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第1章

第10話:魔王と変身アクセサリー

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「ロミュラが来たという事は、我の封印場所は他の魔族に知られているという事だろう」
プルミエ王城地下、拓郎の研究室に集まった人々にルシエが告げる。
「今はルシエを封印しない方がいいかもしれない」
拓郎が言う。
封印するとルシエは仮死状態となり、生命維持装置を破壊されれば死亡する危険がある。
「今の我の状態をどこまで知られたかは分からぬが、少なくとも鎮魂花レエムの封印は知られた筈だ」
ルシエは自らの予想を伝える。
異空間牢に収容される前、ロミュラは活性化した封印を見ている。
その情報は念話を通して他の魔族に知られている可能性が高かった。

ルシエはの身体は、鎮魂花レエムの封印がある限り、ロミュラの集めた存在エネルギーを受け付けない。
それを聞いたロミュラは、転生すれば解除出来ると言った。
他の魔族がそれに気付いているなら、封印解除の為にルシエを殺してしまう可能性がある。
「魔族にとって死は単なるリセットだからな。解除出来ないなら殺して転生させようとするだろう」
あっさり言うルシエに、魔力提供のため後ろから抱きつく体勢になっていたエリシオがビクッと肩を震わせる。
同じソファに座っているソレミアが、宥めるように弟の頭を撫でた。

「なら、ルシエはエリシオの傍に居る方が安全ね」
「え?」
ソレミアの発言に、ルシエとエリシオが揃って振り向く。
「ルシエを回復出来るのはエリシオだけなんでしょう? ならエリシオと一緒に居るのがいいと思うわ」
子供たちの方を見て、ソレミアは勝ち気な笑みを浮かべた。

「そうだね。その方が護り易いと思う」
拓郎も同意する。
彼は創造魔法を起動し、新たな魔道具を創り始めた。
両手の間に現れた小さな魔法陣がクロスしながら増えてゆき、6つ重なると光を放つ。
光が消えると、オパールのような虹色の色彩をもつ宝石が付いたペンダントが現れた。

変身用魔道具・transform accessories
演劇用に開発された物。外見を変化させる。
肉体だけでなく、衣装まで設定出来て一緒に変化する

元は986年前に瀬田史郎が開発したカプセル型の大型魔道具だった品。
当時は人が中に入って容姿変化を発動させていた。
時の流れと共に性能が上がり、小型化が進んだ結果、アクセサリータイプとなった。

「ルシエ、これを着けて小型の動物になればエリシオが連れて歩きやすいよ」
「なるほど」
拓郎に手渡されたそれを、ルシエは首にかけた。
「変身するものはあらかじめ登録しておく事も出来るし、扱い慣れたらイメージで好きな姿になれるよ」
「それは面白そうだな」
説明を受けて、まずは登録データを元に変身してみるルシエ。

ポンッと音を立てて、灰色の髪の少女(?)はシルバーグレーの毛並みの仔猫になった。
瞳の色は少し銀色がかったグレーだ。

「か、かわいい…」
動物好きのエリシオとソレミアが魅了されたらしく、思わず呟く。
ルシエはエリシオに抱かれた状態で変身したので、そのままスッポリ腕の中に納まっていた。

「そうだ、ついでに使い魔になってやろう」
仔猫が普通に人語を話す。
「へ?」
唐突な提案にポカンとするエリシオ。
「我の額に血を1滴垂らして従魔ファミリア・契約コントラクトと言えばいい」
ルシエが説明して、早くやれとばかりに目を閉じて額を向ける。
「使い魔の契約、これから学校で習うところだったんだけど」
エリシオは苦笑しながら言った。
ナイフで指先に小さな傷をつけて血を垂らす、それを受けるのは仔猫ルシエ。
従魔ファミリア・契約コントラクト
契約魔法が起動する。
仔猫ルシエを赤い光が包み、それが消えると額に赤い小さな魔法陣が描かれた。

「これで我は常に魔力供給を受けられる」
エリシオの腕から抜け出して床に降り立つルシエ。
人型の姿の時は歩けなかったのが、平然と立って歩いている。
「うむ、この姿なら魔力消費が少ないようだ」
満足気に言うと、仔猫ルシエは再びエリシオの腕の中に戻った。
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