる。
『あと少し! 頑張って! もっと速く!』
光の玉が何かは知らないけれど、少年はその声に励まされて逃げ続けた。
空を飛ぶという動作は、惑星の重力に逆らうので地上を走るよりもエネルギーを消費する。
少年は卵から得たエネルギーのみで飛翔を続けていた。
生まれてすぐガスで眠らされ、運ばれる途中での脱走で、まだ何も口にしていない。
脳に栄養が足りなくなり、意識が朦朧としてくる。
酷使した身体は限界に達し、力尽きた少年は翼を動かせなくなって落下を始める。
「残念だったな!」
「もう逃げられねえように、この翼を切り落としてやるぜ!」
追いついてきた黒い翼の男たちが、少年の白い翼をそれぞれ片手で掴んで捕えると、腰の剣を抜く。
少年はもう抵抗する力は無く、されるがままになっていた。
『やめて! 助けて! カエルム!』
光の玉が助けを求める。
その時、銃声が続けざまに2回響いた。
眉間に穴が開いた男たちは目を見開き、少年の翼から手を放すと落下してゆく。
男たちの手から解放された少年は、別の誰かに抱き留められた。
「間に合った……かな?」
片手に短銃を持ち、空いている方の腕で少年を抱き寄せたトオヤが、空中に浮かんでいる。
その胸ポケットには、カエルムの白い羽根が淡い光を放っていた。
『怪我は無い?』
少年の心に、トオヤの精神感応が流れ込む。
まだ言葉が思い浮かばない少年は、頷く事で答える。
『怖かったね。もう大丈夫だよ』
トオヤは短銃を腰のホルダーに納め、両腕で少年を抱き締めて優しく語りかける。
その抱擁も【声】も、少年には心地よいと感じられる。
少年はホッとした顔になり、トオヤの腕に身を委ねながら意識を手放した。
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