419 / 428
翔が書いた物語
第70話:大地の妖精
しおりを挟む
「来たか死にぞこない」
階段の上にある玉座に座っていた青年が、ゆっくりと立ち上がった。
その横に置かれた精封球の中では、細身の青年の姿をした妖精が蹲っている。
「言われた通り、ここに来た。大地の妖精を解放してもらいたい」
自分と同じ漆黒の瞳を見据え、リオは言う。
拒否されるのは覚悟していた。
「いいだろう」
ところが、黒き民の長はあっさりと承知する。
「役立たずの妖精など、もういらぬ」
ディオンは片手を伸ばし、精封球に触れた。
短い呪文が唱えられ、漆黒の球体は瞬時に消え去る。
後に残るのは、力が抜けたように倒れ込む、栗色の髪の青年。
「そら、返してやる」
ディオンは青年の柔らかな長い髪を無造作に掴むと、乱暴に引き起こす。
「……何を……」
リオが言いかけた直後、青年は階上から投げ落とされていた。
階段を転げ落ちて倒れている青年に、黒髪の少年が慌てて駆け寄る。
「いけません、不用意に近付いては……!」
エレアヌが叫んだ時には、リオは青年を抱き起こしていた。
ほっそりした顔にかかる長い髪を取り除けてやりながら、怪我などを調べる。
背は高いがその身体は細く、思ったよりずっと軽かった。
閉じた瞼は長い睫毛に縁どられ、整った顔を一層女性的に見せる。
死んだように動かぬ青年を見つめ、リオはふと気付いた。
(……衰弱してる……? これは階段から落ちたせいじゃない……)
痩けた頬、よく見ると腕や足も関節が浮き出している。
「一体、何をしたんだ!」
グッタリとした青年を抱いたまま、リオはディオンを睨みつけた。
「お前達を歓迎しようと、そいつの力を少し使っただけさ」
玉座の上で足を組み、ディオンは小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「そいつには、攻撃の力を出すのは少々きつかったようだが。お前は聖なる力をもってるんだろう? それで治してやるんだな」
と言う彼に、リオはきつい視線を向ける。
「エレアヌ」
それから、背後に来ているエレアヌに小声で聞く。
「衰弱している妖精は、どうしたら回復する?」
「聖なる力を注いであげれば回復しますよ」
答えると、エレアヌはその手を意識の無い妖精の額に当てる。
僅かな黄金色の光が大地の妖精を包むと、蒼白だった顔にほんの少し血の気が戻った。
「分った」
それを見たリオも、聖なる力を注ぎ始める。
柔らかな光に包まれて、大地の妖精が目を開けた。
「……リュシア……?」
リオに抱かれた青年の口から、掠れた声が漏れる。
弛緩していた身体に、力が戻ってきた。
「助けに来てくれたんですね……ありがとう……」
自分を抱く者が誰か分り、嬉しそうに目を細める。
弱々しい微笑みは、ほっそりした顔を一層女性的に見せた。
「今の僕の名は【リオ】だよ」
「……そうでしたね……あまりに似ているので、間違えてしまいます……」
友である少年の言葉に、妖精の青年はまた笑みを浮かべた。
それから、ゆっくりと右手を上げる。
「私はもう大丈夫ですから、どうか今度はあの人を救ってあげて下さい」
細い指が、示す方角。
そこにいるのは、ディオンであった。
階段の上にある玉座に座っていた青年が、ゆっくりと立ち上がった。
その横に置かれた精封球の中では、細身の青年の姿をした妖精が蹲っている。
「言われた通り、ここに来た。大地の妖精を解放してもらいたい」
自分と同じ漆黒の瞳を見据え、リオは言う。
拒否されるのは覚悟していた。
「いいだろう」
ところが、黒き民の長はあっさりと承知する。
「役立たずの妖精など、もういらぬ」
ディオンは片手を伸ばし、精封球に触れた。
短い呪文が唱えられ、漆黒の球体は瞬時に消え去る。
後に残るのは、力が抜けたように倒れ込む、栗色の髪の青年。
「そら、返してやる」
ディオンは青年の柔らかな長い髪を無造作に掴むと、乱暴に引き起こす。
