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翔が書いた物語
第71話:ディオン
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大地の妖精が指差す方へ目を向けたリオの表情が固まる。
「あいつを?」
と言って呆気にとられたのは、横にいるシアル。
「どういう事です?」
エレアヌも理解出来ずに問うた。
「俺を救う? 何を寝ぼけた事を言っている?」
と言うのは、玉座で足を組んで座る男。
「貴様、階段から投げ落としてやった時に頭でも打ったか?」
黒き民の長は、口の端を歪めた冷ややかな笑みを浮かべながら、先程投げ落とした青年を見る。
「貴方はかわいそうな人です」
リオに支えられながら身体を起こし、大地の妖精はディオンを憐れむように見つめる。
「仲間も無く、孤独に時を過ごしてきた、不幸な人です」
「不幸だと?」
ディオンの目が苛立ちを帯びて細まる。
「どういう事? ……まさか……黒き民は……」
そんな二人を交互に見つめ、リオは呟いた。
城に入った時から感じていた、暗い予感。
この国に来てから、まだディオン以外の人間を見かけていない。
城内も廃墟のように荒れていて、侍女も侍従もいなかった。
「黒き民はもう、この世に存在しません」
返ってきた言葉に、リオは勿論、彼を囲んでいた四人も驚愕した。
そんな彼等に、妖精は真実を語る。
「七千年前、二つの民が激しく対立していた時、自然を操る力に長けた黒き民は、四つの妖精の力を融合させ、異質な生物を生み出すことに成功したのです」
静かに語る大地の妖精は、この世界の初めから存在する者。
すなわち、すべてを見つめ続けた者なのだ。
巨大な精封球の完成させた黒き民。
地・水・風・火、ラナーリア大陸に存在していた妖精は全て封じられ、力を吸い取られて消滅し、大陸からあらゆる生命が失われてゆく。
代わりに生み出された魔物は、エメンの都を襲って廃墟に変え、そこに住んでいた白き民の殆どを殺した。
それは黒き民にとっては都合の良い結果に終わったかに見えたが、それだけでは終わらなかった。
黒き民の手に余るほどの魔力をもった精封球は、やがて暴走し始める。
次々に生み出される魔物は、もともと無いに等しい理性を完全に失い、主である筈の黒き民を獲物とみなし、食い殺してしまった。
生き残ったのは、魔物を完全支配する力を得たディオンだけだった。
「ディオン、貴方は間違っています。
栗色の髪をもつ妖精は、深い黄緑色の瞳で玉座に座る黒髪の青年を見上げる。
「貴方は、七千年前の憎しみのままにエルティシア大陸の人々を滅ぼそうとしているだけ。憎むべき相手など、もう何処にもいないのに」
「黙れ!」
珍しく、冷徹な男が怒りをあらわにした。
肩にかかる黒髪が揺らぎ、同じ色の双眸が階下に座っている妖精を睨む。
直後、脇にあった彫刻が宙に浮かび上がり、大地の妖精めがけて飛んだ。
「!」
リオの瞳が、瞬時に瑠璃色に変わる。
飛んできた彫刻を、防御壁が防いだ。
「憎むべき相手がいないだと?」
眉間に皺を寄せ、ディオンは言う。
「俺は白き民すべてが憎い。奴等を根絶やしにするまでは復讐は終わらん。だが、その前に目障りな奴を殺す。来い、転生者。俺と戦え」
ディオンは言うが、リオは戦いたくはなかった。
そこにいるのは、自らが作り出した物に滅ぼされた民の最後の生き残り。
憐れむ事はあっても憎む気にはなれない。
……それは、彼が居た世界……地球でも、有り得る事なのだから……。
「あいつを?」
と言って呆気にとられたのは、横にいるシアル。
「どういう事です?」
エレアヌも理解出来ずに問うた。
「俺を救う? 何を寝ぼけた事を言っている?」
と言うのは、玉座で足を組んで座る男。
「貴様、階段から投げ落としてやった時に頭でも打ったか?」
黒き民の長は、口の端を歪めた冷ややかな笑みを浮かべながら、先程投げ落とした青年を見る。
「貴方はかわいそうな人です」
リオに支えられながら身体を起こし、大地の妖精はディオンを憐れむように見つめる。
「仲間も無く、孤独に時を過ごしてきた、不幸な人です」
「不幸だと?」
ディオンの目が苛立ちを帯びて細まる。
「どういう事? ……まさか……黒き民は……」
そんな二人を交互に見つめ、リオは呟いた。
城に入った時から感じていた、暗い予感。
この国に来てから、まだディオン以外の人間を見かけていない。
城内も廃墟のように荒れていて、侍女も侍従もいなかった。
「黒き民はもう、この世に存在しません」
返ってきた言葉に、リオは勿論、彼を囲んでいた四人も驚愕した。
そんな彼等に、妖精は真実を語る。
「七千年前、二つの民が激しく対立していた時、自然を操る力に長けた黒き民は、四つの妖精の力を融合させ、異質な生物を生み出すことに成功したのです」
静かに語る大地の妖精は、この世界の初めから存在する者。
すなわち、すべてを見つめ続けた者なのだ。
巨大な精封球の完成させた黒き民。
地・水・風・火、ラナーリア大陸に存在していた妖精は全て封じられ、力を吸い取られて消滅し、大陸からあらゆる生命が失われてゆく。
代わりに生み出された魔物は、エメンの都を襲って廃墟に変え、そこに住んでいた白き民の殆どを殺した。
それは黒き民にとっては都合の良い結果に終わったかに見えたが、それだけでは終わらなかった。
黒き民の手に余るほどの魔力をもった精封球は、やがて暴走し始める。
次々に生み出される魔物は、もともと無いに等しい理性を完全に失い、主である筈の黒き民を獲物とみなし、食い殺してしまった。
生き残ったのは、魔物を完全支配する力を得たディオンだけだった。
「ディオン、貴方は間違っています。
栗色の髪をもつ妖精は、深い黄緑色の瞳で玉座に座る黒髪の青年を見上げる。
「貴方は、七千年前の憎しみのままにエルティシア大陸の人々を滅ぼそうとしているだけ。憎むべき相手など、もう何処にもいないのに」
「黙れ!」
珍しく、冷徹な男が怒りをあらわにした。
肩にかかる黒髪が揺らぎ、同じ色の双眸が階下に座っている妖精を睨む。
直後、脇にあった彫刻が宙に浮かび上がり、大地の妖精めがけて飛んだ。
「!」
リオの瞳が、瞬時に瑠璃色に変わる。
飛んできた彫刻を、防御壁が防いだ。
「憎むべき相手がいないだと?」
眉間に皺を寄せ、ディオンは言う。
「俺は白き民すべてが憎い。奴等を根絶やしにするまでは復讐は終わらん。だが、その前に目障りな奴を殺す。来い、転生者。俺と戦え」
ディオンは言うが、リオは戦いたくはなかった。
そこにいるのは、自らが作り出した物に滅ぼされた民の最後の生き残り。
憐れむ事はあっても憎む気にはなれない。
……それは、彼が居た世界……地球でも、有り得る事なのだから……。
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