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翔が書いた物語
第62話:忘れられた歴史
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「……それで、あの地にエメンの都市遺跡が在ったのですね……」
溜息混じりに呟くのはエレアヌ。
「もとは仲の良かった民族が、何故こんな状態に?」
そんな中、比較的冷静なのはリオである。
黒髪・黒い瞳の日本人として生まれ育った彼は、初めから黒き民を人間だと思っていた。
『考え方の相違さ。白き民が自然を崩さぬ素朴な生活を好むのに対し、黒き民は様々な道具を開発し豊かな生活を送る事を好む。正反対ともいえる両者が対立を始めるのに、それほど年月はかからなかった』
聞き入る少年の瞳を見据え、数百年間生き続けた男は忘れられた歴史を語る。
『……武力による争い……戦争の結果は、強力な武器をもつ黒き民の勝利。白き民は大陸を追われ、海を渡って敗走した。混血の民である我等の祖先は、それより遥か以前にこの地へ逃れていたが……』
「……数百年前に、魔物の襲撃を受けたんだね?」
ふと途切れたニクスの言葉の先を、リオが続けた。
「古い書物によれば、魔物は黒き民が生み出したという事ですが、彼等は貴方たちとも対立していたのですか?」
静かに聞き入っていたエレアヌが問うと、ニクスは「否」と首を横に振り、考え込む様に目を伏せる。
『我等の存在は、白き民にも黒き民にも、あまり知られてはいない。現にディオン様は我等に会うまで混血の民がいる事を知らなかった。それに魔物は、人も獣も植物も全て、無差別に滅ぼしてゆく。俺には分らない。黒き民は一体、何をしようとしているのか?』
それから、再びリオへと視線を向けた。
『聖者よ、貴方達なら死の大陸に行ける。どうか、その目で見、その耳で聞き、真実を知っていただきたい』
真紅の双眸が、ひたと見据える。
「分った」
それに応え、聖者と呼ばれた少年は、自分に同行する四人を見回した。
「行こう、死の大陸へ」
風の翼が、その身体をふわりと持ち上げる。 青く澄んだ空へと上昇し、南へ向かって飛翔してゆく彼等を、ニクスが穏やかな表情で見送った。
「リオ様」
しばらく無言で空を進んでいた一同だが、やがて賢者である青年が口を開いた。
「貴方は、黒き民が私達と同じ人間であると知ってらしたのですか?」
「ディオンの姿を見て、そう思ったんだ」
笑みこそ浮かべてはいないものの、さほど衝撃を受けた様には見えぬ柔和な青年に対し、漆黒の髪と瞳をもつ少年は、僅かに微笑んで答える。
「彼の身体つきは白き民と同じだった」
地割れの向こうで対峙した時を思い出しつつリオは言った。
「それに、ファルスの民は僕の姿を見ても怯えず普通に接してきた。 だから、黒い髪や瞳をもつ人間がいるのかもしれないって思ってた。もしかしたら黒を嫌うのは白き民だけで、他の民族は何とも思ってないのかもって思ったりもした」
「閉鎖された環境の中では、人の心は偏ってしまう。私達の偏見を、貴方は見抜いておられたのですね」
そこでようやく、エレアヌも微笑んだ。
細く柔らかな金髪を、風が戯れに揺らす。
「僕は何故この姿に、日本人に生まれたのか、少し分ったような気がする」
前方を見据え、リオは低く呟いた。
溜息混じりに呟くのはエレアヌ。
「もとは仲の良かった民族が、何故こんな状態に?」
そんな中、比較的冷静なのはリオである。
黒髪・黒い瞳の日本人として生まれ育った彼は、初めから黒き民を人間だと思っていた。
『考え方の相違さ。白き民が自然を崩さぬ素朴な生活を好むのに対し、黒き民は様々な道具を開発し豊かな生活を送る事を好む。正反対ともいえる両者が対立を始めるのに、それほど年月はかからなかった』
聞き入る少年の瞳を見据え、数百年間生き続けた男は忘れられた歴史を語る。
『……武力による争い……戦争の結果は、強力な武器をもつ黒き民の勝利。白き民は大陸を追われ、海を渡って敗走した。混血の民である我等の祖先は、それより遥か以前にこの地へ逃れていたが……』
「……数百年前に、魔物の襲撃を受けたんだね?」
ふと途切れたニクスの言葉の先を、リオが続けた。
「古い書物によれば、魔物は黒き民が生み出したという事ですが、彼等は貴方たちとも対立していたのですか?」
静かに聞き入っていたエレアヌが問うと、ニクスは「否」と首を横に振り、考え込む様に目を伏せる。
『我等の存在は、白き民にも黒き民にも、あまり知られてはいない。現にディオン様は我等に会うまで混血の民がいる事を知らなかった。それに魔物は、人も獣も植物も全て、無差別に滅ぼしてゆく。俺には分らない。黒き民は一体、何をしようとしているのか?』
それから、再びリオへと視線を向けた。
『聖者よ、貴方達なら死の大陸に行ける。どうか、その目で見、その耳で聞き、真実を知っていただきたい』
真紅の双眸が、ひたと見据える。
「分った」
それに応え、聖者と呼ばれた少年は、自分に同行する四人を見回した。
「行こう、死の大陸へ」
風の翼が、その身体をふわりと持ち上げる。 青く澄んだ空へと上昇し、南へ向かって飛翔してゆく彼等を、ニクスが穏やかな表情で見送った。
「リオ様」
しばらく無言で空を進んでいた一同だが、やがて賢者である青年が口を開いた。
「貴方は、黒き民が私達と同じ人間であると知ってらしたのですか?」
「ディオンの姿を見て、そう思ったんだ」
笑みこそ浮かべてはいないものの、さほど衝撃を受けた様には見えぬ柔和な青年に対し、漆黒の髪と瞳をもつ少年は、僅かに微笑んで答える。
「彼の身体つきは白き民と同じだった」
地割れの向こうで対峙した時を思い出しつつリオは言った。
「それに、ファルスの民は僕の姿を見ても怯えず普通に接してきた。 だから、黒い髪や瞳をもつ人間がいるのかもしれないって思ってた。もしかしたら黒を嫌うのは白き民だけで、他の民族は何とも思ってないのかもって思ったりもした」
「閉鎖された環境の中では、人の心は偏ってしまう。私達の偏見を、貴方は見抜いておられたのですね」
そこでようやく、エレアヌも微笑んだ。
細く柔らかな金髪を、風が戯れに揺らす。
「僕は何故この姿に、日本人に生まれたのか、少し分ったような気がする」
前方を見据え、リオは低く呟いた。
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