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翔が書いた物語
第61話:狭間に在る者
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「結界の外は、砂漠化してたのに……」
『……そう、ここ以外の植物は皆枯れ果てた……』
呆然とするリオ達の前に、一人の男の幻影が現れる。
黒い肌、黒い髪、澳火のような真紅の瞳。
その顔には、見覚えがある。
ファルスの長老が呼んでいた名が浮かぶ。
「ニクス?」
その名を呟くリオに、男は実体の無い片手を伸ばしてきた。
「リオに触るなっ!」
漆黒の肌に覆われた指が、肩に触れようとする寸前、シアルが素早く割り込む。
さして背格好の変わらぬ者に背後へ庇われ、リオは目を瞬かせる。
『肩の傷は何ともないか?』
ニクスは穏やかな口調で問うた。
彼はリオが頷くと、更にこう続ける。
『俺は、貴方に詫びなければならない』
憎悪や邪気は感じられない。
口元に微かに浮かんだ笑みは、友好の意を示していた。
「……ニクス……」
シアルの背後で、リオは呟く。
警戒するシアルに「大丈夫だ」と囁き、リオは以前殺されかけた相手と向き合った。
「詫びるのは僕の方だ。ファルスの里を滅ぼしてしまったんだから……」
黒い瞳が、微かに揺れる。
リオの心にはファルスの民への罪悪感が残っていた。
『貴方は滅ぼしたんじゃない。朽ちた肉体に封じられていた魂を解き放ち、新たな命へと導いてくれただけだ』
云うと、ニクスは片手を動かし、背後の地面を指し示す。
『我々と共に生命活動を止めていた森も、こうして芽吹いてきている。俺は、忘れていたんだ。……物質の有限と、魂の無限を……』
それから、静かなまなざしをリオに向け、ニクスは意外な言葉を漏らす。
『俺もやっと輪廻の輪に還れる。せっかく命を繋げて下さった、ディオン様には申し訳ないが……』
「ディオン?」
リオは一瞬、自分の耳を疑った。
『貴方と同じ色の髪と瞳をもつ御方だ』
口の端に笑みを浮かべ、ニクスは言う。
『ここから更に南へ、海を越えて行くと、死の大陸という地が在る。我々に不死の霊薬を下さったディオン様は、そこから来たと言っておられた。もしも南へ行くなら、あの方に伝えてほしい。「貴方の同胞達は、新たな生へと旅立った」と』
「同胞?」
リオをはじめ、一同は驚愕した。
「……それでは……貴方は、黒き民の血をひいているのですか?」
しばし沈黙していたエレアヌが、恐る恐る尋ねる。
警戒して常に身構えているシアルほどではないが、賢者の呼び名をもつ彼も慎重に事の成り行きを見つめていた。
『そうだ。ファルスの民は混血の種族、黒き民であり、白き民でもある』
問うた相手の目をしっかりと見据え、男ははっきりと答える。
その瞳に、卑屈な翳りは無い。
「混血?!」
オルジェが声を上げた。
「それでは、白き民と黒き民は、過去に交わった事があるというのか?」
「魔物を生み出した奴等が、俺達と同じ人間だってのかよ!」
シアルも負けずに怒鳴る。
恐ろしい魔力で妖精を操り、全ての生き物を無差別に滅ぼしてゆく魔物を生み出した種族を、彼等は化け物の集団と思っていた。
『同じ人間だ』
しかし、即答するニクスに、二人は言葉を失う。
『何千年も昔、両者には交流があった。今は北と南に遠く離れているが、死の大陸が未だその名で呼ばれてなかった時代、かの地には二つの民族が共存していた。我等の祖先は、その頃生まれた混血児だ』
「……そんな……」
ミーナの瞳が、潤んで揺れる。
あの恐ろしい魔物を、作ったのは人間……
認めたくはない事実に、勿忘草色の瞳から涙が溢れて頬を伝った。
『……そう、ここ以外の植物は皆枯れ果てた……』
呆然とするリオ達の前に、一人の男の幻影が現れる。
黒い肌、黒い髪、澳火のような真紅の瞳。
その顔には、見覚えがある。
ファルスの長老が呼んでいた名が浮かぶ。
「ニクス?」
その名を呟くリオに、男は実体の無い片手を伸ばしてきた。
「リオに触るなっ!」
漆黒の肌に覆われた指が、肩に触れようとする寸前、シアルが素早く割り込む。
さして背格好の変わらぬ者に背後へ庇われ、リオは目を瞬かせる。
『肩の傷は何ともないか?』
ニクスは穏やかな口調で問うた。
彼はリオが頷くと、更にこう続ける。
『俺は、貴方に詫びなければならない』
憎悪や邪気は感じられない。
口元に微かに浮かんだ笑みは、友好の意を示していた。
「……ニクス……」
シアルの背後で、リオは呟く。
警戒するシアルに「大丈夫だ」と囁き、リオは以前殺されかけた相手と向き合った。
「詫びるのは僕の方だ。ファルスの里を滅ぼしてしまったんだから……」
黒い瞳が、微かに揺れる。
リオの心にはファルスの民への罪悪感が残っていた。
『貴方は滅ぼしたんじゃない。朽ちた肉体に封じられていた魂を解き放ち、新たな命へと導いてくれただけだ』
云うと、ニクスは片手を動かし、背後の地面を指し示す。
『我々と共に生命活動を止めていた森も、こうして芽吹いてきている。俺は、忘れていたんだ。……物質の有限と、魂の無限を……』
それから、静かなまなざしをリオに向け、ニクスは意外な言葉を漏らす。
『俺もやっと輪廻の輪に還れる。せっかく命を繋げて下さった、ディオン様には申し訳ないが……』
「ディオン?」
リオは一瞬、自分の耳を疑った。
『貴方と同じ色の髪と瞳をもつ御方だ』
口の端に笑みを浮かべ、ニクスは言う。
『ここから更に南へ、海を越えて行くと、死の大陸という地が在る。我々に不死の霊薬を下さったディオン様は、そこから来たと言っておられた。もしも南へ行くなら、あの方に伝えてほしい。「貴方の同胞達は、新たな生へと旅立った」と』
「同胞?」
リオをはじめ、一同は驚愕した。
「……それでは……貴方は、黒き民の血をひいているのですか?」
しばし沈黙していたエレアヌが、恐る恐る尋ねる。
警戒して常に身構えているシアルほどではないが、賢者の呼び名をもつ彼も慎重に事の成り行きを見つめていた。
『そうだ。ファルスの民は混血の種族、黒き民であり、白き民でもある』
問うた相手の目をしっかりと見据え、男ははっきりと答える。
その瞳に、卑屈な翳りは無い。
「混血?!」
オルジェが声を上げた。
「それでは、白き民と黒き民は、過去に交わった事があるというのか?」
「魔物を生み出した奴等が、俺達と同じ人間だってのかよ!」
シアルも負けずに怒鳴る。
恐ろしい魔力で妖精を操り、全ての生き物を無差別に滅ぼしてゆく魔物を生み出した種族を、彼等は化け物の集団と思っていた。
『同じ人間だ』
しかし、即答するニクスに、二人は言葉を失う。
『何千年も昔、両者には交流があった。今は北と南に遠く離れているが、死の大陸が未だその名で呼ばれてなかった時代、かの地には二つの民族が共存していた。我等の祖先は、その頃生まれた混血児だ』
「……そんな……」
ミーナの瞳が、潤んで揺れる。
あの恐ろしい魔物を、作ったのは人間……
認めたくはない事実に、勿忘草色の瞳から涙が溢れて頬を伝った。
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