「……何を……」
リオが言いかけた直後、青年は階上から投げ落とされていた。
階段を転げ落ちて倒れている青年に、黒髪の少年が慌てて駆け寄る。
「いけません、不用意に近付いては……!」
エレアヌが叫んだ時には、リオは青年を抱き起こしていた。
ほっそりした顔にかかる長い髪を取り除けてやりながら、怪我などを調べる。
背は高いがその身体は細く、思ったよりずっと軽かった。
閉じた瞼は長い睫毛に縁どられ、整った顔を一層女性的に見せる。
死んだように動かぬ青年を見つめ、リオはふと気付いた。
(……衰弱してる……? これは階段から落ちたせいじゃない……)
痩けた頬、よく見ると腕や足も関節が浮き出している。
「一体、何をしたんだ!」
グッタリとした青年を抱いたまま、リオはディオンを睨みつけた。
「お前達を歓迎しようと、そいつの力を少し使っただけさ」
玉座の上で足を組み、ディオンは小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「そいつには、攻撃の力を出すのは少々きつかったようだが。お前は聖なる力をもってるんだろう? それで治してやるんだな」
と言う彼に、リオはきつい視線を向ける。
「エレアヌ」
それから、背後に来ているエレアヌに小声で聞く。
「衰弱している妖精は、どうしたら回復する?」
「聖なる力を注いであげれば回復しますよ」
答えると、エレアヌはその手を意識の無い妖精の額に当てる。
僅かな黄金色の光が大地の妖精を包むと、蒼白だった顔にほんの少し血の気が戻った。
「分った」
それを見たリオも、聖なる力を注ぎ始める。
柔らかな光に包まれて、大地の妖精が目を開けた。
「……リュシア……?」
リオに抱かれた青年の口から、掠れた声が漏れる。
弛緩していた身体に、力が戻ってきた。
「助けに来てくれたんですね……ありがとう……」
自分を抱く者が誰か分り、嬉しそうに目を細める。
弱々しい微笑みは、ほっそりした顔を一層女性的に見せた。
「今の僕の名は【リオ】だよ」
「……そうでしたね……あまりに似ているので、間違えてしまいます……」
友である少年の言葉に、妖精の青年はまた笑みを浮かべた。
それから、ゆっくりと右手を上げる。
「私はもう大丈夫ですから、どうか今度はあの人を救ってあげて下さい」
細い指が、示す方角。
そこにいるのは、ディオンであった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
Duo in Uno(デュオ・イン・ウノ)〜2人で1人の勇者の冒険〜
とろろ
ファンタジー
滅びゆく世界で、人々の感情を取り戻すために戦う者達がいた....。
主人公アストリアは、感情を象徴する「魂」を回収し世界を救う使命を背負う若き戦士。彼の体には、自分とは別人格の弟"セラフィス"が宿っている。強力なスキャニング能力を発揮して彼をサポートする特殊な存在だ。(第二部から2人は分離します)
人間味溢れるリーダーのアストリア、心優しく冷静沈着なセラフィス、いつも陽気でムードメーカーのドワーフのローハン、情に厚く仲間想いな女盗賊のマチルダ、それに頼れる魔法使いのおじさんのギルバート....
性格も能力も異なる仲間達は、時に対立しながらも、ミノタウロスの魔王、ゾグナス等の強敵や困難に立ち向かっていく。
これは、過去の傷に囚われながらも新たな絆を築き、心の闇を乗り越えていく仲間達の成長の物語です。冒険と戦いの中で「人間らしさ」を問い直していきます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~
櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。
キャラ交換で大商人を目指します
杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる